第21話「GRAND PRIX ~4th~」

「さ~てと…」

 笑顔で観客に向かって手を振った後、真顔になる。

「どうするかな」

 アリシアは考えていた。
 多分こっちの高町なのはは1番やっかいな相手だ。
 高火力で堅いジャケットの白のセイクリッドと高速移動が出来る黒のジャケット、フェイトがブレイズモードを持っているから彼女もエクセリオンモードを持っている。
 そして…何よりもこっちの彼女は恭也や美由希と一緒に剣を練習している。練習してきた技が通じるのか?
 立体認識の良さや切れたヴィヴィオと1時的とは言え対等に渡り合えたのを見ている。


 
「近づいたら突撃、離れちゃったら砲撃か…」

 フゥっと溜息をつく。魔法世界で1対1で対戦しろと言われたら模擬戦でも躊躇する。
 でもここはブレイブデュエルの世界。だったら…

「ぶつかってみるしかないよね。よしっ!」

 気合いを入れ直してポッドの中に入った。



「ここは…思っていたより凄いな。」

 同じ頃高町恭也と美由希は揃ってT&Hのブレイブデュエルスペースへと遊びに来ていた。
 大きな大会だと聞いていて、なのはもアリシアも気合いを入れていたし仮想世界でイメージトレーニング出来ると言ったアリシアの言葉に興味を引かれていた。
 そして…

「恭ちゃんあれっ!」

美由希が指さした方を見ると

「うん。」

 空と雲が広がる世界でなのはとアリシアのデュエルがまさに始まろうとしていた。

『はいは~い、注目のデュエル準備が出来ました。T&Hエレメンツの砲撃っ子なのはと同じくT&H所属だけれど八神堂から参加している私と同じ名前のアリシアちゃん。実は2人は同じ剣術を習っていてアリシアちゃんの2刀流はその技をブレイブデュエルで使ってます。だから2人は同門対決!。どっちが勝つか、さぁいくよ~れでぃふぁいっ!!』

 司会のアリシアのかけ声と同時にモニタの中のなのはとアリシアは動いた。



「レイジングハートっ!」
【ジャケットタイプを変えます】

 ジャケットの色を黒に染めなのはは1直線にアリシアへと向かった。彼女もこっちへ向かってくる。

「ディバインっバスタァアアアッ!!」

 彼女目がけて最初の砲撃を放つ。次の瞬間思った通り彼女は難なく避ける。この時同時に放っていたディバインシューター5個がディバインバスターの中から軌道を変えて背後からアリシアを襲う。ディバインバスターはこれを隠す為に使ったのだ。

「ハァっ!」

 しかしアリシアは物ともせず、当たる瞬間5個全てを切り捨てた。

「!!」

 魔力を削られたらと思っていたけれど…

(やっぱり近くに行かなきゃだめだよね)

 彼女には簡単な作戦はおそらく通用しない。
 
 

「………」

 ヴィヴィオはモニタの中の2人をジッと見つめる。
 時を同じくグランツ研究所でもシュテルやレヴィ、ディアーチェも固唾を飲んで見つめていた。
 そしてグランツ研究所でトーナメントに残っている殆どの者も…
 ブレイブデュエルのトップランカーにとってアリシアはそれ程驚異だった。
 彼女もSRカードは持っているけれどジャケットのスキルしか使わない。それ以外はRやR+。
 他のデュエリストであれば警戒する必要もない。でも彼女はブレイブデュエルで初めて実際の剣術を使えるレベルで取り込んでしまった。
 セクレタリーのドゥーエ&セッテ戦はそれを証明している。実技が使えれば、それは魔力ゲージやライフポイントと関係ないパラメーターを得たということ。魔法との掛け合わせも含めばディバインシューターを切ってしまう。
 彼女が勝ち残った後で対戦する可能性がある者達はその映像から攻略方法を考えるしかなかった。



 一方その頃、グランツ研究所から少し離れた町の通りで2人の女性が歩いていた。
 白斗わかばとこのはの姉妹である。わかばの胸元からハネキツネのリヒトもぴょこんと顔を出していた。
 2人もグランプリに参加したけれど予選で敗退してしまい、シュテル達の応援の為に甘い物を買いに外へ出かけた。
 ブレイブデュエルは遊んだ後甘いお菓子が欲しくなる。
 そんな時、リヒトが何かに気づき額の角を振るわせた

