第08話「家族の団欒VerV」

『ヴィヴィオ、アリシアとフェイトのデュエルが始まりますよ』
 
 ブレイブデュエルの中でアインスさんと一緒にスキルカードの練習をしていたら新しいウィンドウが開いてユーリが映った。

「少し休憩して続きは戻ってしようか」
「はい」

 アインスさんに頷いてゲームから出ると直ぐにアリシアとフェイトのデュエルが始まった。
 高速戦を得意とする2人だから内容もスピード勝負になるだろうと思っていたけれど…

「アリシア…研究されてるね~」
 思わず苦笑いする。
 幾ら魔力コアを使って飛行魔法が使えると言ってもブレイブデュエルの中ほど自由に飛べる訳じゃない。空中戦はフェイトの方が上で更に彼女はアリシアの癖を研究してきていた。
 
「フェイト、『次は絶対に負けない!』って頑張っていたからね。」
「T&H全員が協力していましたし、時々アミタやキリエとも練習していましたよ。」
「そういえば、シグナムの道場にも時々来ていたと言っていたな。」
「ふぇ~…」

 負けん気の強い彼女らしい。普通そこまでするか?と言う呆れもあった。でもそれを含めてアリシアの戦略なんだろう。

(アリシア…ストライクアーツの練習相手、フェイトを選んだみたいだね)

 強くなりたいだけなら高町家に行って練習に参加すればいいし、ブレイブデュエルで勝ちたいだけならもっと簡単に勝つ方法もある。
 でも彼女はその方法を使っていない。なぜなら、フェイトを通してT&Hやグランツ研究所のみんなに研究されて弱点や癖を攻められるという『不利な状況』を自ら作っている。
 どうしてそんな事をするのか?
 それは近く開催されるストライクアーツの競技会に向けた特訓。
 競技会では彼女の様に魔力よりも運動能力に長けた人が多く参加する。アインハルトさんの様に古流武術が使える人、ミウラさんの様に身体能力に長けていて魔法も使える人…そして今まで思いつかなかった戦技魔法を使う人…。
 そういう人達と対戦する時、アリシアは目立ちすぎていて逆に研究されている。
 だから得意部分を伸ばしながら経験を積み、弱点を減らしていくにはブレイブデュエルは良い練習場所。

(頑張れ、アリシア…)

 心の中で応援する。


  
「ごめ~ん、遅くなっちゃった。」

 アリシア達のデュエルが終わり再びスキルカードの解析を始めているとアリシアが入ってきた。「私達もデュエルを見ていたんですよ。すっごく興奮しました~。」
「流石だね~、あんな方法は思いつかないよ。」
「エヘヘ、出来るかなって思ってやってみたら上手く出来た。これで8連勝♪」

 笑顔でVサインをする。

「フェイト、凄く悔しそうでしたよ。あんな戦い方をされたら私も勝てません。」

 苦笑いしながらユーリが言う。

「え?」
「そう?」

思わずアリシアと一緒に聞いてしまう。

「最初はわかんないけど、岩陰を作った後だったらユーリやアインスさんの方が有利だよ。勿論フェイトも、ヴィヴィオも何とかなるでしょ?」

 彼女が私を見て聞いてきた。デュエルを見ていればわかったでしょ?と言いたげだ。笑って頷く。

「隠れられる岩陰をいっぱい作ったのはフェイトを速く動けない様にしてアリシアが隠れられる場所を作る為だったんだよね? だったらあの穴がいっぱいある場所の中にアリシアは居るんだから上から広域砲撃しちゃえば…」

「それか周囲を巻き込む全体攻撃…っていうのもあるよ♪ みんな持ってるでしょ? 私のジャケットは防御が薄いから全体攻撃でもライフポイントは凄く減っちゃう。だからそんな攻撃されちゃったら逃げるしかない。慌てて逃げたところを追撃しちゃえば…今度は隠れる所が無くなって魔力も残り少ない私の完敗。」
「フェイトが負けた理由は、アリシアと同じ高さで戦おうとしたところ…かな?」
「それと高速戦で勝ちたいって拘ったところだね。」

