第18話「ヴィヴィオのひみつ」
- リリカルなのは AdventStory > 第2章 遭遇と前兆
- by ima
- 2016.02.01 Monday 14:29
こっちに来て4日目の朝、ヴィヴィオはいつも通り丘の上にある公園へと来ていた。
アリシア達はキャンプで居ないし、フェイトはこっちのシグナムに半ば無理矢理朝練につきあわされている。
大きく息を吸い込み瞼を閉じる。
こっちの世界には魔法が無い。それは辺りに漂う魔法の欠片が無いからリンカーコアが鼓動することはない。意味の無い練習なのかも知れないけれど心を落ち着かせる練習だけは欠かそうとは思わなかった。
そんな時坂の下から駆け上がってくる足音が聞こえた。
アリシア達はキャンプで居ないし、フェイトはこっちのシグナムに半ば無理矢理朝練につきあわされている。
大きく息を吸い込み瞼を閉じる。
こっちの世界には魔法が無い。それは辺りに漂う魔法の欠片が無いからリンカーコアが鼓動することはない。意味の無い練習なのかも知れないけれど心を落ち着かせる練習だけは欠かそうとは思わなかった。
そんな時坂の下から駆け上がってくる足音が聞こえた。
「誰?」
「おはよう、ヴィヴィオちゃん。」
「おはようございます。」
やってきたのはなのはの父、高町士郎だった。
「恭也達がキャンプに行っている間に少し体を鍛えておこうと思ってね。なのは達も誘ったんだけれど今日は体が痛いから寝かせてと断られたよ。」
柔軟体操をしながら笑って言った。
(本当に運動苦手なんだ…)
帰ったら一緒にジョギングでも始めようかと考える。
「それと、今日はヴィヴィオちゃんと少し練習したくてね。恭也と美由希から聞いているよ。いいかな?」
そう言って出したのは以前アリシアが練習で使っていた先の柔らかい棒
「えっ?」
「勘を戻すの手伝ってくれるかい?」
屈託のない爽やかな笑顔で言われて
「はい」
快諾した。
10分後…
「ハァッハァッ…」
息を荒げながらヴィヴィオは構えていた。アリシアの練習につきあったり模擬戦を見ていたし、美由希とも1度練習して何となく癖…みたいなものは判っていたつもりだったけれど、士郎はそれを見透かしたかの様に次々とパターンを変えてきていつも感じている様には出来なかった。只、彼が言った様に隙が出来ても彼からヴィヴィオと叩く事はなく、ヴィヴィオが体勢を立て直すまで待って続けるといった具合だった。
「恭也から聞いた通りだ。もういいよありがとう。」
士郎はそう言うと構えを解く。
「こんな事を聞いて不快になったらごめんと謝るしかないんだけれど…ヴィヴィオちゃんは実戦を体験してるね? 練習じゃなく相手と命をかけて戦うという意味の実戦を」
「!?」
彼の言葉が胸に突き刺さる。
命をかけた実戦…それは身に覚えがありすぎた。ヴィヴィオが機動6課に保護されたJS事件だけでなく1年前に目覚めた時空転移で行った先で何度も戦った。自分で立てない程の大怪我や火傷を負ったり、肩を貫かれた事もあった。
それらは紛れもなく彼の言う実戦に他ならない。
「はい」
神妙な面持ちで頷く。
「良いとか悪いという意味で聞いた訳じゃないんだ。これを見せるのにヴィヴィオちゃんは相応しいか聞いただけだから。」
「見せる? 相応しい?」
何を言っているのかわからない。
「ヴィヴィオちゃんやなのは、アリシアちゃん、フェイトちゃん達が遊ぶブレイブデュエルはとても良いゲームだと思う。子供だけじゃなくて大人も色んな可能性を見つけられる。その中で俺達がアリシアちゃんだけに加勢するのはアンフェアじゃないかって。恭也から頼まれたんだ『ヴィヴィオちゃんと話をして相応しいと思うなら見せてやってくれ』って。」
アリシアが? 恭也から頼まれた? 見せる? 余計判らない。
