第06話 「週末はTeaTime」

「ただいま~…え、ええーっ!?

 ある調べ物をする為に依頼物を一気に片付けたら帰るのが遅くなってしまった。
 鍵を開けて玄関を入りリビングのドアを開けたヴィヴィオの目に入ったのは…

「おかえりなさい」

 なんとパジャマ姿のオリヴィエ。

「遅くまでお疲れ様~。教会で言うの忘れてたんだけど、オリヴィエさん今日から暫く居て貰うから。」

 朝から色んな事に巻き込まれていたせいもあって、オリヴィエがどこで滞在するのかなんて何も考えていなかった。

(なのはママがカリムさんの部屋に居たの、これを話してからなんだ…)

 聖王教会に来ない彼女がどうして居たのかもこれで判った。でも…こういう時は

「別にいいよね?」
「うん…」
「そうだ! ヴィヴィオお願いがあるんだけど…」

 ヴィヴィオの嫌な予感パラメータはMAXまで上がっている。

「オリヴィエさんに街を見て貰ったらいいって思わない? 1人で心配だったらアリシアちゃんとチェントちゃんも一緒に」

 普段の彼女と違って変な言い回しをする。その理由もすぐに察しが付く。

(オリヴィエ…カリムさんと一緒になってママに言ったんだ。『私に案内して貰ってはどうでしょう?』みたいに・・・)
「ママ?」
「な、何? 何か用事があるんだったら良いけど…ユーノ君も明日明後日はお休みでいいよって言ってよ。」
(ユーノさんまで…)

 無限書庫での彼の様子が少し変だったのはこれが理由だったのだ。

「うんいいよ♪ アリシアに私から話すね。」

 何か用事を思い出した。とか言って断ろうかとも考えたが、今日の学院の様に突然現れて…なんて事があると余計大変になる…それはアリシア達も同じ。
 それにヴィヴィオもゆっくり話してみたい。

「ありがとうございます。」
「オリヴィエさんは何を見たいですか?」
「ヴィヴィオにお任せします。」
「う~ん、わかりました。お風呂入ってきま~す」

 そう言ってリビングを離れて自室へと向かった。


  
「ありがとうございます。私から言うべきだったのですが…」

 ヴィヴィオがリビングを出て行った後、オリヴィエが立ち上がってなのはに頭を下げる。

「いいえ、ヴィヴィオも判って言ってたみたいですし。明日は思いっきり楽しんで来て下さい。」

 ヴィヴィオが答える前の逡巡、なのはには何となく思ってる事が想像ついていたけれどあえて何も言わなかった。

『彼女の希望を聞いてあげて』

 無限書庫のユーノに話した時言われた言葉。それがどういう意味なのかは判らない。でもなのはも彼の言った通りにしてあげたいと思う。

「そうですね。明日が楽しみになりました。」

 嬉しそうに笑みを浮かべるオリヴィエと見て

(笑ったところなんて本当にヴィヴィオそっくり…)

 成長すればこんな感じになるのかなと未来の娘の姿を思い浮かべた。



「そうきたか…やるねオリヴィエさん」
「そうきたかって…」

 バスタブの中でアリシアに通信を送ると彼女達もお風呂に入っている最中だった。
 湯気の中、髪を巻き上げたアリシアの姿と画面の外にいるチェントの声と何かおもちゃが動く音が聞こえる。

「知ってたんだ。ママが言うの」
「ううん、ヴィヴィオから初めて聞いた。でもね学院に来て模擬戦まで誘うんだからきっと普段の生活も見てみたいんじゃないかな~って。ヴィヴィオの家に行くのはイクスの部屋で聞いたよ。」
「そうか、そうだよね~。でもいいの? チェントも一緒にって」
「いいよ、明日はママのお手伝いしようって思ってたんだけど…そっちの方が楽しそうだし、チェントもずっと家と研究所だけじゃ退屈だろうしね。ねえ、明日お姉ちゃんと一緒にお出かけしない? 色んなトコ行ってケーキもいっぱい食べられるよ♪」
「うん♪」
「チェントも行くって」
(即答!? …チェントもうちょっと考えた方が…アリシアもお出かけとお菓子で釣ってるだけじゃ…)

 オリヴィエとチェント、明日はきっと大変な事になる。天井を見上げながらヴィヴィオはそう思いながらため息をつくのだった。



(明日…どうしよう…)

