第25話「GRAND PRIX ~ROAD to VICTORY ~」

 八神堂は古書店である。ブレイブデュエルを始めてからは子供達が多く来るようになった、しかしそれ以外にも探究心に駈られて静かに本を探しに来る者が偶に居たりする。
 祝日の午後、1階の古書店は静かで独特の雰囲気を出していた。
 1人の男性が1冊の本を片手にカウンターへと持ってくる。

「これを…誰も居ないのか?」
「の~~」
「500円です。」

 いきなり聞こえた野太い声に驚きながらも
 ポケットから500円玉を取り出して渡すと【ソレ】は起用にレジを打ってレシートを渡し
本を紙袋に入れて閉じて渡した。

 
「……」
「の~~」
「ありがとうございました。」
「あ、ああ。」

 そう言うと小走りで店を出て行った。 

「……」
「………」
「……静かだな…」
「の~~」
「……楽しいか?」
「の~~~」
「そうか…」
「の~~」

 カウンターの下でザフィーラが寝そべりながらカウンター上で店番をしているのろうさと静かな時間を満喫するのだった。



 一方、地下のブレイブスペースでは「オォォオオオ!」という歓声と共にモニタに激烈なデュエルの映像が映っていた。
 さっきのアリシアとフェイトのデュエルが互いの一瞬の隙を狙う高速戦だったのに対し、ヴィヴィオとシュテルのデュエルはこれぞ高火力、高防御のセイクリッド同士の魔法戦とばかりの射撃、砲撃、近接魔法を駆使したデュエルだったからである。
 アリシアはそれを見て呟く

「私…間違ってるのかな?」
「何が?」
「うん、みんながこれだけ熱中できるのってやっぱりブレイブデュエルに魔法があるからだよね。でも、私は魔法を使わないで剣を使った。見てるならこっちの方が楽しそう…。私の時にこれだけみんな夢中になってくれたのかな」
「それは違うんじゃないかな。」

 フェイトが直ぐさま答える。

「姉さんの遊び方もヴィヴィオの遊び方もここではみんな初めて見てる。前にグランツ博士と話したんだ。ブレイブデュエルにはもっと色んな可能性がある、もっと沢山の夢があるって。」
「色んな可能性…」
「姉さんを見て運動が得意な子だったらブレイブデュエルの中でもっと強くなりたいって思うだろうし、あんな風に動けるならって習う子も出てくる。それは姉さんが見せた今までブレイブデュエルで無くてヴィヴィオや私達でも作れなくて、魔法を知っていて剣術を習ってる姉さんだから作られた可能性なんだ。だから自信を持って。」
「私だから出来た可能性…」

 そんな風に考えた事はなかった。
 ブレイブデュエルの新しい可能性…アリシアだから作れた可能性…

「そっか…だったら私も頑張らなきゃね。ヴィヴィオみたいに。」

 さっき彼女が言った『思いっきり遊ぼうね』と意味がなんとなく判った気がした。



(彼女はやはりっ!)

 ヴィヴィオの放ったクロスファイアシュートをディザスターヒートで相殺しながらシュテルは笑みを浮かべる。思った通り彼女は凄い。2日間の練習が無ければもっと酷い醜態を晒していたに違い無い。
 複数の魔法制御や組み合わせて使う新たな魔法。スキルカードが持っている特性ばかりを考えていては勝てる訳がない。

『素早く考えて素早く動く。』

 彼女の母、高町なのはが練習中に何度も言っていた言葉。ブレイブデュエルが盛り上がっていけばスキルカードも更に増える。その時カードを覚えていられるとは限らない、アリシアの様に実技を取り込んでくる者も現れる。そうなればショッププレイヤーとして全国ランカー上位を維持するのも容易じゃない。
 相手の動きを観察しながら常に良い戦略を考え実行する。

(フェイトの様に概念を持ってはいけない)

 先のデュエルにおけるフェイトの敗因はアリシアが実技に偏っていて射撃系魔法を使わないと考えてしまった事。アリシアも2つの魔法を同時に使っているのだからスキルカードさえ持っていれば他のデュエリストの様に使える。思考からそれを外していた時点で不利に陥っていた。

(ですが私はそうはなりませんっ)
「ブラストヘッドっ!」

 ヴィヴィオがインパクトキャノンを放った後に飛び込んでくるのを迎撃する。

【ガキッ!!】

 紫電一閃とぶつかり威力は相殺された。

「ここまで偶然は…間違いありません。」

 空中で止まり 

「ヴィヴィオっ!!言った筈です最初から全力だと。手加減されたデュエルに意味はありませんっ!!」

 シュテルは杖を下ろし叫ぶ。   
 何度もの砲撃、打撃、射撃魔法の応酬、互いの魔法がぶつかれば攻撃値が低い方がダメージを受ける。しかしシュテルもヴィヴィオもダメージを受けていない。シュテルは魔法の出力制御をしていない…ということは。
 ヴィヴィオが魔法の出力制御をしている。それはまだ彼女にはそれ程の余裕があるということ。



