第14話「偽物? 本物?」
- リリカルなのは AdventStory > 第2章 遭遇と前兆
- by ima
- 2016.01.03 Sunday 16:44
「ヴィヴィオちゃん、今日はどうするん?」
こっちに来て3日目の朝、練習を終え八神家に戻って来てみんなと朝食を食べていた時はやてが聞いた。
「そうですね。今日は~本をゆっくり読みたいかなって、良いですか?」
「「「「「本?」」」」」
ヴィヴィオが答えると全員に聞き返された。
「はい、前に倉庫で整理してた時面白そうな本が沢山あったから読みたいな~って思ってたんです。」
こっちに来て3日目の朝、練習を終え八神家に戻って来てみんなと朝食を食べていた時はやてが聞いた。
「そうですね。今日は~本をゆっくり読みたいかなって、良いですか?」
「「「「「本?」」」」」
ヴィヴィオが答えると全員に聞き返された。
「はい、前に倉庫で整理してた時面白そうな本が沢山あったから読みたいな~って思ってたんです。」
ヴィヴィオがここに来たかった理由の1つがこれ。
古書を扱う八神堂には古今東西の沢山の本がある。読書好きが高じて無限書庫の司書になったヴィヴィオとしてはブレイブデュエルも面白いけれど並んでいる本は宝の山で全部読んでみたいという衝動にかられていた。今日はアリシアも来ないしどっぷり本の世界に潜るつもりだ。
「ええよ、でも…夏休みに入って学校も休みでブレイブデュエルもフル稼働するから…挑戦する子もおるんちゃう? カウンターやと邪魔されるし倉庫は暑いし…2階使う?」
「大丈夫です。」
そう言って席を立って部屋に戻りある物を見せた。
それは去年、元世界のはやてがヴィヴィオをすずかに変装させる為に用意したウィッグと服。
ウィッグをつけてくるっと回る。
「これなら私だってわかりません♪」
「似合ってる♪ 用意が良いね。」
「持って来てたんだ…」
まさかそんなのまで持って来ているとは思っていなくて可笑しくて笑うはやてと苦笑するフェイトだった。
その後はやて達と八神堂に来たヴィヴィオは文字通り本の虫となった。
古書の並べられた奥にある机に何冊か本を置き、自らも背を向け椅子に座って紙の中の世界に入り込んだ。
開店直後からブレイブデュエル目当ての子供達が来た為、はやてとフェイトを除く全員が地下に行っている。
ヴィヴィオの背を眺めながら
「こうして見てるとどこにでも居そうな本好きな女の子なのにね。」
カウンターでフェイトが呟くのを聞いてはやては頬を崩す。
「そうですね。フェイトさんはT&Hに行かなくていいんです?」
「うん、昨日アリシアが…こっちのね、言ったんだ。『母さん達やエイミィ、リニスはみんな事情知ってるから質問攻めにされるよ。秘密に出来る自信ある?』って、みんなに聞かれちゃうと悪い話も言っちゃいそうだから」
リンディやエイミィは兎も角、犯罪者で1度死んだ事にされているプレシアやアリシア、本当に死んでしまっているリニスは話を聞くだけでも相当なショックを受けるに違い無い。
「ああ、そうですね。あの人達の攻勢には耐えられませんね。」
「うん、その代わり夕方からグランツ研究所へ行ってシュテル達と対戦するんだけど、そこにフェイトが来るって。」
「それは楽しみですね。」
「うん」
対戦と言いながらもはやての目から見ても異世界のなのは、フェイトの力量はシュテル達を圧倒していた。
多分あのレベルに至るのはマスターモードを使いこなせた場合か本気のリインフォースとシグナム位ではないだろうか?
