第12話「最初の1歩」

「シグナム、ヴィータ、リイン…留守番を頼むな。シャマルとザフィーラ、アギトにも伝えといて。明日の夕方頃には戻ってくるから。」

 はやてさんは何度目かため息をつきながら庭でヴィヴィオの肩に手を添える。その手を私はつかんで反対側の手でヴィヴィオの手を握った。
          
「お気をつけて」
「行ってらっしゃい」
「アリシア、見事だった。後は任せる。」

 シグナムさんに褒められて私は強く頷く。

「はい!」
「じゃあ行くよ~っ!」

 ヴィヴィオが悠久の書を開くと虹の光球が現れ私達にぶつかり、私達は時間軸を超えた。

「っと…着いた。場所も時間もピッタリ♪」

 着いたのはいつも転移先にしているグランツ研究所の庭園。
 はやてさんは辺りをキョロキョロ見ている。

「本当に魔法が使えん…リンカーコアが動いてない。」
「やっぱり慣れないと少し不安だね」
「うん…」
「ママ、気にしちゃダメだって。」
「そうそう♪」

 フェイト達に苦笑いする私とヴィヴィオ、その時

「ようこそ、お待ちしていました…!」
「待ってたよ~ヴィヴィオ、アリシア…えっ!?」
「なのはさんとフェイトさん、お久しぶりです…キャッ!」

 出迎えてくれたのはシュテルとレヴィ、ユーリの3人。3人とも思いっきり驚いている。

「うん、約束通りママ達と一緒に来たよ。」
「それと今日はもう1人、誰かわかるよね♪」

 固まっている彼女を肘で小突く。

「は、はじめまして、八神はやてです。」

 そう言えばはやてさんもこっちのユーリ達に会うの初めてだったと気づいた…少し遅かったけど。
       
    

「…ということで、ここはブレイブデュエルの開発とテストをしているグランツ研究所でフェイトとなのはさんにはプレイヤーの教導をして貰ってました。」

 研究所の中に案内された私達は初めて来たはやてさんに簡単に説明する。

「はい、なのはさんやフェイトさんには沢山教わり、ヴィヴィオとアリシアは良きライバルです。」

 シュテルが頷く。

「開発責任者、グランツ・フローリアンです。皆さんには新しい可能性を示して貰い研究者冥利といいますかとても助けられています。しかし…なのはさんとフェイトさんにお会いした時も驚きましたが、まさかはやてさんにも来て頂けるとは…」
「まぁ…半分仕組まれたみたいな感じですが、よろしくお願いします。私はなのはちゃんやフェイトちゃんみたいに魔法…スキルを教えるのは苦手なんで、統率…集団戦での指揮みたいなものでしたら…」

 頭を掻きながら言うグランツさんに笑顔で応えるはやてさん、何となく言葉の節々にトゲがある気もするけれど気にしない。

「ブレイブデュエルはグランツ研究所以外にも協力してる場所があって…私達が関係してるのはこっちのリンディさんとママが経営してるホビーショップT&H、ここには私とフェイト、ショップの専属プレイヤーとしてなのはとアリサ、すずかが居るよ。」

 シュテルが気を利かせてモニタに全員が並んだ写真を映す。
 はやてさんはふぇ~と驚く。その様を見ながら

「もう1つが古書店八神堂。名前からわかるけど、こっちのはやてがみんなと経営してる古書店。ショッププレイヤーは八神家のみんなだね。」
「ちなみにはやては既に大学を卒業して社会人2年目ですね。」
「料理もすっごく美味しいんだぞ」
「不本意ながらにな…」

 シュテルとレヴィ、ディアーチェが続けて言う。更にふぇ~と驚きながらも集合写真を出した瞬間、彼女の顔が凍ばったのに気づいた。
 ヴィヴィオも笑顔だけれど軽く頷いているから気づいたらしい。

「肝心のブレイブデュエルについては…実際に遊ぶ時に話すね。じゃあ早速、はやてさん、行きましょう♪」
「へ? 何処に行くん?」
「決まってるじゃないですか、さっき話した古書店八神堂です。」
「えっ? 待って待って、私がここに来たんはブレイブデュエルじゃなくて…ストライクアーツの…」

 慌てるはやてに

「はい、知ってます。昨日のうちにヴィヴィオが行って3人に話して士郎さんと恭也さんに八神堂で待って貰ってます。 考えてみて下さい、こっちのはやてにそっくりなはやてさんが市内を彷徨いたら…大騒動になっちゃいますよ? それに翠屋じゃ話せないでしょ?」
「はやてさん…私達みたいな古代ベルカの騎士は固有スキルの関係で八神堂のブレイブホルダーが無いとゲームの中でも魔法が使えないんです。だから行きましょう。」
「ええっ! なのはちゃんとフェイトちゃんは?」
「私達はここで教導だね。今日と明日しかないからシュテル、集中特訓になるよ♪」
「はいお願いします。プロトタイプも準備出来ていますし、フェイトもこっちに向かっているそうです。」

