第17話「GRAND PRIX ~1st~」

「お友達の誕生日にお呼ばれするの。それは楽しみね」
「うんっ♪」

 アリシアが異世界に遊びに行ってしまったその日、プレシアが朝食の後片付けをしていたところチェントがあることを口にした。
『来週友達の誕生会にお呼ばれになる』らしい。
 来週が待ち遠しそうな彼女に笑顔で答えながら思案する。
 海鳴に居た頃はアリシアも良く友達の家に遊びに行っていた。
 こういう話を聞くと母としては何を持たせて行けばいいのかとか一緒に行って挨拶を…とか考えるところなのだけれど、彼女の場合は少し違っていた。
 チェントがStヒルデに通い始めて1ヶ月少し。それ迄彼女と会っていたのはアリシアやヴィヴィオ、チンクと教会のセイン達位で大人と直接1対1で面したことは殆どない。

(友達の家族にきちんと挨拶出来るかしら?)

 彼女を連れて学院に初めて行った時は教えた通りに挨拶していたし、その後何度か迎えに行った時も先生に別れの挨拶はしていた。
 でも、Stヒルデ幼年科の先生はシスター服姿の方が多いからセイン達と同じで安全だと考えていないだろうか? 気がかりなのは友達の家族に会って初めて見る大人に対し彼女が自ら身の危険を感じないか…だ。
 チェント自身が身の危険を感じた時、もしくは彼女の身近の物に危害が及びそうになった時、彼女は身を顧みず聖王の力を発する。プレシア自身その力を何度も見ているし1度はその力で助けられた事もある。

(いきなり友達の家に行くにしても…そうだわ!)

 プレシアは我ながらナイスアイデアとばかり直ぐに端末出して彼女を呼び出した。



「ただ今帰りました。」

 夕方、ギンガ・ナカジマとディエチ・ナカジマが仕事を終えて家に帰ってくるとリビングに入る前に見慣れぬ小さなバッグが置いてあった。

「誰の?」
「さぁ?」

 2人で話しながら部屋に入ると

「お、おかえり。」
「おかえりッス!」
「ただいま、ウェンディ、チンク姉…!?」
「ただ…!!」  

 1歩入った所で2人は凍り付く様に固まってしまった。
 そう、チンクとウェンディの間でギンガ・ディエチ達をトラウマになりかけた程の心理ダメージを与えて病院送りにした張本人、チェントがケーキを美味しそうに食べていたからだ。

「?」

 無論、本人に自覚はなく凍り付く2人を見て不思議そうに首を傾げた後再びケーキを頬張り始めた。

「先に伝えれば良いか悩んだんだが…すまない。プレシアから1日だけ面倒見てもらえないかと頼まれたんだ。」

 ウェンディにチェントを任せチンクはギンガとディエチを廊下に連れ出して小声で話した。
 今日の午前中、休日というのもあって元部署の友人と会うためにクラナガンに来ていた時、プレシアから連絡があった。
 そこでチェントが友達の誕生会に呼ばれている事を教えられた。そして彼女が危惧している彼女の暴走も…暴走の被害を被ったチンクとしては2つ返事で答えられる筈もなく、ギンガ達に聞いてからと言ったのだけれど…

「そう…折角出来た友人が遠ざかり、問題を起こして保護観察に戻ってしまうかも知れないわね…あなたを姉さまと呼んでいるのに、あなたは見捨てるのね…」

 ため息交じりにそう呟かれてしまっては断る事は出来ず、1日だけならと答えてしまった。

「ウェンディが陛下と思わなければ問題ないと言っていたし、前とは違い彼女も幾分社交的になっている。プレシアが1日良い子にしている様に言い聞かせていた。だから大丈夫だ…多分。」
「それに…父上にも子細を話して了解を貰っているらしい。娘が多いから1日預かる位大丈夫だと。」

 チンクが答え、家長のゲンヤが了解した以上断れる状況にない。

「父上はきちんと接すればわだかまりも無くなる…だそうだ。頼む」

 そこまで言われてはとギンガとディエチは互いの顔を見て

「1日なら…」
「うん…」

 頷きつつこういう日に運良く研修で不在のスバルとノーヴェが羨ましいと思うのだった。
 


 ナカジマ家がそんな状況になっているとは全く知らない異世界の中島スバルとティアナ・ランスターはプロトタイプシミュレーターのモニタに釘付けになっていた。
 2人を半ば驚かせていたのはスカイデュエルの様子にである。