本当はヴィータも誘って貰って一緒に鍛えて欲しい所なのだけれど、限られた時間でより多くを得る為にフロントランナーになっているシュテル、レヴィ、ディアーチェ、フェイトを更に昇華して貰い彼女達が他のデュエリストに教えて貰えた方が良い。
DMSの面々がこちらに話をしてこなかった理由も理解していた。
多分それがヴィヴィオが言っていた『良い未来』の可能性。
「それでしたらそれまでここでゆっくりしてて下さい。」
「うん、ありがとう。」
笑顔で頷きヴィヴィオを眺めるフェイトを見て彼女も母親なんだなと感慨にふけるのだった。
それから何事もなく3時間程時間が過ぎて、お昼近くになったから持って来た弁当を広げヴィヴィオに声をかけようかとしていた時、地下からのエレベーターが上がってきて
「はやてっ、ヴィヴィオは?」
凄い剣幕でカウンターに飛び込むようにヴィータが駆け込んできた。
「? あこでずっと本読んでるよ。」
指さす。彼女はヴィヴィオの背を見ると首を傾げる。
「どうしたん?」
「う、うん、さっき遊んでた子からヴィヴィオとアリシアが乱入してきたって…駆けっこだったんだけど、滅茶苦茶速くてあっという間に全員を追い越して勝って直ぐ消えちゃったって。」
「でも、ヴィヴィオちゃん今日はブレイブデュエルしてへんよ。ホルダーとメモリーもここにあるし。」
そう言うとカウンター側の棚に置かれた彼女のポシェットを指さす。ポシェットの外側にあるポケットからブレイブホルダーが見えていた。
「アリシアも今日はブレイブデュエルをしてないよ。今朝から恭也さんと美由希さんと一緒にキャンプに行っちゃったから。」
はやてとフェイトも首を傾げる。
「でも…じゃあ誰なんだ?」
ヴィータが聞き返した時、
【トルルルルル】
はやての携帯が鳴った。
「T&Hからや。はい、八神堂の八神はやてです。」
『もしもし、T&Hのエイミィ・リミエッタです。ちょっと聞きたいんだけど、八神堂でヴィヴィオちゃんのブレイブホルダー交換した?』
「え? してませんけど?」
エイミィが突拍子も無いことを聞いてきてはやては更に首を傾げる。
「ちょっと待って下さい、スピーカーモードに変えますので。」
そう言ってフェイト、ヴィータにも聞こえる様に携帯を置いた。
「はい、OKです。」
『うん、さっきT&Hで遊んでる子からヴィヴィオちゃんとアリシアちゃんが乱入してきたって連絡があったんだ。それで調べてたらスカイテニスでヴィヴィオちゃんと知らない女の子が乱入してきてた。もう1人の子はツインテールにしてるからアリシアちゃんと間違えたんだと思う。』
「うん、八神堂でもさっきヴィヴィオが乱入してきたってヴィータから聞いたところなんです。でも今日はヴィヴィオはずっと読書しててブレイブホルダーも手元にあります。」
『じゃあ誰なんだろう? 映像送るから見て』
「はい、のろうさ~」
はやては本を整理していたうさぎ型のチヴィット、のろうさを呼ぶ。
のろいうさぎ―のろうさは外のチヴィットとは少し違う機能を持っていて丸い目から映像を投影したりカメラ機能を持っていたりする。
呼ばれたのろうさは本棚に持っていた本を置くとゆっくりと飛んできてカウンターに降りた。
「今届いたT&Hからのデータ見せて。」
ヒョイと手を挙げると目が光り画面を投影する。
「!?」
そこに映っていた人物を見て3人は息を飲み込んだ。
「………」
「ヴィヴィオ~」
「…………」
「ヴィヴィオ~、聞こえてないのか?」
「………………」
「オィッ!!」
「キャッ!!」
読んでいた本の間にヴィータの顔が突然現れて驚きの声をあげる。
「び、びっくりさせないでよ!」
