「…白衣の様にも見えますが…ここに避難して隠れて出られなくなった当時の研究スタッフでしょうか…」
人骨を見るのに慣れているのかアミタは近づいて見る。だがヴィヴィオは本や資料でしか見たことがなく、怖くて彼女の背にすら近づけなかった。
あえて目を逸らそうと部屋の反対側の隅にあった机を見つける。
そこで呼ばれた意味が判った。
「これ…夜天の書のページだ…」
ベルカ文字で書かれた紙片、千切れた風にも見えないからまるまるの1ページらしい。微弱に放たれる魔力を感じ取った。
何て書いてあるのか読もうと紙片を手に取ると、机の上にウィンドウが現れた。
「ただいま~。久しぶりの我が家だね~」
正月からの4連休を過ごしたヴィヴィオとなのは、フェイトはミッドチルダの自宅に戻ってきた。
今頃アリシアやはやて達も同じ様に家に着いた頃だろう…。
「なのはママ、フェイトママ…ちょっといい?」
リビングで一息ついていた2人に話しかけた。
先日行っていたエルトリアで考えていた事があった。
戻って来てからの休日中も色々考えて色々調べていたこと。その話を聞いて
「ただいま~」
海鳴市の案内を終えて私達が帰るとなのはとフェイトが出迎えた。用事は思ったよりも早く終わったらしい。
「おかえりなさい、寒かったでしょう?」
「イクス様、町はいかがでした?」
「とても素敵でした。でもお休みしている所が多かったので少し残念でした。」
「駅前や神社の近所以外は今日はお休みですね。4日になれば開いていますよ。」
「では最終日の楽しみに取っておきます。」
「ヴィヴィオ、アリシア、用が終わりましたらこの地を案内して下さい。」
昼食後、食器を洗うのを手伝っていた私達にイクスが言った。
さっきまで彼女はチェントの話を楽しそうに聞いていて私も会話に耳を傾けていた。
本当に楽しい学院生活を送っているらしい。でもチェントの姿が見えないので辺りをキョロキョロと探す。
「チェントはプレシアと雪遊びをするそうです。ミッドチルダでは降ってもここまで積もりませんし」
庭には雪が残っているから色々作って遊ぶらしい。
「町の案内だよね、いいよ。でもイクス、その服じゃ…寒くない?」
彼女の服はハイネックのフリースとフレアのロングスカート。部屋の中は暖かいけれどそのままだと流石に寒い。
「平気です。外出用の服も持って来ました。」
「まさか…シスター服じゃないよね?」
「………」
「………」
「また…凄いとこに行ってたんやなぁ~」
「全く…無茶をして…」
正座をさせられた私達は異世界での事件の事を話すと4人は心配半分呆れ半分といった顔をされた。
「ねぇヴィヴィオ、アリシア、事件に巻き込まれたって気づいた時にどうして教えてくれなかったの?」
「姉さんもヴィヴィオに言えたよね? 1度帰って相談しようって」
「……ごめんなさい。」
「っと、やっと着いたよ~」
トンっと降り立ったのはミッドチルダにある我が家、ようやく着いたとふぅっと息をつく。
「凄い遠回りしちゃったね。何しに戻って来たんだったっけ?」
アリシアも苦笑いする。
「え~っとなのはママから忘れ物…思い出した。フィアッセの端末を取りに来たんだった。何処にあるのか聞かないと」
なのはに通信を開こうとすると
ヴィヴィオ達が海鳴市から去ってから2週間が過ぎた。
管理局本局ではまだ事件の事後処理や裁判の準備等で慌ただしかったけれど、現場となった海鳴市はいつもの日常に戻っていた。
そんな中、なのはとはやては一緒にハラオウン家に来ていた。
八神家では賑やか過ぎて3人で落ち着いて話せないのと…全員が入院や聴取、事件の後片付けに奔走していたこともあり、夏休みの宿題を既に終えたアリサとすずかに追いつく為の勉強会でもあった。
「終わった~! 私が1番やね♪ ヴィヴィオちゃんとアリシアちゃん、今頃何してるんやろな~。」
【ドォオオン…】
光が土煙を上げて藁山に落ちた。
「イタタタタ…この転移は」
「なかなか過激です。」
「2回連続で落ちるとは思いませんでした。」
「今のは私のせいじゃないからね…」
