私達が落ち着いてからユーリの呼びかけでグランツ博士と数人のスタッフがやって来た。
これから私と美由希さん、なのはさん達の特訓でのデータをみんなで調べるらしい。
「いやはや…これは凄いね。」
グランツ博士が頭を掻きながら笑う。
「…と…戻った…あ…あれ?」
カプセルの中で瞼を開いて外に出ようとすると、足が上手く動かない。バランスを崩して慌てて手でカプセルの壁を掴もうとしたが腕も上がらない。
「な、なに?」
何か言おうとしても上手く話せない。一体何が起きているのか判らず半分パニックになった。
「っと、間に合った。」
プロトタイプから転がり落ちそうになったところを柔らかい感触に受け止められた。
「…ヴィ…ヴィ…オ…?」
「ね、出たらわかったでしょ?」
その時の私は彼女が何を言っているのか全く理解出来なかった。
八神堂で本を読みたいと言ったヴィヴィオと別れて一足先にグランツ研究所に来た私はブレイブデュエルのプレイルームの片隅で桃子さんの作ってくれたサンドイッチを食べたながらデュエルの様子を眺めていた。
今日はウィークリーイベントの日らしくプレイルームは多くの少年少女達が遊びに来ている。
「こんなに増えたんだ…」
グランプリは10倍位増えたって聞いていたけれど、毎週開かれるイベントですらこれだけ沢山来ているなんて…。
「これだけ居たらフェイトと間違われちゃいそう、リボン外そうっと。」
呟きながら両サイドでまとめていた髪を下ろして後ろでまとめた。
「食材は全部揃えてくれてるから人手だけで大丈夫。メニューはディアーチェから聞いてって…」
「何を作るつもりなのかな?」
私達は八神堂を出て再びグランツ研究所へと向かっていた。
「これから大人数用となると絞られるな…。まぁこっちの私もディアーチェの料理の腕は認めてたから、とにかく急ごうか。」
グランツ研究所の奥にあるフローリアン家の居住エリア、その中のキッチンに着いた時
そこでは何体ものチヴィットを使いながらディアーチェが食材を切っていた。
「士郎さん、恭也さん遅くなってすみません。」
「いいや、大切な話があるってヴィヴィオちゃんから聞いたからね。そちらは?」
「下の子に似ている…」
「紹介します。私達の世界の八神はやてさんです。下に居るはやてが…異世界で大人になった感じですね。」
「初めまして時空管理局ミッドチルダ地上本部司令 八神はやてです。高町士郎さん、恭也さんですね。今日は来ていただいてありがとうございます。」
はやてさんは管理局ということでピッと敬礼をした後、失礼しますと士郎の対面に座った。
私も隣の恭也さんの対面に腰を下ろす。
「シグナム、ヴィータ、リイン…留守番を頼むな。シャマルとザフィーラ、アギトにも伝えといて。明日の夕方頃には戻ってくるから。」
はやてさんは何度目かため息をつきながら庭でヴィヴィオの肩に手を添える。その手を私はつかんで反対側の手でヴィヴィオの手を握った。
「お気をつけて」
「行ってらっしゃい」
「アリシア、見事だった。後は任せる。」
シグナムさんに褒められて私は強く頷く。
「はい!」
「じゃあ行くよ~っ!」
ヴィヴィオが悠久の書を開くと虹の光球が現れ私達にぶつかり、私達は時間軸を超えた。
今日は学院がお休みの日。
私、アリシア・テスタロッサはいつもの朝のトレーニングを終えた後、家族と朝食を食べていた。
待ちに待ったお休み、今日はヴィヴィオと一緒に異世界、ブレイブデュエルの世界に遊びに行く日。
ここの所、週に1~2度しか行けなくて行っても夕食迄には帰らなくちゃいけないから思いっきり遊べていない。
でも今日と明日はお休みで思いっきり遊べる!