 アインスさんとアリシアが続けて言う。
 きっと私とデュエルする時は更にその次を考えているに違いない。

(またデュエルしてみても楽しいかな…)

 彼女からは遊ぼうとは言われても前の様に挑戦されない。
 それは私の目的がデュエルよりも大切だと知っているからなのか…彼女にとっての目標が出来たからなのか…。

「なるほど~♪ 勉強になります。」
「後の話は夜になってから、続けていいかな?」
「そうだった。ユーリ、お願い」

 アリシアが来て話が逸れちゃったがユーリから解析プログラムの結果を教えて貰っている最中だったのを思い出す。
 彼女がニコッと笑って頷くのを見て私はユーリ達との会話に意識を向けた。

 

「ユーリ、ヴィヴィオ。アリシアは来ていませんか?」

 少し経った頃シュテルが入ってきた。アリシアを探しているらしい。

「アリシアならそこに…」

 彼女の方を見るとバッグに体を預けるようにして眠っていた。
 人差し指を立てて唇の前にあててから彼女を指さす。シュテルも気づいて頷く。

「デュエルで疲れちゃったみたいですね。」

 ブレイブデュエルの唯一の欠点…というか、多分彼女達位しか起こらないだろう問題。
 私達の世界で練習する時より頭が凄く疲れる。
 特に彼女やフェイトの様に制限ギリギリのスピードでデュエルしちゃうと終わった後頭がフワフワして考えがまとまらなくなるそうだ。
 そうなるのを予想していたのかなのはママからは

『体を動かさない分の負担が全部頭に集まっているから、少しでもフワフワしたらデュエルしちゃ駄目だよ。』

 と私達だけじゃなくて、フェイトやシュテル、レヴィは言われている。それを知っているからなのか
 
「是非アリシアとデュエルしたいとプレイヤーが集まっているのでどうするか聞きに来たのですが、キリエとレヴィにお願いしますね。」
「ごめんね…」
「いえ、盛り上げてくれているだけでも十分です」

 シュテルは会釈をして部屋を出て行った。

「続けようか」
「はい」

 私達は止まっていた手を動かし始めた。 
     
   
 それから更に30分程経った頃、

「こんにちはユーリ、アリシア知らない?」
「アリシア♪」

 シミュレータールームにやって来たのは、こっちの世界のアリシアだった。
 私達の世界と大きく違っているのは彼女が居ること、親友の彼女がここに居るのは私の魔法が関係しているけど、こっちには魔法そのものが無くて家族や友人関係も違っている。こっちの彼女はホビーショップT&Hの看板娘。今はブレイブデュエルが稼働中だから彼女は看板娘の名前の通り、T&Hでデュエルを盛り上げている筈…。

「今日はどうしたんですか?」
「おつかいだよ♪。ママ達に頼まれたの。ヴィヴィオとアリシアが来てるって博士が教えてくれたからお話したいな~って」
「でもぐっすり寝ちゃってるみたいだから今度にするね。ヴィヴィオ、2人でお店にも来てよね♪」

 彼女もアリシアが熟睡しているのに気づいたらしく、私達に駆け寄る足を止めて踵を返し手を振って出て行った。
   
「2人とも人気者だな♪」
「T&Hにも行って色々お話したいな…」 
「そうですね♪」

 少し笑い合った後再びモニタに目を戻そうとした時

「ユーリ、こっちにアリシアが来ていないか?」

 今度はディアーチェが入ってきた。今日は千客万来らしい。

「アリシアならそこに居ますよ。疲れて寝ちゃってるので起こさないであげてくださいね。」
「すまん…ではなくこっちのアリシアだ。博士が帰る前に来て欲しいと探してる。見かけなかったか?」
「アリシアならついさっき来ましたよ。」
「うん、でも直ぐに出て行っちゃった。」
「急いで追いかけたら間に合うよ。」