「すみません…人数が多すぎたみたいです。」
「荷物は無事ですか?」
「大丈夫だ。それよりも…アミタ、キリエ、迎えが来ているぞ」
「おかえり、みんな♪」
出迎えたエレノアは抱きつくアミタとキリエ、ユーリに頬を崩した。
事件収束から10日後、
「う~んっ!、これで準備できたね♪」
「ヴィヴィオ、お疲れ様」
「アリシアもね~。みんなもおつかれさま~」
ヴィヴィオは背伸びをしながら答える。アリシアは大きく欠伸をして部屋を出て行った。
彼女のねぎらいの言葉に頷く。あとは実際に動くだけ…
「ちょっと休憩してから管理…」
休憩してから管理局に連絡しようかと言おうとした時
「ヴィヴィオっ! 大変!! アミタさん達今日帰るって!! キッチンにメモが置いてあった!!」
アリシアが部屋に駆け込んで来た。
「ちょっ!?」
メモを見ると『アミタ達の見送りに行って来ます。』と書かれていた。
「ど、どうしよう…」
「とりあえず追いかけよう。そっちも準備よろしくっ!」
「う、うん、わかった! アリシアっ!」
2人で家を駆けだしそのままバリアジャケットを纏って空へと上がった。
指揮船になのは達が降りたのを見た後、ヴィヴィオもアリシアと一緒に指揮船へと向かった。
「ちょっと…ふらついてるけど大丈夫?」
「ハハハ…大丈夫…多分。」
心配するアリシアに笑ってごまかす。
空間転移で行ければいいのだけれど、今夜だけでスターライトブレイカーを2回、ストライクスターズ、そしてフレースヴェルグを使ったことで殆ど魔力を使い切ってしまっていて後を追いかけるように飛んで向かった。
「ヴィヴィオちゃん、アリシアちゃんもお疲れや♪」
甲板でははやてが出迎えてくれた。彼女も騎士甲冑から私服に戻っている。それを見てようやく事件が終わったのだと思えた。
私も降りてバリアジャケットから私服に戻った。
救護班から軽食を受け取って食べようとしていた時、通信が入る。
『ヴィヴィオ、私をフェイトの所に連れてって。急いでっ!!』
「わかった。レヴィ、これ全部あげるっ!」
「いいのっ? ありがとーっ♪」
「ヴィヴィオ、何が起きた…」
シュテルが聞くのを待たずに空間転移で指揮船に飛び
「お待たせっ!捕まって!!」
「うんっ!」
アリシアの手を取ってフェイトの居る場所へと向かう。
ストライクスターズで外装を壊した直後にシュテル、レヴィ、ディアーチェのトリプルブレイカーがユーリを直撃した。爆発の中、ユーリが落ちていくところをレヴィが追いかけて抱きとめたのを見てヴィヴィオも4人が降りていく場所へと向かう。
「ユーリっ!!」
「ユーリ!」
「無事かユーリ?」
「…レヴィ…ディアーチェ…シュテル…みんな…ありがとう、本当にっありがとうございます。」
目覚めた後泣きながら3人に抱きつくユーリを見て私はホッと息をついて笑った。
バリアジャケットに戻ってデアボリック・エミッションを解除するとアリシアから通信が入った。ウィンドウを開くと彼女が覗き込む。
(…ヴィヴィオちゃん…凄すぎる…)
センサーから送られて来たその映像に目を奪われていた。
ヴィヴィオが新たなジャケットを纏った直後映像が乱れた。どれだけの魔力量かはわからないけれど見たことのないレベルの魔力値だというのはわかる。
アリシアが言ってくれなければ中のセンサーは全滅していた。
(これ…把握できる魔力値を超えてるんじゃ…)
ヴィヴィオが結界を作らなければ関東全域を覆っている広域結界は潰されていた。あれは広域結界を守る為に作ったんだと気づいた。
『ヴィヴィオっ、なのはとアミタさんがフィルの追撃、フェイトがユーリを引きつけてはやてが大型機動外殻の相手をするって!。キリ…なんでもない。後は任せたよっ!』
アリシアから通信が届く。
「うん、任せて。みんないくよっ」
アリシアからの通信を聞いてヴィヴィオはシュテル、レヴィ、ディアーチェに声をかける。3人とも頷く。
「シャマルさんもはやての所へ行って下さい。八神家が全員揃えば最強なんですから♪」
