第15話「遭遇、ヴィヴィオとヴィヴィオ」

 急ぐヴィヴィオ、その視線の先に

「やはり2人は強かったですね。」
「はい、スバルさんとティアナさんの連携は凄いです。」

 そう言って店から出てきたヴィヴィオとアインハルトを見つけた。
 更に速度を上げて…

「捕まえたっ!!」

 ヴィヴィオの手をつかんだ。

「ヒアッ!?」
「ヴィヴィオさんっ!!」


  
 驚いて声をあげるヴィヴィオと手を掴んだ私を睨むアインハルト。

「何するのよっ!」

 ヴィヴィオが私の手を振りほどく。

「誰ですか、あなたはっ」
「それはこっちの台詞! どうしてここに居るの? 高町ヴィヴィオ、アインハルト・ストラトス」

 名前を呼ぶと2人はビックリしたらしく体を硬直させた。

「えっ? どうして」
「私達の名前を?」
「私が私だからよっ!」

 そう言って被っていたウィッグを外す。金色かかったブロンドの髪と瞳の虹彩異色を見て目を丸くする。

「わ、私?」
「ヴィヴィオさん?」
「そう、私も高町ヴィヴィオ。あなたたちが乱入したおかげで私も迷惑なの。みんなに連絡しちゃってるから逃げて他のショップに行ってももうブレイブデュエルは出来ないよ。理由があるなら私と一緒に来てっ!」

 混乱するヴィヴィオとアインハルトに対しヴィヴィオは語気を荒げたたみ掛ける様に言った。

(これで…逃げても仕方ないって思ってくれたらいいんだけど…)

 語気を荒げたのは勿論わざとだった。ヴィヴィオは2人とのやりとりで幾つかの確認をしていた。
 まずは2人が本当にヴィヴィオとアインハルトなのかどうか? そして2人は私を知っているのか? 知っていればどうしてここに居るのかを聞くつもりだったけれど、2人の驚く様を見て彼女達はヴィヴィオが知る2人では無いと判断した。そして、もし逃げられない様に唯一魔法が使えるブレイブデュエルが使えないというハッタリを言って彼女達を留めさせた。

「これから八神堂に行くよ。ついてきて。」
「「…………」」
「ついてきてっ!」

 大声で言うと我に返ったらしくコクリと頷いて2人はヴィヴィオの後ろをついてきた。



その頃、ヴィヴィオ達の元居る世界では

「クスクス…そうですか、クラウスはアレをそんな風に思っていたのですね。」
「はい、私も多分そうじゃないと思っていたのですが、彼は思い込んでいたみたいで…」

 八神家のリビングでイクスとアインハルトが思い出話を楽しんでいた。勿論イクスは記憶と意識をオリヴィエに渡している状態だ。
 アインハルトは兎も角イクスは聖王教会とは複雑な関係である。大昔ベルカ聖王家と冥王イクスヴェリアは敵対関係だった。しかしベルカ聖王家は滅び奉る聖王教会だけが残っている今イクスと争う必要もなく、しかも彼女は大昔の出来事や技術を知っている非常に希な存在である。
 そういう理由で聖王教会は彼女を賓客としている。
 そんな彼女がオリヴィエの記憶と意識を受け継いでいると知ったら、それこそオリヴィエが悩み彼女に託した想いと違いベルカ聖王家の直系として祭り上げられかねない。だから普段はイクスも彼女を表に出さないようにしている。
 でも…そんな彼女にとって、共に学び淡い想いを抱いた覇王イングヴァルト、クラウスの子孫で彼の記憶を持つアインハルトは嬉しい存在だった。
 何度か八神家を借りて話をする内に素直なアインハルトに少なからず好感を持っていた。
 彼女も最初は緊張しぎこちない様子だったけれど、ここ数回は笑い会える関係になっていた。

「ケーキ作ってみたんですが一緒にお茶しませんか?」
「あ…ありがとうございます。」

 ティーカップ一式を持って来たはやてを見て笑顔が消える。
 …まだ八神はやてには警戒しているらしい。
 折角楽しく話が出来ていたのにと残念に思っているとはやてがこちらを見てウィンクする。
 彼女を独り占めにはさせてくれない様だ。

「はい、皆で頂きましょう。」

 見るからに美味しそうなタルトに目を奪われ早々に白旗をあげるイクスだった。



「………」
「…ほんとに……オなのかな?」
「わか…ん。ですが…」

 ヴィヴィオはとりあえず八神堂へヴィヴィオとアインハルトを連れて行くことにした。
 後ろで小声で話しているけれど…

(…まぁそう思うよね~。)

