第42話「希望」(最終話)

「…白衣の様にも見えますが…ここに避難して隠れて出られなくなった当時の研究スタッフでしょうか…」

 人骨を見るのに慣れているのかアミタは近づいて見る。だがヴィヴィオは本や資料でしか見たことがなく、怖くて彼女の背にすら近づけなかった。
 あえて目を逸らそうと部屋の反対側の隅にあった机を見つける。
 そこで呼ばれた意味が判った。

「これ…夜天の書のページだ…」 

 ベルカ文字で書かれた紙片、千切れた風にも見えないからまるまるの1ページらしい。微弱に放たれる魔力を感じ取った。
 何て書いてあるのか読もうと紙片を手に取ると、机の上にウィンドウが現れた。
「アミタさん」
「…まだ生きていたシステムがあったんですね。」

 ウィンドウは少しノイズが混じりながらも映像を映し始める。

『誰がこの部屋を見つけたのかはわからないが、驚かせてしまった事を詫びよう。』

 椅子に座って映っているのはフィル・マクスウェルだった。

『これはこれから私の子供達が起こす惨劇について、彼女達も被害者であるということを伝えるものだ。その前に…私の子供達…イリスとユーリが居るならお願いだ、彼女達には見せないで欲しい。』
『…………私の前から彼女達が居なくなったと考え続きを話そう。』

 映像の中のフィルが話した内容はヴィヴィオは勿論アミタにとっても酷く衝撃的な内容だった。


 当時、コロニーを作って移民する計画を立てていた政府は、惑星再生委員会の活動を無駄と考え予算を削減し続けていた。しかし裏では軍事企業と組んでイリスに関する技術供与を求めていた。
 原材料があれば無尽蔵に作り出せるイリス。
 兵器として周囲の世界を侵略するにはうってつけの存在でヴァリアントシステムを使いこなすその力は企業としても無視出来なかった。
 政府は軍事企業だけでなく他の企業も取り込もうとしており、その中には彼女の容姿から趣味や愛玩物としても使おうと考えていた企業もあったらしい。
 イリスのシステムを使うと原材料さえあれば無尽蔵にイリスを生み出せる。兵器や労働力として喉から手が出る程欲しい技術。
 でも彼女には自我がある。フィル達の愛情を受けて育まれた心を持っている。
 今まで人と暮らす事で生まれた心をそんな風に使わせたら、心は壊れ彼女が暴走するのは容易に予想出来た。暴走すれば他のイリスによって壊され新たなイリスが作られるそしてそのイリスも心が壊れて暴走し…。
 フィルはそんな悪夢の様な世界に彼女を残したくなかった。
 だから技術供与を前向きにするように動きながら政府から予算を得て、基幹部分になるものは秘匿していた。
 
 だがある日、そんな彼の行動に痺れを切らしたのか政府は惑星再生委員会に対しての予算を打ち切った。
 これ以上の活動を続けるのであれば予算は別の所から受けるしかないという最後通知だった。
 彼は悩んだ。その結果、イリスを残すことが出来る数少ない…最悪の方法を考えだした。
 それはフィル自身がイリスのプログラムの1部となって彼女を守り心が壊れない様に守ること。 彼はイリスのシステムを使って彼自身のコピーを作り、コピーに自身の知識と目的を託した。
 そして全ての託し終えた後、コピーに自身を殺す様に命令した。
 事件での最初の犠牲者はフィル・マクスウェル本人だったのだ。
 フィルのコピーは『イリスを守る』という与えられた最優先プログラムに従った。
 
