「あ…あれ…本当にヴィヴィオですか?」
ティアナは自分の得意魔法、クロスファイアーシュートをヴィヴィオが放つのを見て驚きの余り言葉を詰まらせた。
「そうだよ、機動6課に居た頃見てたみたい。ヴィヴィオ、前からバスターとシューターはよく使うんだけどクロスファイアシュートも相性良いんじゃないかな。制御が難しい魔法だけどちゃんと制御してる。」
なのはが真剣な眼差しでモニタを見つめつつ答える。
「ヴィヴィオ、魔法の制御能力が落ちて動きも鈍いです。今日は終わりにしましょう。」
「ハァハァハァ…」
(SSランクなんて言われて私…浮かれてた)
傷だらけで泥だらけ…いつもデバイスに助けられてるのに気づいてなかった。
(一緒に戦ってると思ってたけど、私だけじゃ何も出来なかった)
ジュエルシード事件でフェイトと戦って、時の庭園でジュエルシードを封印した時も
闇の書事件ではやてを助けようとリインフォースと戦った時も
チェントを追いかけて元の時間に戻そうとした時も
マテリアルを抑えて闇の書の復活を止めようとした時も
1人じゃなくてずっとRHdが一緒だったからなんとかなった…それを忘れて…
「なのはママ、フェイトママおはよ~…」
ある朝、寝ぼけ眼でリビングに降りてきたヴィヴィオを出迎えたのは…
「おはようございます。朝早く2人とも出かけましたよ。」
オリヴィエだった。しかも彼女はここに来た時と同じ服を着て鎧まで身につけている。
リビングのテーブルを見るとメモがあり、2人とも仕事で帰りは夜遅くになると書かれていた。
「ヴィヴィオ~」
家へ帰る途中、ヴィヴィオは呼ばれて振り返った。少し遠くで手を振っている女性が見える。彼女はこっちに小走りで近づいてくる。
「あっ、シスターシャッハ。ごきげんよう」
「ヴィヴィオ、ごきげんよう。学院に行こうかと思っていたのですが会えて良かったです」
「私に何か?」
「ええ、これをユーノ司書長に届けて貰えるでしょうか。」
ユーノという名前を聞いて数日前のやりとりを思い出して一瞬ビクッとなる。
「今日は良い天気で良かったね。ヴィヴィオ、フェイトちゃん♪」
「うん。気持ち良いね~オリヴィエさん、どうですか?」
「はい。空気が美味しいです。」
「うん、気持ちいい…」
ヴィヴィオの髪を草原を走ってきた風がなびかせていた。
2日前、ヴィヴィオはティアナに送って貰って帰ってきた。
後で一緒にお風呂に入ろうと言っても「後で入るからいい…」と断られ、翌朝一緒に朝食を食べた時も心ここにあらずという状態だった。
「ヴィヴィオ、昨日は大変だったね。」
無限書庫に来たヴィヴィオは挨拶する前にユーノに言われて驚いた。
「も~っ、ママおしゃべりなんだから…」
先日ヴィヴィオはマリンガーデンでマリアージュ6体と戦った。
市街地区での戦闘魔法や飛行魔法は事前に使用許可が要る。はやてが先に申請してくれたけれど、魔法使用に関しては彼女の管轄外で何らかの使用理由が要るらしい。
港湾警備隊との辻褄もまとめて合わせようという彼女の発案でその夜は八神家での食事会という流れになった。
はやてやザフィーラ、シグナム達と一緒にご飯を食べるのは楽しかった。
「凄い…綺麗…」
マリンガーデンの中に入ったヴィヴィオはその光景を見て言葉が見つからなかった。
寒い季節だから海の中を歩いても何も居ないと思っていたのだけれど、そんなことはなく
上だけでなく左右や下まで数え切れない位の魚がトンネルを作っていた。
これを見たら事件で付いたイメージも消えるだろう。
「凄いね・・・」
「「・・・・・・」」
ヴィヴィオとアリシアはそれぞれオリヴィエとチェントの方を向くと・・・彼女達はその光景に見とれていた。
「ただいま~…え、ええーっ!?