そして今日は色々考えていることがある。
その1つが
「ママとチェントも一緒に行かない? リニスも連れて」
私だけじゃなくてみんなも一緒に。
私やヴィヴィオ、フェイトとなのはさんを連れて行っただけでもブレイブデュエルは大きく変わったのだから研究者のママが一緒に行けば新しい可能性も生まれるに違いない。
「…あっ、フェイトママ…アリシアだけど」
夕食後、一緒にお皿を洗っているフェイトに私は思い出したように言った。
「姉さんがどうしたの?」
「アリシア…Stヒルデ初等科の生徒会長になっちゃうかも…」
「生徒会長? Stヒルデ学院初等科の?」
「うん…」
「アリシアが生徒会長になるの? すご~い♪」
一足先にリビングで休んでいたなのはも聞いていたみたいで話に加わる。
お風呂に入って体がほかほか暖まった私達はパジャマに着替えてダイニングに戻った。
「丁度出来たところよ、一緒に食べましょう。」
今日のご飯はクリームシチューだ。
私の家ではミッドチルダの料理よりも管理外世界、特に日本の料理が良く出る。魔法文化ではあるけれどそれ以外の所では似ている所も多いし、食材も近い物が多い。
聞いた話じゃフェイト達がこっちに引っ越した後も食材をわざわざ取り寄せたりしているらしい…。
兎も角そんな訳で私達も大好きだったりする。
「「いただきま~す♪」」
そしてこの時は私達の家族の団欒の時間。
『ヴィヴィオ、アリシアとフェイトのデュエルが始まりますよ』
ブレイブデュエルの中でアインスさんと一緒にスキルカードの練習をしていたら新しいウィンドウが開いてユーリが映った。
「少し休憩して続きは戻ってしようか」
「はい」
アインスさんに頷いてゲームから出ると直ぐにアリシアとフェイトのデュエルが始まった。
高速戦を得意とする2人だから内容もスピード勝負になるだろうと思っていたけれど…
「アリシア…研究されてるね~」
「ごめ~ん、遅くなっちゃった。」
プレイルームからプロトタイプシミュレーターがある部屋に行くとヴィヴィオがユーリとアインスさんと話していた。
声をかけると2人は私の方を向く。
「私達もデュエルを見ていたんですよ。すっごく興奮しました~。」
「流石だね~、あんな方法は思いつかないよ。」
「エヘヘ、出来るかなって思ってやってみたら上手く出来た。これで8連勝♪」
Vサインをして笑う。
私とアリシアが急いで教室に戻ると誰も居なかった。みんな先に行ってしまったらしい。
(急がなくちゃっ!)
慌てて体操着を持って更衣室へと向かう。
次の授業は体育、更衣室にも誰も居なくて更に慌てて中に入り急いで着替えた。
私は運動があまり得意じゃない。静かな場所で沢山の本に囲まれながら毎日違う世界を思い浮かべる方が好きだったりする。だから体育の授業は少し体を動かす位で息が乱れそうになると休憩していた。
でも2年前に時空転移に目覚めてからはそんな事は言ってられなくなってきた。
午後最初の授業は体育だ。教室に戻るとみんな先に行ってしまったらしく、慌てて服を持って更衣室へ向かった。着替えた後グラウンドに集まる。
食べて直ぐに体を動かすのはどうなの?と不思議で仕方ないけれど、考えれば普通に授業を聞いていると夢の世界に行く生徒も多いから体を動かした方がいいのだろうと勝手に推測する。
私は魔法を使わないで体を動かすのは結構好きだったりする。
この前ヴィヴィオの家にお呼ばれした時にその事を話したらフェイトも運動が得意だったとなのはさんから聞いた。
男子女子が交ざってゲームをしたりするとどうしても女子の方が苦手な子が多い。
なのはさんやはやてさんはそっちの方に入っていて、フェイトやすずかさんはそういう時、大活躍だったそうだ。
聖祥に居た頃を思い出す。体育という授業はみんなで一緒に何かをする感じだった。でもStヒルデでは魔法具を使わない限り思い思いのグループに分かれて何かで遊ぶ。
「人気者は大変だね~♪」
ヴィヴィオは息を整え少し乱れた髪を直しながら自分の席にバッグを置いてアリシア達の所へ行く。
「ねぇ…最近また増えてない?」
1番多かったのは映像が公開されて1週間位経った頃。私はジュエルシード事件の映像でアリシアに集まる生徒達を見ていたけれど私が演じたはやてさんの出番は多くても魔法も戦闘シーンも少なかったし、またアリシアがもみくちゃにされるのかなと思っていた。
教室で授業の準備が出来た頃
「ごきげんよう~」
「あい変わらず早いね~」
クラスメイトのリオとコロナが入ってきて私に声をかけた。
「ごきげんよ~、あれ? ヴィヴィオは?」
一緒に登校してきていると思っていた彼女が見当たらない。私が聞くと彼女達は苦笑いしつつ答える。
「あ~…」
「前で捕まってる。」
どうやら私が着いた時よりも待っている生徒が増えていて、彼女は相手をしているらしい。
「おはよ…やっとついた…」
「むにゃ…」
ミッドチルダ首都クラナガンから少し離れた所にある住宅地、その中にある家の2階にある1室にあるベッドがもぞもぞと動いた。
【Good morning.Master】
「ふぁ~…おはよ…Rhd。ん~っ!」
ベッドから降りて背を伸ばす。こうして私、高町ヴィヴィオは目覚めた。
私の朝は陽が昇る少し前に始まる。
外はまだ寒いけれどこの寒さは私の寝ぼけていた頭を覚ますのに十分だった。
夜の暗闇がもうすぐ朝日によって消されていく時間、ミッドチルダの中央部から少し北にある閑静な住宅地、その中のある家のある部屋のベッドがもそもそと動き始めた。
シーツが動いて起き上がった少女はまだ眠いのかその後暫く微動だにしなかったがやがて…
「ふぁ~…おはよ…」
ベッドから降りた。
これが私、アリシア・テスタロッサの1日の始まりだ。
起きる時間は以外と早い。夏であれば朝日が昇る頃、冬であれば昇る前に起きている。
元々私は朝が弱くて去年の今頃はまだ温々とベッドの中で夢を見ていたに違い無いし、その後も家族が起こしてくれるまで起きなかった。
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