第02話「命の選択」
- リリカルなのは AgainStory4 > 第1章 繋がる世界
- by ima
- 2021.04.23 Friday 21:59
「ノーヴェ!!」
生徒会室の戸締まりをアリシアに任せて私は全速力で階段を駆け下りて靴を履き替えグラウンドに居るノーヴェの所に走った。
「おう、ヴィヴィオ。邪魔してる♪」
「邪魔って!! そっちはいいんだけど、どういうつもりなのっ?」
私の剣幕に周りで練習していた生徒達が手を止めてこっちを見ている。
「…ああ、もう連絡が来たのか。あいつら早いな~、とりあえずここじゃなんだから話せる場所ない?」
「うん、それなら…RHd」
みんなの練習を止めてしまったのに気づいて私はデバイスを出してアリシアにノーヴェを校内に連れて行きたいと連絡した。
数分もしない間に彼女からノーヴェの初等科入校許可を取って、生徒会室の隣にあるミーティングルームの使用許可を貰ったとメッセージが来たのでノーヴェを連れて初等科へと入った。
生徒会室の戸締まりをアリシアに任せて私は全速力で階段を駆け下りて靴を履き替えグラウンドに居るノーヴェの所に走った。
「おう、ヴィヴィオ。邪魔してる♪」
「邪魔って!! そっちはいいんだけど、どういうつもりなのっ?」
私の剣幕に周りで練習していた生徒達が手を止めてこっちを見ている。
「…ああ、もう連絡が来たのか。あいつら早いな~、とりあえずここじゃなんだから話せる場所ない?」
「うん、それなら…RHd」
みんなの練習を止めてしまったのに気づいて私はデバイスを出してアリシアにノーヴェを校内に連れて行きたいと連絡した。
数分もしない間に彼女からノーヴェの初等科入校許可を取って、生徒会室の隣にあるミーティングルームの使用許可を貰ったとメッセージが来たのでノーヴェを連れて初等科へと入った。
「へぇ~、中はこんな風になってるのか。階段とか色んなものが小さいサイズに合わせてあるんだな…避難経路やアラート設備もしっかりしてる。」
初等科に入ってからあっちこっちをキョロキョロとみている。
「何言ってるのもう…点検に来た訳じゃないでしょ。」
「まぁ癖みたいなものだな。完璧に安全な建物なんて無いから、ちょっとでも不安な場所があればそれを伝えるのも私達の仕事だ♪」
「ふーん、あっ着いた。アリシア部屋取ってくれてありがとう。」
ミーティングルームのドアが開いていて中には既にアリシアが居た。
「ううん、丁度先生の所に行ってたから。ノーヴェさん、ごきげんよう。」
「アリシア、久しぶり♪」
ヴィヴィオはアリシアからペットボトルのお茶を2本受け取ってノーヴェに1本渡してそのまま席へと促す。
「それで、どうして辞めちゃったの? 港湾レスキュー」
ヴィヴィオはアリシアの隣に座り、ノーヴェが座るのを待って聞いた。
「…何かあったんですか? 私達に何か用が?」
「…まぁ…何かあったって言えばあったんだけどな…。先週、私がここに来た時の事覚えてるか?」
「先週? うん、覚えてる。クラブの練習で聖王教会の騎士シャッハとディードと一緒に来てたよね?」
「ああ、本当はオットーかセインが来る予定だったんだけど、2人ともスキルが特殊だからな。それで非番…休みだった私に声をかけてくれたんだよ。私も魔力コアのデバイスには興味あったし、ヴィヴィオ達が通う学校っていうのも見たかったから。」
先週、クラブの指導で聖王教会からシャッハとディードが来ていた。2人と一緒にノーヴェが居たのは見て知っていた。
ただその日はアリシアが魔力コアのプロモーションとして管理局広報部に行っていたので、ヴィヴィオは副会長として色々な雑務をこなしていた。
…行ってディードから『陛下』呼びされると色々変な事になるのでわざと避けていた…と言う理由も少しあったりする。
オットーとセインも魔法は使えるけれど、自身の能力【IS】が特殊過ぎるから彼女に声をかけたのだろう。
「ノーヴェさん、教えるの上手でしたよね。私は見られなかったんですが、クラブの感想で『また教えに来て欲しい』って何人も書いてました。凄い人気ですよ」
「ああ、私も楽しかった。最初上手く使えず魔方陣すら作れなかった子が少し教えただけで一気に覚えていくんだ。こういう子供達…いや、魔法が使えなかった人達に教えたい、何かの力になりたい。こんなに強く思ったのって初めてだった。」