ある調べ物をする為に依頼物を一気に片付けたら帰るのが遅くなってしまった。
鍵を開けて玄関を入りリビングのドアを開けたヴィヴィオの目に入ったのは…
「おかえりなさい」
なんとパジャマ姿のオリヴィエ。
「遅くまでお疲れ様~。教会で言うの忘れてたんだけど、オリヴィエさん今日から暫く居て貰うから。」
「ねぇイクス、イクスは会った事あるの? オリヴィエさんに」
ヴィヴィオはベッドで眠る少女、イクスヴェリアに問いかける。
イクスはマリンガーデン大火災からスバル・ナカジマに助け出された。その時『前に目覚めた時はベルカ聖王家はもう無くなっていた』と言った。彼女が眠ってしまった後で、スバルから教えて貰った。
彼女は永い眠りの中にいる。それが10年なのか1000年なのか・・・それは誰にも判らない。
「あの後、すっごく大変だったんだから! もうあんな事しないでね」
カリムの部屋で入れて貰ったお茶を飲んで少し落ち着いたのかヴィヴィオはオリヴィエ念を押す様に言う。
ヴィヴィオの言葉通り授業が終わる前、彼女達が去ってからはもう大変だった。
2人が校舎に入った直後注目の的になってしまい、魔法制御を教えて欲しいとか虹色の魔法球の作り方を教えてと何人からもお願いされたのだ。
授業後はクラスメイトだけだったのに、放課後になったら他のクラスの子まで押しかける始末。 ヴィヴィオ達の様子を教室から見ていたのか、クラスメイトの誰かから伝わったらしい…
「フーン、そんな事があったんだ。それで朝から何度も欠伸して眠そうなんだね。」
「うん…オリヴィエさんのおかげで…お昼ご飯食べた後だから1番眠いかも。ファアア~…」
アリシアに答えながらヴィヴィオは今日1番大きな欠伸をする。
お弁当箱を枕代わりに今すぐ寝たい気分。
あれからオリヴィエはなのはやはやて達と聖王教会に残った。ヴィヴィオもその場に居て色々聞いて話してみたいと思っていた。
しかし既に朝日は差し込んできていて、学業優先という事で朝から本局へ行くフェイトに連れられ家に戻りそのまま着替えて登校してきた。
「ねぇ、ヴィヴィオ。本当にこの子がヴィヴィオの?」
「確かに似てるって思うけど、ちょっと違う感じもする。それにオリヴィエ聖王女って凄く昔の人でしょ?」
「フェイトちゃん、ヴィヴィオとチェントちゃんも似ているけど違う感じだし、元が同じだって言えばフェイトちゃんとアリシアちゃんと違うんだから誤差みたいな物じゃないのかな」
「なのは、姉さんと私は全部同じじゃ無くて…って話がずれてる。なのはの言う通りヴィヴィオの小さい頃とチェントの今とじゃちょっと違うね。チェントはピーマンも食べるし好き嫌い無いし」
「そうそう♪」
「………」
「…………」
「………………」
「…ヴィヴィオ、さっきからこの子何も話してくれないんだけど…何かわかった?」
暗闇と静寂だけが残された広い部屋、その中央で女性が1人ひざまずいている。
彼女は手を祈るように胸の前で合わせ微動だにしない。
懐中時計の音ですら響くような空間でただひたすらその時が来るのを待つ。
暫くしてその場の様子が変わった。
女性から柔らかな光が溢れ出し、床にしみ出す様に広がっていく。同時に天井にも同様に広がり上下対となる魔方陣を描く。
静かに女性は立ち上がり両手を広げ、そのまま弧を描く様に手を前に出す。
野も山も木々も湖も、辺りが全てセピア色になった世界。
私は気づくとそれらに囲まれた平原に1人立っていた。
でも不安や恐れはない。なぜなら
(ここ…前に来た…世界だよね)
私が「彼女」と会った世界だから。
『…ィオ…ヴィオ…ヴィヴィオ…』
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