「ええ、みんなも気をつけて」
私は笑顔で頷くと虹の光へと身体を飛び込ませた。
異世界での特訓の1日目、日が落ちてディアーチェの作ってくれた料理を食べてそろそろ寝ようかとしていた時
「ヴィヴィオ、あっちの事件のこと教えてよ。」
「私達から出来るアドバイスもあるかと」
テントの中でシュラフに入ったヴィヴィオはレヴィとシュテルから聞かれて知っている事を話した。
「あちらのユーリは生命操作系の魔法を使うのですが…、ヴィヴィオには天敵ですね。」
「聖王の鎧では防御出来ないからな…その上でエグザミアが目覚めれば貴様の全力でも太刀打ち出来ぬだろう。」
「レヴィ、みんな逃げてっ!!」
アリシアが叫ぶ。突然現れた男に指揮船の管制室でも動揺が走った。
只でさえユーリとの激戦が終えて魔力が消耗した状態のレヴィ達の前に現れた彼は未知数。
しかしアリシアの声が届く前に男はとんでもない速度で4人に迫る。それにレヴィやディアーチェ、ユーリは反応が出来ていない。
唯一シュテルが身構える。
「シールド?」
シュテル達と男の動きが止まった。
切られると思ったシュテルの前にシールドが現れ男の攻撃を防いでいたのだ。
「フォートレス?」
局員の誰かが呟く。しかしフォートレスを持っているなのはとはやてはオールストン・シーで警戒任務についている。
アリシアは指揮船の中を移動し、情報を統括している管制室へと入った。エイミィに何が起きているのかをリアルタイムで知りたいと頼んだのだ。
「もう始まってる…」
大型モニタを見つめ呟く。中では管理局と増えたイリスとの戦闘が始まっていた。
シャマルとザフィーラが大型機動外殻、エクスカベータを攻撃する。
ヴィータが武装局員を護りながらイクスと思われる女性と戦っている。
なのはとはやてはユーノと協力してオールストン・シーに現れたイリス達とエクスカベータを攻撃、捕縛している。
(みんな…魔力量が上がってる?)
一見しただけで全員の魔力出力が元世界に近い事に驚いていた。そこへ
時空転移で使うストレージデバイス、刻の魔導書はそれぞれの時間軸に存在している。
その魔導書同士を繋いで転移する魔法が【虹の扉】
ヴィヴィオは悠久の書で使って大人アリシアの時間軸、通信している時間に飛んだ。
「っと、ここは研究所前?」
降りたのはプレシアの研究所前だった。
通信中の大人アリシアの背後に見えていたのはプレシアの研究室みたいだったから中に居るのだろう。そう思ってエントランスから入ろうと歩いていると
「ヴィヴィオ、こっちで~す。」
建物の横から女性が走ってきた。その姿を見て私には誰か直ぐにわかった。
「ユーリ♪、おっきく…じゃなくてすごく綺麗になった!」
「な、なんでアリシアさんが出るのっ!?」
『それはこっちの台詞よ。何? どうやって通信してるの!?』
お互いに驚き過ぎて素っ頓狂な声をあげるヴィヴィオと大人アリシア。
「夜天の書の紙片に通信プログラムみたいなのがあってそれを使ったら繋がったの。そっちは?」
『こっちは誰からか判らない通信コールが来たから受けただけ。間違って繋がっちゃったんだ。今度遊びに来た時にでも術式教えてよ。ヴィヴィオも居ないし私も今は仕事中だから…じゃあまたね』
「ま、待って!! アリシアに聞きたい事があるの、ママは?」
「じゃあ再生するよ」
レヴィによって修復されたデータが大型モニタに映される。
レヴィがそう言って夜天の書から復元した映像データを再生しはじめた。側に2つのウィンドウが浮かんでいて本局の捜査本部と本局の何処かの部屋に集まったのかなのはとフェイト、アミタ、キリエが映っている。
『資源の枯渇と土壌の砂漠化、命の暮らす星としてはもう死にかけている惑星、それが私達の故郷エルトリア』
それはかつてエルトリアにあった惑星再生委員会の記録。
荒廃が進むエルトリアから離れ宇宙に逃げる人が居る中で惑星再生委員会はエルトリアの緑を蘇らせる為に日々研究を続けていた。その支援用ユニットとして作られたのが惑星再生用のテラフォーミングユニット『イリス』だった。