 本物なの? 何処から来たの? どうして驚かないの? とか色々気になる事はあるだろう。
 私が同じ立場ならそう考えると思うとクスッと笑ってしまった。

(まさか同じ立場なら…なんて考える時が来るなんてね。)

 ここでは夏休みに入っていてウィッグを着けてきたのが不幸中の幸いか、すれ違う人は誰も特に気にされていなかった。

(先に解いちゃった方がいいかな?)
「ねぇ、ちょっと寄り道しよっか?」

 クルッと振り返って私は2人に言った。



「先に私の事を話した方がいいよね。」

 ヴィヴィオは2人と一緒に通りがかった公園へと入る。日陰になったベンチが丁度良さそうだ。

「どうして私がここに居るのかって言う質問だけど…ヴィヴィオとアインハルトさんはここみたいな世界が幾つもあるの想像出来る?」
「世界? 海外という意味でしょうか?」
「う~ん…ゲームや本の剣と魔法の世界みたいな?」

 この辺は読書好きなのかヴィヴィオの方が想像力が逞しい。

「ヴィヴィオが言った方が近いかな。世界は1つじゃなくて似た世界が沢山あって、木の枝みたいに幾つも分かれてる。私はそんな世界や過去や未来を移動する魔法が使えるの。魔法って言ってもブレイブデュエルのスキルカードみたいなのが殆どだけどね。」

 2人から小さな感嘆の声が聞こえる。

「私はそんな世界からここへ遊びに来たんだ。遊びに来たのは…まぁ…気分転換みたいなものだけど。」

 まさか周囲からの視線を浴び続けストーキングされたのが嫌でここにストレス解消で来たとは言えない。

「ヴィヴィオとアインハルトさんは何処から来たの? あっ、ちなみに私が2人を知ってるのは違う世界で2人と会ってるからなんだけどね。驚かなかったのもそれが理由。」

 ニコッと笑って言うと信じてくれたらしく。2人は互いの顔を見て頷き

「私達はヴィヴィオさんから言うと未来からやってきました。」

 そう言ってヴィヴィオとアインハルトは話始めた。
 

 この世界の未来ではブレイブデュエルのプレイヤー数は大幅に増えメジャーとなり国家競技にもなっている。
 その中でヴィヴィオとアインハルトは海鳴市の代表選手…みたいなものらしい。
 2人はより強くなりたいと練習の日々を送っているけれど、ある壁を前にしてブレイブデュエル黎明期の伝説的なデュエリスト、T&Hエレメンツ・チーム八神堂・ダークマテリアルズは教えてくれても全力で相手してくれない。
 そんな悩みを抱えているとある博士が【過去のデュエリストとリアルタイムでデュエル出来る装置】を作ったらしくそれを試したところ…ここに飛ばされたらしい。

(誰よ…そんな迷惑な装置を作ったのは…)

 話を聞いてヴィヴィオは嘆息した。

「それで…未来に帰る為にブレイブデュエルのデータを集めてました。クリスおいで♪」

 ヴィヴィオの様子にヴィヴィオが苦笑した後、手をかざすとウサギのぬいぐるみが現れた。
 その姿は覚えている。

「この子はクリス。補助制御型のデバイスなんです。」
「ティオ」

 アインハルトも手をかざすと猫のぬいぐるみが現れる。 
(セイクリッドハートとアスティオンか…)
「ヴィヴィオはデバイス持ってないの?」

 クリスを抱きながらヴィヴィオが聞く。

「うん、これなんだけどね。ブレイブデュエルの中でしか使えないんだ。名前はRHd。あんまりかわいい愛称じゃないけど、名前はクリスと似た感じ。」

 そう言って胸にかけていたペンダントを見せる。

「ううん、格好いいよ。それに綺麗だし…ママのと似てる。…あっ! じゃあもしかしてここのみんなはヴィヴィオを知ってるの?」
「うん、八神堂にお世話になってるし、昨日はなのはやシュテルとも対戦したよ。」

 ズッと顔を近づけて聞くヴィヴィオに答えると彼女は崩れる様にアインハルトに寄りかかった。

「博士から正体知られないようにって言われて気をつけてたのに、私の苦労が~っ…」
「三月さんがおっしゃっていた『気にしすぎても仕方ない』とはこういう事だったのですね。」
「…うん、私も今判った。そんな装置誰が作ったのかも…」