 そして惨劇の幕が開く。
 彼が与えたプログラムにはイリスは守ってもそれ以外の者を守ることは含まれていなかった。
 政府や軍事企業がイリスを奪いに来る前に、群体イリスに命令を出して委員会のスタッフ全員殺害した。1人でも生き残った者が居ればその者からイリスの生成方法が洩れてしまうからだ。
 イリスを守る=イリスの技術を守る為には避けて通れなかった。
 全員が死亡した後でコピーは次の命令を出した。
 メインのイリスを除いた群体イリス全員を自爆させた。
 これにも理由があった、群体イリスの欠片を集めて技術を読み取ろうとする者がいる可能性を考えたのだ。
 群体イリスが全員自爆したのを見届けた後、ユーリに殺意を抱かせコピー自身を殺させた。イリスの技術を持っている者の中にコピー自身も含まれていた。
 そして戻って来たイリスがコピーの骸を抱き寄せた時、フィルの人格システムはイリスの中へと移り彼女の心を守る為に動き始めた。
 それらの計画を進める為に、予めイリスにはユーリの言葉は信じないという簡単な思考変更プログラムを入れて施設から遠ざけ、彼女が戻る前にユーリにも行動制御プログラムを入れる予定だった。

 ユーリが洗脳されたままであっても、イリスが到着した時点でユーリに自身を殺させ骸となる予定だった。
 残されたユーリに組み入れたプログラムは【イリスを護り、彼女と共に別世界へ転移すること】。
 全てが終わればエルトリアからイリスは失われるがイリスそのものは守られる。 
 これがフィルの立てた計画だった。

『これでわかっただろう? 本当の悪の正体が。』
『文句の1つも言いたいだろうが残念ながら私はもう聞くことができない。何故なら1時間後、私のコピーが私を殺し、フィル・マクスウェルとして惨劇を始める。コピーの私も計画途中で死ぬ予定だ。』
『私の子供達に罪はない。全てを計画したのは私だからだ。』
『もしこの映像を研究スタッフの関係者が見て怒りに震えているなら申し訳ないことをしたと謝ろう。それでも気が済まないならその辺に転がっているであろう私の骸を自由にしてくれ。』
『だが…その後は私の子達には真実を伝えないで欲しい。全ては彼女達の心を守る為に行った私の我が儘だ、彼女達に罪はない。…最後に、つまらない長話に付き合ってくれた礼を言う。ありがとう。』

 ウィンドウ向こうのフィルがそう言うとウィンドウは消えた。 



「…そんなことがあったなんて…」

 震えるアミタの横でヴィヴィオには何故かすんなりと彼の言葉が入ってきた。
 フィルと戦った時から感じていた違和感、それは彼がイリスと同じ技術で作られていたと知って理解出来た。しかしそれだと彼は最初からテラフォーミングユニットだったのかという疑問が浮かぶ。
 いつ何処で入れ替わったのか?
 そしてここまでの事件を起こしてその中でバックアップまで用意する周到さをもつ彼がアクシデントがあったとはいえただユーリに殺されたというのは納得がいかなかった。
 けれど先に彼はコピーを作りコピーによって殺され、私達が見た映像での彼はコピーでユーリに殺された。その過程でイリスの中にシステムとして入ったとすれば納得がいく。
 そして今の話が本当だったら…
 フィル・マクスウェルは自身と惑星再生委員会全員を犠牲にした…イリスとユーリ、彼の言う彼の子達を守る為に…。
 
 

 ヴィヴィオから事件の真相を聞いて全員が愕然とする。   

「馬鹿な、そんな話は…」

 クロノが何かを言う前に続ける。

「私達も偶然見つけて知りました。映像でフィルさんが言っていただけで証拠もありません。ユーリやイリスが聞くと悲しむからこれは私とアミタさんしか知りません。生きていたシステムもアミタさんがデータを消した後に止めて私が部屋ごと壊しました。残っていた遺体も2人で研究スタッフが眠っている場所に埋葬しました。」

 更に続ける。

「さっきも言いましたが、私が全員をエルトリアに戻したいのは未来のエルトリアの為です。委員会が残してくれたデータとグランツさん、エレノアさんの研究データを使って私達はエルトリアの死触を消して緑を戻しました。でもこれは病気で弱った体に強い薬を使ったのと同じです。本当に大変なのはこれからです。」
「これから?」
「自然や水…快適な環境が戻ればコロニーに行った人はいつかエルトリアに戻って来ます。その後でまた自然を壊そうとするでしょう。その時…グランツさん達、イリスやユーリ、シュテル達だけでは守るのには限界があります。それに…10年後くらいならいいけど30年、50年…100年後を考えたら、イリスとユーリ…シュテル、レヴィ、ディアーチェは居るかも知れませんがグランツさんやアミタさん達は居ません。そしてその時にイリスを捕まえられて研究されたら…」
 