 ユーリと私、リインフォースさんが続けていうと

「わかった。3人ともありがとう」

 彼女は小走りで出て行った。
      
「それじゃ続けようか」
「また誰か来るんじゃない?次は…キリエさんとか?」
「クスッ、ありそうですね。」

 私たちは笑うと再びモニタの中に視線を戻した。 
    


「すみませんっ遅くなりました。」
「…っ!」

 アミタが駆け込んで来た。彼女の声で眠っていたアリシアが目覚めたらしい。
 もう少し静かに入ってくればと言いたかったが彼女もアリシアが眠っていたのを知らなかったのだから言っても仕方がない。
 
「わっ、もうこんな時間! ヴィヴィオっ!」

 既に6時を越えている。そろそろ帰るのにいい時間だろう。
 私が頷くのを見てユーリとアインスさんも今日は終わりだと判ったらしく。読みかけのデータを保存して閉じていく。

「ヴィヴィオさん、アリシアさん、夕食を一緒に食べませんか? アインスさんもいかがです? レヴィとディアーチェももうすぐ帰ってきます。」

 アリシアが私の顔を見る。私達はこっちの世界に来る時に約束していた事がある。
 みんなでご飯を食べるのは楽しそうだけれど… 

「ごめんなさい。夕食までに必ず帰るってママ達と約束してるので、今日は帰ります。」
「ごめんなさい。次はママ達と一緒に遊びに来ます。」
「そうですか、私こそすみません。皆さん一緒に遊びに来てくれた時は沢山お話ししましょう。」
「「はいっ」」
「ではプロトタイプの中に入ってください。部屋まで案内します。」

 アミタに言われて近くにあったカプセルに入り再び仮想空間へと飛んだ。


 魔法が使えない現実世界だと私は時空転移が使えない。でもブレイブデュエルの中枢にある部屋に行くとそこは魔力が満ちているから私の魔法が使える。
 アミタとユーリに部屋へ案内されると私は愛機から悠久の書を取り出し開いた。これが出来るのはここで魔法が使える証拠。

「アミタさん、ユーリ、ありがとうございました。」
「フェイトに伝えてください。『私に勝ちたかったら私より強いところを見つけなさい』って」
「はい」

 フェイトを更に焚きつける彼女に苦笑しながらも

「じゃあ…いくよ、アリシア」

 親友の手を取って悠久の書にイメージを浮かべ生まれた光の球体を私達にぶつけた。
 こうして私達は異世界から私達の世界へと戻った。



「っと、到着。」

 着いたのは家の前、辺りは既に暗くなっていて家の中も明かりが灯っている。ママ達は既に帰ってきているらしい。

「ママに連絡するね」

 アリシアがそう言ってペンダントを取り出してメッセージを送る。すると直ぐに返事があった。
 
「ママとチェント、家に帰ってる途中だって」
「だったら家に行けばいいよね。」
「ママただいま~、アリシアをお家に送ってくる~。」

 中から「は~い♪」となのはママの声が聞こえた。

「じゃあ早速」

 私は彼女の手を握ってすぐに空間転移を発動する。辺りの雰囲気は一瞬で変わって、着いたのはアリシアの家の前。

「着いたよ。」
「ありがとう♪」
「また明日ね、バイバイ♪」

 そう言うと私はそのまま家を出た所で再び空間転移を使って家に戻った。
 私が帰ってきてから直ぐにフェイトママも帰ってきた。

「ただいま、なのは、ヴィヴィオ」
「フェイトママおかえりなさい~」
「フェイトちゃん…少し疲れてる?」

 2人で出迎える。私にはわからなかったけれどなのはママにはわかったらしい。

「大丈夫?」

 心配になって顔を覗き込むと彼女は笑顔で

「うん、大丈夫! なのはとヴィヴィオの顔を見たら元気になった♪」



 彼女が疲れている理由、少しだけ私にも責任があったりする。
 去年巻き込まれた異世界での事件と同じ事がこっちでも起きていた。
 ヴァンデインコーポレーション、私でも知ってる魔導デバイスを作っている企業が幾つもの世界で違法な実験をしていた。
 私が異世界で見聞きしてきた事をリインさんを通じてはやてさんに伝わり、はやてさんから本局に連絡して潜入調査の結果、実験内容が真実だと判って関連企業の施設が調べられた。
 その時本局の執務官が一斉に動いて証拠を集め、実験の責任者を含めて沢山の人が逮捕された。
 フェイトママはその事件があって暫く帰って来られず、最近は裁判の準備で夜遅くにしか帰って来られない日が続いていた。
 代わりに最初に本局に連絡したはやてさんはちゃっかりとご褒美とばかり年末年始に多めのお休みを貰って私が海鳴市に行く時ついてきていたりする。…少しずるいと思う。 
 