「リヒトどうしたの?」 

 このはがのぞき込んで視線を追うと

「あれじゃない?」 

 少し遠くに見えた人影に反応したらしい。

「でも…いつも誰かすれ違ってもこんなこと無いんだけど…」

 影はフラフラと歩きながらこっちに向かってくる…が途中でパタリと倒れた。

「!!」
「!?」

 慌てて駆け寄る2人、だがその姿を見て息をのんだ。

「えっ!!」
「うそっ!? そうだ、確か翠屋さんに行けば」

 彼女の家族が居る。ここからならそれ程離れていない。
 よいしょっと2人は彼女を左右から持ち上げ翠屋を目指した。

「……う゛ぃう゛ぃ…」



「ハァアアッ!!」

 アリシアが体をひねって小太刀を振り抜く。刃面が通り過ぎた軌跡が十字を描く。
 だがそれは描いただけで対象には当たっていない。目の前の相手、なのはが僅かに後ろに下がったからだ。
 そこから体勢を落として足払いをかける。それも彼女は察したらしく上空に飛ぶ。
 相手がなのはだということと空中戦だということがアリシアのアドバンテージを奪っていた。

「レイジングハートっ!」

 エクセリオンモードのデバイスの先に桜色の光が刃が生まれバックステップから上空に回ったなのはは突撃してきた。デバイスを交差させ受け止める。避けずに受け止めたのはさっき避けた後にそのまま追いかけられ直撃を受けたからだ。

【ガキッ!!】

 ぶつかった音が鳴った直後体を左に捻って受け流し1回転したところで4連撃を浴びせようとするが

「っ!」

 後を追いかけてきたアクセルシューターを切らざるえなく、なのはが距離を取るのを許してしまった。 

「やっぱりなのはは凄いね。ここまで苦戦するなんて思わなかった。」
「アリシアちゃんも凄くよ。少ししか遊んでないのにこんなに強いなんて」

 笑って答えた彼女にアリシアも笑顔を浮かべる。タイムアウトまで1分を切っている。このまま行けばライフポイントが少ない私が負ける。

「でも…やっぱり負けられないから…ごめんね。バルディッシュ」
【YesSir】

 ブレイズモードからライオット2のジャケットに切り替え両手の小太刀を構える。なのはもその気迫に何かが来ると思いレイジングハートを構える。
 次の瞬間、アリシアの姿が消え20m程離れていたなのはの目の前に出現し彼女が構える間も与えず4連撃の後

「ハァアアアッ!」

 左の突きを与えライフポイントを全て奪い去った。

【Winner Alicia】

力が抜けた状態のなのはを横から支えたアリシアの姿がモニタに映っていた。



「………」
「…………」
「…………」
「………」

 T&H、八神堂、グランツ研究所で見ていた殆どの者が何が起きたのか理解出来なかった。 

(アリシア…見ただけで使えるんだ…)

 ヴィヴィオの表情は強ばる。そして

「…使っちゃったね」
「ああ、使ったな。」

 T&Hで恭也と美由希も映像を見て頷いた。



「…今のは高速移動魔法ですか?」

 我に返ったシュテルがユーリに聞く。以前似た攻撃を受けた事がある。ヴィヴィオがSonicMoveを数10回同時に使い目の前から姿を消しDMS全員のデバイスを破壊し叩き落としていた。
 でも今はスキルの同時使用制限が付けられている。

「! 違います。アリシアは…高速移動魔法を使っていません。」

 つまりはあの剣術と同じ…彼女の技ということか?

「これは…ヴィヴィオ以上の脅威かも知れませんね。」
「ああ…」

 シュテルの言葉にこのまま進めば次に当たるであろうディアーチェが険しい表情で頷くのだった。



「ただいま♪」

 ポッドから出て戻って来たアリシアが声をかける。

「お帰り、アリシア凄い! なのはに勝っちゃったんだ。」
「ギリギリだったけどね。」

 苦笑するアリシアにスポーツドリンクを渡す。

「姉さん、さっきのは…何?」

 横で一緒に観戦していたフェイトが聞くが

「フェイトママ、まだ聞いちゃ駄目。私も対戦相手なんだよ。でも…後で教えてくれたら嬉しいな」
「うん、ありがとう。ヴィヴィオ」

 頬を崩して美味しそうに飲む彼女を見ながら

(士郎さんが私に言った理由わかったよ…)