「さっきから何度も呼んでるのに全然答えないお前が悪い! それよりちょっと来い」
そう言って強引に裾を引っ張られて立ち上がる。
「わ、わかったから引っ張らないで」
読みかけの本に枝折りを挟みヴィータの後を追いかけた。
「どうしたのフェイトママ、はやてさん」
「さっきブレイブデュエルにヴィヴィオが出てきた。八神堂とT&Hで1回ずつ乱入してる。」
「え? でも、私…」
「ヴィヴィオじゃないのは判ってるよ。それでT&Hのエイミィから乱入時の映像が届いたんだけど…見て」
はやてとフェイトに促されて映像を見る。そしてそこに映っていた者を見て
「うそぉっ!!」
店内に声を響かせた。
その中に映っていたのはヴィヴィオとアインハルトだったからだ。
「嘘っていうことは、ヴィヴィオちゃんは2人を知ってるんやね。コードネームは『聖王』と『覇王』」
はやてに聞かれて考える。
この世界に彼女達は存在しない。彼女達も異世界の…魔法社会の住人だからだ。教えて良い物か判断は出来ないけれど、彼女達が居るのは何か理由がある筈。
だったら急いで会わなくちゃいけない。
「……はい、2人は異世界の私と彼女の友人、アインハルトさんです。2人には何度か会っていて、前にここに来ちゃった時も本当は彼女達の世界に行く予定だったんです。ウサギと豹タイプ、彼女達のデバイスも知ってます。」
そう答えながら頭の中では彼女達が来る可能性を考える。
異世界間を移動するのは管理世界を移動するのと訳が違う。時空転移の様に過去と未来を動くのでもなく、虹の扉で刻の魔導書同士を繋いで世界を移動するのでもない。本当の意味で刻の魔導書の管理権限が必要なのだ。
彼女達の世界でその資質を継いでいるのはアインハルト。彼女が管理者となったのか? だとしてもこの世界は現実で魔法が使えない。
「…急いで探さなくちゃ。どこから入ってるのか判るんですか?」
「今エイミィさんに調べて貰ってるけど、八神堂は勿論、T&Hやグランツ研究所やなくて提携店から入ってるらしい。店に連絡して貰ったけどデュエルを終えたら直ぐ出て行ったって。」
ということは提携店を回っている…1カ所ずつ行ってもすれ違う可能性が高いし、彼女達が私を知っていてここに居るなら…会わない様に逃げられる。
「ちょっと私出てきます。」
「あっ、それならこれ持ってって、店の携帯。何かあったら直ぐ連絡して。」
「はい。」
ブレイブホルダーとカートリッジをポケットに入れ投げられた携帯を受け取って駆けだした。
「ハァッハァッ…」
そこの前に着いて息を整える。
【カランカラン♪】
「いらっしゃいませ~翠屋にようこそ」
入ってすぐエプロンを着けたなのはを見つけた。
「なのはママっ!」
「ママってヴィヴィオ♪ 変装なんかしちゃってどうしたの?」
笑って言われウイッグをつけたままなのを思い出して外す。
「急いでアリシアに連絡したいの。」
「アリシアに? う~ん…こっちじゃ端末使えないから。ちょっと待ってて、おかあ…じゃなかった、桃子さ~ん」
なのはは厨房の中へと向かった。時を置かず桃子と一緒に戻って来た。
「アリシアちゃんに連絡? 恭也か美由希の携帯にかければ話せるわよ。ちょっと待ってて。」
そう言うと電話を取って番号を押す。
「もしもし美由希? 練習中にごめんね、アリシアちゃん近くにいる? …うん、アリシアちゃん、ちょっと待ってね。今代わるから。」
そう言って電話を差し出され受け取った。
「もしもしアリシア」
『ヴィヴィオどうしたの? そんなに焦って、何かあったの?』
「うん、ここに私とアインハルトさんが来てる。」
『ええっ?』