「今から少し本気で攻めるから受けられるなら避けてくれ」
そう言うと士郎は数歩下がり再び構える。しかしその眼差しと気迫は先程とは比較にならない。
ヴィヴィオもギュッと棒を握りしめ構える。紫電一閃を放つ構えに。
「ハッ!!」
士郎が駆けだしたかと思った瞬間、姿が消えた。
「!! 右っ!」
咄嗟に判断して左にジャンプし右からの攻撃に備える。しかし次の瞬間更に左から悪寒が走る。
「こっち!?」
足が着いた瞬間に今度は後ろへ飛び紫電一閃を放とうとする。だが
「後ろっ!」
背後からの威圧感を感じて体を捻ってそのまま放つ
【バンッ!!】
ヴィヴィオの放った1撃は士郎の棒に受け止められた。
2人の交差した棒からは焼け焦げた臭いがしていた。
「………」
「………」
「まさか反撃されるとは思わなかった。」
士郎が表情を崩すのを見てヴィヴィオも警戒を解く。
「いきなり見えなくなって寒気と怖い感じがした方に思いっきり振りました。今のは?」
「ああ、うん。俺達の必殺技…みたいなものだ。恭也が昨日アリシアちゃんに見せたらしい。もしアリシアちゃんがブレイブデュエルで使ったらなのはも含めて誰も対抗出来ないからね。先にヴィヴィオちゃんに見て貰おうと思ったんだ。」
「それとヴィヴィオちゃんにはもう1つ大切なお願いがある。」
「私に…ですか?」
「この技は膝にとても負担が来る。練習をサボっていただけでこの様だ。」
そう言うと士郎はその場で腰を下ろした。スポーツジャージの上からでも判る位膝が震えている。
「体が出来ていない子供が使うと直ぐに壊れて歩けなくなる。だからなのはには教えていない。もし戻ってアリシアちゃんがこれの練習をしようとしていたら絶対に止めさせて欲しい。勿論練習もしていないヴィヴィオちゃんも使っちゃ駄目だ。ヴィヴィオちゃんがさっき話してくれた感じを意識的に持てば充分越えられる。」
「はい。」
彼が体に無理をしてまで見せたのは私やアリシアを想っての事だと気づいて笑顔で頷くのだった。
その後少し休んで帰ろうとした時足下がおぼつかない士郎を見て横で支えながら高町家に送り届けた。
朝食を作っていたなのはは驚き桃子は何をしたのか気づいたらしくヤレヤレ顔で嘆息しつつ
「ヴィヴィオちゃん、送ってくれたお礼に朝ご飯一緒に食べて行って。八神堂さんの電話番号は…まだ開店前よね。なのは~八神堂さんの電話…」
パタパタとスリッパの音を立てて階段を駆け上がっていく桃子を見送り
(やっぱり桃子さんだ)
「やっぱりお母さんだね♪」
なのはと顔を見合わせ苦笑するのだった。
「アハハハハ それは災難やったな」
高町家で朝食をごちそうになった後、フェイトやはやて達と八神堂で合流した。
開店作業を手伝った後、はやての入れてくれたお茶を飲んでいた。
恭也達はキャンプに行っていて士郎・桃子・なのは×2の静かな朝食にヴィヴィオも混ざるのかなと思っていたけれど、桃子が矢継ぎ早に話しかけてきてヴィヴィオを驚かせた。
その内容も「お母さんと私のご飯どっちが美味しい?」とか「ヴィヴィオちゃんも運動得意なのね~」とか元世界とあまり関係が無いのだけれど、下手に答えると隣に座ったなのはママの視線が怖く無難な答えを頭をフル回転させながら答えた。
後でこっちのなのはに聞いたら
「私とお兄ちゃんとお姉ちゃんは前に会ってるし、今日お父さんとも色々話したのにお母さんあんまりヴィヴィオちゃんと話せなくて次に会ったら何を話そうかずっと考えてたみたい。折角大人の私が居るのに孫に会えないって昨日も呟いてたし…」
それがあのマシンガントークだったのかと納得した。
はやては思いっきり笑った後ヴィヴィオに聞く
「今日はどうするん?」
少し考える…
そう言えば、もう1人の私とアインハルトはどうしたのだろう?
