第07話「家族の団欒verA」

「ごめ~ん、遅くなっちゃった。」

 プレイルームからプロトタイプシミュレーターがある部屋に行くとヴィヴィオがユーリとアインスさんと話していた。
 声をかけると2人は私の方を向く。

「私達もデュエルを見ていたんですよ。すっごく興奮しました~。」
「流石だね~、あんな方法は思いつかないよ。」
「エヘヘ、出来るかなって思ってやってみたら上手く出来た。これで8連勝♪」

 Vサインをして笑う。
~感想戦~

 フェイトとのデュエルは激戦だった。

「ハァアアアッ!」
「そうくるよねっ!」

 私を研究してきたフェイトは本当に強かった。私と同じ戦闘スタイル、短剣2本で攻めてくる。
 時々しか遊んでいない私と、私のデュエルを調べて対策を考え練習をしてきたフェイトだとどうしても私の方が分が悪い。
 でも私はそんなピンチも楽しんでいた。 
 ブレイブデュエルは私が使えない魔法もスキルカードとして使える以外に大切な特徴がある。
 ゲーム中でどれだけ攻撃を受けたり致命傷を負っても元の私にはかすり傷1つしない。
 元世界だとフェイトもヴィヴィオも私より魔力があるからどうしても手加減してしまうし、目の前の彼女は優しいからデュエルで怪我をするなら思いっきり戦えない。
 でもこれのおかげで私達は現実には出来ない事が沢山出来るし、全力で試すことができる。
 こんな世界だからこそフェイトは私の癖や弱点を調べてくる。だから私自身がその弱点に気づいて直すことが出来る。

「「バルディッシュ!」」
【【Sconic Move】】

 私達の相棒が殆ど同時スキルを起動して一気にスピードが上がった。
   
 
 フェイトは高速特化したジャケットを使いこなしていて私の予想を上回る速度で動いていた。スピードが負けて不利になっているけれどそれで諦める私じゃない。

(有利な所を作れたら…そうだ!)
「スティンガーブレイド、エクスキューションシフトっ!」

 スキルカードを読み込ませて上空に飛び上がり起動、ごっそりと魔力ゲージを持って行かれたけれど気にしない。
 数十本の光剣を直下に目がけて放つ。
 構えるフェイト、しかし目標は彼女じゃない。水色の刃は彼女に当たらず岩肌の地面に突き刺さった後次々と爆発を起こした。その中へ再び私も飛び込んだ。
     
「いくら驚かせてもそんな攻撃じゃ…」
「そう? けっこういい出来だと思うけど? じゃあ今度は私からだね♪」
「えっ?」

 高速移動で避けたフェイトに岩瓦礫の上に降りてニヤリと笑って言う。
 100%の空中戦や遮蔽物の無い平地だと空中戦が得意な彼女が有利、でも…私が隠れられる位の岩がゴロゴロした地面の上なら彼女はスピードを生かし切れない。
 フェイトに攻撃をしかけてそのまま岩陰に姿を隠し、更に高速で移動して違った場所から更にしかける。
 フェイトも私を追いかけようとするけれど岩山が邪魔でスピードが出せない。思った通りだ。
 ジリジリとライフポイントを削った後

「ハァアアアアッ!」

 最後は私の必殺技で0にした。

~感想戦 おしまい~
 



「フェイト、凄く悔しそうでしたよ。あんな戦い方をされたら私も勝てません。」
「え?」
「そう?」

 ユーリの言葉にヴィヴィオと声を揃えて聞いてしまう。

「最初はわかんないけど、岩陰を作った後だったらユーリやアインスさんの方が有利だよ。勿論フェイトも、ヴィヴィオも何とかなるでしょ?」

 ヴィヴィオに問いかけると彼女ははにかんで頷く。

「隠れられる岩陰をいっぱい作ったのはフェイトを速く動けない様にしてアリシアが隠れられる場所を作る為だったんだよね? だったらあの穴がいっぱいある場所の中にアリシアは居るんだから上から広域砲撃しちゃえば…」
「それか周囲を巻き込む全体攻撃…っていうのもあるよ♪ みんな持ってるでしょ? 私のジャケットは防御が薄いから全体攻撃でもライフポイントは凄く減っちゃう。だからそんな攻撃されちゃったら逃げるしかない。慌てて逃げたところを追撃しちゃえば…今度は隠れる所が無くなって魔力も残り少ない私の完敗。」
「フェイトが負けた理由は、アリシアと同じ高さで戦おうとしたところ…かな?」
「それと高速戦で勝ちたいって拘ったところだね。」