 はやてさんが再びジト目で見て溢す。 
     
「………策士…」
「待ち合わせの時間もあるので行きましょう。フェイトとなのはさんはお泊まりは前と同じでいいですよね? はやてさんは八神家で用意して貰ってます。」
「っ!? ちょっ!」
「うん、お願い」
「じゃあ早速。シュテル、フェイトに伝言お願い『強くなるのを待ってる』って」
「クスッ、確かに伝えます。」

 ソファーに座ったままのはやてさんの手を引っ張って立ち上がり私とヴィヴィオ、そしてはやてさんはグランツ研究所を後にした。        
 
 

「なぁ、本当に行くん?」

 足取りが重いはやてさんの手を私とヴィヴィオがそれぞれ片手を引っ張る。

「当然です。言いましたよね? 『はやてさんが自分で説明しに行く』って。折角来て貰ったんですから。」
「そう言うても何でその場所に…」
「それもさっき言いましたっ。落ち着いて話せる場所として八神堂の休憩室を使わせて欲しいってお願いしたんです。こっちのみんなにはヴィヴィオから話しています、だからもう全員待ってますよ。はやてもシグナムさん達も…アインスさんもっ!」

 彼女の名前を出した瞬間、彼女の足に力が入って止まってしまった。

「なんで…そこまで…。アリシア、ヴィヴィオ、アインスと私を会わせて…私を苦しめてそんなに楽しい?」
「会いたくない訳ないよ。話を聞いた時、ヴィヴィオが消えたあの子の魔法を持って帰ってくれた時…どれだけ会いたかったか。でも…私が会ってアインスに会いたいと思ったらまた闇の書が蘇ってしまう。そうしたら…今度はみんな…」

 はやてさんが涙を流し嗚咽する。
 でも私は慰めない、あえて厳しい言葉を投げかける。

「だからです。私達がそんな意地悪ではやてさんを連れてきたと思いますか? はやてさん、気づいてないんですか? ヴィヴィオもあの時、アインスさんを消してはやてさんの願いを壊したって凄く泣いたんです。」
「はやてさんがアインスさんに会わないっていうのははやてさん自身が立ち止まってる証拠なんです。」
「……」
「ここは私達の世界と全然違います。」
「こっちのアインスさんは建築関係の専門学校に通っていて講義の合間に八神堂を手伝っています。」
「リインさんとアギトさんは海外でブレイブデュエルの更なる可能性を研究しています。」
「シグナムさんは大学生で道場の師範で、シャマルさんは医者になる為に大学に行ってます。」
「ヴィータさんも近くの小学校に通っていてザフィーラさんははやての近くにいるけど…私達の知ってるみんなとそっくりだけどここのみんなは別人なんです。」
「それでも会いたくないですか? ずっと立ち止まってるつもりですか?」
「そんなはやてさんを空の上からアインスさんが見ていたらどう思うとおもいますか? 私なら『私のせいで…』って凄く悲しんじゃいます。」
「1歩…ううん半歩でもいいです。前に進みましょう。私、闇の書事件の撮影ではやてさんの役をしてみんながどれだけ悲しんだか少しだけ知りました。」
「撮影の後みんなもそれに気づいてくれて本局や地上本部でもみんなを再評価しようって話が出ていますよね。はやてさんが司令になったのも関係してるんじゃないですか? ヴィータさんもシグナムさん、シャマル先生、ザフィーラ…みんな前に歩き始めています。はやてさんも一緒に行きましょう。」

 膝から崩れ落ちたはやてさんの肩を抱く。

「みんな待ってるんです。はやてさんと会えるのを、はやてさんが歩くのを。」
「……う…うわぁぁあああああああっ!」

 私達が言うとはやてさんの顔が歪んで周りを気にせず大声で泣き始めた。
 でもそれは私達にとって今まで気を張っていた夜天の主が再び飛ぶ為の羽ばたく音に聞こえた。

                          

「…大丈夫ですか?」

 流石に長時間路上で泣いているのも色々騒がれるのでとりあえず近くの公園に立ち寄りベンチにはやてさんを座らせた。
 少し経つとはやてさんは落ち着く。ハンカチを渡すと涙を拭う。