流石の彼女も驚いたらしい。ヴィヴィオはさっきはやてから聞いた話をそのまま伝えると
『う~ん、私達の知ってる2人ならヴィヴィオが居たら絶対会おうとするから別人じゃないかな? でも全く無関係でもないだろうし…直接会うのが1番いいよね。3店舗で見て貰ってショッププレイヤーに時間稼ぎして貰ってる間にヴィヴィオがその店に行くのが良いんじゃないかな?』
アリシアに言われてヴィヴィオも大切な事を忘れていた。この世界そのものが知ってる時間の彼女達と違うのだ。乱入してきたヴィヴィオとアインハルトも同じ様に知ってる彼女達と別人かもしれない。
「ありがと、ちょっと冷静になれた。そうだね。はやてさんに連絡してみる。」
『うん、明日の夜には戻るからそれまでに何かあったら教えてね。』
そう言うと電話は切れてしまった。
「ヴィヴィオさっきの話、あっちの2人が来てるって本当?」
会話を聞いていたのかなのはに聞かれる。
「うん、でも私達が知ってる人と別人かもしれないって。私も言われるまで考えつかなかった。」
エヘヘと笑う。
「はやてさんに電話しなくちゃ…」
持って来た電話ではやてに連絡すると
『うん、今T&Hとグランツ研究所にも頼んだよ。ヴィヴィオちゃんはそこで連絡あるの待ってて。乱入されたら直ぐに連絡するから。』
彼女も既に予想を立てていたらしく対策を考えていた。
「はい。」
そう言って電話を切った。
「はやてさんが乱入あったらすぐ連絡してくれるって。ママ、それまでここで待ってていい?」
「うん、走ってきたんでしょ? 凄い汗だよ。」
そう言ってタオルとジュースを渡した。
「ありがと。」
受け取って額の汗をぬぐいジュースを一気に飲み干す。
「ねぇねぇ、さっきなのはの事『なのはママ』って呼んでいたけど、もしかしてヴィヴィオちゃん?」
なのはの横から興味津々に聞いてくる。
「? はい」
「やっぱり! 会いたいって思ってたの。恭也も美由希もなのはもみんな会ってるのに私だけ会えなかったから寂しかったの~♪」
頭の中に?マークが沢山浮かび、あっ!と気づく。
そう、ヴィヴィオはここの桃子や士郎とは初めて会うのだ。
(他で会ってたから私は初めてじゃないんだけど、そうだった。)
「はじめまして、高町ヴィヴィオです。」
姿勢を正してペコリと頭を下げた。
「わかりました。時間稼ぎですね。」
その頃、グランツ研究所でははやてからの連絡をシュテルが受けていた。そして目の前のモニタ、ブレイブデュエルの中では小さな2人の少女が戦っていた。中島スバルとティアナ・ランスターだ。
シュテルはブレイブデュエルの合間にプロトタイプシミュレータで2人に教えていた。
「2人とも上手くなりましたね~」
「ええ、基本はもう充分でしょう。ここからは経験を…」
ユーリの言葉に頷いて答えた時
『乱入!?』
ティアナが驚いて声をあげる。
乱入者が表れた。コードネーム【聖王】と【覇王】。
「ショップのシミュレーターなら兎も角、プロトタイプにまで乱入してくるなんて。何者でしょう?」
しかも聖王と名乗った少女のジャケットを見て少し驚く。
「白のセイクリッド…なるほど、確かに間違いますね。ユーリ、彼女達がどこのシミュレーターから入っているのか調べて八神堂に連絡して下さい。」
そう言ってからマイクを取る。
『スバル、ティアナその乱入者は私と同じ位強いです。2人とのデュエルで自分に足りない物を見つけなさい。それが次の練習課題です。』
『ええっ! シュテルさんと同じっ!?』
『無茶苦茶な…』
『スバル、高町なのはもその課題を受けクリアしています。スバルはなのはを目指すのでしょう?』