 アインスさんが続けて言う。
 彼女も攻略法に気づいていたらしい。まぁその時は魔法発動前に範囲外に逃げてから猛スピードで戻って無防備な所を攻撃していただろうけれど…

「なるほど~♪ 勉強になります。」

 ユーリがコクコクと頷くのを見て頬を崩した。

「後の話は夜になってから、続けていいかな?」
「そうだった。ユーリ、お願い」

 アインスさんが言うとヴィヴィオ達は思い出したようにシミュレーターに繋いだモニタに向かい合って色々操作し始めた。
 咄嗟の思いつきで勝ったのは勝ったけれど次からは同じ方法は使えない。私もフェイトとのデュエルに対策を考えなくちゃいけない。そこまでしないとフェイトに勝てない位強くなってきている。
 彼女が私より有利な所、ブレイブデュエルのプレイ時間とデュエルの経験、カードの多さに気づいて取り入れてきたら…いつまで勝ち続けられるだろうか?
 少し離れた所にある椅子に腰を下ろして3人の様子を眺めながら私はそんなことを考えていた。


   
「すみませんっ遅くなりました。」

 駆け込んで来たアミタの声を聞いて私は瞼を開いた。

「…っ!」

 時計を見ると時間は1時間ほど経っていた。どうやらヴィヴィオ達を見ている最中に眠ってしまったらしい。フェイトとのデュエルで疲れていたみたい。
 ブレイブデュエルの短所というか影響の1つ、デュエルをすると体は元気でも頭が凄く疲れる。
 特にフェイトと連続でデュエルなんかするとシミュレーターから出られない位疲れる。
 みんながこんな状態になっちゃうと
 これは今後疲労パラメーターみたいなのを取り入れるらしいので私達以外じゃこんな事にはならないだろう。それは兎も角…

「わっ、もうこんな時間! ヴィヴィオっ!」

 再び時計を見るともう6時を越えている。元世界とこっちとは時間が違うから気づいて無かった慌てて呼ぶと彼女も驚いた、彼女は集中しすぎていて気づかなかったらしい。

「ヴィヴィオさん、アリシアさん、夕食を一緒に食べませんか? アインスさんもいかがです? レヴィとディアーチェももうすぐ帰ってきます。」

 ヴィヴィオの顔を見て頷く。 

「ごめんなさい。夕食までに必ず帰るってママ達と約束してるので、今日は帰ります。」
「ごめんなさい。次はママ達と一緒に遊びに来ます。」
『毎日夕食までには家に帰ってくること』

 ここに遊びに来る時にした約束。食事をしながら沢山お話したいけれど約束は守らなくちゃいけない。誘って貰えるのは嬉しいけれど…
 アミタに頭を下げる。

「そうですか、私こそすみません。皆さん一緒に遊びに来てくれた時は沢山お話ししましょう。」
「「はいっ」」
「ではプロトタイプの中に入ってください。部屋まで案内します。」

 アミタに言われて近くにあったカプセルに入り再び仮想空間へと飛んだ。



 魔法が使えない現実世界では幾らヴィヴィオでも時空転移が出来ない。でもブレイブデュエルの中枢にある部屋は魔力が満ちている。
 アミタとユーリに部屋へ案内されるとヴィヴィオは慣れた手つきでデバイスから1冊の本を取り出した。デバイスが動いているのがここで魔法を使える証拠。

「アミタさん、ユーリ、ありがとうございました。」
「フェイトに伝えてください。『私に勝ちたかったら私より強いところを見つけなさい』って」
「はい」
「じゃあ…いくよ、アリシア」