「…でもそんな私の我が儘でレスキューの仕事を放り出していいのかわからなくなっちまった。1週間色々考えて…諦めきれなかった。それで今日、隊長に辞表を出して辞めてきた。」
「………」
「………」
彼女の話を聞いて、私とアリシアは目が点になり唖然としていた。
大切な事を思いっきり飛ばしている…それに気づいたからだ。
「ごめんヴィヴィオ…ちょっと整理させて、私…頭痛くなってきた。」
隣で額に手を置くアリシアに私も同意見だ。
「…ノーヴェ…」
「なんだ?」
「え~っと…先に謝っておくね、色々ごめん。ノーヴェってバカなの?」
思わず言葉が出てしまった。
「ハァッ!? ヴィヴィオ、いくら友達でも大人に対してそれは失礼じゃねーのかっ?」
声を荒げる彼女に私はそれ以上の勢いで言い返す。
「あのねっ!『港湾レスキュー辞めて教えに来ました♪』って、幾ら教えるのが上手くても誰でも入って良い場所じゃないの! ここはStヒルデ学院の中でクラブも管理局や聖王教会、デバイスメーカーの人でも限られた人しか来られないんだよ! 今日入れたのは管理局員だって知ってたから入れて貰えただけじゃないの? 辞める前に、チンクやゲンヤさん通してはやてさんに話をして『トレーナーをしたい』とか相談すれば良いじゃない。いきなり辞めるなんて言ったらみんな「えっ?」ってびっくりするだけでしょ!」
「あっ!…」
部署は全然違っても港湾レスキューも魔力コアの支援を行っている組織も管理局、それもミッドチルダ内の組織である。
主催しているのは民間団体でも、支援しているのは管理局や聖王教会、デバイスメーカーでとりまとめは八神はやてが居る部署が行っている。猫の手も借りたい程忙しいのは知っているから彼女に相談すれば彼女やノーヴェの保護者、ゲンヤ・ナカジマ・港湾レスキューの隊長が融通出来ただろう。だがそれは彼女が管理局員であった時の話で辞められたら全くの無関係。
1週間悩むのは判るけど、誰にも相談しないで『辞めます』なんて言ったら…港湾レスキューの同僚や上司は驚き混乱したに違い無い。
しかも彼女はデバイスを持っていないか、通信を切っている可能性もある。そうじゃないとチンクやスバル、ディエチが探し回ったりしないからだ。
普段から落ち着いている彼女の声が慌てていたのも納得した。
「…ノーヴェさん、辞めちゃっても大丈夫だったんですか?」
今度はアリシアがノーヴェに聞く。
「えっ?」
「私はチンクさんから少し聞いた位しか知りませんが昔の事件の保護処分ってもう無くなってるんですか? チェントでも保護観察が無くなるのに時間かかってましたし、チンクさんは『昔迷惑をかけたから当然、時々報告する程度だから気にしてない』って言ってましたけど、それってチンクさんはママの研究所に居ても管理局からの出向扱いになってるからその程度で済んでるんだって聞いたような…。」
「…あっ!!」
ノーヴェの顔がみるみる青くなってきた。
彼女はまだJS事件の保護観察処分が解除されていないらしい。
事情が事情だったから管理局員や聖王教会に居ればその処分はほぼ有って無いようなものだけれど、辞めてしまったら…。
「どうしよう…それってもしかして脱走したのと同じになるんじゃ…」
「そこまで考えてなかったんだ…そうかもね。既にここに居るのを教えてるから捕まえに来るんじゃない?」
深いため息をつきながら言う。
「ノーヴェ・ナカジマ! あなたを逮捕します!」
その時ガラッとドアが開くと同時に声が聞こえた。
「!!」
思わず立ち上がるノーヴェ
「ディエチ、チンク、スバルさん…」
「やっとみつけた…ノーヴェっ!何考えてるの」
ドアの前には目尻を吊り上げた3人が立っていた。
「チンクさんなら私とチェントの保護者代理になってるから、入った所で私の名前を言えば通してくれる様にと、チンクさんにはスバルさんとディエチさんと一緒に学院に入って貰う様に頼んでおいたの。チェントのお迎えで来てくれるから入り方も知ってるし。」
手回しが早いと心の中で拍手する。
「色々とすまなかった、礼を言う。」
「いいえ、気にしないで下さい。それよりも…」
「チンク、どうするの? 私達は話を聞いたけど…」
さっきの話をかいつまんで話すと彼女もハァ~っと深いため息をついた。