 今度の事件は少し前に起きたラプターを巡って特務6課・管理局と戦った時と似ていると思っていた。
 あの時はラプターが人とデバイスの関係を壊すと思って止める為に管理世界の多くの人に呼びかけた。
 でも今度は目的が違う。自然が戻ったエルトリアをずっと守っていけるのはイリスとユーリ達だけ…。それでは再び壊されそうになっても守れない。
 もし政府や軍事企業の関係者の中にイリスを知っている人が居れば彼女を連れ去ってしまうかも知れない。その時、もしイリスがまた暴走してももう夜天の書を持たないユーリには止められないし、逆にユーリを囮にしてイリスを連れ出すかも知れない。
 どちらにしても彼女達だけでは危険過ぎる。 
 そこで彼女達とずっと一緒に居られて想いが同じで交渉が出来る人としてフィル・マクスウェルと多くのイリスを思い出した。
 しかし彼は逮捕されている。
 彼とイリス達をエルトリアに連れて行くにはまずこの世界の管理局、リンディやクロノ達と話し合って了承を取り付けなければならなかった。
 
「…環境の監視者…調整者としてフィル・マクスウェルと量産イリスが必要なのね。」
「彼とイリス達はイリスと同じ技術で動いているので年を取りません。それにフィルさんは別人でも政府と交渉していたから大人同士で話し合う時は居た方が良いです。」

 そこまで言うとクロノとリンディ、エイミィは顔を見合わせる。
 みんなの考えは揺れ動いている
 そう感じたヴィヴィオはもうひと押しする為に自身の首にかけているペンダントを取り外してテーブルに置いた。

「…フェイトがいるから言おうか迷ったんだけど、なのはや…みんなには絶対言わないで下さい。じゃないとみんなの未来も変わっちゃうので…これは私のデバイス、レイジングハートセカンドです。 私はRHdって呼んでます。」
「レイジングハート…セカンド? レイジングハートの2号機ということか」
「これを最初に作ってくれたのは、私の家族、高町なのはとフェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。」
「ヴィヴィオは私となのはの子供…」
「でも、私は何度も無茶しちゃって壊しちゃって…それで色々改良してもらって…今のRHdを直してくれた1人がアリシアのお母さん、プレシア・テスタロッサです。」
「プレシア…母さん、じゃあアリシアは…」

 フェイトが身を乗り出して驚いている。

「そうだよ、アリシアはフェイトのオリジナル。」
「馬鹿な…プレシア・テスタロッサは2年前に…そうか…君が」
「はい、未来の私がアリシアとプレシアを助けて私の所に連れてきました。アリシア、フェイトになるべく会わないようにしてたでしょ。なるべくフェイトやなのは…みんなの未来を変えないようにアミタさん達とエルトリアに行くまで会わないようにしようって思ってたから。アリシアもいっぱい話したいことがあったのに我慢してたんだ。判ってあげてね。」

 そう言うとペンダントを再び身につける。

「私とアリシアのデバイスには未来のプレシアさんが作ったある魔導技術が入っています。」
「コア…システムのこと?」

 フェイトが知っていて少し驚くが、彼女はアリシアのバルディッシュを使っていたのを思い出す。その時に見たのだろう。

「そうだよ。コアシステム…魔力コアって私達は呼んでる魔導技術です。これはカートリッジシステムと違って魔力資質が無くても魔法が使える様になるので今までの魔法文化を大きく変える位凄い技術だと言われています。」
「彼女が居なくなったここではもう…その技術は生まれません。プレシアさんが作った魔力コアの基はリンカーコアが弱くて魔法が使えないアリシアを守る為に作った物だから…。」

 クロノやリンディに言ってもこれはもう戻せない事実。
 未来に居るかも知れない私が時空転移能力に目覚めない限りこの世界に生まれることはない技術。
 だけど今度の事件で他の私が来なかったところから考えると、未来に居るであろう私は能力に目覚めず別の未来に進んでいるのだろう。

