第09話「私達ができることVerA」

 お風呂に入って体がほかほか暖まった私達はパジャマに着替えてダイニングに戻った。

「丁度出来たところよ、一緒に食べましょう。」

 今日のご飯はクリームシチューだ。
 私の家ではミッドチルダの料理よりも管理外世界、特に日本の料理が良く出る。魔法文化ではあるけれどそれ以外の所では似ている所も多いし、食材も近い物が多い。
 聞いた話じゃフェイト達がこっちに引っ越した後も食材をわざわざ取り寄せたりしているらしい…。
 兎も角そんな訳で私達も大好きだったりする。

「「いただきま~す♪」」

 そしてこの時は私達の家族の団欒の時間。


     
     
「きょうはね~」

 この時を待っていたかの用に妹が今日あったことを沢山話す。
 彼女は色々思い出した事を次々に話すから文脈にはなっていなくて最初は大丈夫なのかなと思っていたけれど、ママは楽しそうに聞いているから私もそうしている。実際に聞いているだけで楽しい。

 主に友達と何かで遊んだっていうのが多い、偶にびっくりする様なことも言うので注意して聞くようにしている。
 最近はチンクさんの話もあって、一緒に帰る時に途中でお菓子を買ってくれるらしい…。
 彼女にとっても【末妹】だから思いっきり甘やかしているな~と思いつつも次に会った時にお礼しなくちゃと頭の片隅に入れておく。

「アリシアはどうだった?」
「私は…」

 聞き役になっていたらママから聞かれた。

「いつも通り…かな。あっそうだ! 私、初等科の生徒会長になっちゃうかも…」

 ブレイブデュエルの話をしようかなと思っていたけれど、大切な事を忘れていた。

「えっ? 生徒会長?」
「せいとかいちょう?」
「あ~…えっとね、初等科の代表…どう言えば良いかな~」

 私も学院祭でしか会っていないしどんな事をしているのかよく知らない。

「そうね、お姉ちゃん達の中で1番偉い人…かしら?」
「おねえちゃんがいちばんえらいの?」

 ママが助け船を出してくれた。若干ニュアンスは違うけれどそんなものだろう。

「う~ん、そんなものかな。チェント、まだ内緒だからみんなに言っちゃだめだよ。ママ、もうすぐ今の生徒会長とか生徒会の人達が卒業しちゃうから、来年の生徒会を選ぶんだって。クラス委員以外に学院祭とかイベントの代表をしていたら選ばれるらしいの。私、学院祭のクラス委員だったし、去年の撮影があったから…多分。」

 今の感じだと凄いダークホース…例えばイクスが同じ学年に転校するとか、ヴィヴィオが対立候補として立候補でもしない限り大丈夫。
 自分で言うのもおかしいけれど、知名度はあるし学院祭で聖王教会から直接魔力コアを借りて使ったという妙な実績を作ってしまっている。

「どうすればいいかな?」
「そうね~…アリシア、あなたはどうしたいの?」
「私?」

 逆に聞き返されて考える。

「あんまり目立ちたくないな~って思ってる。だって私が目立っちゃったら…」

 2度の撮影でフェイトとプレシアを演じた事で私達の存在証明は出来た。これ以上目立つ必要は無いと思っている。
 何かの偶然で私達がジュエルシード事件時の私達と同一人物だと証明されたら私達だけじゃなく、聖王教会や管理局…フェイト達も責められてしまう。
 そう思って言うとママは手に持ったスプーンを置いて私を見た。

「そうね…、私の考えを言ってもいいかしら?」
「うん…」
「ジュエルシード事件撮影の前にね、リンディとレティ、はやてが動いてくれていたの。アレク…昔働いていた会社のデータベース…誰が居たかっていう情報の中から私の情報を全部削除してくれたの。それと管理局の中に残っていたデータも含めて」
「えっ?」

 初めて聞く。 

「作った特許や事件のデータは消せないけれどそれ以外の…病気で病院に行った時のデータやアリシアのお父さんと結婚、アリシアが生まれた時のデータも全部。」
「私のお父さん…こっち、ミッドチルダにいるの?」

 父親の存在、昔は朧気ながら覚えていたけれど今の時間に来て海鳴市で暮らしていた頃からすっかり忘れてしまい全く気にしていなかった。
思わず聞き返すがママは静かに頭を振った。

