「う…ん……」
高町家の客間、布団に寝かされた少女の口から言葉が洩れる。
その声を聞いてなのはは彼女の顔を覗く。
ここのなのはから翠屋でヴィヴィオが倒れたと連絡を受けた。しかし娘のヴィヴィオはブレイブデュエルのグランプリで遊んでいるし、ここの未来からやってきたヴィヴィオはグランツ研究所のオペレーションルームで観戦している。
3人目のヴィヴィオと聞いて心配というより何処から来たのかというのと何かの前触れの様な気がしてシャマルにフェイトやヴィヴィオ達にグランプリが終わって落ち着いたら高町家に来るように伝言を頼んだ。
そうして戻ってくると士郎が客間に布団を敷いていた。
「…表情が変わったね。」
モニタを見てアリシアは呟く。
シュテルが言い出した時どうフォローしようかと考えたけれど先にディアーチェがフォローしてくれて助かった。
でも同時に彼女の言葉も引っかかる。ヴィヴィオはシュテルとデュエルしながら何かをしている…それは何?
(ストライクスターズも使ってないし…何を狙ってるの?)
アリシアがなのは戦やフェイト戦で見せた様にヴィヴィオも何かを隠している。それがもうすぐ見られるかもしれない。
八神堂は古書店である。ブレイブデュエルを始めてからは子供達が多く来るようになった、しかしそれ以外にも探究心に駈られて静かに本を探しに来る者が偶に居たりする。
祝日の午後、1階の古書店は静かで独特の雰囲気を出していた。
1人の男性が1冊の本を片手にカウンターへと持ってくる。
「これを…誰も居ないのか?」
「の~~」
「500円です。」
いきなり聞こえた野太い声に驚きながらも
ポケットから500円玉を取り出して渡すと【ソレ】は起用にレジを打ってレシートを渡し
本を紙袋に入れて閉じて渡した。
「これは…」
「どっちが勝つか判らなくなってきたな。」
ユーリの呟きに続ける様にディアーチェが言う。
「うん…」
レヴィも頷く。
ディアーチェとレヴィはユーリの居るオペレーションルームに移動してデュエルを観戦していた。モニタの中で戦っているフェイトとアリシアはそれ程白熱していた。
ライトニング2とソニックフォーム、どちらも高速移動に特化したジャケット。その上でSonicMoveを同時に2つ使いながらそれぞれが魔法を使っている。
若干アリシアが押していて、最初に受けたダメージは大差が無くなってきている。それよりも3人を驚かせたのがフェイトがアリシアに合わせてかSR+カード【疾風迅雷】でバルディッシュを2本の剣に変えていたからだ
ブレイブデュエルの観戦中、月村すずかはなのはのポケットの中で光っているのを見つけた。
「なのはちゃん、携帯光ってる。」
「ホントだ。お母さん?」
ポケットから携帯を取り出すと首を傾げる。
かけようとした時、一緒にいた美由希の携帯が震えて彼女が取る。
「もしもし、母さん? うん、一緒にいるよ?…ちょっと待って。なのは、母さんから」
そう言うと美由希はなのはに携帯を渡した。
「クロスファイアアアアーッ」
「遅いよっ!」
「!?」
慌てて離れる。直後集束される魔法が爆発した。
アクセルシューターが集まる場所へレヴィが何かの射撃系魔法を放ったからだ。
(すごいっ、ここまで出来るんだ…)
ヴィヴィオは対戦相手のレヴィに驚く。
常に高速移動系魔法と2本の大きな剣を使っている状態でまだ射撃魔法を撃つ余裕があるとは思っていなかった。
「ママもお喋りなんだからっ!」
クロスファイアシュートの弱点を突かれて思わず悪態をつく。
「さ~てと…」
笑顔で観客に向かって手を振った後、真顔になる。
「どうするかな」
アリシアは考えていた。
多分こっちの高町なのはは1番やっかいな相手だ。
高火力で堅いジャケットの白のセイクリッドと高速移動が出来る黒のジャケット、フェイトがブレイズモードを持っているから彼女もエクセリオンモードを持っている。
そして…何よりもこっちの彼女は恭也や美由希と一緒に剣を練習している。練習してきた技が通じるのか?
