第13話「守る為の剣」

「士郎さん、恭也さん遅くなってすみません。」
「いいや、大切な話があるってヴィヴィオちゃんから聞いたからね。そちらは?」
「下の子に似ている…」
「紹介します。私達の世界の八神はやてさんです。下に居るはやてが…異世界で大人になった感じですね。」
「初めまして時空管理局ミッドチルダ地上本部司令 八神はやてです。高町士郎さん、恭也さんですね。今日は来ていただいてありがとうございます。」

 はやてさんは管理局ということでピッと敬礼をした後、失礼しますと士郎の対面に座った。
 私も隣の恭也さんの対面に腰を下ろす。

 
                   
「今日は私達の世界の話とアリシアさんについてご相談があり来て頂きました。まず私達の世界…魔法文化について…」

 隣で話を聞いていてはやてさんはやっぱり凄いと見直した。
 ミッドチルダを代表する魔法文化の世界の概略
 そこになのはやフェイト、はやてが関わった事件のあらまし
 ヴィヴィオの時空転移魔法によってここと繋がった経緯
 そしてその上でアリシア・プレシアの現在と将来の魔法文化世界への展望について…

 20分程を使ってそれらを2人に判りやすく説明していった。

「私達の世界では生まれ持った魔力資質の有無や強さが社会的地位に影響していました。ですがそれを大きく変える物がまもなく公表されます。」
「しかしながら今まであった優劣の意識は個々の中に根付いています。」
「それを無くす為にアリシアさん達の様に魔力資質が無くても魔法と自身の能力を組み合わせて使える優秀な人達を集めて競技会で競って貰い、それを多くの人に見せることで今までとは違う新しい可能性に目を向けて魔法文化を大きく前進させたいと考えています。」
「これは他の誰でも無い魔導知識にも身体能力にも秀でたアリシアさんだから出来ることなんです。アリシアさんが競技会に参加するのを許可して頂けないでしょうか。」

 ここまでははやてさんが一方的に話していた。士郎さんと恭也さんは静かに聞いていた。

「…アリシアちゃんはどうなんだい?」

士郎に問いかけられる。

「私は…出たいです。私みたいに魔力資質が無くても何か出来るっていうのを見せたいと思います。」
「そうか…」

 彼はそう言うと前にあった湯飲みを手に取って飲む。

「はやてさん…でいいでしょうか? 俺は想像力が豊かではないので皆さんの達の世界についてはちょっと想像出来ません。ですが…はやてさんはアリシアの剣については知っていますか?」
「模擬戦や練習で見た程度ですが…」
「俺たちは誰かを守る為の剣として日々練習しています。守る為であれば相手の生死は考えない…その意味も判りますか。アリシアの剣が魔法を超えた時、相手の競技人生…本当の命まで奪いかねない。」
「俺たちがアリシアに教えたのはブレイブデュエルという怪我をしない体感ゲームの中で使う為だった。俺もアリシアの運動能力…目の良さには驚かされています。教えた事を覚える速さは俺や美由希が同じ年だった頃と比べられない程です。」
「そんな彼女に俺たちも魅力と可能性を感じています…。だからこそ現実で使えば相手もアリシア自身も只ですまないことをさせるわけにはいかない。」

 士郎さんに変わって恭也さんが言う。普段寡黙だからそれだけ大変なことなのだろう。

「俺たちの剣は競い誰かを傷つけるものじゃない、ましてや見せるものでもない。」
「……」

 完全な拒絶だった。
 はやてさんは物理攻撃無効化フィールドの話を言うかと思ったけれど「絶対と言い切れますか?」と言われるとそれ以上は答えられないと判っているから言わなかったのだろう。
 このままだと話は決裂する、どうすればいいかを考える。
 アリシア・テスタロッサとして…私だから出来る事…。その時昔フェイトから言われた言葉を思い出した。『私だから作り出せた可能性』の話を…。
 悩んで時間だけを使っても意味はない。ここは私が前に出る。

「前にグランツ博士から聞きました。私がブレイブデュエルで士郎さん、恭也さん、美由希さんから教わった剣を使ったことで今までゲームに興味の無かった子達も遊ぶ様になったそうです。」
「走るのが得意な子、作戦を考えて先を読んで相手を罠にかける子、私みたいに武道を練習している子…みんなゲームは苦手って離れて見ていた子達だそうです。」

 突然違う話をし始めた私を3人が見る。

「そんな子達がブレイブデュエルで遊び始めて今まで遊んでいた子達も集まって競って友達になって更に口づてで広がって…この前のグランプリは私達が参加した前々回と比べて人数が10倍を超えたそうです。」
「もし私が剣を教わってなかったらこんなに増えなかった筈です。これって剣のおかげで沢山の交友が生まれたって考えられないでしょうか? 沢山の絆と笑顔が守れたって考えられませんか?」
「いや、それは…」