「いいえ、私達がこっちに来る2年前に事故で亡くなったそうよ。両親と年の離れた妹が他の管理世界に居るみたい。話が逸れたわね。私も正月に海鳴に行った時、初めてリンディから聞かされたわ。『そろそろ表舞台に戻ってこない?』って」

表舞台…私でもわかる。隠れる様に暮らすんじゃなくて天才魔導師として今までの研究成果を公表するのだ。

「だから知られても平気よ。アリシア、チャンスがあればつかみ取りなさい。それがあなたにとっても良い方に働くわ。」
「どうして?」
「ヴィヴィオと並んで歩きたいのでしょう? ヴィヴィオは無限書庫の司書以外に1人の空戦Sランク魔導師、ベルカの騎士として見られている。けれどあなたは少し有名な只のStヒルデの初等科の1生徒よ。」
「中等科に進学する時には彼女は候補生や教導隊に入るかも知れない。」
「もし魔力コアを使いこなす魔導師だと言っても、管理局も聖王教会も魔力ランク制の変えようという動きはあってもまだ変わっていないからアリシアが魔導師として登録されないわ。」
「後を追いかけるだけじゃ並んで歩けないわよ。」

 ママの言葉が胸に突き刺さった。

「………」
「私の娘としか見られない状況になればあなたはどれだけ活躍しても目立てなくなる。ヴィヴィオや私とは別の…私や管理局、聖王教会とは違うあなただけの力を見せなさい。そこまでしないと並んで歩くどころか追いかけることも出来ないわよ。」

 そうだ…ヴィヴィオのサポート…バックアップをしているだけじゃ並んであるけない。私も出なくちゃいけない…ママと一緒の表舞台に。
 ゴクリと唾を飲み込んでその意味を理解した。

「難しい話はここまでにしてチェントを部屋に連れていかないと」

 そう言えば話をしている途中から声が聞こえなくなった。彼女の方を向くとスプーンを片手に頭をうつらうつらさせている。ママは頬を崩して席を立ち彼女の横に行ってスプーンを置かせ、抱きかかえた。

「沢山遊んだから疲れたのね。チェントお部屋に行きましょう。」
「…ん…」

 彼女は寝ぼけ眼のまま手をママの首に回して抱きかかえられて部屋へと向かう。

「さてと…」

 私も立ち上がって食器を運んで部屋へと戻った。



「…私だけの力か…」

 部屋に戻ってベッドに倒れる様に横になる。
 ママに言われた通りだ。ヴィヴィオは私に無いものを沢山持っている。けれど私にだってヴィヴィオに無いものはある…けれどそれは私だから出来たのじゃなくて私が丁度良い場所に居たから…。

「そうだよね…フェイトやなのはさん、はやてさんは私と同じ頃にはもう管理局の候補生だったんだよね…戦技披露会でヴィータさんに勝っちゃうんだからみんなヴィヴィオを見てるよね…」

 私とヴィヴィオの違い…改めて突きつけられた事実…。

「私がバルディッシュを使いこなしても『ママの娘』だって思われちゃうか…」
「そのチャンスが今か…」
【Master】

 そんな事を考えているとバルディッシュが呼ぶ声が聞こえた。ヴィヴィオから通信が入っているらしい。早速繋ぐ。

『夜にごめ~ん、今いい?』
「良いけどヴィヴィオ、どうしたの?」
『アリシアに相談…打ち合わせ…何て言えば良いのかな、ちょっと聞いて欲しい話があるんだけど…』
「私に?」
『あのね…、それで…、だからね…』

 ヴィヴィオの話は私が考えつかないことだった。

「クスッ…アハハハハハッ♪」
『えっ? 何か可笑しいところあった?』

「ごめんごめん、こっちの話。凄くいいと思うよ。」

 それを聞いて私は考え直した。
 元々別人なんだから同じ定規で比べても意味がない。
 並んで歩くつもりなら私が私として出来る事をすればいい。

「じゃあさ私が…」
『わかった、お願いね。』
「あっそうだ、ヴィヴィオお昼に何か言おうとしてなかった?」

 途中で予鈴が鳴ったから聞きそびれていたのを思い出した。

『え~っと、何の話だったかな…』
「私にはやてさんから通信が来て管理局と聖王教会で…っていう話」
『…あっ思い出した! 私ね、その話を聞いて思い出したんだけど…はやてさん達が作ろうとしてるの【ストライクアーツ】じゃないかなって】
「ストライクアーツって、異世界のヴィヴィオやアインハルトさん達がしてるスポーツ格闘技だよね?」