 ヴィヴィオの手を握ると目の前に光の球体が生まれて私達にぶつかった。


「っと、到着。」

 着いたのは高町家の前、辺りは既に暗くなっていて家の中も明かりが灯っている。

「ママに連絡するね」

 ペンダントを取り出して通信を送ると、ママはチェントと一緒に研究所から家に帰っている途中らしい。

「ママとチェント、家に帰ってる途中だって」
「だったら家に行けばいいよね。」

 彼女はそう言うと家のドアを開けて

「ママただいま~、アリシアをお家に送ってくる~。」

 中から「は~い♪」となのはさんの声が聞こえた。

「じゃあ早速」

 ヴィヴィオが私の手を握った瞬間、いきなり視界が変わった。目の前は私の家…。

「着いたよ。」

 空間転移、時空転移の1部を使った転移魔法。
 転移魔法は多くの魔導師が使える魔法、でも転移先を記した魔方陣を描いてプログラムを組み立ててからしか使えないし魔法禁止の場所で使ったら直ぐに調べられて知られてしまう。
 でも彼女は魔方陣を作る事もなくイメージしたその場へと移動できる。
 空間転移が凄いのは今は彼女しか使えない魔法だから彼女と彼女の魔法を知らない者には魔法かどうかも判らないし、更に戦闘中にも使えるから相手は何度も瞬間移動するように見えるから防御出来ない。そして、今みたいに何時使ったのか判らない位自然に使っちゃうから…戦闘中に使われたら…同じ魔法が使えた当時のベルカ聖王には誰も敵わなかっただろう。
 本人はそこまで凄い魔法だと思っていないみたいで、何処にでもすぐ移動出来る便利な魔法みたいに思っている節もあるから色んな意味で残念なんだけど… 

「ありがとう♪」
「また明日ね、バイバイ♪」

 そう言うとヴィヴィオはクルッと外へと駆けだして淡い虹色の光を残して消えた。
 私は彼女を見送りながらため息交じりの息をついてからドアの鍵を開けて部屋に戻り、着替えてから宿題を広げた。
 少し経った頃ドアが開く音が聞こえた。どうやら帰ってきたらしい。
丁度宿題も終えた私は出迎える。

「おねえちゃんただいま~」
「にゃ~」
「おかえり、チェント、リニス。あれ? ママは?」

 と思っていたらプレシアが両手に大きな袋を持って入ろうとしていた。

「おかえりママ、遅くなっちゃってごめんなさい」
「助かるわ、ママこそ遅くなってごめんなさいね。」

 玄関を出て片方の袋を持つ。
 途中で夕食やお弁当の食材を買ってきたようだ。      

 

 ママは私達が寝る頃はまだ起きていて、朝も私より早く起きている。研究所も忙しい筈なのに…。
 ヴィヴィオの家ではフェイトが長期任務に入っている間になのはさんも長期教導で帰れなくなる日が時々あるそうで、その時はアイナさんという旧知のハウスキーパーさんが来てくれるそうだ。
 それを聞いてママも忙しい時にハウスキーパーを頼めばと話した事がある。
 でもママは

「ママの1番大切な時間はアリシアやチェントと一緒に居る時よ。仕事は次、お弁当が美味しいとか今日どんなことがあったのかを聞くのが毎日とっても楽しみなのよ。ママは大丈夫! これでもアリシアより凄く強いのよ」

 そう言って私達を抱きしめてくれた。
 その時私はどうしてそんなに頑張れるのか判らなかった。
 でも…ジュエルシード事件の撮影で私がフェイト役を演じた時。プレシア・テスタロッサが何故事件を起こしたのか彼女の心に触れる機会があった。
 当時彼女が関っていた実験中の魔導炉暴走事故と事故によって失った娘…。娘を生き返らせる為に多くの時間と命を削り娘の遺伝子からフェイトを作り出して絶望し、伝承で残っていた次元の狭間にある世界、アルハザードへ向かう為に事件を起こした。
 それ程迄にプレシアにとって娘は大切だった。
 撮影の後、私はハウスキーパーの事を言わなくなった、ううん言えなくなった。
 プレシアの…ママの気持ちを知ってしまったから。

『忘れないで、プレシアの娘、アリシア・テスタロッサは私達だけなんだよ』
 異世界の成長した私から言われた言葉を思い出し胸に刻む。
 
「ママ、今日は私も手伝う♪ 私も桃子さんに教えて貰ってるんだから」
「そう、じゃあ一緒に作りましょう。」

 アリシアとして、プレシア・テスタロッサの娘として…この時間を大切にしたいから。
   

 キッチンで買ってきた食材を収納し、ママに言われた通り野菜を洗って切ってサラダを盛り付けていく。以前高町桃子さんから『盛り付けは彩りも大切だけど、取りやすさも大事なのよ』と教わっていた。緑をベースに黄色と赤を…小さく取り分けやすく並べていく。