 ベッドで横になりながらアリシアは考えていた。

(ヴィヴィオがオリヴィエに街を案内するって言うの、ヴィヴィオが言い出したんじゃないね、どこか乗り気じゃなかったし…やっぱりオリヴィエさんか…)

 聖王教会で会った時にチェントの事も知っていた。
 彼女か騎士カリムがなのはに勧めて帰ってきたヴィヴィオに頼んだのではないかと考える。

「誘うなら直接言えば良いのに…」

 教会で会った時直接言えばいいのに、ヴィヴィオから言わせたのがちょっとだけ気に障る。

(う~ん…考えてても仕方ないや。寝よ寝よ)

 これ以上考えたところで答えが出るものでもなく、諦めて瞼を閉じた。
 


そして翌朝

「おはよ~ヴィヴィオ、オリヴィエさんもおはようございます」
「おはようアリシア、チェント。今日はいっぱい遊ぼうね♪」

 臨海エリアの駅で待ち合わせ。アリシアの声を聞いて振り返ってヴィヴィオも手を振る。
 今日はオリヴィエも騎士服ではなくなのはとフェイトから借りた服を着ている。
 髪の色や顔つき、瞳の色、端から見れば姉妹に見えるだろう。

「今日はよろしくね…ってチェント!?」

 アリシアと手を繋いで来たチェントの様子が一気に変わった。
 ヴィヴィオが見えた時少し不満そうな微妙な表情を浮かべてたのに、オリヴィエが見えた途端ビックリしたらしくアリシアの後ろに隠れてアリシアに抱きついてしまった。
 かなり人見知りする方だとは思っていたけれど、ここまでとは…

「チェント~大丈夫だよ。あのお姉さんチェントを虐めたりしないよ。お姉ちゃんが一緒にいるから…」

 アリシアがしゃがんで彼女に話している。落ち着くまで少しかかりそうだ。

「ヴィヴィオ、彼女がチェントですか?」
「はい。オリヴィエさんチェントを知ってるんですね。」
「ええ、アリシアにも昨日聞きましたが会うのは初めてです」

 イクスの部屋に行った後か、無限書庫に行った後でアリシアと何かあったらしい。昨日アリシアに話した時もそんな感じがあったから。

「じゃあオリヴィエさんならもしかして…私じゃ駄目だったんですけど・・・」

ポシェットから出したのは小さな袋。その中から4個取り出して彼女に渡す。

「それをチェントに渡して下さい。」

 手の平に置かれた小さな包みとヴィヴィオを見ながら首を傾げつつ2人の元へと行きアリシアの横でしゃがんで手の平を見せる。

「はじめまして、チェント。オリヴィエといいます。」

 彼女が近づいてきて最初はアリシアに抱きついたチェントだったが、手の平の物を見て姉とオリヴィエの顔を見る。

「あげるって。チェントに」
「あ、ありが…とう」

 ビクビクしながら手に取るチェント。

(よかった。人見知りしてるだけだったみたいだね。)

 チェントはまだ保護されてからの期間も短く、保護された経緯もあり同じ年頃の子供達のと同じ保育施設には行っていない。
 今はプレシアとアリシア、そしてプレシアの下で助手をしているチンクと一緒に過ごしている。
 それが人見知りに輪をかけているんだと思うけれど…もう少し経てば保育施設に行って友達も出来るだろう。
 そんな彼女と1番お近づきになれる方法は…餌付けならぬお菓子をあげていい人だと思って貰えればいい。だから…オリヴィエに渡した小さな紙包みはキャンディを渡せば…

(いきなり役に立っちゃった。)

 その効果はすぐに表れて

「姉様、オリヴィエ、はい~♪」

 いい人だと覚えたらしく、数分後には貰ったキャンディを1つずつアリシアとオリヴィエにあげていた。
 私にはくれない。ちょっと悔しい。

(でも、良かったよ…)

 1番気になっていた事が簡単に解決してホッとする。

「じゃあ行きましょうか。オリヴィエさん、どこに行きたいです?」
「お任せします。なのはさんから身の回りの物を買ってくるようにと今朝これを渡されました。これが通貨でしょうか? 他に今日買った物もこれで支払っていいそうです。」