「彼らがここで事件を起こして迷惑をかけたのは本当だし悪いことだって言うのもわかっています。勿論管理局が逮捕したのも当然だと思ってます。」
「でも…みんながエルトリアに行けばエルトリアの未来は今より良くなります。私はここの未来もだけど、エルトリアも良い未来に進んで欲しいんです。」
「ヴィヴィオ、君の考えは理解しただがそれはあくまで君の希望だろう? 僕達だけじゃなくて1人1人皆がそれぞれの未来に希望を持っているし変えたい過去なんて幾らでもある。それを自分の考えで変えるのは自己満足じゃないのか?」
「母さんや僕、フェイトやアルフ…なのはやはやて…多分君が知っている僕達の過去、君の話を聞いてあの時に戻って変えられるなら変えたいと思う気持ちはある。でもそれが出来ないから僕達は前に進んでいる。」
「君の魔法はそう言った弱い心を揺さぶってしまうものなんじゃないのか?」

 クロノの言葉が胸に突き刺さる。
 彼を含むその場の全員が私を見ている。

「『誰にでも変えたい過去はある、でもその魔法を…時空転移を使うのは私だから、私にはその責任がある。』昔プレシアさんにも同じ様な事を言われました。私は神様じゃないから全員の希望を聞いて未来を変える事なんて出来ません。だけど家族や友達…身近な人が不幸にならない未来を作る事は出来るし、間違って悪い未来に進みそうだったら変えられる、そういう力だって思っています。」
「過去を振り返るんじゃなくてなるべく良い未来にしたい。私はその為にこの魔法を使うと決めています。それを自己満足と言われるなら…そうです、私の我が儘です、自己満足です。」
「…………」

 全員が黙って沈黙の時間が流れる。

「…君の考えと意思は理解した。エルトリアの将来を考えれば僕も君の言う通りだとも思う。だが管理局としては法を犯した彼らの処遇は法で…」
「クロノ、止めましょう。」

 クロノが言いかけたのをリンディが止めた。

「エルトリアへの永久追放…その線で進めてみましょう。私が関係者と調整します。」
「母さ…次長っ!」
「ヴィヴィオさんはきっと今までの多くの世界・時間を見てきたのでしょう。その中には辛い経験もあった筈…彼女は管理世界の法を知っていてそれでもこの方法が良いと考えて私達に相談にしきてくれた。その上でヴィヴィオさんの考えをヴィヴィオさんの言葉で聞かせて貰った。十分よ。」
「しかしっ!」
「もし私達が拒否すれば、ヴィヴィオさんは強硬手段に出るでしょう。今現在、過去に戻って全員を軌道拘置所から出してしまうこともできるのよね? そうなれば私達には止められないわね。」

 ニコッと笑って言うリンディにクロノ、エイミィ、フェイト、アルフは気づいて私を見る。
 時間と場所を自由に行き来出来る者を止めることは出来ない。アリシアが言っていたのを思い出したのだろう。

「……」

 私はそれを沈黙で答えた。どうしても納得して貰えない時にそれをする考えはあった。
 でも…それは本当に最終手段、
 ここのみんなは当然として、ここの私に迷惑をかけてしまうし、何よりここと違う時間軸を作ってしまうから…。

「でも手続きを含めて1週間、1ヶ月では準備できないわ。そうね…半年後にもう1度来て貰えるかしら?」
「ありがとうございます、じゃあ半年後にまた来ます。」

 そう言って立ち上がりペコリと頭を下げると、私はそのまま半年後に飛んだ。


「本当に…」
「消えちゃった…」

 フェイトとエイミィが驚きながら呟く。

「しかし…どうするんですか? あんな約束をしてしまって…」
「何とかなるわよ。そうね~翠屋の特製サンドイッチとコーヒーセット…位は付けなきゃいけないかしらね。」

 それで済むのかと思いながらも彼女が何かしらの方法を考えていてその方法を聞くのが怖かったクロノはそれ以上聞かないことにした。


「っと、暑っ! ここで合ってる?」

 着いた世界はさっきとは違って暑かった。日は傾いて夕方近いのに強い日射しと熱風が吹いてくる。
 私は袖を巻き上げてハラオウン家の前に行くと誰も居なかった。夕方なのに部屋の明かりは消えている。
 代わりにドアに紙が貼ってあった。