 恭也さんが何かを言いかけるが士郎さんが止めた。 

「恭也、アリシアちゃんの話を聞こう。アリシアちゃん続けて…」

 私は促されて続ける。

「私達の世界も同じなんです。魔力資質が無い子、弱い子はどうしても魔法が使えなかった。そのまま大人になって…空を飛んでいる魔導師を見ていいな~って羨ましがっていたと思います。でもそんな世界にブレイブデュエルみたいに新しい可能性、誰でも魔法を使える物が生まれた。」
「私はこっちと同じ様に沢山の子達と一緒に可能性を作りたい。魔力資質が凄いヴィヴィオやなのはさん、フェイト、はやてさんには出来ない…私だから出来ることなんです。」
「うつむいてる、魔法が使えないって諦めている子が前を向く為に…良い未来を守る為に。」

 ヴィヴィオの時空転移は新しい未来、良い未来を選んで示す事ができる。私は時空転移どころか砲撃魔法もろくに使えない。
 それでも良い未来を作る事は出来る。
 必然を選ぶのは彼女だけじゃなく私達1人1人なんだから。
  
「……アリシアちゃん、それはとても辛い道だよ、わかっているかい?」
「はい、毎日が試練です。私の世界の士郎さんが言ってました。でも…辛くて止めたら本当に守りたくても守れなくなるから。私は何もしないで諦めたくない、私みたいに諦めない親友と一緒に歩きたいから。」

 ジッと士郎の目を見る。
       
「………」
「………」
「……わかった。」
「父さん」
「但し1つ…2つだけ約束を守って欲しい。」
「1つは今までと変わらない。私達が使うなと言ったものは決して使わない、ブレイブデュエル以外での練習もしない。」
「もう1つは使う時は必ず相手の事も考える。相手はアリシアちゃんを殺すつもりじゃない。戦闘じゃなくて試合なんだと、熱くなっても相手に敬意を払うことを忘れないでほしい。恭也、それでいいか? 美由希には俺から話しておく」
「…父さんがいいなら…」               
「ありがとうございます! 約束、絶対に守ります。」

 アリシアは立ち上がって深く頭を下げた。 


          
「ふぅ~…もうあかんって思ったよ。アリシアが説得してくれて助かった。」

 士郎と恭也が八神堂を出て行くのを見送って再び2階でお茶を飲む。
 私も流石に緊張して喉がカラカラだった。

「はやてさんが判りやすく話してくれて助かりました。でも…士郎さんが退いてくれた感じですよね。恭也さんも納得はしてくれてないです。」
「そこはこれからの行動で納得して貰うしかないか…。」
「そうですね。はやてさん、あと1箇所もお願いしますね♪」

 はやてさんが思わずお茶を噴きそうになって驚く
    
「あと1箇所? こんなやりとりがまだあるん?」
「忘れてません? ここはブレイブデュエルの世界、元の世界にも士郎さん達は居るんです。」
「あ~忘れてた…話に行くのは約束したから説得はアリシアお願いな。」
「え~っ!説得もまとめてお願いします。あっちは魔法文化も知ってますからこっちより楽ですよ。多分…」
「ほんとにぃ~?」

 迫って来られて思わず目を逸らす。

「だ、大丈夫です。」
「しゃ~ない、ここまでアリシアが言ったんやから私も頑張らんとな。よしっ!」

 気合いを入れ直すのを見てクスッと笑う。

「それにしても…アリシアは本当に似てるな。ヴィヴィオと」
「えっ! 私とヴィヴィオですか、全然似てないですよ。ヴィヴィオの半分でも魔力があればもっと楽な学院生活を送れてます。」
「そうやなくて、未来への考え方。前にヴィヴィオが紫電一閃を教わりに来た時な、最初はコラード教官からの課題だから教えて欲しいって来たんよ。」

 その話はヴィヴィオから聞いている。
 私達の研修を担当している元管理局のファーン・コラードから『新しい魔法を覚える』という課題を貰った。その時ブレイブデュエルで使っていたスキルカード『紫電一閃』を覚える為に八神家に行った。その後、無人世界で一緒にキャンプと特訓を受けた。

「シグナムはな、そんな理由じゃ教えられないって断ったんよ。教えて貰えると思って来てたヴィヴィオは凄い落ち込んでたな。」
「ええっ?」
「でもな、翌朝に教えてくれってまた来たんよ。その時の理由がな…」
「『オリヴィエやなのはちゃん、フェイトちゃんの子供でもない、1人の高町ヴィヴィオとして手が届かなくて悲しんで泣きたくないから』って」
「さっきのアリシアが言ってた『辛くて止めたら本当に守りたくても守れなくなるから。私は何もしないで諦めたくない』…言葉は違うけど気持ちは似てるやろ? さっき聞いた時思い出したよ。興味あるならシグナムに相談してみたら? 魔力を使わん技を教えてくれるかも知れんな。」