昨日連れてきた後グランツ研究所にフェイト達と一緒に行ってそれからどうしたのだろう?
「そういえば、昨日のもう1人の私とアインハルトさん何処にいるんでしょう?」
「あの2人ならグランツ研究所で滞在してるよ。今スカリエッティ研究所と合同で元の時間に戻す準備してるらしい。王さま…ディアーチェからメール届いてた。」
「午後からママ達の練習あるし夕方にはアリシアも戻ってくるから、これから行ってきてもいいですか?」
「わかった、研究所に連絡しとくな。あと…ついでにお使い頼んでええ? ユーリにこれ『頼まれてた本持って来ました』って」
ハードカバーの本を渡される
(永遠結晶の作り方…Ⅸ、何冊あるんだろう?)
全巻揃えたらエグザミアが完成…とかは無いよねと思いつつ
「はい。」
本を紙袋に入れポシェットを持ってグランツ研究所へ向かった。
ヴィヴィオが八神堂を出発してから少し経った頃、グランツ研究所では
「…今日はこっちに来たのか…暇な奴等だ。」
ディアーチェは嘆息しながら呟いた。
彼女が見つめるブレイブデュエルの大型モニタに映るのはセクレタリーのウーノ、クアットロ、トーレの3人。
「ディアーチェ、どうしましょう?」
「行ってやっつけて来ようか?」
ユーリとレヴィが聞いてくる。
「いや、我らは静観しよう。奴等が何処に乱入したのか思い知る良い機会だ。」
ニヤリと笑った。
T&Hはホビーショップなだけあって登録しているデュエリストも小中学生が多くセクレタリー対策としてフェイト達がガーディアンになっている。
八神堂はグランツ研究所やT&Hと比べて規模が小さいが逆にコアなデュエリストが居たり、普段現れない騎士が居る。
そして…グランツ研究所はというと、ブレイブデュエルの総本山なだけあった規模も1番大きくデュエリストも高ランク者やグランプリでも名を連ねる者が多い。T&Hと同じ様に乱入したなら返り討ちにされるだろう。
「わざわざ行ってデュエリストの報酬アイテムを横取りするのは気が引ける。」
「でも…ちょっとピンチみたいだよ」
「なぬっ!?」
「スカイデュエル中のチームに探索デュエルで挑んだセクレタリーの作戦が功を奏した様ですね。ウーノが2人に指示を出しているのでディアーチェが行った方がいいのでは?」
シュテルは状況を見て呼びに来たらしい。かといって静観すると言ったばかりで自ら行くのは…
う~んと腕を組んでいると
「こんにちは~、ここに私とアインハルトさんが居るって聞いたんだけど?」
ヴィヴィオが入ってきた。
「貴様、良いところに来たっ!」
「え…?」
思わず立ち止まるヴィヴィオだった。
「秋の食材探しミッション、初めて遊ぶんだけど大丈夫かな…」
不安そうにポッドに入る。
『バトルというよりレアな食材カードを集めるデュエルです。デュエルは始まっていてセクレタリーが既に優勢なので入って応援してあげて下さい。ヴィヴィオなら大丈夫ですよ。』
マイクから聞こえるシュテルの声に頷く。
「あっでも勝ってもカードは要らないからね。」