「私宛だ…臨海公園に24:00」

 予定の時間までかなりあるので再び飛んだ。


                       
 深夜、臨海公園の入り口に下りるとフェイトとなのは、はやてが待っていた。
 3人とも少し背が伸びていて、なのはは普段見る片側おさげに、フェイトは髪を下ろしている。
 私が来るのを待っていてくれたらしい。 

「わ~っ! ヴィヴィオちゃん♪」
「久しぶりや。…あんまり変わらんね。背伸びるの止まった?」
「違うよっ! ちょっと前に事件が終わった時間から来たの」
「クスッ、母さんやクロノ達が待ってる。行こう」
     
 臨海公園は全体が結界に包まれていた。
 中に居たのはリンディとクロノ、エイミィだけでなく10人以上の管理局員と

「君は…」

 フィル・マクスウェルと局員より多いイリスだった。全員が両手を手錠の様な機械で拘束されている。

(うわ…こ…こんなに居たんだ…)

 見る限り50人以上居るだろうか…驚くがそれ以上何も言わない。

「彼女が案内人です。ヴィヴィオ、君にこれを渡しておく。向こうに着いたらこれで全員の拘束を外してくれ。」

 クロノからカード状のデバイスを渡され受け取る。
 デバイスをRHdに入れてからフィルに向き直る

「フィル・マクスウェル、何の代償もなく無限に生み出されるユニット…兵器として使うこと、他の世界に迷惑をかけたの…侵略する以外にも理由があったんじゃないですか?…イリスに生きる目的を持たせた…とか」

 もし惨劇の結果…ユーリとイリスの立場が逆だったら? 惑星再生委員会は無くなり、ユーリは消え、テラフォーミングユニットが1人になっていたらどうしただろうか…。

「…正しかったとは思っていない。彼女を守る為に…未来を作ってあげたかった。ここに迷惑をかけたというのはわかっている。」
「もし…エルトリアに緑が戻っていたら…どうしますか?」
「私はフィルとしてイリスと生きていく。それはこれからどれだけ時間が経っても変わらない…彼女達も同じだよ。」
 
 彼には罪がある。
 イリスが家族のように慕っていた研究者を殺めたこと
 結果としてイリスを軍事兵器として使ったこと
 イリスに対し嘘の情報を与えてユーリへの復讐を促したこと
 管理外世界にオーバーテクノロジーを用い占領しようとしたこと
それらは決して許されることじゃない。

 でも…彼が導いた惑星再生委員会が死触やエルトリアの環境情報、研究結果を残していなかったらいくら大人アリシア達でも直ぐに対策を用意出来なかっただろう。
 そして彼の複製母体がその計画を作らなければこの世界に繋がらなかった。
 イリスを助ける為にユーリが夜天の書の中で眠り、彼女を追いかけてイリスとキリエがここを見つけて2人を追いかけてアミタが来て、私とアリシアは彼女とぶつかりここに来て繋がった。
 彼らが気の遠くなる様な調査・研究によって得た多くデータ、彼が命を賭して計画したから細い糸は切れずに新しい可能性が生まれた。

「ではこれより刑を執行する。フィル・マクスウェルとイリスは次元法違反としてエルトリアへの永久追放処分とする。」
「リンディさん、クロノさん、エイミィさん、皆さんも本当にありがとうございました。なのは、フェイト、はやて…またね。RHd」

 そう言うと騎士甲冑を纏ってフィルとイリス全員を鎧で包む。そして次に生まれた虹の光に呑み込ませた。
 

     
「っと…着いた。わぁ~すごい…もうこんなに変わっちゃったんだ。」

 小高い丘の上に降りたヴィヴィオは周りを見渡し余りの変わりように驚く。それは私達が去って1年後の世界。
 辺りは多くの木々や草花が生えていて湖の近くに鳥や動物らしき影もある。

