第01話「春の風が吹く頃に」

「少し落ち着いてきたかな~」

 放課後の生徒会室、窓から見える光景を眺めながら私-高町ヴィヴィオは呟いた。
 冷たかった風も最近は暖かくなってきていて窓を通して若葉の香りを届けてくれて心地良い。
 窓辺で肘をつきグラウンドに視線を移す。片隅でミッドチルダとベルカの魔方陣が出たり消えたりしている。
 
 運動着姿の初等科・中等科の学生と…青と白の制服とブラウンかかった制服、黒い服を着た大人が数人見える。本局教導隊とミッドチルダの地上本部、聖王教会の誰かが教えに来ているらしい。 少し離れた所に見える白衣の大人は魔導機器メーカーの研究員だろうか…。

 
 
 Stヒルデ学院に作られた2つのクラブ合同で活動しているみたいだ。
 眺めている私に気づいたらしくトレーナー姿の大人が手を振っている。
 誰だろう?と ジッと見つめるとノーヴェだった。小さく手を振り返す。
 彼女の周りには多くの生徒が居る。クラブが作られて間も無いのに彼女は人気者らしい…。眉を下げて笑う。
 親友のアリシア・テスタロッサが生徒会長になる直前に2つのクラブを立ち上げた。
 1つは魔力コアを使ったデバイスを使い戦技魔法や格闘・スポーツに応用する通称「ストライクアーツクラブ」、もう1つは応用魔導学を用いて検索魔法みたいな戦技魔法ではない魔法を研究する通称「研究クラブ」。2つのクラブは初等科の枠を越えてStヒルデ学院全体が研究・強化モデル校として指定された。 
 クラブを作った直後は魔力コアの発表直後だったという珍しさもあって生徒と先生は勿論、外から教会騎士団員、地上本部と本局の管理局員、魔導機メーカーの研究員と責任者の人・多数のメディアが揃ってしまいちょっとどころではない騒ぎになってしまった。
 クラブを作ってすぐに廃部にされちゃうかと思ったけれど、そこは大人の世界話し合いがあったのか騒ぎは数日で落ち着いた。
 今は他の学校から転入した中等科の1年と初等科の1年が見に来る位…。
 でもそれは生徒の話であって、先生…特に初等科と中等科の先生はモデル校になってしまったが故に授業でも取り込んでいかなくちゃいけない。
 生徒が使えるのに「全然使えません」だなんて言えない。そして、モデル校だからこそ管理局や聖王教会で専門に教えているプロが来ている今は学ぶには絶好の機会。
 一方で他のクラブに入っていたけれど辞めてどちらかのクラブに入ろうとする生徒は多かった。
 それらも私達は予想していた。
 デバイスメーカーも多くの試験デバイスを出してくれていて、教える人も教わる人も多いのだから一箇所に集まってするのではなく、幾つかの場所に分かれて活動する。
 今は全員同じ位の技術レベルだけれど今後は難易度や専門的なものに分かれて学べる様にしていく。そして既存のクラブに入っている生徒についてはどちらかのクラブへの複数所属を認めて貰った。
 これらの周知が行われると日が経つにつれ学院内は落ち着いてきた。
 私が「落ち着いてきた」というのはそれらの渦中というか中心に近い所で騒動を見て来たからだったりする。
 私もアリシアも2つのクラブの初等科のクラブリーダーとサブリーダーでもある。といってもクラブ自体が学院全体で動き出してからは連絡役とかに呼ばれる位になっている。
 研究クラブは兎も角ストライクアーツの方は年内に行われる大会が決まれば忙しくはなるのだけれど、今はまだ見ていた方がいいかなと思っている。
 私としてはストライクアーツより、変わった魔法を作っている研究クラブの方が楽しそうと時々顔を出している。

(ストライクアーツか~…リミット付けたら出られないかな~)

 異世界の私が練習していて私も少し体験したけれど、ちょっとだけワクワクして楽しかった。
 私も参加出来たらいいな~とは思っているけれど、流石に難しいと思う。
 ストライクアーツの大会そのものが『魔法力・魔力資質が弱い人が魔力コア専用デバイスを使って新しい可能性を見つけて貰う』という目的を含んでいるからだ。
 そんな中に空戦Sランク魔導師が参加すれば何が起きるかは私にだってわかる。
 だから私はストライクアーツについてはアリシアに任せてサポートすることに決めている。
  

「まだまだこれからだけどね~することは山盛り盛り沢山。はい、今月のスケジュール。先生から貰ったのも整理しといたよ。副会長♪」

 窓辺でサボっていた私と違って端末を出してキーを叩いていた彼女、Stヒルデ学院初等科の生徒会長になった親友のアリシア・テスタロッサからスケジュールを受け取って見る。