「じゃあご飯食べようか、丁度出来たところだから。ヴィヴィオ料理運ぶの手伝って」
「は~い♪」
「私も手伝うよ」
「フェイトママはお疲れなんだから座って待っていて下さ~い」
「うん、すぐ用意するから座って待ってて」

 ダイニングでフェイトママを座らせてからなのはママと2人で料理を用意した。
 今日は日本の料理、シチューとサラダ♪      
 
  

「へぇ~あっちの私、そんなに強くなってるんだ。」
「それでも勝っちゃうアリシアは凄いね。」

 ママ達と食べながらアリシアとフェイトのデュエルの事を話した。
 ママ達も1度一緒に行って向こうのフェイトやシュテルにスキルの使い方を教えていた。飲み込みが早くて練習熱心な2人は直ぐに強くなり、今度は彼女達が教わった事を伝えようとブレイブデュエルの中に取り込んでいる。
 これからはどんどん強いプレイヤーが増えてくるだろう。
 私もデュエルが楽しみになっている。 

「ヴィヴィオのほうは進んでる?」
「うん、向こうのユーリやアインスさんに手伝ってもらってもう少しで次の魔法が出来そう。」
「危く…ないよね?」

 心配そうに聞いてくるフェイトママ

「戦技魔法…だから危なくない…って言えないけど向こうで作ってから試して、こっちではやてさんに見て貰いながら使うから大丈夫だって。」

 ママ達が心配になるのも当然だったりする。
 今私がしているのは闇の書から失われた魔法を蘇らせる。それは貴重な古代ベルカ式魔法を残す意味で大切な事。
 古代ベルカ式魔法を使い、1から魔法を組み立てる事が出来て、時空転移が使える私しか出来ない事。
 闇の書と呼ばれていた時、中に記されていた古代ベルカ式魔法は検索魔法みたいな日常で使う魔法じゃなく攻撃に特化したものが多かった。
 スターライトブレイカーやストライクスターズを超える魔法が沢山記されているのだ。
 その中の魔法を蘇らせるのだからはやてさん達も勿論使う前に入念なチェックをしてくれる。
…と言う風にみんながビクビクしているんだけど、そもそもそんな大きな魔法が私に使える訳ないじゃない!と考えてくれないのか少し悲しい。
 
「急いでいっぱい覚えようとしないでね。慣れたと思って油断した時に失敗しちゃうんだから、ママも昔覚えるのが楽しくて…失敗しちゃったから」
「あれは…失敗じゃなくて無茶だったと思うよ」
 
 初めて聞く話に少し驚く。フェイトママは何の事か思い出したみたいで、微妙な笑顔を浮かべている。
 詳しく聞きたかったけれど、私に返ってきそうだからわざと聞かないことにした。

「大丈夫だよ、さっきも言ったけど八神家のみんなに見て貰いながら使ってるし、使う前にはやてさんとリインさんが何度もチェックしてくれるから。」
「うん…はやてちゃんも安全優先でしてるって言ってくれてる。大切なことなのは判っているけど…無理しないでね。」
「うん♪」

 私はママ達の顔を見て強く頷いた。

~~コメント~~
ヴィヴィオとアリシアの視点と考え方の違いが出ていたら嬉しいです。

世間の騒がしい状態が続いていますが皆様はどの様にお過ごしでしょうか。
私はというと昨年春からのアレで走り回っていて、まとまった休みも回復と日々の暮らしの準備に追いかけられていました。
まだ暫く難しい日が続きますが少しでも気晴らしになれば幸いです。

 

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