 心の中で溜息をついた。



その頃、T&Hでは

「なのはちゃん、あんまり落ち込まないで」
「あんな無茶苦茶な攻撃誰だって防げないわよ。それでもトーナメント3回戦まで行ったんだし、フェイトが勝ってくれるわよ。」
「フェイトちゃん『なのはの分も絶対勝つ』って言ってたよ。」
「うん…」

 負けて落ち込むなのはにすずかとアリサが元気づけようとしていた。そこへ

「お疲れさま、なのは。格好良かったよ」
「お姉ちゃん、お兄ちゃん…負けちゃった。」

 美由希と恭也がやってきた。応援してくれていたらしい。折角来てくれたのにと思うと涙が溢れそうになる。

「……なのは、グランプリが終わったら俺と美由希にブレイブデュエル教えてくれないか?」
「えっ?」

 振り仰ぐとそこには笑顔で頷く2人の顔があった。

「悔しいのはそれだけ楽しい面白いって思ってるからでしょう。なのは私達に遊び方教えて。」
「うん、ウンウン♪」

 なのはは涙を拭って笑顔で答えるのだった。



「兄妹っていいな…」

 T&Hのスタッフとして様子を眺めていたクロノ・ハラオウンはポツリと呟いた。
 T&Hエレメンツのムードメーカーでもある彼女が落ち込んでいると他の面々も元気がなくなる。何か言葉をかけて元気づけられないかと考えていたら2人が言って何か話すと彼女は笑顔を取り戻した。

「クロノ君にもいるじゃない、かわいい妹が2人もっ♪ 」
「なっ!! エイミィっ」

 呟きを聞いていたらしい。顔が一気に熱くなる。

「いいよね~、私なんか1人で妹が欲しいな~っていつも思ってるんだから。キーッ羨ましいっ!爆発しろっ!」
「何故僕が爆発しなければいけないんだ? それにアリシアもフェイトも妹じゃない、母さん同士が仲が良くて昔から一緒に住んでるだけで…」
「小さい頃から一緒に住んでたら妹みたいなものでしょっ!」
「そうね~クロノが2人を見ていてくれて随分助かったわ」
「プ、プレシア店長。またあなたは…」

 2人の会話を聞いていたらしい。確か伝票の整理している最中だった筈…  

「全く、母さんに怒られても知りませんよ。」
「すぐに戻るわよ。それよりもエイミィ、簡単にかわいい妹が出来る方法教えましょうか?」
「「えっ?」」

 エイミィと思わず2人で彼女の方を向く。

「そんな方法あるんですか?」
「簡単よ、かわいい妹を義妹にしちゃえばいいの。ほら近くに居るでしょ、真面目で浮いた話も聞かなくてかわいい妹が2人も居る物件が。まぁ…凄く鈍いのが玉に瑕だけれど。」

 妹? 物件? どういう意味だろうか? クロノは首を傾げるがエイミィは少し考えた後バッとこっちを見て顔を真っ赤にし

「わ、私、オペレーションルームに行かなきゃっ! クロノ君またね、て、店長失礼しますっ!!」

 逃げ出すかの様に走って行ってしまった。

「エイミィ、走ると転ぶぞ…何をあんなに慌てて…、プレシア店長さっきのどういう意味ですか?」

 聞き返すとプレシアはハァと溜息をついて

「…リンディの笑顔を見るのは当分先になりそうね…そっちの方があの子達も喜びそうだけれど」

 そう言い残しエイミィが行った方へと歩いて行った。

 その時ワァァアアアッと大きな歓声がブレイブスペースに広がった。中央の大画面モニタにはDMSの1人、レヴィ・ラッセルとヴィヴィオがデュエルが映っていた。

~コメント~
 アリシアvsなのは回でした。
 クロノとエイミィの掛け合いは書いていて楽しいです。
 こっちの2人の未来はどうなんでしょう? 
 アリシアとフェイトも参戦しそうな気もしますし、管理局もないので、なのはやアリサ、すずか…ティアナや年齢的にギンガとかも…
 爆発しろっ!(笑)

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