第01話「それぞれの世界で」

「いらっしゃいませ、…あなたでしたか」

 カランカランとドアベルの音がなって少女が笑顔で振り返る。だが鳴らした者の姿を見た後元の表情に戻ってしまった。

「えーっ、折角来たのになんだよ~っ」
「では…ありがとうございました。またお越し下さい。」

 再び営業スマイルでお辞儀をする彼女に

「いきなり追い出すのっ!? なのは~シュテルんが虐める~」
 その声を聞いてなのははヒョイと厨房から顔を出す。

「いらっしゃい、レヴィちゃん。シュテルだめだよ~仲良くしなきゃ」
「ええ判ってます。冗談ですから♪」
「冗談なのっ!?」
「2割程」
「…もう、王様に言いつけちゃうぞ!」
「どうぞ」
「……なのは~…」
「はいはい、ちょっと待ってね~っと」 


 ここは第97管理外世界の地球、日本の海鳴市にある喫茶翠屋の中。3ヶ月位前に起きた闇の書事件と闇の欠片事件。
 この2つの事件に関わった私には新たな家族と友達が出来た。闇の書事件では八神はやてちゃんとその家族、リインフォースさん、シグナムさん・ヴィータちゃん・シャマルさんにザフィーラさん。
 そして闇の欠片事件では闇の書のマテリアルの1人、星光の殲滅者ことシュテルが新たな高町家の1員となった。

「おまたせー、お母さんのシュークリーム。新作だよ、フェイトちゃんももうすぐ来るから4人で食べよ♪」
「はーい♪」

 少し前は涙目になっていてその後怒って今はもう笑っている。そんな彼女が居るとその場が明るくなる。

 闇の書の復活させようとしたマテリアル達。でもその計画は1人の少女によって崩された。そしてその少女は闇の書のマテリアルと言う戒めから彼女達を解放した。
 マテリアルは魔力が無ければすぐに消えてしまう。そこで私達は彼女達と契約しこの世界に残って貰う代わりに私達の魔力を共有する事にした。私はシュテルとフェイトちゃんはレヴィちゃんと、はやてちゃんはディアーチェちゃんと。

 契約直後はこっちの世界に慣れていなくて少しトラブルもあったけれど、今は帰国子女として翠屋を手伝いしてくれて少し無愛想だけど笑うと可愛いとちょっとした人気者だ。

 シュークリームとジュースが乗ったトレイをテーブルに持って行くとレヴィが後ろから嬉しそうについてくる。

「いっただきま~す♪」

 早速シュークリームを手に取ろうとしたレヴィにシュテルがパシッと手を叩いた。

「あぅ…」
「フェイトが来るまでの辛抱です」
「…うん…わかった」

 シュテルとレヴィの様子を見ていて微笑む。

(仲良しな所は私とフェイトちゃんと同じだね。)

 そんな事を考えていると再びドアベルカランカランとが鳴って振り返る。

「いらっしゃいませ~、フェイトちゃん♪」
「ごめん、遅くなっちゃった」
「フェイト遅い~っ。もう食べていいよね?」
「ええ、仕方ありませんね。檄辛です」
「辛いの!?」
「冗談です♪ パクッ、とても美味しいです。」
「あーっ僕が狙ってたのに、シュテルんーっ!!」 
「本当、仲良しだ♪」
「そうだね」

 フェイトと一緒に2人のやりとりを眺め頬が緩む。



その頃、八神家では

「そうだ、そのまま右足を上げて前に…」
「ハァッハァッハアッ…ンッ!」

 手すりを持ったはやてが右足に意識を集中させている。だが、右足に意識を集中させすぎた為か左足から力が抜けてしまいバランスを崩す。

「はやてっ!」
「っと、セーフ」
「ありがとな…ヴィータ、ディアーチェも。もう1回最初からいくな」

 ヴィータとディアーチェが支えてくれて倒れずにすんだ。
 闇の書によってはやてのリンカーコアと身体は蝕まれていた。しかし闇の書が消えた今はそれらも回復の兆しを見せ今は車椅子を使わず歩く練習をしている。
 額を流れる汗を見つめながらディアーチェとヴィータは手を離し彼女の様子を見守る。歩いた先には聖祥小学校の制服が掛かっている。

【みんなと一緒に歩いて学校行きたい】

 はやての想いを知っているから。

「よし、右足を上げて、左足の力を抜くなっ」

 ここでは3ヶ月前の事件が嘘の様に平和な時が過ぎていた。



そして

「ヴィヴィオ、都市本戦出場おめでとう。また明日から頑張ろうね」
「ありがとう、なのはママ、フェイトママ」

 ミッドチルダにある高町家では家族3人でささやかなお祝いが行われていた。
 チームナカジマの全員が地区予選を勝ち抜いて都市本戦へと進んだ。ここから先は強い人がいっぱい居る。だからもっと頑張らなくちゃ。自然と手に力が入る。

