第17話「それから(最終話)」

 私達が落ち着いてからユーリの呼びかけでグランツ博士と数人のスタッフがやって来た。
 これから私と美由希さん、なのはさん達の特訓でのデータをみんなで調べるらしい。

「いやはや…これは凄いね。」

 グランツ博士が頭を掻きながら笑う。
「スキルカードも驚きだが…アリシアちゃん、記録更新だ。」
「私が?」
「そうだよ。今までブレイブデュエルの最高速度、中で出せるスピードの記録はヴィヴィオちゃんだったんだ。メインルームの前でシュテル達を一瞬で倒した時のね。続いて恭也さん、美由希さん、士郎さんの高速移動があってその次にアリシアちゃんだったんだ。」
「SonicMoveを30回位同時に使った時ですか?」
「そうだよ、でもあの時から同時に使える回数を制限したからこれ以上のスピードは出ないと思っていたんだ。3つの似たスキルを10回ずつ使っても効果は重なるからね。だけど2人のデュエルでアリシアちゃんはヴィヴィオちゃんを超えて、美由希さんも恭也さんを超えている。これ以上はプロトタイプでも出せるかわからないね。」  

 ヴィヴィオが聞くとグランツは頷く。
   
「博士、最速記録…確かレヴィが持っている筈では?」
「みんなが遊んでいるブレイブデュエルの中ではね。今行ったのは開発側の話だ。多分レヴィとアリシアちゃんじゃ…20倍位差があるんじゃないかな。みんなには内緒だよ。」
「……そうですね。レヴィが聞けばマスターモードで特訓しかねません。」
「博士、私が恭ちゃん…兄を超えたっていうのは本当ですか?」

 美由希さんが続けて聞く。

「はい、恭也さんの記録は以前テストで使って貰った時に最速値を出していました。スキルカードを使わずに確認出来た最速記録です。先程のデュエルで美由希さんはそれを塗り替えています。」
「恭ちゃんに勝てた…」

 美由希さんが呟くと恭也さんが眉を顰める。

「……グランツ博士、これからプロトタイプを使わせて貰って良いですか? 父さん」
「無理を言うな、流石に俺もそこまで動けるわけないだろう。」
「じゃあ…」
「恭也さん、私と対戦して貰えませんか? 博士、カードの同時使用制限を外せますか?」

 私に抜かされたと聞いてヴィヴィオも競争心が湧いたらしい。

「いやいや、今日は無理です。2人のデュエルでプロトタイプもメンテナンスが必要ですし、私達もこれからデータを調べます。」
「ヴィヴィオもお兄ちゃんも今日は諦めよう。さっき怒られたばっかりでしょ」

 なのはさんに促されて2人は残念そうに頷くのだった。



 それから私とヴィヴィオはプレイルームに戻った。なのはさんから今日はブレイブデュエル禁止と言われているのでウィークリーイベントに出るのではなく観戦する為である。

「みんな凄いね。すっごく強くなってる。」

 大型モニタに映るデュエルの光景にヴィヴィオは嬉しそう。

「ねぇヴィヴィオ…少し話、聞いてくれる?」
「いいよ~何?」
「私ね…Stヒルデ初等科の生徒会長に立候補しようと思うの。」
「そうなんだ……ええっ!?」

 観戦に意識が向いていた彼女は一瞬止まってぐわっとこっちを振り向いた。

「色々考えたの。私が…私だから出来る事って何かなって。それで…ストライクアーツみたいに学院の中の…みんなの考え方を変えたいの。リンカーコアが無くても、魔力資質が弱くたって何でも出来るんだって。」

 昨日、士郎さん達と話した時に朧気だった気持ち、それがデュエルの後でわかった気がした。ママの娘でフェイトの姉でありチェントの姉であり、ヴィヴィオの親友の私だから出来る事。

「来年、チェントが初等科に入学するでしょ。私達も卒業して中等部に行くだろうから入れ替わりになっちゃうけど、何か残してあげたいって思って。忙しくなるけど応援してくれる?」
「……うん、するする!いっぱい応援する。何なら私も副会長に立候補するよ!」
「え~っ!? ヴィヴィオと私が揃ったら学院もトラブルに巻き込まれちゃうよ?。」
「いいじゃない♪ 何も無い毎日より少し位刺激があった方がみんな楽しいよ♪」
「…そうかな~、楽しいかはわかんないけど退屈しない毎日になりそうだね。よしっ!それでいこう!」