「うん、これでいいかな、ママっ♪」
「ええ綺麗に出来たわね、凄いわ。」

 凄く喜んでくれて嬉しくなる。
 テーブルにお皿を並べていると 

「おかあさん、おふろできた~」

 チェントとリニスが入ってきた。

「アリシア、先に一緒に入ってらっしゃい。」
「は~い♪ リニスも入る?」

 エプロンを外しながら愛猫に聞くと、リニスはそのままご飯を入れるトレイの前に座り込んで私から目を逸らして尻尾を1度振る。
シャワーは好きなのにお風呂は嫌い…態度で凄くよくわかる。

「クスッ、じゃあ一緒に入ろう。着替えを持ってお風呂まで競争♪」

 小走りでキッチンを出ようとすると妹はきゃ~っと嬉しそうな声をあげて先に走って行く。
 本当にかわいくてチンクさんの気持ちがわかるよ。
 
  
「泡を流すよ~。ギュ~ってして」

 アワアワの頭が動いたのを見てシャワーヘッドの湯を少し温めにしてかけていく。泡が流されて次第にブロンドかかった髪が見えてくる。
 家族になった頃はボブショート位だったけれどもう肩の下辺りまで伸びている。
 私みたいな髪型にしたいと伸ばしているけれど、そろそろ出来るかも知れない。今度ショッピングに行った時に探してみよう。
 そんな事を思っている間に泡は流された。

「は~いおしまい。入って暖まろうね」
「うん♪」

 そう言うとチェントは立ち上がって湯船に入る。彼女がさっきまで居た場所に座り直して体を洗っていく。

(少し筋肉ついてきてるのかな?)

 腕や足をつまんでみる。
 1年位前にヴィヴィオと模擬戦をした時から色々トレーニングを始めていた。そこからブレイブデュエルの世界の高町家で士郎さんや恭也さん、美由希さんから色々教わり、更にこっちの士郎さんと恭也さんから今の私に合ったトレーニング方法を教えて貰った。
 昔みたいに少し走っても息も切れないし、飛んだり跳ねたりする時も思った通り体を動かせるようになった。バルディッシュのアシストプログラムを使っても振り回されないようになっている。
 こうして見ると随分変わったなと思う。
 でも…追いかける彼女の背中はまだまだ遠い。

「もうちょっと練習した方がいいかな…でも、3回目の怪我は絶対叱られちゃうよね」

 教わっている剣術の中でブレイブデュエルの中以外、現実では使っちゃいけない技がある。神経を研ぎ澄まし瞬間的に移動する技、相手から見れば遠くから瞬間移動した様に見える。勿論その速度を得る代償があってもの凄い集中力と足…特に膝への負担が半端じゃない。練習してる恭也さん達でさえ短時間しか使えない…。
 足を洗いながらマッサージする。 
 私はそれを2度使い、2度歩けない程の怪我をした。怪我してすぐに治療魔法を受けたから何とか元に戻ったけれど…。

「3度目は無いよね…」

 2度失敗していて3度目を試す度胸はないし、お目付役の親友も流石に3度目は見逃してくれないだろう。

「でも、そんな事件も何度も起きないか♪ …なんて笑えればいいんだけどね~ハァ~」

 深くため息をつく。
 そんな事件が立て続けに起きていて巻き込まれちゃってるのだから…
 悲観的になっても仕方ない。その時になって考えればいい。

「おねーちゃん、まだ~?」
「あっ、ごめんね。お姉ちゃんぼーっとしてた。入らないと風邪をひいちゃう」

 時間が経っていたらしい。慌ててシャワーで泡を流して湯船に入った。

~コメント~
 同じものを見て、同じ事を経験していても個々によって感じ方、捉え方は異なります。
 それが個性であり、アリシアとフェイト、ヴィヴィオとチェントの性格の違いにもなっていたりします。
 そんなアリシアがフェイト視線でPT事件の真相を知った時のことを少し掘り下げてみました。

 

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