第20話「GRAND PRIX ~3rd~」

 予選はWeeklyと違って3勝したデュエリストから抜けていく事もあってか思ったよりスムーズに進み午前中に終わった。

「結構沢山いるね。」

 トーナメント表が表示された大画面モニタを見てヴィヴィオは呟いた。
 メインショップの3店で開催しているからか人数が多くて何処に入っているのか判らない。

「ヴィヴィオこっち」

 アリシアに言われて行くとローダーの横に置かれたモニタに同じトーナメント表が表示されていた。
「私は…アリシアあった、私も!」

 ざっと見て2人の名前を見つける。端と端…まではいかないけれどかなり遠い。

「私はなのはに申し込んで貰ってたからずいぶん離れちゃったね。勝っていけば当たるのはなのはとアリサと三月さん…キリエさんとフェイトか…。全員に勝つのは厳しそう。ヴィヴィオは?」

 聞かれて表の近くの名前を見ていく

「ヴィータとすずかのどっちかと…シュテルとレヴィ、アミタさんか…。」

 前回1位のシュテルと2位のフェイトは決勝で当たる様にシードされていたらしい。

「他に知ってる子は…中島ギンガ…ギンガさんもブレイブデュエルしてるんだ。あっ…」

 昨日一緒にデュエルした子の名前も見つける。

「ヴィヴィオの方が楽そうだね。」
「でもグランツ研究所から出てる人が多いから…昨日も三月さんと互角な男の子居たし。気を抜いてたらはやてさんが言ったみたいに落とされちゃうよ。」
「油断大敵、ショッププレイヤーは注目されてる分研究もされてる。ヴィヴィオちゃんとアリシアちゃんは特に前回シュテルとフェイトちゃんに勝ってるし、セクレタリーを2人で撃退してるから1番警戒されてるんとちゃうかな。」

 振り向くとはやてがやってきた。私達にハイと小さな包みを渡す。

「サンドイッチ、一緒にご飯食べられたらいいんやけど八神堂はチヴィットまでフル稼働中やから。あと30分位で決勝始まるから食べて休憩しててな。」

 見るとリインフォースとシャマルがオペレーションルームで慌ただしく動いているし、リインフォースはチヴィットを使ってポッドへの順路を用意している。

「じゃあ私、始まるまで手伝います。」
「わたしもっ!」
「ありがとな。その気持ちだけ貰うよ。その分決勝頑張って盛り上げて!」
「「はいっ!!」」  

 2人は大きく頷いた。



「あ~私も参加したかったよ~」

 一方その頃、グランツ研究所のオペレーションルームで高町ヴィヴィオは足をバタバタさせながら頬を膨らませていた。

「流石に公式イベントに私達が参加しては未来に色々と影響が…」

 折角昔の…それも周りでは伝説と噂されている頃の面々とブレイブデュエルで遊べる機会。それをただ眺めているのは…。

「それはわかってるんですけど~っ!アインハルトさんは出たくないんですか?」

 ブレイブデュエルは見るものじゃなく遊ぶもの。しかもトップランカー同士がデュエルするのだから戦ってみたいと思うのはアインハルトも判っていた。 

「私も手合わせ出来ればとは思いますが…」

 アインハルトにはある思いがあった。

(ブレイブデュエルグランプリ第5回、年鑑が本当なら…)

 第6回のグランプリでは参加者が10倍に膨れあがる。
 それから雪だるま式にプレイヤーは増えていき2年後には公式なスポーツ競技として団体が生まれ全国規模に拡大していく。一方で医療の分野や教育等多方面でもブレイブデュエルが使われ始める。
 ブレイブデュエルは1つの体感ゲームとしては他のゲームと比べられない位魅力はあるけれど、それでも只のゲームでしかない。それが大きく変わったのは第5回で何かあった筈だ。

(何が起きたのか知りたい。)

 事故のせいとは言え折角来たのだから見てみたい。
 その興味がアインハルトの参加したいという欲望を抑えていた。



「さてと…じゃあ行ってくるね。」

 中央のモニタにヴィヴィオの名前が表示される。もうすぐ順番が回ってくるらしい。

「いってらっしゃい~」

 部屋の隅で一緒に様子を見ていたアリシアに声をかけポッドの列へと向かった。

「ヴィヴィオ」

 列を整理していたシグナムに声をかけられる。

「お前の相手は強いぞ。ブレイブデュエルでも初期の頃からの…」
「シグナムさん、それ以上は言わないでください。知っちゃったらズルしてると思われちゃいます。対戦するなら正々堂々と遊びたいですから。」

 シグナムの言葉を遮る。顔を曇らせると思ったけれど彼女は笑顔で

「そうか…そうだな。思いっきり遊んでこい」

 そう言うと背中をポンと叩いて送りだした。



「姉さん、ヴィヴィオはどう?」

 ヴィヴィオが行ったのを見計らっていたのか、さっきまで彼女が居た席にフェイトが座った。
 心配性な所は相変わらずだ。

「心配なら先に声かければいいのに。」
「でも…こっちの私に教えてるのもあるし…」

 苦笑いする彼女にハァッと嘆息する。

「私の方がフェイトと先に対戦するんだけど?」
「えっそうなの?」
「そうなのっ!」

 さっきプリントしてきた表を見せる。
 ヴィヴィオとアリシア、他になのは達やシュテル達、ヴィータにもチェックしてある。
 紙を見せると指で追いかけていくフェイト。

「アリシアがヴィヴィオと対戦するの決勝なんだ…」
「その前にヴィヴィオはシュテルやアミタさんに勝たなきゃいけないし、私もなのはやフェイト、キリエさんや三月…トーレさんに勝たなきゃいけないんだからね。」
「だ、大丈夫だよ。姉さんなら」