『クスッ、欲が無いですね。そこはSRカード1枚とか言えばいいのに、兎も角このまま話して居ても時間が勿体ないです。行きますよ』
「うん、ブレイブデュエル、リライズアップ!」
仮想世界へと飛び込んだ。
少年達は焦っていた。
イベントでも無い限りカードを得られない機会に恵まれた。しかも明日からのグランプリ前にだ。慣れてないデュエルスタイルでも8人、倍以上の人数で挑めば勝てると思った。
しかし…探索デュエルになると話は変わる。バトルタイプのデュエルとは勝手が違い過ぎる。
(どうする…何か作戦を立てないと闇雲に探しても意味がない)
そんな時、空に虹がかかって1人の女の子が降りてきた。
「君は…」
知っている。先日T&Hに現れてセクレタリー3人を相手に勝った子…
「ディアーチェから頼まれたの。一緒にがんばろっ♪」
その笑顔に少年は見とれてしまった。
「クスッ、彼女には異性を引き込む魅力もある様ですね。」
突然の乱入者に警戒すると思っていたがすんなり混ざってしまった。
「でもここから勝つのは大変だよ、セクレタリー結構カードを集めちゃってる」
「問題無い」
「勝負は決まりましたよ。」
レヴィの問いかけにディアーチェと一緒に答える。
「見ていればわかります。ヴィヴィオのもう1つの能力が見られます。」
モニタに視線を移す。早速始めた様だ。
「そっちの大きな木の下と2番目の枝、あとここから見える大きな岩陰。近くにある草にも。50m位先にある原っぱの窪みも見て下さい。」
5人が一気に散る。言われた通りの場所に行くとカードが見つかった。少年達のチームポイントが増える。
「木に向かった人はそのまま10m位、そうそこから見える枯れ木の根本と影の先」
ヴィヴィオ達の作戦はこうだ。
上空を飛びながらヴィヴィオはRHdを通してアイテムの反応を一気にピックアップする。カードが無くてもデバイスは使えるのだからRHdから得られたアイテム情報を一気に整理して伝えていく。
それは正しく彼女が通った後はカード1枚も残さない徹底ぶりだった。
「ふぇ~…全部集めてる…」
レヴィが感嘆の声を上げるのと共にシュテルとディアーチェはやはりと頷く。
「彼女が初めてプロトタイプを使った時、全てのデータを視界に出して戦っていました。その後のWeeklyで殆どの相手はカウンターで対処し私とのデュエルでスキルを同時に使ったのも偶然ではありませんでした。後になって考えたのです。ヴィヴィオは情報処理能力が非常に高いのではと。」
「奴が帰ってから八神堂の子鴉が言っておった。倉庫に山積みにされた本を奴が1人で全て整理していったと。そんな真似は誰にも出来ないとな。」
ヴィヴィオの母、高町なのはが話していた『瞬間の思考力』、その結果が目の前で行われている光景だ。
プロトタイプの様にデータを全て表示させたとして同じ事が出来るか?
想像しながら大型モニタの中で行われている様子に息を呑んだ。
ヴィヴィオは食材カードの在処を指示しながら残り時間を確認する。
(このままいけば…!?)