「ねぇなのはママ、フェイトママ、もしあっちのヴィヴィオが出ていたら都市本戦に出場してたかな?」

 少し前にやってきた別の世界のヴィヴィオを思い出す。
 なのはとフェイトは顔を見合わして

「う~んどうかな? ヴィヴィオが魔法を使って出ていたら出場してるだろうし、みんな凄く驚いたと思うけど、出てもストライクアーツメインだったから本戦出場は難しかったんじゃないかな」 
「どうして?」
「あっちのヴィヴィオ、ストライクアーツはこっちに来て始めたばかりだったよね。魔法使えば勝てる機会でも使わないって思うんだ。相手が怪我しちゃうからって」
「姉さん…アリシアが『闇の書を1撃で倒した』って言ってたよね。闇の書ってママ達がヴィヴィオ位の頃、ママ達とはやて、クロノやアルフ、ユーノ、シグナム、ヴィータ、シャマルさん、ザフィーラ…みんなで一緒になって倒したんだ。誰か1人居なかったら負けちゃってた位ギリギリで…」
「え…そんなのを1人で…」

 フェイトの言葉に固まる。模擬戦で勝ったけどそんなに凄いのかと驚く。

「フェイトちゃん、ヴィヴィオが弱気になっちゃってる。ヴィヴィオ、あっちのヴィヴィオはエリオとキャロと同じなんだよ。2人とも資格あるけど出ないよね?」

 練習には付き合ってくれたけれど2人とも参加しなかった。一緒に出ようと言ったけれど2人ともいいよと参加しなかった。

「ヴィヴィオやアインハルト、リオもコロナは色んな人と競って強くなりたいって思ってるよね。でもエリオとキャロは守る為に強くなりたいって思ってるの。」
「?????」
「う~ん…ヴィヴィオにはまだ難しかった。」
「え~っ、わかるも~ん!」
「じゃあママに教えてくれるかな?」
「…ママのいじわる…」

 ぷぅ~っと頬を膨らませる。でも…

(ヴィヴィオはあの時のママと同じなんだ…ゆりかごで私を助けてくれた時と…)

 何となくわかる気がした。小さい頃の自身を思い出し彼女の事を想う。

(また…会いたいな)



 そして…ヴィヴィオが振り返った少女と似た少女は必死になって走っていた。
 廊下をもの凄い勢いで走っていく。だが目の前にある影を見つけると急ブレーキをかけて来た方向へと戻る。

「ん、なんだ?」

 少女はそこで女性の姿の姿を見つけ彼女の影に滑り込んだ。

「チンクすみません…一緒に遊びませんかと声をかけただけなのですが…」
「ああ…そういうことか。チェント、オリヴィエが一緒に遊んで欲しいそうだが」

 苦笑いしながら背後に隠れた少女に言うが

「やっ!!」

 即答し白衣をギュッと掴んで前に出ようとしない。

(まぁ仕方ないと言えば仕方ないな…)

 数日前、オリヴィエとヴィヴィオが模擬戦をした。ただそれだけなら良かったのだが問題はチェント達の居た場所だった。2人から数メートルしか離れていなかったのだ。
 オリヴィエが小石1つ飛ばないように気を遣い、よく見えるようにと気を利かしてくれただけなのだが、そんな間近で近接戦をドカバキするのだ。間近で見たいと思う者ならその場でじっくり見ただろうがそんな者が居たらお目にかかりたい。
 殆どの者が恐怖のあまりに逃げ出すか足がすくむか腰が抜けて動けないだろう。
 只でさえ怖い場所で自分にそっくりなヴィヴィオが一方的に殴られ、蹴られ、投げられてしまえば、その恐怖は倍増する。
 その時からチェントにとってオリヴィエは優しいお姉さんから一転とても怖いお姉さんに切り替わってしまった。

「お菓子を使ってみたらどうだ? 褒められた方法ではないが」
「既に…ヴィヴィオに教えて貰ったのですが…」

 ポケットから取り出したのはチェントが好きなお菓子。お菓子より怖い方が嫌なのだろう。

「私が言ってもこの通りだ…アリシアに相談してみるのはどうだ?」

 その問いかけに彼女は苦笑いし

「チェントを怖がらせ、ヴィヴィオに怪我させた私は『敵』だそうです。チェントが許してくれたら私も許してもいい。研究所に行ってもいいけどチェントを泣かせたら怒るよと。」
「クスッ、アリシアらしいな」