 手を挙げてハイタッチする。
 これからの1年がひっくり返されそうな毎日になると先生やクラスメイト…学院の誰も思っていないだろう。
 だけどそれが私…アリシア・テスタロッサだからこそ出来ることなんだから。 
   

~それから少し時間が過ぎて~

『続いて生徒会会長の挨拶、アリシア・テスタロッサ』
「はいっ!」

 先生から呼ばれた私は席から立ち上がる。
 冬が去りって春の芽吹きが感じられる時、私達は5年生に進級し新たな1年生を迎えることになった。

(ここまで長かったな…でもここからスタートっ!)
  
 あの日、ブレイブデュエルの世界から帰った後、はやてさんを連れてそのまま海鳴市の高町家に行って士郎さんと美由紀さんを説得した。
 2人は魔法文化も知ってくれていたので競うのは賛成だけれど相手に敬意を持って対することを約束した。
 そしてその足で家に戻って私とヴィヴィオが生徒会に立候補することをママとはやてさんに話した。
 ママ達に話したのは魔力資質判定や魔導師・騎士の判定が大きく変わり、ストライクアーツと魔導学の競技会が行われるということと、そうだったら私自身が備えるんじゃなくてStヒルデ学院そのものを巻き込みたいと考えたからだ。
 Stヒルデでは既に魔力コアを使った魔導技術の授業が始まっている。それを授業だけではなく生徒個人でも練習出来るクラブを作りたい。その為には魔力コア用のデバイスや理論を専属にサポートしてくれる人が必要になる。
 こんな話を1生徒がしたところで却下されるだろうし、頷かれても動きは鈍い。
 そこで生徒会長として初等科代表としての発言権を得られればアインハルトさんの居る中等科を巻き込んで作ることも出来るだろうと考えた。そこに親友のヴィヴィオも加われば聖王教会・管理局も見て見ぬふりも出来ない。
 勿論そんな子供だけの話では進まないのはわかっている。だからママ達を通じてStヒルデをモデル校として使えないかを提案した。
 ミッドチルダ…主要管理世界…全ての管理世界でどんな風に教えればいいのかをテストして貰う。
 幸いStヒルデは聖王教会関係の親を持つ子が多いけれどヴィヴィオの様に管理局の関係者も居る。他の学院とは違ってミッドチルダ・ベルカ両方の研究が出来る。
 今なら私やヴィヴィオという看板もあるから言えば知名度もある。一気に広げるには丁度良いはずだ。

「アリシア、やけに積極的やけどどうしたん?」
「あっちで考えたんです。私だから出来ることって何だろうって。それがこれなんです。少しずつ浸透させていくのも大切だけど、最初に沢山見て貰って後で少しずつ広げた方が良いんじゃないかなって。」
「私達、今までの2年間色んな事件やトラブルに巻き込まれてきました。いつも巻き込まれちゃうなら今度は私達で作ってみんなを巻き込んじゃおうって思ったんです。」