「ハァアアアアッ!」
だがそこへトーレが突っ込んできた。紙一重でパンチを避けて距離を取る。
「ヴィヴィオやっぱりお前か、悪いが落とさせて貰う。」
彼女と戦いながら食材カードを探し伝えるのはいくら何でも厳しい。
(どうしよう…)
セクレタリーは3人中1人割いても妨害した方が得策だと考えた。ウーノとクアットロが一緒に居るのだからそういう作戦も立ててくる。
急いで倒せば…
ヴィヴィオが構えると近くで指示を出していた1人の男の子が立ちふさがった。
「ヴィヴィオさんっ続けて探して。グランツ研究所のデュエリストを舐めるなよっ。」
そう言うと白いコート状のジャケットと槍状のデバイスを出して構える。
「早く行って!」
「う、うんっ! ありがとう。」
ここでの勝負はトーレに勝つ事じゃない。ヴィヴィオは残った2人と一緒にその場を離れた。
(…あの男の子…エリオにちょっと似てたかも)
~コメント~
先週更新が滞ったので連続掲載です。
グランプリ2nd…と行きたかったのですが、ブレイブデュエルの中でヴィヴィオが強い理由の1つをはっきりさせておいた方が面白いんじゃないかと思い加えました。
前話の恭也、今話の士郎がアリシア、ヴィヴィオに見せたのはスピンオフ元の【アレ】です。
イノセントではコミカライズも含めて出番が無かったのとVividで触りが出てきたので出しました。
次回からグランプリ開始です。
「おはよう、ヴィヴィオちゃん。」
「おはようございます。」
やってきたのはなのはの父、高町士郎だった。
「恭也達がキャンプに行っている間に少し体を鍛えておこうと思ってね。なのは達も誘ったんだけれど今日は体が痛いから寝かせてと断られたよ。」
柔軟体操をしながら笑って言った。
(本当に運動苦手なんだ…)
帰ったら一緒にジョギングでも始めようかと考える。
「それと、今日はヴィヴィオちゃんと少し練習したくてね。恭也と美由希から聞いているよ。いいかな?」
そう言って出したのは以前アリシアが練習で使っていた先の柔らかい棒
「えっ?」
「勘を戻すの手伝ってくれるかい?」
屈託のない爽やかな笑顔で言われて
「はい」
快諾した。
10分後…
「ハァッハァッ…」
息を荒げながらヴィヴィオは構えていた。アリシアの練習につきあったり模擬戦を見ていたし、美由希とも1度練習して何となく癖…みたいなものは判っていたつもりだったけれど、士郎はそれを見透かしたかの様に次々とパターンを変えてきていつも感じている様には出来なかった。只、彼が言った様に隙が出来ても彼からヴィヴィオと叩く事はなく、ヴィヴィオが体勢を立て直すまで待って続けるといった具合だった。
「恭也から聞いた通りだ。もういいよありがとう。」
士郎はそう言うと構えを解く。
「こんな事を聞いて不快になったらごめんと謝るしかないんだけれど…ヴィヴィオちゃんは実戦を体験してるね? 練習じゃなく相手と命をかけて戦うという意味の実戦を」
「!?」
彼の言葉が胸に突き刺さる。
命をかけた実戦…それは身に覚えがありすぎた。ヴィヴィオが機動6課に保護されたJS事件だけでなく1年前に目覚めた時空転移で行った先で何度も戦った。自分で立てない程の大怪我や火傷を負ったり、肩を貫かれた事もあった。
それらは紛れもなく彼の言う実戦に他ならない。
「はい」
神妙な面持ちで頷く。
「良いとか悪いという意味で聞いた訳じゃないんだ。これを見せるのにヴィヴィオちゃんは相応しいか聞いただけだから。」
「見せる? 相応しい?」
何を言っているのかわからない。
「ヴィヴィオちゃんやなのは、アリシアちゃん、フェイトちゃん達が遊ぶブレイブデュエルはとても良いゲームだと思う。子供だけじゃなくて大人も色んな可能性を見つけられる。その中で俺達がアリシアちゃんだけに加勢するのはアンフェアじゃないかって。恭也から頼まれたんだ『ヴィヴィオちゃんと話をして相応しいと思うなら見せてやってくれ』って。」