 彼女を泣かせずにもう1度仲良くなれれば丸く収まると考えてここに来たのだろうがそう簡単にはいかないらしい。
 元々カメラやセンサーのある教会の教練場か管理局の訓練場を借りていればこんな事にもならなかったのだが、そこは急いだオリヴィエが悪い。ここに来ていいと言ったあたり彼女の目的を知ったアリシアのせめてもの譲歩というところなのだろう。だからといって施設内を走り回られ怪我されるのも困る。

(何か良い方法はないものか…)

と考えているとプレシアから通信が届いた。

『チンク、クライアントから問い合わせが来ているわよ。』

 打ち合わせをしたいと言われて資料を取りに来ていたのを思い出す。

「そうだった。チェント駆け回るのはいいが転んで怪我しないようにな」
「えっあっ…ねぇ…」

 そう言うとサッとチェントの手から白衣を抜き取ってプレシアの部屋に向かう。再び駆け出す足音が聞こえる。

「オリヴィエが一緒なら怪我もしないだろう。これもここにあるしな」

 普段1人で居る事の多い末妹にとっていい運動になるだろう。
白衣を抜き取る時に外した金色のペンダントが手の平で輝いていた。



 2人の鬼ごっこが続いていた頃、Stヒルデ学院のある教室ではノートを見て2人の少女が話していた。

「魔法球のイメージを作る?」
「うん、リンカーコアがあって魔法が使える子は魔法色が決まってるのは知ってると思うんだけど、私の魔法球みたいなのを作りたいって言ってた女の子居たでしょ、放課後に来た子の中で」
「あの1年の?」
「うん、コアって魔力属性無いでしょ。だから魔法が使えない子が虹色の魔法色の魔法を使いたいってイメージが送れたら…」
「あっ!」
「アリシアも出来るって思わない?」
「ヴィヴィオ…それ凄いよ…」

 その考えに驚くアリシアを見てヴィヴィオはニコッと笑った。

【良いではありませんか。教えを請われているのですから教えてあげれば】

 少し前にやってきたヴィヴィオの複製母体、オリヴィエに言われた言葉。
 ヴィヴィオは学院にいる間率先して魔法を使わない。授業で教わった魔法だけを使うだけという風に目立たない様にしてきた。家族が管理局のエースオブエースと執務官で自身も司書という肩書きを持っている。これだけでも相当浮いてしまう。そう考えてごく普通の読書が趣味な生徒として振る舞っていた。
 だがオリヴィエはそんな彼女の苦労を全て潰してしまう。授業中にやってきて模擬戦にヴィヴィオを誘ったのだ。その時教会騎士へ1撃を入れそうな雰囲気まで行った事が口づてで広がってしまい、同級生や下級生から魔法を教えて欲しいとお願いされる事になった。

 ヴィヴィオも最初は誰にも教える気が無かった。しかしその気にさせたのは彼女達の中でも魔法が使えない生徒から何度も頼まれて受け入れたのだ。
 少し前にアリシアの母プレシア・テスタロッサが魔力資質を持たない者でも魔法が使える魔力コアを作り、テスト運用として学院生徒全員が魔法系の授業を受ける事になった。魔力資質を持たない者が魔法を使える様になったのも理由だった。
 アリシアはコアを使い飛行魔法まで使える様になっている。
 元々アリシアは魔法が使えなくてもプログラムが得意だから何も教えなくても簡単な魔法なら魔力コアがあれば使える。でも周りから見ていればヴィヴィオが教えた風に見えたのだろう。
 どうしてあの子だけ…という変な噂が出て来る位なら…と考えた2人は魔法が使えない生徒の自主学習を補助するという形で何人かに教える事にした。
 初めて魔法を使った時の感動は今でも覚えている。先生達の様に教える事は出来ないけど少しくらい手伝えるなら…

「私もお姉ちゃんみたいな綺麗な魔法を使いたい!」

 目を輝かせて言っていた1年生の少女の願い。どうやれば叶えられるかを考えて出た可能性。  魔力資質を持った者が魔法を使うとその者特有の色が魔力色として現れる。なのはなら桜色、フェイトなら金色、ヴィヴィオなら7色の虹色という風に。
 アリシアが使うと薄い水色の魔法色が出ていたがある時その色が薄くなったり強くなって青色に近づいたりするのを見てもしかして…と思いついたのがこの方法。

「今すぐには使えないけど、色が思い通りになるなら使える様になるんじゃないかな…」

 明日話したら彼女がどんな顔をするかちょっとだけ楽しみになった。


~コメント~
 今話は前話AffectStoryからの続編になります。
 前話ではオリヴィエがもしヴィヴィオの時間に来たら?というコンセプトで書き始めました。
今話はというと…前話を踏まえた状況で一気に話が進みます。
 途中ややこしくなる場面もあるかとは思いますが暫くお付き合いくださいませ。

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