「ごめんなさい…子供なのに生意気なこと言って」
「ううん、私こそごめんな。アリシアとヴィヴィオが私を揶揄ってると思ってたんよ…それだけでなのはちゃんとフェイトちゃんまで付き合う訳ないよな。2人にも話したんやろ?」

 ヴィヴィオが静かに頷く。
 ヴィヴィオを通じてフェイトとなのはさんには伝えていた。
 何故彼女をここに連れてこなくちゃいけないのか、その理由を…

「みんな私が歩くの待っててくれたんか…、そうやのにアリシアは厳しいな、無理矢理歩かせるなんて…」
「ごめんなさい…」
「ううん、私こそ…前に進んでると思ってたけど大切なもの置いてきてたんやね。」

 そう言うと私達はギュッと抱きしめられた。

「ありがとうな…気づかせてくれて本当にありがとう。あかん、また泣いてしまいそうや」
「いいですよ。ここは私達だけです。」

 いつだったか…同じ言葉を親友にかけたことがある。
 そう…思い出した。
 あれも闇の書事件の撮影でリインフォースを失ってはやて役のヴィヴィオが泣くシーンだった。

「はやてさんの家族はみんな見てません。」
     
 ヴィヴィオも気づいたのか言葉を続けた。

「うん…ありがとう…もうちょっと…このままでいい?」
「「はい」」

 再び嗚咽するはやてさんの背中を私達は優しく撫でた。



 はやてさんが落ち着くのを暫く待つ

「行こうか」

 と立ち上がったのを見て私達も一緒に歩き出した。

「あ~子供2人の前で大の大人が号泣するなんて、格好悪いったらないな…。ヴィヴィオ、アリシア、みんなには秘密な。」
「どうしようかな~♪ 私達、はやてさんのおかげで色々大変な目に遭ってるんです。ヴィヴィオが来なかったら死んじゃってましたよ。」
「私なんて撮影前に広報部の人にずっとついて来られたんですよ。本当に大変だったんですから~♪」

 ニコっと笑って言うとヴィヴィオもウンウンと頷いて続ける。

「ご~め~んって、秘密にしてくれたら代わり何でも言うこと聞くよ。」
「冗談です。はやてさんが私やヴィヴィオ…みんなの事を思って動いてくれているの知ってますから。だからもう忘れました♪ だよね?」
「何の話? それよりも…時間大丈夫?」
「あっ! はやてさん、急ぎましょう」

 慌ててはやてさんの手を取って走り出した。

「ありがとうな、アリシア、ヴィヴィオ…」

 通り過ぎる風の中で何か聞こえたけれど私はあえて聞こえない素振りをした。



「ふぅ、やっと着いた。遅くなってごめ~ん」

 八神堂に着くなりヴィヴィオが中に入る。

「行きましょう」
「う、うん」

 少し強ばっているけれど私の手をギュッと掴んで一緒に入った。

「八神堂にようこそ~♪ わっ、ほんまに私や」
「おせーぞ! うわっ!!」
「いらっしゃい、はやてちゃん…じゃおかしいですね。はやてさん、はじめまして」
「主…でいいのでしょうか?」
「…ようこそ」
「の~」

 はやて、ヴィータ、シャマル、シグナム、ザフィーラ、のろうさが口々に挨拶する。
 全員に予め伝えていたけれどそれでもかなり驚いている。
そして、カウンターの上の階段を降りる音がして

「いらっしゃい、ヴィヴィオ、アリシア。」

 リインフォース、アインスが顔を見せた。

「アインス…」
「はい、ヴィヴィオ達から話は聞いていました。はじめまして、我が主…ではないですね、八神はやてさん」

 はにかんで頷く。 
        
「はじめまして、こっちの私、ヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラ…アインス。ヴィヴィオ達の世界から来た八神はやてです。」
「積もる話もありますけど、アリシア、はやてさん、2階でお客様がお待ちです。」
「そうだ、ここからが正念場ですよ。はやてさん」
「…よしっ!! 行くよ、アリシア。」
「はいっ!」

 そう、ここからが私達の勝負だ。


~コメント~
 今回はヴィヴィオ&アリシアというより、はやてが主役です。
 はやては闇の書事件撮影(AgainStory3)でアインス役として参加しています。その時起きた事故によって自身の想いからリインフォースを蘇らせてしまったという負い目を持っています。
 最初は無理強いをさせたくないと思っていたヴィヴィオも2人の間を行き来する(ブレイブデュエルで覚えた魔法をはやてに教える)間に2人を会わせなきゃと考える様になっていき、アリシアも彼女の想いに賛同し協力します。
 2人の行動は彼女達じゃなきゃ出来なかったことなので、前話に続いて成長したな~と思えた話でした。

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