 ヴィヴィオと一緒に頷いて笑顔で言うとママとはやてさんはため息をついて

「そうね、何度も救った世界なんだから好きな様にしてみなさい。」
「わかった。私も本気で動くから、この前の借りきっちり返させてもらうよ。」

 頷いてくれた。


 それからは怒濤の様に日が過ぎていった。
 私とヴィヴィオは次に登校した日、生徒会選挙について教えてくれた先生に会長・副会長として立候補することを伝えた。
 周りの先生も耳を傾けていたみたいで言った直後職員室は一気にざわついた。
 クラスでもその話をして一気に拡散しその日中に初等科内に話が伝わった。
 けれどこれは始まりに過ぎない。
 その日から私達は動き始めた。 
 他のクラスから立候補しようと考えていた同級生は居たみたいだけれど、私達の動きを知って誰も立候補しなかった。良くも悪くも名前と顔だけは知られている。
 それから前生徒会メンバーや各運営委員が参加した会議の中で私は生徒会長から推薦を受けて次の生徒会長に決まった。
 私はその席で目標を話してヴィヴィオを副会長として指名した。
 前生徒会長は私達が避けているなら仕方ないけれど、するつもりならみんなに反対されても推薦するつもりで、出来れば残って見たかったと後で言われた。
 私の目標を聞いた委員は学院の雰囲気が大きく変わる可能性を感じてくれたのか全員が参加してくれることになった。 
 新生徒会長として指名を受けた私はまだ生徒会の権限を持っていなかったけれど、前生徒会長から信任を受けたという形で学院内に2つのクラブの創設申請をした。
 1つは魔力コアを用いた総合格闘技『ストライクアーツ』を練習するクラブ。もう1つは魔力コアを用いた応用魔導学を研究するクラブ。
 2つのクラブのリーダーは私が兼任して、ヴィヴィオにもサブリーダーになって貰った。
 ヴィヴィオになって貰ったのは来た子がベルカ式を使っていた場合私じゃ教えられない事があるからだ。
 私達の行いは先生達も知っていたけれどこれ程急に動くと思っていなかったらしい。申請が通り【誰が顧問になるか?】という話に進んだ時、私は先生に【これからの計画】を話した。
 ここからは大人の…ママやはやてさん達の役割だ。

  
 少し時間は戻って私達が動き出したのと同時期にママやはやてさん達も動き始めていた。
 ママは研究所所長である聖王教会の騎士カリム・管理局のマリエルさんと調整し魔力コアの公表時期を早めた。
 はやてさんはマリアージュ掃討の為、イクスを含む聖王教会と管理局の混成巡教団を作って全管理世界を回った実績があり、聖王教会や本局だけでなく主要管理世界にも顔が利くらしい。
 彼女はそのコネをフル動員して広報部が作っていた計画を前倒しして2つの民間団体を作った。
 スポンサーとなったのは管理局と聖王教会の他にはカレドウルフ社を含む大手の魔導企業が連なった。
 魔力コアはテストデバイス開発や部隊への実装で大きな可能性があるのは周知の事実。メーカー各社も公表されれば一気に広まると考えていた。そんな魔力コアのテストデータや魔法の開発、何より将来優秀な人材を探すには絶好の機会だった。
 民間団体の設立に併行して聖王教会本部も育成に注力すべきという声が大きくなり、管理局…はやてさんの進言や、丁度私がクラブを作ったいう話も重なってStヒルデ学院を強化モデル校に決めた。

 いくらクラブが決まっても教えられる人と魔力コアのテストデバイスがなければ意味がない。
 私も学院内の先生が顧問をしようとしてもどう進めれば良いかもわからないし、兼任は難しいと思っていた。
 そこもはやてさん達は考えて既に動いていた。
 私が申請したクラブは初等科だけのものじゃなくなった。もっと規模が大きくなってStヒルデ学院を全てまとめた形で作られた。
 そしてそこで教えるのはコラード先生を含む退官した管理局養成校の先生と退団した教会騎士で時々現役の教導隊員や騎士、装備部やデバイス開発関係部署の局員が来ることになった。
 来るメンバーの凄さに私達も思いっきり驚かされた。
 後で聞いたらなのはさんやヴィータさんシグナムさん、シャッハさん達も行きたがっているそうで、退官して志願されかねないと危ぶまれたのもあって後の文言が付け加えられたそうだ。
 魔力コアとデバイスも聖王教会・管理局である程度テストをされて問題なしと確認された物が貸し出されると決まった。
 流石にまたストレージデバイスしか無いけれどこっちもモデル校だからなのかリストを見るだけで魔導メーカーの最新型が並んでいる。

 そして4月、全管理世界の全メディアを通じて魔力コアが公表された。周知する大会として総合異種格闘技ストライクアーツの誕生と大会の告知が行われた。
 これまで魔力コアの存在は噂程度にしか聞いていなかった者も多かった。そこで私となのは役の少女がデモンストレーション役で表に出た。
 市販デバイスでは起動すら出来なかった私達が魔力コアを入れたデバイスを使い飛行魔法を使いこなし自由に飛び、そして先の映像での私達の動きが本物だったと証明したことで魔力資質の無い者でも魔導師になれると見せた。