 アインハルトから三月の名前を聞いて昨日彼女が

『さっき家から連絡があってそれどころじゃないらしい。私達も食べたら直ぐに帰る。忙しいのは判っているから私達も邪魔しない。』

 そう言って帰ったのを思い出し、誰が彼女達をここに飛ばす装置を作ったのかも理解した。

「じゃあ、お互いの紹介も出来たしそろそろ行こう。」

 そう言うと2人は頷きヴィヴィオと並んで歩き始めた。



「ただいま~ヴィヴィオとアインハルトさんを連れてきました。」

 八神堂に到着したヴィヴィオはそう言って彼女達の手を取って店の中へと入る。

「おかえり~ご苦労さんやったな。」
「おかえり~ヴィヴィオ。!!本当に居たんだ。」
「お疲れ様、ヴィヴィオ。」
「うん、先に話も聞いちゃった…ヴィヴィオ?」

  出迎えるはやてとフェイトとなのはに笑顔で答えた瞬間、両腕が引っ張られる。振り返るとヴィヴィオとアインハルトが凍り付いたかの様に固まっていた。

「ヴィヴィオ? アインハルトさん?」
「なのはママ…? フェイトママ…?」
「なのはさんとフェイトさん……?」
「はい」
「そうだけど?」

 呼ばれて答えるなのはとフェイト。一瞬首を傾げるが

「…あっ! 2人ともごめん。こっちのママ達は私と一緒に来たんだ。だからヴィヴィオ達の知ってるママ達とは別人。」

 そう、ヴィヴィオが居ると言うことは彼女達の居る未来には2人が居る可能性もある。大人になった2人を見れば驚くのも当然。

「お…思いっきりびっくりしました。心臓が飛び出るくらい…。私が居るんだからママ達もいるよね。高町ヴィヴィオです。」
「そ、そうですね。アインハルト・ストラトスです」

 2人は何とか理解出来たのか笑顔を取り戻し自己紹介をするのだった。



「ヴィヴィオちゃん、一緒に行かなくて良かったん?」

 はやてが用意してくれた少し遅いお昼ご飯を食べた後、ヴィヴィオはカウンターの中で読みかけの本の続きを読んでいた。
 なのはとフェイトは予定通りグランツ研究所へと向かった。その時グランツに未来のヴィヴィオの友人から連絡が入っていたらしく、ヴィヴィオとアインハルトも未来に戻る為になのは達と一緒に行ってしまった。

(多分リオかコロナかな~。もう少し話したかったけど。)

 なのはとフェイトがブレイブデュエルの中で教導するのに邪魔をしたくなかったからヴィヴィオは断り八神堂に残った。

「はい、今日くらいゆっくり本を読んでいたいから…まさか未来の私が来てるなんて思ってませんでしたけど。今日もゆっくりじゃないですね。」
「クスッ、そうやね~…。う~ん…でもヴィヴィオちゃん…あっちのな、あの子のお母さんがなのはちゃんとフェイトちゃんで、現在の2人はヴィヴィオちゃんのお母さんになってるのを聞いて知ってるんやろ?」
「そうですね?」

 前に来た時になのはとフェイトには異世界の話としてヴィヴィオの正体を明かしている。

「あと4~5年経ったらママになるんか…誰やろね、そんな犯罪まがいの事しでかしたパパは? 聞いとけばよかった。」

 座っていた椅子から思いっきりずっこける。

「はやてさんっ!!」
「ゴメンゴメン、…でも気になるやろ?」
「そうですけど…そうじゃなくて、絶対に聞いちゃダメですからね。本気で未来が変わっちゃうから。」

 ヴィヴィオはジェイル・スカリエッティに聖王のゆりかごを動かす為の鍵として作られた。元になったのは大昔のベルカ聖王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。でもそれは魔法文化が発展した元世界だったからこその魔導技術。ここではそれはあり得ない。
 だったら…彼女はどうしてなのはとフェイトをママと呼んだのだろうか?
 そんな疑問が頭を過ぎった。

「まぁ自ずと判る日が来るしな…」

 はやてがそう言いながら私を見る目に何故か哀れみを感じるのだった。

~コメント~
 新年2回目の掲載です。
 やっと登場のINNOCENTSなヴィヴィオとアインハルトです。
 ヴィヴィオとヴィヴィオが話す時のヴィヴィオが言ったというのが凄くややこしくてどうすれば良いかと考えた挙げ句ASヴィヴィオの主人公視点で「私」と「ヴィヴィオ」を分けることにしました。
 全くはた迷惑な装置を作ってくれたものです。感謝感謝♪

 次回からはイノセントらしくブレイブデュエル満載な話が始まります。はてさて…

 少し話は変わりますが、1/31インテックス大阪で開催される「コミックトレジャー」に参加いたします。
 冬コミ本の再版と何か用意しているそうです。
 スペースは「コ-06a 鈴風堂」です。
 是非遊びに来て下さい。

 

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