アリシアが? 恭也から頼まれた? 見せる? 余計判らない。
「今から少し本気で攻めるから受けられるなら避けてくれ」
そう言うと士郎は数歩下がり再び構える。しかしその眼差しと気迫は先程とは比較にならない。
ヴィヴィオもギュッと棒を握りしめ構える。紫電一閃を放つ構えに。
「ハッ!!」
士郎が駆けだしたかと思った瞬間、姿が消えた。
「!! 右っ!」
咄嗟に判断して左にジャンプし右からの攻撃に備える。しかし次の瞬間更に左から悪寒が走る。
「こっち!?」
足が着いた瞬間に今度は後ろへ飛び紫電一閃を放とうとする。だが
「後ろっ!」
背後からの威圧感を感じて体を捻ってそのまま放つ
【バンッ!!】
ヴィヴィオの放った1撃は士郎の棒に受け止められた。
2人の交差した棒からは焼け焦げた臭いがしていた。
「………」
「………」
「まさか反撃されるとは思わなかった。」
士郎が表情を崩すのを見てヴィヴィオも警戒を解く。
「いきなり見えなくなって寒気と怖い感じがした方に思いっきり振りました。今のは?」
「ああ、うん。俺達の必殺技…みたいなものだ。恭也が昨日アリシアちゃんに見せたらしい。もしアリシアちゃんがブレイブデュエルで使ったらなのはも含めて誰も対抗出来ないからね。先にヴィヴィオちゃんに見て貰おうと思ったんだ。」
「それとヴィヴィオちゃんにはもう1つ大切なお願いがある。」
「私に…ですか?」
「この技は膝にとても負担が来る。練習をサボっていただけでこの様だ。」
そう言うと士郎はその場で腰を下ろした。スポーツジャージの上からでも判る位膝が震えている。
「体が出来ていない子供が使うと直ぐに壊れて歩けなくなる。だからなのはには教えていない。もし戻ってアリシアちゃんがこれの練習をしようとしていたら絶対に止めさせて欲しい。勿論練習もしていないヴィヴィオちゃんも使っちゃ駄目だ。ヴィヴィオちゃんがさっき話してくれた感じを意識的に持てば充分越えられる。」
「はい。」
彼が体に無理をしてまで見せたのは私やアリシアを想っての事だと気づいて笑顔で頷くのだった。
その後少し休んで帰ろうとした時足下がおぼつかない士郎を見て横で支えながら高町家に送り届けた。
朝食を作っていたなのはは驚き桃子は何をしたのか気づいたらしくヤレヤレ顔で嘆息しつつ
「ヴィヴィオちゃん、送ってくれたお礼に朝ご飯一緒に食べて行って。八神堂さんの電話番号は…まだ開店前よね。なのは~八神堂さんの電話…」
パタパタとスリッパの音を立てて階段を駆け上がっていく桃子を見送り
(やっぱり桃子さんだ)
「やっぱりお母さんだね♪」
なのはと顔を見合わせ苦笑するのだった。
「アハハハハ それは災難やったな」
高町家で朝食をごちそうになった後、フェイトやはやて達と八神堂で合流した。
開店作業を手伝った後、はやての入れてくれたお茶を飲んでいた。
恭也達はキャンプに行っていて士郎・桃子・なのは×2の静かな朝食にヴィヴィオも混ざるのかなと思っていたけれど、桃子が矢継ぎ早に話しかけてきてヴィヴィオを驚かせた。
その内容も「お母さんと私のご飯どっちが美味しい?」とか「ヴィヴィオちゃんも運動得意なのね~」とか元世界とあまり関係が無いのだけれど、下手に答えると隣に座ったなのはママの視線が怖く無難な答えを頭をフル回転させながら答えた。
後でこっちのなのはに聞いたら
「私とお兄ちゃんとお姉ちゃんは前に会ってるし、今日お父さんとも色々話したのにお母さんあんまりヴィヴィオちゃんと話せなくて次に会ったら何を話そうかずっと考えてたみたい。折角大人の私が居るのに孫に会えないって昨日も呟いてたし…」
それがあのマシンガントークだったのかと納得した。
はやては思いっきり笑った後ヴィヴィオに聞く
「今日はどうするん?」
少し考える…
そう言えば、もう1人の私とアインハルトはどうしたのだろう?
昨日連れてきた後グランツ研究所にフェイト達と一緒に行ってそれからどうしたのだろう?