私達の会話にノーヴェ達が入って来ないのは少し離れた部屋の隅で彼女とスバルが口論中で、ディエチが時々手が出そうになる2人を押さえているからである。
授業中だったら大変だったけれど放課後で場所も会議室だしディエチが遮音結界を作っているから外にも影響は出ていない。
それでもスバルとノーヴェは激しく言い合っているのは2人の様子から十分に伝わってきていた。
「とりあえず家に連れて帰って家族会議をするつもりだ。アリシア、プレシアにはこのまま帰宅させて欲しいと伝えてくれ。我が儘ばかり言ってすまない。」
「いいえ、事情が事情ですし、その辺も含めて伝えておきます。」
同情しますというのが見て取れる笑みで頷く。それを見てチンクは再び眉を吊り上げ振り返る。「ノーヴェ、スバル、ディエチ、口論はそこまでだ。ここでは迷惑がかかる、帰って家族会議をしよう。父上にも聞いて貰う。ノーヴェ…お前の行いがどれだけの人に迷惑かけたのか…考えてくれ。」
「ごめん…チンク姉…」
流石にそこまで言われてノーヴェも言い返せずシュンとなった。そのまま彼女を伴ってチンク達は部屋を出て行った。
「……なんだかすっごく疲れた…」
「…同感…」
「「ハァ~~~~…」」
私とアリシアは同時にため息をつくのだった。
その後、私はチェントのお迎えに行ったアリシアと別れた後もノーヴェの事が気になってはやてに連絡した。
『はい、八神はやてです。ヴィヴィオ、どうしたん?』
「こんにちは、急に連絡して…はやてさん、あのノーヴェの話、はやてさん知ってます?」
『? ノーヴェがどうしたん?』
彼女には連絡が届いていないらしい。
ヴィヴィオは今日あった事をはやてに話した。
「アハハハハ、ヴィヴィオとアリシアも散々やったな。本当に辞めてたら私の所にも話は来てるやろうし、その様子やとスバルも驚いてたみたいやから、ヴォルツ隊長が止めてくれてたんとちゃうかな。」
ヴォルツと言う名前を聞いて思い出した。
以前マリンガーデンに現れたマリアージュを倒した時、RHdの強制通信機能を使って連絡してくれた人だ。
「全く人騒がせなんだから…もうっ!」
『ヴィヴィオ、そうノーヴェを責めんといて。私も少し、ノーヴェの気持ちもわかるよ。』
『ノーヴェやスバルの仕事、港湾レスキューは海で何か事故や事件があれば動く組織でな、特に事故の時は命の選択に迫られる。』
「命の選択?」
『うん、1人助けてる間に2人…10人以上が亡くなったっていう事故もあるし、自分の身を守る為に助けに行けん時もある…。そういう現場をノーヴェとスバルは何度も見てきてる。』
『そんな時、安全な場所で子供に魔法を教えた。今まで魔法を使いたくても資質が無くて使えなかった子達や、初めて使えて嬉しかったと思うよ。』
『苦しがったり痛がったりして泣いてるんとちゃう、嬉しさからの涙…それを見て心が揺れへん訳がない。みんなに喜んで貰える仕事…未来に繋がる仕事と命を助ける仕事…今の仕事から逃げるな、どっちかを選べ…なんて私には言えん。だから、ノーヴェを責めんといて』
ノーヴェの仕事は知っていた。港湾レスキューというのが海で起きた事故や事件の対応ということも…その『対応』の中まで知らなかった…知ろうとしていなかった。
「………バカはわたしだ…何にも知らなくて…後先考えずに…楽しいから来たって…勝手に思い込んで…本当にバカだ…」
【色々ごめん。ノーヴェってバカなの?】
友達でも…何でこんなことを言ったのだろう。穴があったら入りたい。自分の無知さ加減が恥ずかしさを通り越して怒りすら覚えた。
『ヴィヴィオ、ヴィヴィオが気にする必要ないよ。ヴィヴィオが言った様に辞めなくても方法はあったし、いきなり辞めたらどうなるかまで考えてなかったノーヴェが軽率やったのは間違い無い。実際ノーヴェもヴィヴィオとアリシアに言われるまで気づいて無かったみたいやし、そのまま他世界にゲートで行ってたら間違い無く捕まってたな…。私の方で何かあったら連絡するよ。』
「うん…ありがとう…」
そう言うと通信は切れた。
「うん、ありがとう。帰ってきたみたいだから切るね」
「ただいま…」
私が家に帰るとなのはは先に帰っていた。部屋着姿でエプロンを着けていて、美味しそうな香りが漂っている。誰かとはなしていたのだろうか?