 違う時間軸に居るヴィヴィオ達が習っている格闘技選手権みたいなものでミッドチルダだけでなく主要管理世界でも有名でその競技会みたいなのも凄いらしい。私は2人のヴィヴィオやあっちのアインハルトさんやリオ、コロナに聞いていた。
 でもこっちじゃ古流武術系の道場やジムはあるけれど競技会は聞いたこともない。

『うん…はやてさん、私の話を聞いてストライクアーツを作ろうとしてるんじゃないかなって、そう思ったの。』

 はやてさんの話だと魔力資質が弱くても他に優れた子を見つけてその中で魔力コアを上手く使える子を集める目的もあると言っていた。
 魔力コアが実用段階になれば今までの魔力資質で比べる意識を吹っ飛ばすには丁度いいし、未来の管理局員や聖王教会のシスターとしてスカウトも考えているだろう。

「そっか…そうかも。」
『それでねママ達とも相談したんだけど…』
「フェイトとなのはさんに? 何て言ってたの?」
『「良い未来になるならとても良いことだよね」って。私、もし大会があってはやてさんが言ってた様にママ達との模擬戦をしてって言われたら受けようと思う。そこでアインハルトさんやミウラさん、リオが競いあえるならきっと楽しいよ。』

 ヴィヴィオもそうだけど、フェイトとなのはさんも協力しようと思っている。
     
『それで…アリシアも一緒にしようよ。撮影に参加した3人の中でアリシアしか出られないから…』

 私しかと言われて何か光るものを見つけた気がした。
 ヴィヴィオは魔力が強すぎるし、そもそも魔導師ライセンスを持った管理局員、なのは役の彼女は演じるのが好きなだけで魔法や格闘には興味がない。
 さっきママから言われた私が出来ること私だから出来ること…まさにこれだ。  

「うん…でも私だけじゃ決められないからママと士郎さん、恭也さん、美由希さんにも相談してみる。」

 全力を出すならブレイブデュエルの様な戦闘スタイルで挑むしかない、私が練習してる剣術は【人に見せるもの】じゃなくて【誰かを守る為のもの】…。 
「それに…」
『それに?』
「さっきの作戦でちょっと思いついた。あのね…」

 思いついたことを話してみる。

『……アリシア…あっちのアリシア…はやてさんに似てきたんじゃない?』
「ひどーい! 折角いいアイデアだと思ったのに。」
『ごめん、私も良いと思うよ。』

 2人で色々話をしていると、向こうでなのはさんが「そろそろ寝ないと明日知らないよ~」と叱られてしまった。

「詳しいことはまた明日。」
『うん、おやすみ~』

 通信を切って私は幾つかメッセージを送ると微睡みがやって来た。
 ヴィヴィオと話す前はどうすれば良いか悩んでいたのに話したら簡単に答えが見つかった。

「ほんと不思議な子だよね…ふぁああああ…私も寝よ。リニス、明かり消すよ~おやすみ~…」

 いつの間に来ていたのか私の隣で尻尾を振っていた同居猫に言うと「にゃ~」と答えてベッドから降り自分の寝床で丸くなる。それを見て明かりを消し後は微睡みに任せた。


~コメント~
 アリシアがヴィヴィオとの違いを改めて意識する話です。
 リンディ&レティ&はやてによるプレシアの記録削除については以前から色々考えていました。
 2年前に彼女達は戻ってきましたが、リンディはそれまでにも記録を探していたでしょう。彼女達が戻ってきてからははやてやカリムも巻き込んで残されている彼女の個人情報(特に顔や魔法について)は念入りに調べていたでしょう。データであれば削除することが出来ますが彼女を知る者…かつての仕事関係者の記憶までは消すのが難しいです。
 ですが、異世界アミティエ(刻の移り人)から貰った「記憶を曖昧にするデバイス(プレシアが複製済み)」を受け取った時、彼女の目的は完遂します。
 その時が『表舞台にもどってこない?』だったのではと思います。

 

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