「そういえば、昨日のもう1人の私とアインハルトさん何処にいるんでしょう?」
「あの2人ならグランツ研究所で滞在してるよ。今スカリエッティ研究所と合同で元の時間に戻す準備してるらしい。王さま…ディアーチェからメール届いてた。」
「午後からママ達の練習あるし夕方にはアリシアも戻ってくるから、これから行ってきてもいいですか?」
「わかった、研究所に連絡しとくな。あと…ついでにお使い頼んでええ? ユーリにこれ『頼まれてた本持って来ました』って」
ハードカバーの本を渡される
(永遠結晶の作り方…Ⅸ、何冊あるんだろう?)
全巻揃えたらエグザミアが完成…とかは無いよねと思いつつ
「はい。」
本を紙袋に入れポシェットを持ってグランツ研究所へ向かった。
ヴィヴィオが八神堂を出発してから少し経った頃、グランツ研究所では
「…今日はこっちに来たのか…暇な奴等だ。」
ディアーチェは嘆息しながら呟いた。
彼女が見つめるブレイブデュエルの大型モニタに映るのはセクレタリーのウーノ、クアットロ、トーレの3人。
「ディアーチェ、どうしましょう?」
「行ってやっつけて来ようか?」
ユーリとレヴィが聞いてくる。
「いや、我らは静観しよう。奴等が何処に乱入したのか思い知る良い機会だ。」
ニヤリと笑った。
T&Hはホビーショップなだけあって登録しているデュエリストも小中学生が多くセクレタリー対策としてフェイト達がガーディアンになっている。
八神堂はグランツ研究所やT&Hと比べて規模が小さいが逆にコアなデュエリストが居たり、普段現れない騎士が居る。
そして…グランツ研究所はというと、ブレイブデュエルの総本山なだけあった規模も1番大きくデュエリストも高ランク者やグランプリでも名を連ねる者が多い。T&Hと同じ様に乱入したなら返り討ちにされるだろう。
「わざわざ行ってデュエリストの報酬アイテムを横取りするのは気が引ける。」
「でも…ちょっとピンチみたいだよ」
「なぬっ!?」
「スカイデュエル中のチームに探索デュエルで挑んだセクレタリーの作戦が功を奏した様ですね。ウーノが2人に指示を出しているのでディアーチェが行った方がいいのでは?」
シュテルは状況を見て呼びに来たらしい。かといって静観すると言ったばかりで自ら行くのは…
う~んと腕を組んでいると
「こんにちは~、ここに私とアインハルトさんが居るって聞いたんだけど?」
ヴィヴィオが入ってきた。
「貴様、良いところに来たっ!」
「え…?」
思わず立ち止まるヴィヴィオだった。
「秋の食材探しミッション、初めて遊ぶんだけど大丈夫かな…」
不安そうにポッドに入る。
『バトルというよりレアな食材カードを集めるデュエルです。デュエルは始まっていてセクレタリーが既に優勢なので入って応援してあげて下さい。ヴィヴィオなら大丈夫ですよ。』
マイクから聞こえるシュテルの声に頷く。
「あっでも勝ってもカードは要らないからね。」
『クスッ、欲が無いですね。そこはSRカード1枚とか言えばいいのに、兎も角このまま話して居ても時間が勿体ないです。行きますよ』
「うん、ブレイブデュエル、リライズアップ!」
仮想世界へと飛び込んだ。
少年達は焦っていた。
イベントでも無い限りカードを得られない機会に恵まれた。しかも明日からのグランプリ前にだ。慣れてないデュエルスタイルでも8人、倍以上の人数で挑めば勝てると思った。
しかし…探索デュエルになると話は変わる。バトルタイプのデュエルとは勝手が違い過ぎる。
(どうする…何か作戦を立てないと闇雲に探しても意味がない)
そんな時、空に虹がかかって1人の女の子が降りてきた。
「君は…」
知っている。先日T&Hに現れてセクレタリー3人を相手に勝った子…
「ディアーチェから頼まれたの。一緒にがんばろっ♪」