「おかえり~♪、元気ないね? どうしたの?」
心配そうに覗き込まれる。
「ううん、なんでもないよ。うん♪ 着替えてからお手伝いするね~。」
「は~い、フェイトちゃんももうすぐ帰ってくるから一緒に食べよう♪」
慌てて誤魔化そうと笑顔を見せて靴を脱いで階段を駆け上った。
私が着替えている間に下から『ただいま~』って声が聞こえた。フェイトも帰ってきたらしい。
ブレザーとリボンとスカートをホックに掛けてからシャツを持って階段を降りる。
「フェイトママおかえりなさい~」
「ただいま、ヴィヴィオも帰ってきたところ?」
「うん」
「おかえりなさい、もうすぐご飯出来るからフェイトちゃんも着替えて来て~、ヴィヴィオもお手伝いおねがい~」
キッチンからなのはの声が聞こえてきた。
「「は~い♪」」
私達は声を揃えて答えると、バスルーム横の服入れに持っていたシャツを入れてキッチンへと向かった。
「そうだ、今日帰る少し前に教導隊に連絡来てたんだけどノーヴェがStヒルデにプライベートで来てたんだって?」
「プライベートってお休みに?」
食事の間の談笑で思い出した様になのはが言いフェイトが聞く。
「うん、今日行ってた局員がノーヴェを知ってて、お昼頃に『一緒に行ってもいい?』って連絡があったんだって。教える時にサポートが多いと安心だしノーヴェは教えるのも上手だから助かったみたいなんだけど、休日まで来て貰って良かったのかなって気にしてた。ヴィヴィオ、ノーヴェが来てたの知ってる?」
聞き役に回っていたけれど話を振られてドキッとなって体が震えた。
「うん…あのね…」
誤魔化しても後で直ぐわかるだろうから今日のことを2人に話した。
「…ノーヴェ…いろいろ凄いね」
話し終えるとフェイトは苦笑いしていた。彼女は何も知らなかったらしい。
「私…どうすればいいかな?」
「それで帰ってきた時、元気がなかったんだ…。そうだね~、ノーヴェと次に会った時『ごめんなさい』って謝ればいいんじゃないかな。そこからは私達じゃなくてナカジマ家で考えればいいよ。ママも相談に乗って欲しいとか言われたら協力するね。」
「ヴィヴィオに私達みたいな家族が居るように、ノーヴェにも相談出来る家族がいるんだし、きちんと相談してこれからどうしたいのかを決めると思う。それが家族、だよね。」
「うん♪」
なのはの言うとおり、次会った時に謝ろう。それから私が出来ることをしよう。そう心に決めた。
「ヴィヴィオ、大きくなったね。命の選択の辛さが判るようになった。」
その夜、寝室でフェイトがなのはに言う。
「うん、ヴィヴィオとフェイトちゃんが帰ってくる少し前にはやてちゃんから連絡あったんだ。ノーヴェが辞めてきたってことも聞いてたけど、ヴィヴィオにその話をして落ち込ませたから悪かったって。」
「魔法の強さって心のバランスにも強く影響するよね、心が強ければいいんじゃなくて成長しないと何処かで無理が来る。ヴィヴィオは魔法も心の強いけど見合った成長をしているのか気になってた。」
「安心した?」
「うん…」
「ごめんね、何か協力したいけど…」
「平気、私もだけどはやてちゃんが明日ノーヴェに会いに行くって言ってた。辞めさせずに引き抜こうと思ってるんじゃないかな…調整役っていうより、局内でストライクアーツ専任の指導員ってまだ居ないから。ゲンヤさんも港湾レスキューも辞めるよりは…って思うだろうし。ノーヴェって教えるの本当に上手だったし、人気もあるから私も応援したい。」
「うん、私も応援する。」
2人は笑顔で頷き合った。
翌朝、学院に登校したヴィヴィオは昨日のノーヴェの事を話そうと教室に入ってアリシアの所に向かった。しかしその前に
「ヴィヴィオ、アリシア、大変大変!」
コロナが教室に走って入ってきた。
「暴力事件? 学校で?」
コロナとリオから聞いたのは私立の学校ロズベルグ学院で生徒同士が喧嘩になって暴力事件になったという話だった。
「喧嘩から暴力事件って大袈裟じゃない? 有名なお嬢様学校なんだし、ちょっと頬を叩き合った位じゃないの?」
アリシアの言葉に頷く。
「うん、原因がどっちかわからないけど、片方がほぼ無傷で全員倒したっていうなら…まさか?」