立体認識の良さや切れたヴィヴィオと1時的とは言え対等に渡り合えたのを見ている。
予選はWeeklyと違って3勝したデュエリストから抜けていく事もあってか思ったよりスムーズに進み午前中に終わった。
「結構沢山いるね。」
トーナメント表が表示された大画面モニタを見てヴィヴィオは呟いた。
メインショップの3店で開催しているからか人数が多くて何処に入っているのか判らない。
「ヴィヴィオこっち」
アリシアに言われて行くとローダーの横に置かれたモニタに同じトーナメント表が表示されていた。
「これは凄いな♪」
「うん、流石だね」
八神堂のカウンターでヴィヴィオ達のデュエルを見てはやてとフェイトは少し驚いていた。
研究所に行くとは伝えていたけれどまさかいきなりセクレタリーのデュエルに参加するとは…
ヴィヴィオも凄いが彼女の指示で動ける少年達やトーレと激戦を繰り広げる少年は流石グランツ研究所のデュエリストと言ったところか。
しばらくするとヴィヴィオの近くに居た少年2人が離れウーノとクアットロに対し砲撃魔法を撃ち始めた。ただ彼らも黙っているだけではなく中距離型・支援型の彼女達に対し攻撃することでセクレタリーの収集能力を全て奪うつもりだろう。
こっちに来て4日目の朝、ヴィヴィオはいつも通り丘の上にある公園へと来ていた。
アリシア達はキャンプで居ないし、フェイトはこっちのシグナムに半ば無理矢理朝練につきあわされている。
大きく息を吸い込み瞼を閉じる。
こっちの世界には魔法が無い。それは辺りに漂う魔法の欠片が無いからリンカーコアが鼓動することはない。意味の無い練習なのかも知れないけれど心を落ち着かせる練習だけは欠かそうとは思わなかった。
そんな時坂の下から駆け上がってくる足音が聞こえた。
「お友達の誕生日にお呼ばれするの。それは楽しみね」
「うんっ♪」
アリシアが異世界に遊びに行ってしまったその日、プレシアが朝食の後片付けをしていたところチェントがあることを口にした。
『来週友達の誕生会にお呼ばれになる』らしい。
来週が待ち遠しそうな彼女に笑顔で答えながら思案する。
海鳴に居た頃はアリシアも良く友達の家に遊びに行っていた。
こういう話を聞くと母としては何を持たせて行けばいいのかとか一緒に行って挨拶を…とか考えるところなのだけれど、彼女の場合は少し違っていた。
「ごめ~んヴィヴィオちゃん、ちょっと手伝って。」
「あっ、はい。」
八神堂のカウンター奥で読書中のヴィヴィオははやてに呼ばれたのを聞いて本を棚に置いて彼女の方を向いた。彼女はタウンター横の棚から大きな箱を下ろそうとしていたが今にも箱が落ちそうになっている。
慌てて駆け寄って箱を支える。
「重っ、これを下ろせばいいですか?」
「うんありがとな。」
ゆっくりと床に下ろし、はやてが箱を開けると何か変わった機器が出てきた。
その横に看板も…
急ぐヴィヴィオ、その視線の先に
「やはり2人は強かったですね。」
「はい、スバルさんとティアナさんの連携は凄いです。」
そう言って店から出てきたヴィヴィオとアインハルトを見つけた。
更に速度を上げて…
「捕まえたっ!!」
ヴィヴィオの手をつかんだ。
「ヒアッ!?」
「ヴィヴィオさんっ!!」
「ヴィヴィオちゃん、今日はどうするん?」
こっちに来て3日目の朝、練習を終え八神家に戻って来てみんなと朝食を食べていた時はやてが聞いた。
「そうですね。今日は~本をゆっくり読みたいかなって、良いですか?」
「「「「「本?」」」」」
ヴィヴィオが答えると全員に聞き返された。
「はい、前に倉庫で整理してた時面白そうな本が沢山あったから読みたいな~って思ってたんです。」
「本当に凄かったんだよ♪」
グランツ研究所と八神堂でずっとブレイブデュエルをした夜、高町家でなのはは士郎や桃子達にグランツ研究所での事を話した。
アリシアも照れながら話を聞いていた。
フェイトを倒した後彼女を追い詰めたのは夏休みの宿題の合間にヴィヴィオとこんな連携出来たら楽しいよね~と言ってシュテル達と対戦した時を考えたフォーメーションが基になっていて、フォートレスとライトニング2を使おうと少し修正していた。
(あんなに上手くいくなんて…って言わない方がいいよね。 あっ、そうだ!)
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