「シュテルさんとフェイトさんが手玉にとられるなんて…」
「あの人凄い…」

 なのはとフェイトが大きくなったらこんな感じになるんだろうなと思わせる2人の女性がやって来るとシュテルは2人に教えるのを止め

「恥ずかしいのであまり見て欲しく無いのですが、時間があるなら見るだけでも参考になるでしょう。」

 そう言って自分のデッキカードを数枚変えた後2人の所に行って

「よろしくお願いします。」

と頭を下げた。
 少し遅れてやってきたフェイトはスバル達に気づいて笑顔で小さく手を振った後、真剣な眼差しでデッキカードを数枚入れ替えて彼女達の後を追う様にシミュレーターポッドの中に入っていった。
 その中で繰り広げられたのは正に驚くべき光景だった。
 2人とも最初からリライズした状態で今まで見たことも無いスキルカードや攻撃を連発させているのに、セイクリッドに似たジャケットの女性は1人で2人を相手しているのにも関わらず涼しい顔で避け迎撃している。しかも使っているカードはレアのスキルカード2枚。

「誰よあの人?」

 ディアナが聞くが大人の2人はデュエリスト名が表示されていない。

「わかんない…でも…すっごく強いのだけはわかる。」
「そんなの私も見てたらわかるわよ。」

 そこへディアーチェがやってくる。

「1位と2位が組んでもこの様か…」

 全く勝負にもなっていない様子を見て溜息をついた。

「ディアーチェさん、あの人は誰ですか?」
「そうか、貴様達は知らなかったんだな。彼女は遊びに来た知人の家族だ、ブレイブデュエルの教師…の様な仕事をしていてな我らは教えを受けている。」
「え~シュテルさん達だけズルイっ! 私もっ!」

 ブレイブホルダーを取り出して空いているポッドに行こうとするスバルの襟首をティアナが捕まえる。 

「待ちなさいっ」
「ティア?」
「シュテルさんやフェイトさんが何も理由が無しに私だけ教えて貰うなんてズルするわけないでしょ。そうですよね?」
「うむ、本来であれば全員教えて貰えればいいが時間が無い、滞在期間が長くてもあと数日…その間に我らが少しでも多く学んでそれを皆に伝える。短期集中特訓だ。我やレヴィも受けるが主に受けるのはシュテルとフェイトだ。」

 ティアナは納得して頷く。
 シュテルもフェイトも教えるのは上手だししかも全国1位と2位でショッププレイヤー、ブレイブデュエルで最強の2人なのだからこれ以上の人選はない。

「まぁ…2人とも勝ちたい相手もいる故な。まだ先は遠い様だが…」

 モニタの中でディバインバスターの直撃を受けて吹っ飛ばされライフポイントを全て失った2人を見てディアーチェは小さく溜息をついた。

「シュテルさんやフェイトさんより強い人…」
(もしかして…)

 先日の乱入戦を見ていたスバルとティアナの脳裏に2人の姿が朧気ながら浮かんでいた。 


 
 その頃T&Hではエイミィから話を聞いたなのはやアリサ、すずかの3人は他のデュエリストと一緒にブレイブデュエルで遊んでいた。
 グランツ研究所と違ってショッププレイヤーと言っても全員がトッププレイヤーではなく、あくまで看板役のチームだ。SRやSR+のカードを持ったデュエリストやデュエルの種類によって負ける事も多々ある。
 それでも彼女達はその負けん気でトッププレイヤーに近づいていた。
 今日も色んなデュエリストと遊びながら、たまにアリシアから頼まれてフォローをしていた。

「ふぅ~グランプリの受付始まってみんな凄いね。」

 流石に休憩となって3人はブレイブデュエルスペースから離れてカフェでジュースを飲む。

「うん、さっきはもう少しで負けちゃいそうだった。」

 なのはが言うとすずかが頷いて言う。 

「それはそうと、ヴィヴィオとアリシアはどうしたのよ? 八神堂でも遊んでないみたいだし、さっき出てきたのは偽物だったみたいだし…」

「アリシアちゃんはお兄ちゃん達と一緒にキャンプに行ってて、ヴィヴィオちゃんは八神堂で本読んでるってエイミイさんが行ってた。」
「八神堂素敵な本が沢山あるよね。1日ずっと本に囲まれているのもいいな…」
「キャンプと読書って…こっちに遊びに来てるのにブレイブデュエルで遊ばないって何考えてるのよ…」