「そのまさか! 魔法を使わないで1人で3人を入院させちゃったって。朝、ニュースで出てたよ。Stヒルデは大丈夫かってママ達が心配していたよ。」
「その辺は気にしてるけど、何も喧嘩が起きないなんて場所は変だから少し位の言い合いは見なかった事にしてる。それに聖王教会系列のここじゃ起きないでしょ。現聖王様もいるんだし、ねヴィヴィオ♪」
「う、うん…私達より先生やシスターも気にしてるだろうし…何かあったら教えて、噂とかでもいいから。」
コロナとリオに言う。何か起きる前に噂だけでもあれば未然に防ぐか大事になる前に動ける。
「わかった。ん? アリシア、さっき…変な事言わなかった?」
「え?」
「現聖王様って…」
「言ってないよ? 聞き間違いじゃない?」
「そう?」
「うん♪」
彼女が頷いた時、予鈴が鳴って私達の会話は終わった。
彼女が席に戻る時、ジト目で見ると小さく舌を出してウィンクした。
~コメント~
今話は色々詰め込みすぎてます。スミマセン…
はやての言葉は以前私の職場に来られた方からお聞きした話です。
ドラマやニュースでも「トリアージ」という言葉が出てきますが助けられる命から助けるという判断を共有し明示化するものです。
その判断をする人は勿論専門の医師ですが、判断した時の記憶は強く残っているそうです。某病気でその様な判断がされないようにと思います。
そして、後半は真逆の話です。ようやく【彼女達】の登場です。
初等科に入ってからあっちこっちをキョロキョロとみている。
「何言ってるのもう…点検に来た訳じゃないでしょ。」
「まぁ癖みたいなものだな。完璧に安全な建物なんて無いから、ちょっとでも不安な場所があればそれを伝えるのも私達の仕事だ♪」
「ふーん、あっ着いた。アリシア部屋取ってくれてありがとう。」
ミーティングルームのドアが開いていて中には既にアリシアが居た。
「ううん、丁度先生の所に行ってたから。ノーヴェさん、ごきげんよう。」
「アリシア、久しぶり♪」
ヴィヴィオはアリシアからペットボトルのお茶を2本受け取ってノーヴェに1本渡してそのまま席へと促す。
「それで、どうして辞めちゃったの? 港湾レスキュー」
ヴィヴィオはアリシアの隣に座り、ノーヴェが座るのを待って聞いた。
「…何かあったんですか? 私達に何か用が?」
「…まぁ…何かあったって言えばあったんだけどな…。先週、私がここに来た時の事覚えてるか?」
「先週? うん、覚えてる。クラブの練習で聖王教会の騎士シャッハとディードと一緒に来てたよね?」
「ああ、本当はオットーかセインが来る予定だったんだけど、2人ともスキルが特殊だからな。それで非番…休みだった私に声をかけてくれたんだよ。私も魔力コアのデバイスには興味あったし、ヴィヴィオ達が通う学校っていうのも見たかったから。」
先週、クラブの指導で聖王教会からシャッハとディードが来ていた。2人と一緒にノーヴェが居たのは見て知っていた。
ただその日はアリシアが魔力コアのプロモーションとして管理局広報部に行っていたので、ヴィヴィオは副会長として色々な雑務をこなしていた。
…行ってディードから『陛下』呼びされると色々変な事になるのでわざと避けていた…と言う理由も少しあったりする。
オットーとセインも魔法は使えるけれど、自身の能力【IS】が特殊過ぎるから彼女に声をかけたのだろう。
「ノーヴェさん、教えるの上手でしたよね。私は見られなかったんですが、クラブの感想で『また教えに来て欲しい』って何人も書いてました。凄い人気ですよ」
「ああ、私も楽しかった。最初上手く使えず魔方陣すら作れなかった子が少し教えただけで一気に覚えていくんだ。こういう子供達…いや、魔法が使えなかった人達に教えたい、何かの力になりたい。こんなに強く思ったのって初めてだった。」
「…でもそんな私の我が儘でレスキューの仕事を放り出していいのかわからなくなっちまった。1週間色々考えて…諦めきれなかった。それで今日、隊長に辞表を出して辞めてきた。」
「………」
「………」
彼女の話を聞いて、私とアリシアは目が点になり唖然としていた。