「ここは…本当にエルトリアなのか?」

 フィルが驚きイリス達も周りを見ている。忘れないうちにとカードを取り出して起動し全員の拘束を外した。

「ヴィヴィオ~っ!!」

 そこへ遠くから…車に乗ってイリスとユーリ、アミタとディアーチェがやって来て降りた。
 ユーリがディアーチェの影に隠れる。

「ヴィヴィオさん達のおかげでエルトリアの緑はここまで戻りました。死触は消え、サンドワームを含む危険な動物も数が減って小さくなり無害になっています。」
「君達が…エルトリアを?」 

 ヴィヴィオはフィルに言う。

「私の友達が言ってたんです。青い空と綺麗な水と美味しい空気はとても大切なもの、小さなきっかけで無くなってしまうものだって。」
「自然が戻ったエルトリアを壊すのは誰にでも出来る。緑を残しながらエルトリアを豊かにするのは本当に難しいしどれだけ時間がかかるかわからない。」
「でも…だから亡くなった惑星再生委員会の人の分まで大切にここを守り続けること。それがフィルさん…あなたの償いです。」
「…君は…まさか…あれを?」

 彼の問いかけに静かに頷いてニコッと笑う。 

「……きっと…軌道拘置所に居た方が楽だったって思う時が来る筈です。それでも…諦めないで下さい。」
「約束しよう。みんなの為にも何があっても諦めないと」

 初めて見る晴れやかな笑顔でフィルは答えた。 

 フィルと初めて遭遇しシュテル達を守りながら戦った時、彼は「最後に笑っていればいいのさ」と言っていた。
 アリシアはそれを聞いていたから彼がブラストカラミティの直撃で四肢を飛ばされ動けなくなった時に
「最後に笑うのは私達だから」
 と皮肉を込めて言い返した。

 けれど私はそうじゃないと思っている。

「最後に笑うんじゃなくて、みんなでずっと笑えばいい。」
 
 それが聖王や高町という名前じゃなくて高町ヴィヴィオとしての願いだから。



 世界は必然が積み重なってできている。

 いくら偶然と思えようと何か理由があるからそこにある。

 必然が連なっているからこそ世界は成り立っている。

 必然が絡み合い紡がれて時は刻まれていく。

 あなたが選んだ必然、それが未来への可能性となるのだから。


~魔法少女リリカルなのはAffectStory2~刻の護り人 終~



~コメント~
 TrueEndよりみんなが笑うHappyEndへ
 ヴィヴィオが望む未来、それはみんなが笑っていられる世界です。
 その為にヴィヴィオ達はブレイブデュエルの世界では新しい可能性を見つけ、異世界ではラプターを無くす代わりに魔力コアの技術を伝えます。
 今度の事件でもエルトリアだけでなくなのは達の未来も変えてしまいました。
 あの時こうすれば…という後悔ではなく、これからどうしたいのかを考えてその目的に向かって進む気持ち。それが呪いから贈り物へと変えた力だったのではないでしょうか。

 以前の「AffectStory~刻の移り人~」と本作「AffectStory2~刻の護り人~」は事件の様相等の共通点がいくつかあります。また主題やタイトルにも関連性を持たせています。
『移り人』のことがオリヴィエを指し、最終話タイトルが『願い』なのに対して
『護り人』はヴィヴィオで最終話タイトルが『希望』(オリヴィエの願いに対するヴィヴィオなりの答え)なのもその1つです。
  
 
 さて、話は少し変わりますが、コミックマーケット97についてです。
 新刊としてAffectStory2~刻の護り人~ 下巻を頒布予定しています。
 今回話の流れで書けなかった番外編を含めて上巻より厚めになっていますのでお楽しみに。

 今後の予定ですが、年内の更新は今回でおしまいです。
(職場でインフルが蔓延しだしたので…すみません。皆さまもお気をつけください。)
 2020年からは11月のリリカルマジカルで頒布したアリシアSSを短編集として編集したものをした後に新シリーズを予定しています。
 
 
 

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