第41話「刻の護り人」

「ただいま~。久しぶりの我が家だね~」

 正月からの4連休を過ごしたヴィヴィオとなのは、フェイトはミッドチルダの自宅に戻ってきた。
 今頃アリシアやはやて達も同じ様に家に着いた頃だろう…。 

「なのはママ、フェイトママ…ちょっといい?」

 リビングで一息ついていた2人に話しかけた。
 
 先日行っていたエルトリアで考えていた事があった。
 戻って来てからの休日中も色々考えて色々調べていたこと。その話を聞いて


 
「それは…」
「多分…ううん、クロノ君は悩んじゃうね。」
「でも…ママもヴィヴィオが言う通りその方がいいと思う。ヴィヴィオが思ったようにすればいいよ。ママ達はヴィヴィオを信じてるから。」
「ヴィヴィオ、急いで帰って来なくても大丈夫だから…ヴィヴィオの考えをみんなにきちんと話して見てきて」
「わかった。行ってきます。」

 2人に促されて悠久の書を開き私は時間軸を飛んだ。 
  


「っと、着いた?」

 着いたのは海鳴市にあるハラオウン家。
 日はもう落ちて暗くなっている。前は真夏で凄く暑かったけれど今は寒い…半年位後をイメージして飛んだから当たり前なんだけど…。
 チャイムを鳴らすと「ハ~イ♪」と声が聞こえてフェイトが顔を見せた。

「こんばんは、フェイト。」
「! ヴィヴィオっ!」

 彼女は声をあげて驚いた。

 
「君は本当に突然来るんだな。…言っても事前に聞くことも出来ないし仕方ないが…」
「それで、今日は何かしら?」

 クロノとエイミィも既に帰宅していて、リンディもフェイトと一緒に夕食を作りながら聞いている。

「クロノさん…ううん、みんなに相談…お願いがあって来ました。もうあの事件の裁判は終わった頃だと思うんですが…」
「少し残っているがもう殆ど終わった。イリスもエルトリアに帰ったぞ。彼女に会いたいならエルトリアに行った方がいい。」
「ううん…今日来たのは違うお願いです。フィル・マクスウェルと沢山居たイリス全員を拘置所から出して貰えないでしょうか?」
「「「「!?」」」」
「ブッ、ゲホゴホッ! な、何をっ!?」

 エイミィから受け取った湯飲みでお茶を飲んでいたクロノは思いっきり吹き出した。
 聞いていたリンディはお玉を落とし、エイミィもお盆を落とす、フェイトとアルフも何を言っているのかという風にぽかんと口をあけている。 

「フィルさんとイリス全員を出して貰えないかってお願いに来ました。」

 確認する意味を込めてもう1度言う。

「君は何を考えているんだ、無理に決まっている。彼らは幾つもの犯罪を犯しているんだぞ。」
「クロノ、先にヴィヴィオさんの話を聞きましょう。ヴィヴィオさん、大変なお話なのはわかったわ。先にみんなでご飯を食べましょう。折角作ったのに冷めたら美味しくないでしょう? アルフお皿並べるの手伝って。」

 そう行ってみんなの食器を並べて料理を運びだした。


 食事後、食後のお茶を貰ってからヴィヴィオは再び話した。

「今日来たのはフィルさんとイリス全員を釈放して貰えないかってお願いです。ダメなら…管理世界…管理外世界からも永久追放には出来ませんか? エルトリアから出ちゃダメとか…」

 3度目となるとようやく驚かれなくなった。

「ヴィヴィオさん、どうして今になって彼やイリス達を庇うのかしら?」
「私は…フィルさんやイリス達を助けたいからじゃないです。イリス、エルトリアに帰った彼女とフィル・マクスウェルとの関係とエルトリアの未来を考えてそうした方が良いと思ったからです。」

 そう言って半年前に行ったエルトリアの状況とかつて事件が起きた元惑星再生委員会のあった跡地の事を話した。



~それは時間を少し遡ってヴィヴィオ達がエルトリアにやってきた数日後のこと~

 アミタと一緒に魔力コアの欠片を散布していた時、岩山の麓に何かの人工物を見つけた。

「何だろう? アミタさん、これって何かの遺跡ですか? そんなに古くないみたいなんですけど」

 近くに飛んでいたアミタに声をかける。

「ここは…惑星再生委員会の研究施設跡です。」
「…ここがそうなんだ」

 ユーリの紙片に残されていた映像。
 建物の屋根は崩れ落ち塔らしきものは倒れ、その上に大量の砂が被さっている。

「私も何度か来ました。随分前にシステムは止まっています…残っている建物の中を見ますか?」
「…はい、お願いします。」

 どうしてか判らないけれど何となく気になったヴィヴィオは頷いた。 


 屋根が落ちずに残っていた建物は分厚い扉によって閉められていた。
 入ると中は真っ暗で古い本を開いた時に匂う空気が漂っている。長い間空気が動かず篭もっていたのだろう。