大切な事を思いっきり飛ばしている…それに気づいたからだ。
「ごめんヴィヴィオ…ちょっと整理させて、私…頭痛くなってきた。」
隣で額に手を置くアリシアに私も同意見だ。
「…ノーヴェ…」
「なんだ?」
「え~っと…先に謝っておくね、色々ごめん。ノーヴェってバカなの?」
思わず言葉が出てしまった。
「ハァッ!? ヴィヴィオ、いくら友達でも大人に対してそれは失礼じゃねーのかっ?」
声を荒げる彼女に私はそれ以上の勢いで言い返す。
「あのねっ!『港湾レスキュー辞めて教えに来ました♪』って、幾ら教えるのが上手くても誰でも入って良い場所じゃないの! ここはStヒルデ学院の中でクラブも管理局や聖王教会、デバイスメーカーの人でも限られた人しか来られないんだよ! 今日入れたのは管理局員だって知ってたから入れて貰えただけじゃないの? 辞める前に、チンクやゲンヤさん通してはやてさんに話をして『トレーナーをしたい』とか相談すれば良いじゃない。いきなり辞めるなんて言ったらみんな「えっ?」ってびっくりするだけでしょ!」
「あっ!…」
部署は全然違っても港湾レスキューも魔力コアの支援を行っている組織も管理局、それもミッドチルダ内の組織である。
主催しているのは民間団体でも、支援しているのは管理局や聖王教会、デバイスメーカーでとりまとめは八神はやてが居る部署が行っている。猫の手も借りたい程忙しいのは知っているから彼女に相談すれば彼女やノーヴェの保護者、ゲンヤ・ナカジマ・港湾レスキューの隊長が融通出来ただろう。だがそれは彼女が管理局員であった時の話で辞められたら全くの無関係。
1週間悩むのは判るけど、誰にも相談しないで『辞めます』なんて言ったら…港湾レスキューの同僚や上司は驚き混乱したに違い無い。
しかも彼女はデバイスを持っていないか、通信を切っている可能性もある。そうじゃないとチンクやスバル、ディエチが探し回ったりしないからだ。
普段から落ち着いている彼女の声が慌てていたのも納得した。
「…ノーヴェさん、辞めちゃっても大丈夫だったんですか?」
今度はアリシアがノーヴェに聞く。
「えっ?」
「私はチンクさんから少し聞いた位しか知りませんが昔の事件の保護処分ってもう無くなってるんですか? チェントでも保護観察が無くなるのに時間かかってましたし、チンクさんは『昔迷惑をかけたから当然、時々報告する程度だから気にしてない』って言ってましたけど、それってチンクさんはママの研究所に居ても管理局からの出向扱いになってるからその程度で済んでるんだって聞いたような…。」
「…あっ!!」
ノーヴェの顔がみるみる青くなってきた。
彼女はまだJS事件の保護観察処分が解除されていないらしい。
事情が事情だったから管理局員や聖王教会に居ればその処分はほぼ有って無いようなものだけれど、辞めてしまったら…。
「どうしよう…それってもしかして脱走したのと同じになるんじゃ…」
「そこまで考えてなかったんだ…そうかもね。既にここに居るのを教えてるから捕まえに来るんじゃない?」
深いため息をつきながら言う。
「ノーヴェ・ナカジマ! あなたを逮捕します!」
その時ガラッとドアが開くと同時に声が聞こえた。
「!!」
思わず立ち上がるノーヴェ
「ディエチ、チンク、スバルさん…」
「やっとみつけた…ノーヴェっ!何考えてるの」
ドアの前には目尻を吊り上げた3人が立っていた。
「チンクさんなら私とチェントの保護者代理になってるから、入った所で私の名前を言えば通してくれる様にと、チンクさんにはスバルさんとディエチさんと一緒に学院に入って貰う様に頼んでおいたの。チェントのお迎えで来てくれるから入り方も知ってるし。」
手回しが早いと心の中で拍手する。
「色々とすまなかった、礼を言う。」
「いいえ、気にしないで下さい。それよりも…」
「チンク、どうするの? 私達は話を聞いたけど…」
さっきの話をかいつまんで話すと彼女もハァ~っと深いため息をついた。
私達の会話にノーヴェ達が入って来ないのは少し離れた部屋の隅で彼女とスバルが口論中で、ディエチが時々手が出そうになる2人を押さえているからである。