そう言うと火が付いたらしい。スバルの目つきが変わる。彼女を見てティアナもヤレヤレと言いながら顔つきが変わった。
『期待していますよ、デュエルスタート』
そう言ってデュエル形式をランダムで始めた。
次にはやてから連絡があったのは30分後だった。
その間、桃子と士郎にお母さんはどんな人とか優しい?とか料理は上手?とか趣味とかずっと質問されっぱなしで時折なのはの視線がチクチクと痛かったが、ようやく解放されてホッとする。
はやてからの話だとデュエルは既に始まっていてあと数分で決着がつくらしい。それまでに行かなくてはいけない。
ヴィヴィオは士郎に場所を聞いて翠屋を飛び出した。
~コメント~
新年あけましておめでとうございます。
本年も鈴風堂をよろしくお願いいたします。
ということで新年1回目の更新です。
追いかけられずゆっくりと自分の時間を求めてイノセント世界にやってきたヴィヴィオでしたが、前回来て古書の整理をしていた時に読みたい本をピックアップしていたら面白いかなと思い今話に含めました。
でもそんな時間は沢山作れません。遂に現れたコードネーム聖王と覇王。イノセントをプレイしていれば登場させたかった2人です。
彼女達との遭遇が楽しみです。
古書を扱う八神堂には古今東西の沢山の本がある。読書好きが高じて無限書庫の司書になったヴィヴィオとしてはブレイブデュエルも面白いけれど並んでいる本は宝の山で全部読んでみたいという衝動にかられていた。今日はアリシアも来ないしどっぷり本の世界に潜るつもりだ。
「ええよ、でも…夏休みに入って学校も休みでブレイブデュエルもフル稼働するから…挑戦する子もおるんちゃう? カウンターやと邪魔されるし倉庫は暑いし…2階使う?」
「大丈夫です。」
そう言って席を立って部屋に戻りある物を見せた。
それは去年、元世界のはやてがヴィヴィオをすずかに変装させる為に用意したウィッグと服。
ウィッグをつけてくるっと回る。
「これなら私だってわかりません♪」
「似合ってる♪ 用意が良いね。」
「持って来てたんだ…」
まさかそんなのまで持って来ているとは思っていなくて可笑しくて笑うはやてと苦笑するフェイトだった。
その後はやて達と八神堂に来たヴィヴィオは文字通り本の虫となった。
古書の並べられた奥にある机に何冊か本を置き、自らも背を向け椅子に座って紙の中の世界に入り込んだ。
開店直後からブレイブデュエル目当ての子供達が来た為、はやてとフェイトを除く全員が地下に行っている。
ヴィヴィオの背を眺めながら
「こうして見てるとどこにでも居そうな本好きな女の子なのにね。」
カウンターでフェイトが呟くのを聞いてはやては頬を崩す。
「そうですね。フェイトさんはT&Hに行かなくていいんです?」
「うん、昨日アリシアが…こっちのね、言ったんだ。『母さん達やエイミィ、リニスはみんな事情知ってるから質問攻めにされるよ。秘密に出来る自信ある?』って、みんなに聞かれちゃうと悪い話も言っちゃいそうだから」
リンディやエイミィは兎も角、犯罪者で1度死んだ事にされているプレシアやアリシア、本当に死んでしまっているリニスは話を聞くだけでも相当なショックを受けるに違い無い。
「ああ、そうですね。あの人達の攻勢には耐えられませんね。」
「うん、その代わり夕方からグランツ研究所へ行ってシュテル達と対戦するんだけど、そこにフェイトが来るって。」
「それは楽しみですね。」
「うん」
対戦と言いながらもはやての目から見ても異世界のなのは、フェイトの力量はシュテル達を圧倒していた。
多分あのレベルに至るのはマスターモードを使いこなせた場合か本気のリインフォースとシグナム位ではないだろうか?