 思わず顔が熱くなる。まさか紫電一閃を教わる時にそんなことを言っていたなんて…

「私だけじゃなかったんだ…そっか…そうなんだ。アハハ…」

 親友の気持ちに触れた気がして嬉しくなった。
 その時

【コンコン】

 壁を叩く音が聞こえて振り返る。そこには

「2人ともお疲れさまや、話はあんまり聞こえんだけど凄い気迫が下にも届いてたってシグナムが言ってたよ。」

 はやてとアインスがお茶のおかわりとお菓子を持ってきてくれた。

「ありがとう、グランプリより疲れた。」
「ありがとう、私も貰うな。下の店番は大丈夫?」
「ブレイブデュエルが動いてると上は閑散としてるんです。何かあればのろうさとザフィーラが呼んでくれます。」
「ヴィヴィオやシグナム達はみんなで地下のデュエルスペースに行ってますよ。行くなら案内しますけど?」
「私は休憩、本当に疲れたから。恭也さんがすっごく怖くて緊張してクタクタ…フェイトも今頃はなのはさん達と特訓中だから挑戦もしてこないし」
「私もかな…それにはやてやアインスとお話したいし。お店が閉まった後で案内してくれる?」
「喜んで♪」

 こうして私達は暫くの間色々と近況を含めて話していた。
 話している間にはやてさんが何処か身構えていた感じが無くなっていくのを感じていた。
  
      
 お昼間近になった頃、はやてのスマホが鳴る。

「ユーリからや…もしもしはやてです。うん、こっちこそ色々話せて楽しいよ。ん、ちょっと待って」
「ユーリっていうかグランツ博士からなんですけど、今夜アリシアとヴィヴィオ、はやてさんやフェイトさん、なのはさんが来てくれてるから研究所でみんなで食事会をしませんかって。」
「T&Hにも話をしててリンディさんとプレシアさん、あとショッププレイヤーの全員に声をかけてるそうです。高町家でアリシアちゃんとなのはさんを泊めて貰うのも桃子さんに連絡したそうです。」
「あっ、さっき言おうと思ってたの忘れてた…はやてさんどうします?」
「ありがたく受けさせて貰います。アリシア何人くらい集まるん?」

 唐突に聞かれて人数を計算する。

「ちょっと待って、T&Hが7人と八神堂が1・2・3…6人とグランツ研究所が7人とスタッフ何人だろう? そこに私達だから25人以上」
「大人数やな…。ユーリ、料理はどうするん? 買いに行くならこっちからも…うん、ディアーチェがこれから作るって。」

 グランツ研究所のキッチンがどれ位大きいのか知らないけれど流石にこんな大人数を1人で作るのは無理がありすぎる。

「それは大変や、参加させて貰うなら私も作りに行っていい? アリシア、ヴィヴィオも手伝ってくれるか、ユーリに聞いてみて。」

 はやてさんが言うとはやては

「そうですね、私も手伝いたいところですがお店があるので…ユーリ、ディアーチェに『応援3人行くよ』って伝えて。うん…大丈夫、私より上手いよ絶対。わかった。店を閉めたらみんなで行くな。」

 そう言うと通話を切った

「はやてさん、お手並み拝見させて貰います。その代わり明日のご飯は期待しててくださいね」
「はやてさん、シグナムに連絡してヴィヴィオも上がってくるそうです。」

 アインスさんが続けて言う。流石八神家と連携の妙に驚いているとはやては立ち上がって。

「恥かかせん程度に頑張ります。アリシア、行こうか」
「はい♪」

 階段を降りた所でヴィヴィオもデュエルスペースから上がってきた。

「シグナムさんから話を聞きました。私も頑張ります! シャマルさんはヴィータさんとシグナムさんが抑えてくれてるので大丈夫です。」

 力拳を作って言った。
 アインスさんが後ろでホッと息をついたのを見るとどうやらこっちのシャマルさんも危ないらしい…
。       
(私も気をつけなくちゃ…)

 こっちに居る間気を抜かないでおこうと思った。

~コメント~
 アリシアが高町家の剣術を学び始めたのはヴィヴィオと競う為でした。
 元々はバルディッシュを効果的に使う支援機能の1つとして入れられたものでしたが、彼女は恭也達に会って更に腕に磨きをかけていきます。
 元々運動能力や高速移動が得意なフェイトのオリジナルなので彼女も十分な資質はあったとは思いますが、練習にも熱を入れてどんどん強くなっていきました。
 今話はそんな彼女が何を想って研鑽を積んでいるのか?という想いに着目してみました。 

 はやての話した「ヴィヴィオと似てるな」という話はAS短編集の
AS29「誰が為の剣」AS30「過去の記憶」AS31「ヴィヴィオの言葉」AS32「新たな刃」
での話を挙げています。(この話の「練習場所」は後に続く伏線になっていました。)

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