授業中だったら大変だったけれど放課後で場所も会議室だしディエチが遮音結界を作っているから外にも影響は出ていない。
それでもスバルとノーヴェは激しく言い合っているのは2人の様子から十分に伝わってきていた。
「とりあえず家に連れて帰って家族会議をするつもりだ。アリシア、プレシアにはこのまま帰宅させて欲しいと伝えてくれ。我が儘ばかり言ってすまない。」
「いいえ、事情が事情ですし、その辺も含めて伝えておきます。」
同情しますというのが見て取れる笑みで頷く。それを見てチンクは再び眉を吊り上げ振り返る。「ノーヴェ、スバル、ディエチ、口論はそこまでだ。ここでは迷惑がかかる、帰って家族会議をしよう。父上にも聞いて貰う。ノーヴェ…お前の行いがどれだけの人に迷惑かけたのか…考えてくれ。」
「ごめん…チンク姉…」
流石にそこまで言われてノーヴェも言い返せずシュンとなった。そのまま彼女を伴ってチンク達は部屋を出て行った。
「……なんだかすっごく疲れた…」
「…同感…」
「「ハァ~~~~…」」
私とアリシアは同時にため息をつくのだった。
その後、私はチェントのお迎えに行ったアリシアと別れた後もノーヴェの事が気になってはやてに連絡した。
『はい、八神はやてです。ヴィヴィオ、どうしたん?』
「こんにちは、急に連絡して…はやてさん、あのノーヴェの話、はやてさん知ってます?」
『? ノーヴェがどうしたん?』
彼女には連絡が届いていないらしい。
ヴィヴィオは今日あった事をはやてに話した。
「アハハハハ、ヴィヴィオとアリシアも散々やったな。本当に辞めてたら私の所にも話は来てるやろうし、その様子やとスバルも驚いてたみたいやから、ヴォルツ隊長が止めてくれてたんとちゃうかな。」
ヴォルツと言う名前を聞いて思い出した。
以前マリンガーデンに現れたマリアージュを倒した時、RHdの強制通信機能を使って連絡してくれた人だ。
「全く人騒がせなんだから…もうっ!」
『ヴィヴィオ、そうノーヴェを責めんといて。私も少し、ノーヴェの気持ちもわかるよ。』
『ノーヴェやスバルの仕事、港湾レスキューは海で何か事故や事件があれば動く組織でな、特に事故の時は命の選択に迫られる。』
「命の選択?」
『うん、1人助けてる間に2人…10人以上が亡くなったっていう事故もあるし、自分の身を守る為に助けに行けん時もある…。そういう現場をノーヴェとスバルは何度も見てきてる。』
『そんな時、安全な場所で子供に魔法を教えた。今まで魔法を使いたくても資質が無くて使えなかった子達や、初めて使えて嬉しかったと思うよ。』
『苦しがったり痛がったりして泣いてるんとちゃう、嬉しさからの涙…それを見て心が揺れへん訳がない。みんなに喜んで貰える仕事…未来に繋がる仕事と命を助ける仕事…今の仕事から逃げるな、どっちかを選べ…なんて私には言えん。だから、ノーヴェを責めんといて』
ノーヴェの仕事は知っていた。港湾レスキューというのが海で起きた事故や事件の対応ということも…その『対応』の中まで知らなかった…知ろうとしていなかった。
「………バカはわたしだ…何にも知らなくて…後先考えずに…楽しいから来たって…勝手に思い込んで…本当にバカだ…」
【色々ごめん。ノーヴェってバカなの?】
友達でも…何でこんなことを言ったのだろう。穴があったら入りたい。自分の無知さ加減が恥ずかしさを通り越して怒りすら覚えた。
『ヴィヴィオ、ヴィヴィオが気にする必要ないよ。ヴィヴィオが言った様に辞めなくても方法はあったし、いきなり辞めたらどうなるかまで考えてなかったノーヴェが軽率やったのは間違い無い。実際ノーヴェもヴィヴィオとアリシアに言われるまで気づいて無かったみたいやし、そのまま他世界にゲートで行ってたら間違い無く捕まってたな…。私の方で何かあったら連絡するよ。』
「うん…ありがとう…」
そう言うと通信は切れた。
「うん、ありがとう。帰ってきたみたいだから切るね」
「ただいま…」
私が家に帰るとなのはは先に帰っていた。部屋着姿でエプロンを着けていて、美味しそうな香りが漂っている。誰かとはなしていたのだろうか?