 話が合いそうと嬉しそうに話すすずかとがっくり肩を落とすアリサ。

「でも2人ともグランプリには参加するみたいだよ。アリシアちゃんはさっき私のと一緒に受け付けしたしヴィヴィオちゃんも八神堂から申し込まれたってモニタに出てたから。」

 シュテルとフェイトに何度も勝っている2人、なのは達だけでなくトップランカーからも注目されている。

「アリシアちゃん、お兄ちゃんとお姉ちゃんと練習してるなら…多分もっと強くなるんじゃないかな。何だかもう追い抜かれちゃった気がするし…」

 タハハとばかり洩らした言葉にアリサとすずかは驚く。
 身体能力もさることながら判断の速さ、思考の速さにはなのはも驚かされている。

「今回は荒れそうね。面白そうだけど。私達も負けてられないよね。」
「そうだね。」
「うん♪」

 前回はトーナメント初戦で負けちゃったけれど今度は3人ともあるカードを手に入れている。

(私も頑張るよっ)

 なのははカードを握りしめ強く頷くのだった。 

  

 それから少し時間が過ぎて夕刻、八神堂から帰ってフェイトとはやてが夕食を作るのを手伝っていると

「ヴィヴィオ、アリシアからだ」

 リインフォースが電話を持って来た。

「ありがとうございます。アリシア♪」
『ヴィヴィオ、勝手にキャンプについて行っちゃってごめんね。今お風呂から出てテントに入った所。』

 元気な声にヴィヴィオの顔も綻びる。  

『今日色々あって大変だったみたいだけど、大丈夫?』

 こっちを気にしてくれていたらしい。

「うん、まさかここの未来から私とアインハルトさんが来るなんて思わなかったからびっくりしちゃった。」
『ブレイブデュエルで時間移動出来るなんて凄いよね~、ヴィヴィオは2人とデュエルしたの?』
「ううん、私が八神堂に連れてきた時位にグランツ研究所にも連絡があったんだって。未来のリオとコロナから。それでママ達と一緒に研究所に行っちゃった。今は研究所に居るみたい。」
『えっ? 勿体ない、折角対戦出来る機会なのに~。じゃあ今日は何してたの?』
「八神堂で本読んでた。面白い本いっぱいあるんだよ。まだまだ読みたい本あるし」

 はやてがこっちを見て笑う。

『フ~ン…グランプリ申し込んだんでしょ? シュテル達も練習してて、トップランカーの子も私達を気にしてるのに余裕だね。そんな調子じゃ私が勝っちゃうよ』

 アリシアはキャンプに行く前にグランプリについて聞いていたらしい。彼女たちにホルダーを預けて申し込みを頼んでいたのだろう。彼女は何か自信に繋がるものを得たらしい。

「うん、アリシアと対戦出来たら楽しよね。」

 ヴィヴィオもそう何度も挑発される訳もなく、さらりとかわす。

『よしっ、私も優勝目指そうかなっ。恭也さん戻って来たからもう切るね。明日の夕方には帰るから何かあったら連絡頂戴。』
「うん、練習がんばってね。」

 そう言うと電話は切れた。

「姉さん何て?」
「折角ヴィヴィオとアインハルトさんが来てるのにデュエルしないのは勿体ないって。練習楽しそうだよ。」
「そうなんだ」

 嬉しそうに言うのを見て電話を代わればと後で思い少し胸が痛んだ。


 
 一方その頃…
 1人の少女が神妙な面持ちで手に持った本を握る。

「待っててお姉ちゃん…お願い」

 本を広げ目映い光に包まれ次の瞬間には姿が消えていた。


~コメント~
1週間途切れてしまって申し訳ありません。
インフルエンザ蔓延対策していたら私がかかってしまって何をしているのやら…(寒波怖い)
ようやくグランプリの準備が終わりました。そして本筋も少しずつ進みます。

 

Comments

Comment Form

Trackbacks