第40話「長女的存在の再来」

「ただいま~」

 海鳴市の案内を終えて私達が帰るとなのはとフェイトが出迎えた。用事は思ったよりも早く終わったらしい。

「おかえりなさい、寒かったでしょう?」
「イクス様、町はいかがでした?」
「とても素敵でした。でもお休みしている所が多かったので少し残念でした。」
「駅前や神社の近所以外は今日はお休みですね。4日になれば開いていますよ。」
「では最終日の楽しみに取っておきます。」
 イクスは私達と同じく4日迄居るつもりらしい。
 …そもそも密入国に近いのだから私が連れて帰るしかないのだけれど…。
 そう言えばそろそろ月村家に行った方がいいのかなと思ってはやてを探す。

「…ママ、はやてさんは? イクスと一緒に月村家に行く予定だったよね?」
「そうですね、お世話になる皆さんにご挨拶もしないといけませんし。」
「え~っと…はやてちゃんはちょっと本局でしま…用事がまだ終わってなくてヴィヴィオ、イクス様をすずかちゃん家に送ってあげて。すずかちゃんとアリサちゃんにはママから連絡しておくから。イクス様、向こうにはヴィータちゃん達が居ますので何かあれば気軽に聞いて下さい。」
「はい、ありがとうございます。」

 なのはとイクスの間で話がまとまったのであれば特に問題もなく。

「わかった。少し暖まったら送るね。」

 冷えた体を暖める為にリビングへと向かった。       
  

 
 小1時間程経った後、私は準備が終えたイクスを連れて月村家に空間転移した。
 …最近本当に移動手段の1つに使われている。
 寒くて雪が残っている中を月村家まで交通機関を使って行くのも大変だし、飛んでいけば寒いし大騒ぎになる、管理局のゲートも使えないから空間転移に頼るしかないんだけど…なんだか釈然としない。 
 月村家に着くとすずかやアリサ、ヴィータやシグナム達が居てイクスは出迎えられた。

「色々悪かったな、あとはこっちに任せろ。何かあれば連絡するから。」

 ヴィータに言われて私はイクスと別れて家に帰った。
 それから少し時間が経って夕方…

「ごめ~ん、士郎、桃子。遅くなっちゃった。」

 家の前で何か音がしたかと思ったらガラガラと玄関の開く音と共に声が聞こえた。

「キャ~、フィアッセお帰りなさい♪」
  
 続けて桃子の声が聞こえてきた。

「着いたみたいだね♪」
「うん♪」

 私達も客間の炬燵から出て立ち上がる。

「なのは~久しぶりっ♪ もしかしてフェイト!? すっごい美人になってる~っ♪」
「ひ、久しぶり」
「フィ、フィアッセさん!?」

 私達が玄関に着いた時にはフィアッセが靴を脱ぎ捨ててなのはとフェイトに抱きついていた。そのリアクションに2人は固まっていた。
 私達も彼女に初めて会っていたら同じようになっていただろうけれど、私達は数ヶ月前に彼女に会っていて少しだけ慣れていた。

「フィアッセ♪ あけましておめでとう」
「フィアッセさん、おめでとうございます」
「ヴィヴィオ♪、アリシア♪」

 なのはとフェイトから離れて抱きつこうとする前に2人同時に両手を広げてバッと前に出した。 それを見てフィアッセは立ち止まった。少し残念そうに口を尖らせるがあのテンションで抱きつかれるのは流石に恥ずかしい。
 止まってくれたのを見てホッと息をついて手を下ろした瞬間

「あけましておめでと~っ!」
「!?」      

 アリシアは寸前に避けるが私は余裕もなく思いっきり抱きつかれた。柔らかくて良い香りに特に嫌でもなく、半ば諦めて彼女が放してくれるのを素直に待った。

  
「フィアッセお姉ちゃんが抱きついてくるの、お兄ちゃん達でも逃げられないから最初にされた方が良いんだよ。」
「急に抱きつかれてびっくりするよりもいいからね。」

 騒動の発端になった彼女をリビングに案内した後でなのはとフェイトに教えてもらった。
 私より慣れていたから逆に最初にわざと抱きつかれたらしい。

「ママ、そういうことは先に教えてよ…」

 疲れた声でそう言った瞬間

「キャアアアアアッ!」
「スキありっ♪」

 廊下からプレシアを呼びに行ったアリシアの悲鳴が聞こえた。見回すとさっきまでいたフィアッセが居ない。

「ほらね♪ 逃げるとこうなっちゃう」

 彼女でも逃げられなかったらしい…
 私はハハハと引きつった笑みを浮かべるしか出来なかった。
 


「気配も全然わかんなくて急に来るんだもんびっくりしたよ。フェイト達は諦めてたんだね。」
「アリシアにもわかんないって凄いね~、私は全然だった。」   

 客間の炬燵に入りながらぼやくアリシア。時々中で尻尾が当たるからリニスが中にいるらしい。こっちに来てすっかり定位置になっている。
 プレシアとチェントはリビングに行ってフィアッセと話している。

「ねぇ、あの後調子悪かったりする?」

 ミカンを食べようと皮を剥いているとアリシアから急に聞かれた 

「? 平気だよ? リンカーコアも異常はないし、RHdもあっちに居た間に自己修復出来たし。どうして?」

 ミカンを半分に割って彼女に渡しながら答える。

「どうしてって…何となく。いつもならイクス様にあんな事聞かないでしょ。何かあったのかなって。」

 あんな事というのはマリアージュを作り出した理由を聞いた事だろう。

「う~ん…イクスの周りにいつも誰かが周りに居たから…かな? それと…作った理由を知ったら何かわかるかなって思ったの。だけど…」
「だけど?」
「…私じゃまだわかんなかった。ラプターもそうだし量産されたイリスもそうだったし…いつの時間でも同じ様なものを誰かが作っちゃう。止める意味があるのかな~って…」
「それは…」
「いつだって、どこだって人は同じ過ちを繰り返す…」
「でも、それが間違いだって気づくかは…そこに居る人次第。」  

 襖が開いてなのはとフェイトが入ってきた。       

「ママ…」
「フィアッセと一緒にすずかちゃん家に行こうって誘いに来たんだけど、難しい話をしてたから…ごめんね。でもそれを考えるのはとても大切なことだと思うよ。」
「そうだね、それにきっとその答えは2人も持ってるんじゃないかな。」
「えっ?」
「私も? …わかんない」

 アリシアと顔を見合わせる。

「折角考えてるのに教えちゃったら意味がないから…ヒントだけ。グランツ博士が教えてくれたんだけどブレイブデュエルのシステムって昔戦争で作られた技術が沢山入ってるんだって、アリシアがお父さん達に教わってる剣も使い方を変えたらそうだし、私達の魔法もそうだよね? 戦うのが、争うのが嫌だからって全部否定する? 違うよね。」
「それは…」
「急がずにゆっくり考えればいいよ。そうそうフィアッセとチェントが大きな雪だるま作りたいんだって、すずかちゃん家の庭に沢山積もってるから一緒に作ろうって、ヴィヴィオ…お願いしていい?」

 空間転移で全員を月村家に連れて行って欲しいらしい。

「うん、アリシア大きいの作ろう。」
「よ~し!」

 ミカンを口に放り込んで立ち上がった。

 こうして月村家に向かった私達は全員で2階に届きそうな巨大な雪だるまを作るのだけれどそれはまた別のおはなし。

~コメント~
 高町家の長女と言うと美由希ですが、的存在が付くと彼女になります。
 イクスに話を聞いてヴィヴィオは考えます、そして…

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