本当はヴィータも誘って貰って一緒に鍛えて欲しい所なのだけれど、限られた時間でより多くを得る為にフロントランナーになっているシュテル、レヴィ、ディアーチェ、フェイトを更に昇華して貰い彼女達が他のデュエリストに教えて貰えた方が良い。
DMSの面々がこちらに話をしてこなかった理由も理解していた。
多分それがヴィヴィオが言っていた『良い未来』の可能性。
「それでしたらそれまでここでゆっくりしてて下さい。」
「うん、ありがとう。」
笑顔で頷きヴィヴィオを眺めるフェイトを見て彼女も母親なんだなと感慨にふけるのだった。
それから何事もなく3時間程時間が過ぎて、お昼近くになったから持って来た弁当を広げヴィヴィオに声をかけようかとしていた時、地下からのエレベーターが上がってきて
「はやてっ、ヴィヴィオは?」
凄い剣幕でカウンターに飛び込むようにヴィータが駆け込んできた。
「? あこでずっと本読んでるよ。」
指さす。彼女はヴィヴィオの背を見ると首を傾げる。
「どうしたん?」
「う、うん、さっき遊んでた子からヴィヴィオとアリシアが乱入してきたって…駆けっこだったんだけど、滅茶苦茶速くてあっという間に全員を追い越して勝って直ぐ消えちゃったって。」
「でも、ヴィヴィオちゃん今日はブレイブデュエルしてへんよ。ホルダーとメモリーもここにあるし。」
そう言うとカウンター側の棚に置かれた彼女のポシェットを指さす。ポシェットの外側にあるポケットからブレイブホルダーが見えていた。
「アリシアも今日はブレイブデュエルをしてないよ。今朝から恭也さんと美由希さんと一緒にキャンプに行っちゃったから。」
はやてとフェイトも首を傾げる。
「でも…じゃあ誰なんだ?」
ヴィータが聞き返した時、
【トルルルルル】
はやての携帯が鳴った。
「T&Hからや。はい、八神堂の八神はやてです。」
『もしもし、T&Hのエイミィ・リミエッタです。ちょっと聞きたいんだけど、八神堂でヴィヴィオちゃんのブレイブホルダー交換した?』
「え? してませんけど?」
エイミィが突拍子も無いことを聞いてきてはやては更に首を傾げる。
「ちょっと待って下さい、スピーカーモードに変えますので。」
そう言ってフェイト、ヴィータにも聞こえる様に携帯を置いた。
「はい、OKです。」
『うん、さっきT&Hで遊んでる子からヴィヴィオちゃんとアリシアちゃんが乱入してきたって連絡があったんだ。それで調べてたらスカイテニスでヴィヴィオちゃんと知らない女の子が乱入してきてた。もう1人の子はツインテールにしてるからアリシアちゃんと間違えたんだと思う。』
「うん、八神堂でもさっきヴィヴィオが乱入してきたってヴィータから聞いたところなんです。でも今日はヴィヴィオはずっと読書しててブレイブホルダーも手元にあります。」
『じゃあ誰なんだろう? 映像送るから見て』
「はい、のろうさ~」
はやては本を整理していたうさぎ型のチヴィット、のろうさを呼ぶ。
のろいうさぎ―のろうさは外のチヴィットとは少し違う機能を持っていて丸い目から映像を投影したりカメラ機能を持っていたりする。
呼ばれたのろうさは本棚に持っていた本を置くとゆっくりと飛んできてカウンターに降りた。
「今届いたT&Hからのデータ見せて。」
ヒョイと手を挙げると目が光り画面を投影する。
「!?」
そこに映っていた人物を見て3人は息を飲み込んだ。
「………」
「ヴィヴィオ~」
「…………」
「ヴィヴィオ~、聞こえてないのか?」
「………………」
「オィッ!!」
「キャッ!!」
読んでいた本の間にヴィータの顔が突然現れて驚きの声をあげる。
「び、びっくりさせないでよ!」
「さっきから何度も呼んでるのに全然答えないお前が悪い! それよりちょっと来い」
そう言って強引に裾を引っ張られて立ち上がる。
「わ、わかったから引っ張らないで」
読みかけの本に枝折りを挟みヴィータの後を追いかけた。
「どうしたのフェイトママ、はやてさん」
「さっきブレイブデュエルにヴィヴィオが出てきた。八神堂とT&Hで1回ずつ乱入してる。」
「え? でも、私…」