「うわ…凄いね…」

 毎日とは言わないけれど、毎週何らかの予定が入っている。会議は勿論、ストライクアーツの広報でのインタビュー、デバイスのテスト…クラブ活動でのミーティング…。
 無理を承知でリオとコロナにクラブの初等科生のとりまとめをお願いして良かったと思う。
 教わる場所が分かれてしまったが故、クラブに居る初等科生の状況を2人では把握出来ないからだ。

「2人揃って出なくちゃ駄目なのもあるけど、それ以外は私とヴィヴィオのどっちかが行く様にしてあるよ。管理局関係はヴィヴィオ、聖王教会は私の方が顔が利くから優先してる。他のイベントと重なる時は生徒会の誰かに出て貰うしかないかな~。私はそれ以外に魔力コアデバイスの宣伝…みたいなのも幾つか入ってる。」

 スケジュールを目で追いかけて行く。
 どの打ち合わせに誰が行くのかと言うのと、私達以外は急遽駄目になった場合のサブメンバーも書かれている。
 他の生徒会メンバーが動くという時点で私とアリシアは出席確定なのだ。

「休日は何も入ってないけど…いいの?」
「うん、休みまで入れちゃったら練習出来ないでしょ。私もヴィヴィオも♪ 生徒会が全部じゃないんだから。仕事とプライベートは分けなくちゃ。」
「すご~い、流石アリシア♪」

 そうだった。その辺を含めてスケジュールを立ててしまった彼女に感嘆の声をあげる。

「と言っても、早く私達が動かなくても良いようにしないとね~。今年は仕方ないけどこんなのが来年まで続いたら次の生徒会長が倒れちゃう。」

 その言い方と再びスケジュールを見て苦笑する。
 2人とも何だかんだで大人の世界の仕事についても理解しているし、私は既に無限書庫司書で依頼があればそっちの仕事もしなくちゃいけない。…最近はほとんど名前だけの司書になってきているのでこれでいいのか少し心配はしているけれど…。

「そうだね。そこははやてさんに期待かな…このあとずっと生徒会で対応は難しいし、魔力コアデバイスが広まってジムや道場でも使える様になったら楽になるとは思うけど。」
「そうね~それに期待するしかないか…私達も…」
【PiPiPiPi…】

 アリシアが何か言いかけた時、彼女の端末が鳴った。

「チンクさんからだ? はい、アリシアです。」
『授業中にすまない、今話してもいいか?』
「大丈夫です。授業が終わって生徒会室に居るだけなので、ヴィヴィオも居ますよ。今日のチェントのお迎えは私が行くつもりですが…?」
「こんにちは、チンク。どうしたの?」

 普段あまり慌てたところを見ない彼女の声が少し慌てているのが気になって声をかける。
  
『いや…2人ともノーヴェを見なかったか?』
「ノーヴェさん? ノーヴェさんなら港湾レスキューなんじゃ?」
「ノーヴェ? 今グラウンドに居るよ? さっき私を見て手を振ってた。」

 アリシアに続いて言う。普段なら彼女の職場、港湾レスキューに居る筈だけれど、私はついさっき窓から彼女を見ていた。
 
「そうなの?」
「うん、今日クラブに教えに来てるみたい。」
『そこに居たのか…良かった。スバル、ノーヴェが見つかった。Stヒルデに居るそうだ。ああ、判っている…。ヴィヴィオ、アリシア、すまないが私とスバルがそっちに行くまでノーヴェが何処にも行かないように捕まえておいてくれるか? ディエチが先に着くかも知れない。』

 端末向こうでスバルの声も聞こえた。どうやらチンクとスバル、ディエチはノーヴェを探していたらしい。

「うん、いいよ。ノーヴェどうかしたの?」
『ああ、後で話すが…ノーヴェが港湾レスキューを辞めると言って退職届を出したらしい。』
「「ええ~っ!!」」

私達は思わず立ち上がって同時に叫んでいた。


~コメント~
 久しぶりの新作です。
 前話、なんでもないただの1日の最終話でヴィヴィオ達は初等科の最高学年になりました。今話はそこからの話になります。
 今までは舞台になっていた話があってそこにヴィヴィオ達が行く形が多かったですが、今話はヴィヴィオの時間が主な舞台になります。それで「Againとは?」
 色々気になるところもあると思いますが、少し変わったヴィヴィオの話を楽しんで頂けたら幸いです。



 

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