 一応は応援してくれるらしい。

「ありがと、もし負けちゃうならその時はヴィヴィオが油断するか何か別の事に興味を惹かれてる時か…本当に強い人と対戦した時だろうね。」

 そういう意味ではシュテルやアミタとどんな風にデュエルするのか見てみたいと思う。
そんな事を言ってると

「ただいま~、フェイトママ♪」

 ヴィヴィオが戻って来た。

「おかえり~」

 手を振って迎える。

「えっ? もう終わったの?」
「うん、最速じゃなかったけど勝ったよ。」

 今の彼女は油断しないだろうし、グランプリに集中している以上余程の事が無い限り他の興味も持たない。

「次は私だ、行ってくるね。」
「頑張って!」

 そう言うとヴィヴィオと席を代わってポッドの列へと向かった。 

(本気で行かなくちゃダメだね、これは)
 

 
「ヴィヴィオ、姉さんは大丈夫かな?」

 フェイトからジュースを貰って1口飲んだところで彼女が聞いてきた。

「アリシアなら大丈夫だよ。ママは心配しすぎ。」
「だって戦うって言ってもゲームの中だから怪我しないし、怪我させちゃうこともないんだから。」
「そ、そうだね。」

 フェイトが少し驚いた顔で頷く。

「きっとアリシアの方が私よりブレイブデュエルで楽しんでるんじゃないかな。元の世界じゃ自由に魔法使えない。私やママが使ってる飛行魔法でもアリシアにとっては凄く大変な魔法だよね。でもここなら本当に自由に飛べる…」
「…でもこのまま勝ち続けたらアリシアとも対戦するんだよね? 戦える?」

 帰ってもあっちで彼女と模擬戦はもうしない。きっと彼女もそう思っているだろう。だからこそ

「うん! 勝つか負けるかはわかんない。でも全力で対戦するよ。」

 そう言った側から再びヴィヴィオの名前がモニタに表示された。

「えっ! ママちょっと行ってくるから場所取っておいてね。」

 そう言うと駆け足でポッドの列へと向かって行った。



「フェイトちゃん」

 ヴィヴィオを見送った直後、横から声をかけられて振り向くとなのはが立っていた。

「なのは、お手伝いは?」
「今日はお休みにして貰ったんだ。グランプリ気になったから。それに…ヴィヴィオとアリシアも」

 ヴィヴィオがさっきまで座っていた場所に腰を下ろす。 

「さっきね、姉さんとヴィヴィオに同じ質問をしたんだ。ヴィヴィオと姉さんは大丈夫かな?って。そうしたら姉さんはブレイブデュエルで遊ぶのが凄く楽しいみたいだった。でもヴィヴィオは違ったんだ。」
「違った?」
「ゲームの中だから誰も魔法で怪我しない。ここならアリシアも自由に魔法が使えるって。ここに来たいって言ってた理由…なんだかわかっちゃった。ここはヴィヴィオにとって安らげる世界なんだって。」

「魔法が無いから聖王や魔導師ランクも気にしなくていい、魔法で誰かを傷つけたりもしない。アリシアと同じ目線で遊べるブレイブデュエルがあって、私達やはやてやシュテル…みんながいる。スカリエッティやナンバーズのみんなも悪い人じゃない、何処か子供っぽくて真っ直ぐなんだ。」

 それが判るから…彼女が普段どれ程の意思を以て重圧に耐え過ごしているのかがわかる。

「ベルカ聖王でも高町でもない…私やフェイトちゃん、オリヴィエさんの後を追うんじゃなくて高町ヴィヴィオとして手が届かなくて泣きたくないから」
「え?」
「前にシグナムさんに紫電一閃を教わりに言った時にヴィヴィオが言ったんだって。ヴィヴィオの殺し文句♪」
「また…みんなで来ようね。」 
「うん。」

 2人とも勝ったらしく、笑顔で戻ってくるのを手を振って答えながら頷いた。



 トーナメントが進めばデュエルの過熱さは増してくる。
 喜ぶ者、泣いて悔しがる者、勝った相手相手を激励する者…色んな人が居るが、その中で注目のデュエルの幕が上がった。

『さぁ遂にみんな注目のプレイヤー同士の激突です。T&Hが誇る最強の砲撃娘、高町なのはちゃんと彼女の友達フェイトちゃんと間違えそうな電光石火の切り裂き娘アリシアちゃん。親友フェイトちゃんの雪辱戦になるか? それともこのまま勝ちを譲るのか? 超期待の1戦です。』

 八神堂にアミタの声が響き渡る。

「切り裂き娘って…私そんな風に見られてたんだ…」

 アリシアがぼやくを聞いてクスッと笑う。きっとT&Hのなのはも似た感想を持っているだろう。

「よしっ、行ってくる!!」
「アリシア、頑張って!」

 ポンっと背中を叩いて彼女を送り出した。

~コメント~
 アリシアの失敗作として作られ幾つもの事件を見てきたフェイトにとってブレイブデュエルの世界がどんな風に見えたのでしょうか?
 アリシアとヴィヴィオの会話で彼女達の見ている物を感じた時、フェイトにとってもイノセントの世界は心安らげる世界だと思ったのかも知れません。

 次話は連戦です。(きっと長くなるんじゃないかな~と戦々恐々)

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