「ヴィヴィオじゃないのは判ってるよ。それでT&Hのエイミィから乱入時の映像が届いたんだけど…見て」
はやてとフェイトに促されて映像を見る。そしてそこに映っていた者を見て
「うそぉっ!!」
店内に声を響かせた。
その中に映っていたのはヴィヴィオとアインハルトだったからだ。
「嘘っていうことは、ヴィヴィオちゃんは2人を知ってるんやね。コードネームは『聖王』と『覇王』」
はやてに聞かれて考える。
この世界に彼女達は存在しない。彼女達も異世界の…魔法社会の住人だからだ。教えて良い物か判断は出来ないけれど、彼女達が居るのは何か理由がある筈。
だったら急いで会わなくちゃいけない。
「……はい、2人は異世界の私と彼女の友人、アインハルトさんです。2人には何度か会っていて、前にここに来ちゃった時も本当は彼女達の世界に行く予定だったんです。ウサギと豹タイプ、彼女達のデバイスも知ってます。」
そう答えながら頭の中では彼女達が来る可能性を考える。
異世界間を移動するのは管理世界を移動するのと訳が違う。時空転移の様に過去と未来を動くのでもなく、虹の扉で刻の魔導書同士を繋いで世界を移動するのでもない。本当の意味で刻の魔導書の管理権限が必要なのだ。
彼女達の世界でその資質を継いでいるのはアインハルト。彼女が管理者となったのか? だとしてもこの世界は現実で魔法が使えない。
「…急いで探さなくちゃ。どこから入ってるのか判るんですか?」
「今エイミィさんに調べて貰ってるけど、八神堂は勿論、T&Hやグランツ研究所やなくて提携店から入ってるらしい。店に連絡して貰ったけどデュエルを終えたら直ぐ出て行ったって。」
ということは提携店を回っている…1カ所ずつ行ってもすれ違う可能性が高いし、彼女達が私を知っていてここに居るなら…会わない様に逃げられる。
「ちょっと私出てきます。」
「あっ、それならこれ持ってって、店の携帯。何かあったら直ぐ連絡して。」
「はい。」
ブレイブホルダーとカートリッジをポケットに入れ投げられた携帯を受け取って駆けだした。
「ハァッハァッ…」
そこの前に着いて息を整える。
【カランカラン♪】
「いらっしゃいませ~翠屋にようこそ」
入ってすぐエプロンを着けたなのはを見つけた。
「なのはママっ!」
「ママってヴィヴィオ♪ 変装なんかしちゃってどうしたの?」
笑って言われウイッグをつけたままなのを思い出して外す。
「急いでアリシアに連絡したいの。」
「アリシアに? う~ん…こっちじゃ端末使えないから。ちょっと待ってて、おかあ…じゃなかった、桃子さ~ん」
なのはは厨房の中へと向かった。時を置かず桃子と一緒に戻って来た。
「アリシアちゃんに連絡? 恭也か美由希の携帯にかければ話せるわよ。ちょっと待ってて。」
そう言うと電話を取って番号を押す。
「もしもし美由希? 練習中にごめんね、アリシアちゃん近くにいる? …うん、アリシアちゃん、ちょっと待ってね。今代わるから。」
そう言って電話を差し出され受け取った。
「もしもしアリシア」
『ヴィヴィオどうしたの? そんなに焦って、何かあったの?』
「うん、ここに私とアインハルトさんが来てる。」
『ええっ?』
流石の彼女も驚いたらしい。ヴィヴィオはさっきはやてから聞いた話をそのまま伝えると
『う~ん、私達の知ってる2人ならヴィヴィオが居たら絶対会おうとするから別人じゃないかな? でも全く無関係でもないだろうし…直接会うのが1番いいよね。3店舗で見て貰ってショッププレイヤーに時間稼ぎして貰ってる間にヴィヴィオがその店に行くのが良いんじゃないかな?』
アリシアに言われてヴィヴィオも大切な事を忘れていた。この世界そのものが知ってる時間の彼女達と違うのだ。乱入してきたヴィヴィオとアインハルトも同じ様に知ってる彼女達と別人かもしれない。
「ありがと、ちょっと冷静になれた。そうだね。はやてさんに連絡してみる。」
『うん、明日の夜には戻るからそれまでに何かあったら教えてね。』
そう言うと電話は切れてしまった。
「ヴィヴィオさっきの話、あっちの2人が来てるって本当?」