「亡くなった研究員は当時の関係者に葬られたそうです。当時を知ってる人は殆どコロニーに避難してしまいました。ここの扉も、せめてここだけでも残しておこうと昔父さん達が作ったそうです。」
「…RHd、おねがい」

 ヴィヴィオはそう言うと虹色の光球を2つ作り出して近くに浮かべ、その光を頼りに中へと足を進めた。
 銃の弾痕や爆発と思われる跡があちこちにある。
 薄暗い中でもわかるくらいだから当時は本当に酷い惨状だったのだろう…。小動物の鳴き声が時々聞こえ影が見える。襲ってきたりはしないだろうけれど…一応警戒する。
 前を歩くアミタも小銃型のデバイスを持っている。  

「ここから1階に降りられます。2階建てだったんですが、1階は砂で埋もれてしまっていて…降りますか?」
「はい、何か…呼んでる気がするんです。」

 入ってからヴィヴィオは何かに呼ばれている感じがするのだ。
 その何かが気になっていた。

「…わかりました。」

 アミタは頷くと先に階段を降り始めた。
 1階から壁伝いに奥へと歩いていく。その途中にある扉の前で立ち止まった。

「……ここから…呼んでる」
「ここは…所長室ですね。ヴィヴィオさんはどうしてここが?」

 持っていたライトで近くにあったプレートを照らし見てアミタは驚く。
 小さく頭を振って答える。
 ヴィヴィオ自身どうしてかと聞かれてもわからない。呼ばれた感じがして来たのがここだったのだ。     
 アミタは力まかせに扉を横に動かすと何とか手を入れられる隙間を作り何かを放り込んだ。
 そして端末を動かして何かを見た後

「入っても大丈夫そうです。」

 更に扉を開いて隙間を広げて中に入った。

「…ここが所長室…フィル・マクスウェルの部屋…」

 ヴィヴィオはもう1つ光球を作って周りを動かす。幾つかの機材の横に檻の様な物が転がっていた。
 映像で見た場所だ…直感でわかった。

「あの映像はここだったんですね。」

 ユーリがフィルを殺した部屋がここだった

「ここのシステムも随分前に止まっていますね。」

 アミタが机に近づいて端末を叩くが全く反応を示さない。ヴィヴィオは周囲を見回しアミタの居るテーブルから右奥の壁へと向かう。

「こっちから…」

 辺りを漂わせていた光球3つを呼び戻して光を集める。

「ここに何か?」

 壁を調べていると少し下に何かが彫られているのに気づいた。       

「…In e…e W…t v…ler …ün 擦れていて読めないけどこれベルカ語です。」
「ええっ!」

 アミタがライトを向けると明るくなって擦れている部分が読めた。

「In eine Welt voller Grün …緑あふれる世界へ…? ユーリの落書き?」

 当時ここでベルカ語を知っているとしたら彼女しか居ない。書かれた高さ的にも彼女だろうか?そう思っていると

【カコン】

 何かが外れる音がした。
 音のした方を見ると壁の隅に小さな窪みが出来ていた。アミタが窪みの近くを押すと壁が奥の方へと動いた。   

「これ…隠し扉です。どうしてここに? ヴィヴィオさんの言葉が鍵だったのでしょうか?」

 再び中に何かを投げ入れてから端末を操作し「大丈夫です」と言って中に入る。そこは地下に繋がる階段になっていた。   
 5階位降りたところで再びドアがあって、アミタが中を確かめ入る。

「子供部屋…ではないですね。ユーリのプライベートルーム…でしょうか…彼女なら知っているかも知れませんから呼んで来て貰いましょうか?」

 アミタが子供部屋と思ったのは入った所に擦れているがかわいい動物らしき絵が描かれていたからだ。
 しかしヴィヴィオが光球を入れた次の瞬間、目を見開き声が裏返った。

「!?…あ、アミタさんっ!」

 見えたものの先を指さす。それは隅にベッドらしきものと…
 アミタも私の視線を追いかけていってそれを見て…
   
「ヒッ!?」

 彼女も小さな悲鳴をあげた。
 光に照らされた場所、ベッドの上に白骨が転がっていたのだ。

~コメント~
 なのはシリーズを通して事件の犯人になる人は居ても快楽や自己満足の為に罪を犯した人はほぼ居ません。
 ヴィヴィオはイリスやフィルについても何か原因があったのでは?と考えていきます。彼女自身、フィルや群体イリスと殆ど関わっていないので客観的に見た時に何が1番良いのかを考えます。
 以前、第6章のタイトルが「刻の護り人」だったのを変えたのは本話が予想以上に長くなったからです。
 エルトリアの施設跡についてはコメンタリーを聞いて浮かんだ疑問から生まれました。
 いよいよ次回は…

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