「おかえり~♪、元気ないね? どうしたの?」
心配そうに覗き込まれる。
「ううん、なんでもないよ。うん♪ 着替えてからお手伝いするね~。」
「は~い、フェイトちゃんももうすぐ帰ってくるから一緒に食べよう♪」
慌てて誤魔化そうと笑顔を見せて靴を脱いで階段を駆け上った。
私が着替えている間に下から『ただいま~』って声が聞こえた。フェイトも帰ってきたらしい。
ブレザーとリボンとスカートをホックに掛けてからシャツを持って階段を降りる。
「フェイトママおかえりなさい~」
「ただいま、ヴィヴィオも帰ってきたところ?」
「うん」
「おかえりなさい、もうすぐご飯出来るからフェイトちゃんも着替えて来て~、ヴィヴィオもお手伝いおねがい~」
キッチンからなのはの声が聞こえてきた。
「「は~い♪」」
私達は声を揃えて答えると、バスルーム横の服入れに持っていたシャツを入れてキッチンへと向かった。
「そうだ、今日帰る少し前に教導隊に連絡来てたんだけどノーヴェがStヒルデにプライベートで来てたんだって?」
「プライベートってお休みに?」
食事の間の談笑で思い出した様になのはが言いフェイトが聞く。
「うん、今日行ってた局員がノーヴェを知ってて、お昼頃に『一緒に行ってもいい?』って連絡があったんだって。教える時にサポートが多いと安心だしノーヴェは教えるのも上手だから助かったみたいなんだけど、休日まで来て貰って良かったのかなって気にしてた。ヴィヴィオ、ノーヴェが来てたの知ってる?」
聞き役に回っていたけれど話を振られてドキッとなって体が震えた。
「うん…あのね…」
誤魔化しても後で直ぐわかるだろうから今日のことを2人に話した。
「…ノーヴェ…いろいろ凄いね」
話し終えるとフェイトは苦笑いしていた。彼女は何も知らなかったらしい。
「私…どうすればいいかな?」
「それで帰ってきた時、元気がなかったんだ…。そうだね~、ノーヴェと次に会った時『ごめんなさい』って謝ればいいんじゃないかな。そこからは私達じゃなくてナカジマ家で考えればいいよ。ママも相談に乗って欲しいとか言われたら協力するね。」
「ヴィヴィオに私達みたいな家族が居るように、ノーヴェにも相談出来る家族がいるんだし、きちんと相談してこれからどうしたいのかを決めると思う。それが家族、だよね。」
「うん♪」
なのはの言うとおり、次会った時に謝ろう。それから私が出来ることをしよう。そう心に決めた。
「ヴィヴィオ、大きくなったね。命の選択の辛さが判るようになった。」
その夜、寝室でフェイトがなのはに言う。
「うん、ヴィヴィオとフェイトちゃんが帰ってくる少し前にはやてちゃんから連絡あったんだ。ノーヴェが辞めてきたってことも聞いてたけど、ヴィヴィオにその話をして落ち込ませたから悪かったって。」
「魔法の強さって心のバランスにも強く影響するよね、心が強ければいいんじゃなくて成長しないと何処かで無理が来る。ヴィヴィオは魔法も心の強いけど見合った成長をしているのか気になってた。」
「安心した?」
「うん…」
「ごめんね、何か協力したいけど…」
「平気、私もだけどはやてちゃんが明日ノーヴェに会いに行くって言ってた。辞めさせずに引き抜こうと思ってるんじゃないかな…調整役っていうより、局内でストライクアーツ専任の指導員ってまだ居ないから。ゲンヤさんも港湾レスキューも辞めるよりは…って思うだろうし。ノーヴェって教えるの本当に上手だったし、人気もあるから私も応援したい。」
「うん、私も応援する。」
2人は笑顔で頷き合った。
翌朝、学院に登校したヴィヴィオは昨日のノーヴェの事を話そうと教室に入ってアリシアの所に向かった。しかしその前に
「ヴィヴィオ、アリシア、大変大変!」
コロナが教室に走って入ってきた。
「暴力事件? 学校で?」
コロナとリオから聞いたのは私立の学校ロズベルグ学院で生徒同士が喧嘩になって暴力事件になったという話だった。
「喧嘩から暴力事件って大袈裟じゃない? 有名なお嬢様学校なんだし、ちょっと頬を叩き合った位じゃないの?」
アリシアの言葉に頷く。
「うん、原因がどっちかわからないけど、片方がほぼ無傷で全員倒したっていうなら…まさか?」
「そのまさか! 魔法を使わないで1人で3人を入院させちゃったって。朝、ニュースで出てたよ。Stヒルデは大丈夫かってママ達が心配していたよ。」
「その辺は気にしてるけど、何も喧嘩が起きないなんて場所は変だから少し位の言い合いは見なかった事にしてる。それに聖王教会系列のここじゃ起きないでしょ。現聖王様もいるんだし、ねヴィヴィオ♪」
「う、うん…私達より先生やシスターも気にしてるだろうし…何かあったら教えて、噂とかでもいいから。」
コロナとリオに言う。何か起きる前に噂だけでもあれば未然に防ぐか大事になる前に動ける。
「わかった。ん? アリシア、さっき…変な事言わなかった?」
「え?」
「現聖王様って…」
「言ってないよ? 聞き間違いじゃない?」
「そう?」
「うん♪」
彼女が頷いた時、予鈴が鳴って私達の会話は終わった。
彼女が席に戻る時、ジト目で見ると小さく舌を出してウィンクした。
~コメント~
今話は色々詰め込みすぎてます。スミマセン…
はやての言葉は以前私の職場に来られた方からお聞きした話です。
ドラマやニュースでも「トリアージ」という言葉が出てきますが助けられる命から助けるという判断を共有し明示化するものです。
その判断をする人は勿論専門の医師ですが、判断した時の記憶は強く残っているそうです。某病気でその様な判断がされないようにと思います。
そして、後半は真逆の話です。ようやく【彼女達】の登場です。
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