その笑顔に少年は見とれてしまった。
「クスッ、彼女には異性を引き込む魅力もある様ですね。」
突然の乱入者に警戒すると思っていたがすんなり混ざってしまった。
「でもここから勝つのは大変だよ、セクレタリー結構カードを集めちゃってる」
「問題無い」
「勝負は決まりましたよ。」
レヴィの問いかけにディアーチェと一緒に答える。
「見ていればわかります。ヴィヴィオのもう1つの能力が見られます。」
モニタに視線を移す。早速始めた様だ。
「そっちの大きな木の下と2番目の枝、あとここから見える大きな岩陰。近くにある草にも。50m位先にある原っぱの窪みも見て下さい。」
5人が一気に散る。言われた通りの場所に行くとカードが見つかった。少年達のチームポイントが増える。
「木に向かった人はそのまま10m位、そうそこから見える枯れ木の根本と影の先」
ヴィヴィオ達の作戦はこうだ。
上空を飛びながらヴィヴィオはRHdを通してアイテムの反応を一気にピックアップする。カードが無くてもデバイスは使えるのだからRHdから得られたアイテム情報を一気に整理して伝えていく。
それは正しく彼女が通った後はカード1枚も残さない徹底ぶりだった。
「ふぇ~…全部集めてる…」
レヴィが感嘆の声を上げるのと共にシュテルとディアーチェはやはりと頷く。
「彼女が初めてプロトタイプを使った時、全てのデータを視界に出して戦っていました。その後のWeeklyで殆どの相手はカウンターで対処し私とのデュエルでスキルを同時に使ったのも偶然ではありませんでした。後になって考えたのです。ヴィヴィオは情報処理能力が非常に高いのではと。」
「奴が帰ってから八神堂の子鴉が言っておった。倉庫に山積みにされた本を奴が1人で全て整理していったと。そんな真似は誰にも出来ないとな。」
ヴィヴィオの母、高町なのはが話していた『瞬間の思考力』、その結果が目の前で行われている光景だ。
プロトタイプの様にデータを全て表示させたとして同じ事が出来るか?
想像しながら大型モニタの中で行われている様子に息を呑んだ。
ヴィヴィオは食材カードの在処を指示しながら残り時間を確認する。
(このままいけば…!?)
「ハァアアアアッ!」
だがそこへトーレが突っ込んできた。紙一重でパンチを避けて距離を取る。
「ヴィヴィオやっぱりお前か、悪いが落とさせて貰う。」
彼女と戦いながら食材カードを探し伝えるのはいくら何でも厳しい。
(どうしよう…)
セクレタリーは3人中1人割いても妨害した方が得策だと考えた。ウーノとクアットロが一緒に居るのだからそういう作戦も立ててくる。
急いで倒せば…
ヴィヴィオが構えると近くで指示を出していた1人の男の子が立ちふさがった。
「ヴィヴィオさんっ続けて探して。グランツ研究所のデュエリストを舐めるなよっ。」
そう言うと白いコート状のジャケットと槍状のデバイスを出して構える。
「早く行って!」
「う、うんっ! ありがとう。」
ここでの勝負はトーレに勝つ事じゃない。ヴィヴィオは残った2人と一緒にその場を離れた。
(…あの男の子…エリオにちょっと似てたかも)
~コメント~
先週更新が滞ったので連続掲載です。
グランプリ2nd…と行きたかったのですが、ブレイブデュエルの中でヴィヴィオが強い理由の1つをはっきりさせておいた方が面白いんじゃないかと思い加えました。
前話の恭也、今話の士郎がアリシア、ヴィヴィオに見せたのはスピンオフ元の【アレ】です。
イノセントではコミカライズも含めて出番が無かったのとVividで触りが出てきたので出しました。
次回からグランプリ開始です。
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