会話を聞いていたのかなのはに聞かれる。
「うん、でも私達が知ってる人と別人かもしれないって。私も言われるまで考えつかなかった。」
エヘヘと笑う。
「はやてさんに電話しなくちゃ…」
持って来た電話ではやてに連絡すると
『うん、今T&Hとグランツ研究所にも頼んだよ。ヴィヴィオちゃんはそこで連絡あるの待ってて。乱入されたら直ぐに連絡するから。』
彼女も既に予想を立てていたらしく対策を考えていた。
「はい。」
そう言って電話を切った。
「はやてさんが乱入あったらすぐ連絡してくれるって。ママ、それまでここで待ってていい?」
「うん、走ってきたんでしょ? 凄い汗だよ。」
そう言ってタオルとジュースを渡した。
「ありがと。」
受け取って額の汗をぬぐいジュースを一気に飲み干す。
「ねぇねぇ、さっきなのはの事『なのはママ』って呼んでいたけど、もしかしてヴィヴィオちゃん?」
なのはの横から興味津々に聞いてくる。
「? はい」
「やっぱり! 会いたいって思ってたの。恭也も美由希もなのはもみんな会ってるのに私だけ会えなかったから寂しかったの~♪」
頭の中に?マークが沢山浮かび、あっ!と気づく。
そう、ヴィヴィオはここの桃子や士郎とは初めて会うのだ。
(他で会ってたから私は初めてじゃないんだけど、そうだった。)
「はじめまして、高町ヴィヴィオです。」
姿勢を正してペコリと頭を下げた。
「わかりました。時間稼ぎですね。」
その頃、グランツ研究所でははやてからの連絡をシュテルが受けていた。そして目の前のモニタ、ブレイブデュエルの中では小さな2人の少女が戦っていた。中島スバルとティアナ・ランスターだ。
シュテルはブレイブデュエルの合間にプロトタイプシミュレータで2人に教えていた。
「2人とも上手くなりましたね~」
「ええ、基本はもう充分でしょう。ここからは経験を…」
ユーリの言葉に頷いて答えた時
『乱入!?』
ティアナが驚いて声をあげる。
乱入者が表れた。コードネーム【聖王】と【覇王】。
「ショップのシミュレーターなら兎も角、プロトタイプにまで乱入してくるなんて。何者でしょう?」
しかも聖王と名乗った少女のジャケットを見て少し驚く。
「白のセイクリッド…なるほど、確かに間違いますね。ユーリ、彼女達がどこのシミュレーターから入っているのか調べて八神堂に連絡して下さい。」
そう言ってからマイクを取る。
『スバル、ティアナその乱入者は私と同じ位強いです。2人とのデュエルで自分に足りない物を見つけなさい。それが次の練習課題です。』
『ええっ! シュテルさんと同じっ!?』
『無茶苦茶な…』
『スバル、高町なのはもその課題を受けクリアしています。スバルはなのはを目指すのでしょう?』
そう言うと火が付いたらしい。スバルの目つきが変わる。彼女を見てティアナもヤレヤレと言いながら顔つきが変わった。
『期待していますよ、デュエルスタート』
そう言ってデュエル形式をランダムで始めた。
次にはやてから連絡があったのは30分後だった。
その間、桃子と士郎にお母さんはどんな人とか優しい?とか料理は上手?とか趣味とかずっと質問されっぱなしで時折なのはの視線がチクチクと痛かったが、ようやく解放されてホッとする。
はやてからの話だとデュエルは既に始まっていてあと数分で決着がつくらしい。それまでに行かなくてはいけない。
ヴィヴィオは士郎に場所を聞いて翠屋を飛び出した。
~コメント~
新年あけましておめでとうございます。
本年も鈴風堂をよろしくお願いいたします。
ということで新年1回目の更新です。
追いかけられずゆっくりと自分の時間を求めてイノセント世界にやってきたヴィヴィオでしたが、前回来て古書の整理をしていた時に読みたい本をピックアップしていたら面白いかなと思い今話に含めました。
でもそんな時間は沢山作れません。遂に現れたコードネーム聖王と覇王。イノセントをプレイしていれば登場させたかった2人です。
彼女達との遭遇が楽しみです。
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