 その反響は思った通り凄まじいものだった。
 私は兎も角、彼女は主要世界で引っ張りだこになって『学校に行けなくて落第したらアリシアのせいだからねっ!』と苦言を言われた。
 その時はStヒルデに編入して貰っても面白いかも知れない…

 先に設立したストライクアーツの団体から魔力コアを普及させる為に競技会の告知と参加・協賛するスポーツジム・道場にも魔力コアのデバイスが無償で貸し出される。
 但し暫くの間はStヒルデ内のクラブに来て貰って使い方や武術、用途に合った開発の相談なんかも受け入れつつ多目的デバイスの教導・開発ノウハウを貯めていくつもりらしい。
 Stヒルデも厳かだった空間から外の空気が入るし、聖王教会と管理局・魔導企業はノウハウを蓄積していく。
 生徒を含む参加者も新たな可能性見つけていく…本当に上手く重なったものだ。
 まぁこれだけのことが2ヶ月の間に起こってしまい、学院長を含むStヒルデの先生や私達も魔力コアやストライクアーツに関する広報活動や各部間の打ち合わせで本当に目が回りそうな毎日だった。

 そうそう、打ち合わせに参加した時、来ていたはやてさんから言われた。

「今まで聖王教会と管理局と民間企業、各世界地上本部と本局は互いに睨み合いながら優秀な魔導師や技術の取り合いをしてきた。管理局内の取り合いは酷いもんやった。何人も巻き込まれて嫌気がさして民間企業に行った…」
「そんなギスギスした中にアリシアとヴィヴィオという大きな爆弾が生まれ爆発した。みんなの目はヴィヴィオに向いてたからな、アリシアはノーマークやったから2人を知ってる人以外はみんな驚いてた。2人が爆発させて今は睨み合いどころじゃなくなってる。これからどうなるか…私にもわからん。」
「でもこれは私やフェイトちゃん、なのはちゃん、プレシアさんでも出来ん、アリシアとヴィヴィオが2人揃ってたから出来た事や。何処まで広がるかは…2人の活躍次第やな。」

 これは私だけでも出来なかったし、ヴィヴィオだけでも出来なくて、私達2人が一緒に居たからこそ出来た事…はやてさんに言われて私達は強く頷いた。



 先生と在校生、ヴィヴィオや生徒会のみんな…そして少し緊張気味の新入生が私を見ている。
 静かに壇上へと上がり中央まで来た所で深くお辞儀をする。そして…

「新入生のみなさん、生徒会長のアリシア・テスタロッサです。新入生のみなさんの中にはこれからの学院生活に不安を感じている人も居ると思います。」
「でもそんな心配は要りません。5年間退屈だなんて思えない位楽しい学院生活を約束します。一緒に楽しみましょう♪」

「Stヒルデ学院初等科にようこそ♪」

~コメント~
 ようやく最終話を迎えられました。

 AS世界でアリシア主観の話が作れたら?
 こんな漠然としたイメージから始まりました。話の大元は以前から色々作っていたのですが具体的に動いたのは2019年夏でした。
 ニュース先の話が身近で起きたら…何気なく過ごしている「なんでもないだたの1日が実は1番大切な時間だった」と否応なく気づかされました。
 きっと色んな事件に巻き込まれてきたヴィヴィオやアリシアはもっとそれを感じているんじゃないか? だったら彼女達が悲しい事件が起きるのではなく、未来を見据えて進む話に出来ないか? 
 こうして生まれたのが「なんでもないただの1日」です。
 まさかこの言葉が今になってどれ程貴重だったのかと世界中が思う日が来るとは当時は思ってもみませんでした。

 掲載中、私の仕事の都合上長期掲載できる余裕がなくなってしまいご心配をおかけしました。
 まだ色々不安な日々は続くでしょうが皆様のなんでもないだたの1日が1日でもはやく来ることを祈って

Comments

かわな
私も、日常ってちょっとしたことで失われるってのをこのシリーズを読んでいる最中に強烈に思い知らされましたね。
2021/04/10 08:34 PM

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