「手加減…手を抜いてる?」

 準決勝を見ていたグランツ研究所、八神堂、そしてT&Hにシュテルの声が響く。それは観客をざわつかせるに十分だった。アリシアとのデュエルに敗れたフェイトは落ち込んでいたが彼女の怒声を聞いて涙を拭いモニタを見る。

「そんな風に見えなかったけど…」
「うん…私もそんな風に見えなかった。」
「でも、ヴィヴィオが手加減してたなら…シュテルが怒るのも当たり前よ。」

 慰めてくれていたなのはとすずか、アリサが口々に言う。
    


 八神堂でも

「私には余裕がある様には見えましたが手を抜いていたというのは…」

 管制室でリインフォースが呟く。

「どうやろうね~、でもあれだけ魔法使って直撃してるのが全部相殺されてたらな、ヴィヴィオちゃんには何か目的があるみたいやけど」

 はやてが笑みを浮かべて言う。その時

『グランツ研究所のアミタです。デュエルの途中ですがシュテルさんの発言で観戦者に動揺が広がっています。一端中断してその理由を説明して貰えませんか?』

 グランツ研究所でも同じように動揺が広がってアミタが急遽割って入ったらしい。

『わかりました…攻撃魔法同士がぶつかった時、僅かでも攻撃値が高い方の魔法が弱い魔法を消して相手へ向かいます。しかし全くの同値だった場合は相殺されます、ですがそんな現象は私が知っている中でも数度しかありません。先程からのデュエルで何度相殺されたでしょうか? それが理由です。』

 キッとヴィヴィオを睨むシュテル。

(シュテルにとってプライドを傷つけられたと思ったんやろな…)
『ヴィヴィオさん、シュテルはその様に言ってますが?』

 ブレイブデュエルの中に居たヴィヴィオに全員の視線が集中した。



(ど…どうしよう…)

 ヴィヴィオは狼狽えていた。ヴィヴィオ自身手を抜いてデュエルをしているつもりはなく、攻撃の中で有効打にならないものを【魔法を相殺】させる事が目的だったからだ。
でもそれがシュテルを怒らせ見ている人たちが動揺しデュエルを止めてしまう結果を作ってしまった。

(こうなったら何を狙っていたかを話した方がいいよね。)

 そう考えて

『シュテルの疑問に答えるね。私が…』
『貴様が答える必要はない。』

 突然違う声が聞こえた。

「ディアーチェ?」
『ヴィヴィオ、貴様が答える必要はない。シュテル、頭に血が上りすぎだ。ヴィヴィオも策を考えているのは当然だろうが、それをデュエルを止めてまで指摘するのか?』
「それは…ですが」
『仮にヴィヴィオが手加減していてそれをシュテルが宣言するのは対等に渡り合うまでもない相手だと自ら認めているのと同じであろう? 強者にその様な手で付け入るのか?』
『ヴィヴィオの名誉の為に言っておく、シュテルが指摘した点はヴィヴィオが狙って行っているもので断じて手加減している訳ではない。我らは管制室で見ているから彼女が何を考えているのか判っているがそれを今言う必要もつもりもない。』

 ディアーチェがDMSのチームメイトであるシュテルの根拠をバッサリ切り捨てた。

『ヴィヴィオ、良ければ全てのデュエルが終わった後で皆に話してくれると助かる。それと…言いがかりとは言え手の内を話した失礼を詫びる。』

 ディアーチェは管制室で見ているから私が何を狙っているのか気づいてるらしい。

「あっ、いえ…ありがとうございます。」
『そういうことだ。アミタ、デュエルの続行の合図を』
『あっ…はい、ではデュエルを再開します。レディーゴーッ!』

 再びヴィヴィオは構えると

「ヴィヴィオ、先程は失礼しました。ディアーチェが言った通りです、どうやら私も頭に血が上っていたようです。良き戦いを望みます。」
「うん♪」

 頷いた後アクセルシューターを10個作ってシュテル目がけて放った。


 
「全く…沈着冷静であればこその強さだと言うのに…」

 溜息をつきながらディアーチェが管制室の椅子に腰を下ろす。

「ディアーチェさん、ヴィヴィオが狙っているのって何ですか?」

 後ろで観戦していたヴィヴィオとアインハルトが恐る恐る聞いてくる。さっきのやりとりだけでは気になって仕方がないらしい。彼女達はグランプリに出る訳でもなく外に出ると違う問題を起こすからここで見ているしかない。特に隠しておく必要もないだろう

「…彼奴の目的はシュテルと自らの…」

 その言葉を告げ2人が戦っているエリアを指さす

「………そんな…」
「…………」

 2人はそれを知って愕然とするのだった。

~コメント~
 ヴィヴィオVSシュテル戦です。
 今話はシュテル視点を主に書いてみました。

 ようやく暖かくなってインフルエンザの脅威も治まってきました。
今回は予防接種をしていなかったのでA型にかかってしまい酷い目に遭いました。
 体調管理は大切ですね。

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