 見せたのは1枚のクレジットカード。
 今日、街を案内するご褒美かな。

「じゃあ、オリヴィエさんの物を見ながら行きましょうか。アリシアもそれでいい?」
「うん、私いいお店知ってるよ。オリヴィエさん、そこに行きましょう。」
「はい」

 彼女に任せて後をついていく事にした。その時

『オリヴィエさん、スタイルいいから着せ甲斐あるね♪』

 届いた念話に何が目的だったのか判り苦笑した。



「この服…酷く生地が薄く肌も見えるのですが、動きにくいですしすぐに破けてしまいます」

 アリシアの教えてくれたブティックへと入ったヴィヴィオ達は早速店員に頼んでメジャーと椅子を借り2人でオリヴィエのサイズを測って似合いそうな服を幾つか持って試着室に入った。

「それでいいんです。ここじゃ服はそんな感じですから。ここまでもみんな似た服着てたでしょう?」
「それは…そうですけど…昨日シャッハさんから借りた服の方が…」

 学院に来た時に着ていた騎士服の事だろうけれど、こんな賑やかな場所に教会騎士が居たら注目の的だ。

「駄目ですよ。ここで目立たない様にするならこっちの方がいいんです。はい完成」

 カーテンを開くとアリシアが待っていた、チェントは奥の子供用の遊技場所で誰かと遊んでいる。

「どうかな?」
「う~ん…悪く無いけどちょっと幼すぎない?」
「そう? 良いと思うんだけど・・・」
「いいや、次私ね♪」
「えっ、これは買わないんですか?」
「気に入ったのがあれば言ってくださいね。じゃあ今着てる服脱ぎましょうか」

 アリシアと交代して再びカーテンが閉まる。 
 これがアリシアの言った『着せ甲斐』の答え。
 ヴィヴィオもアリシアもお小遣いでは買えない服もあるしいいな~と思う服はサイズが全然合わなかったりする。でも今日はなのはからカードを預かっているから少しくらい高い服を買っても大丈夫だし、オリヴィエはスタイルがいいから色んな服が着せられる。
 こうやって好きな服を着て貰うだけでも楽しい。
 着替えるまで暫くかかるだろうからとチェントの所へ行ってみると同い年位の女の子2人と遊んでいた。

「これあげる。」

 さっき渡したキャンディを女の子にあげる。

(人見知りすると思ってたのに…)

 驚かされる。
 でもあげたキャンディは最後の1個だったはず。もう1人も欲しそうにしている。貰えなかった女の子とチェントの間に微妙な空気が生まれる。

「はい、これ。みんな1つずつだよ。」
「……うん…あげる。」

 そっと彼女に2個渡すと彼女はその1つをもう1人の女の子に渡した。

『ヴィヴィオ、おまたせ~』

 アリシアから念話が届く。

「チェント、もうちょっと待っててね。」

そう言ってその場から離れようとした時

「……がと…」

 彼女が何か言った気がした。



 その後オリヴィエはヴィヴィオとアリシアに1回ずつ着替えさせられた。
 2人の服は少し極端で、ヴィヴィオがかわいい系の服を選ぶのとは対象にアリシアは胸元が大きく開いたブラウスや身体の線が見えやすい服を選ぶ傾向にあり、どうも彼女の趣味には合わないらしい・・・。
 結局店員に聞きながら選んだ服が1番気に入り、それに決めた。

「…私を使って2人で遊んでいたのですね…フゥッ」

 近くの喫茶で座ったオリヴィエが溢す。気づかれたかと思いつつ

「私達じゃあの服買ってもサイズがあわないから。」
「そうです♪ アレも買えば良かったのに…」

 もう少し色々着せてみたかったけれど、仕方がない。

「じゃあ次はチェントの番だね。何処に行きたい?」
「あこにいきたい。」

 指さしたのは海底トンネルのパネル。マリンガーデンリニューアルオープンと書かれていた。

「水の中を歩けるのですね。」

 オリヴィエも興味を持ったらしい。

「ご飯食べたら行こうね~」
「うん♪」

 マリンガーデン、ヴィヴィオにとっては少し特別な場所
 チェントによって変えられた時間を戻してい最中、なのはママとは違うなのはと一緒に行った場所。そして・・・マリアージュ事件でイクス―冥王イクスヴェリアが眠っていた場所。

 嬉しそうに答えるチェント。
 少し気になったヴィヴィオはオリヴィエに念話を送る。

『オリヴィエさん、昨日会ったイクスですけど。マリンガーデンの中にあった海底遺跡で眠っていたんです』
『では、マリアージュも…』
『はい、見た事がないんですけど…友達が戦ったって』
『長クラスを倒せる人もいるのですね…教えてくれてありがとう。』

 なぜ彼女にそんな話をしたのか? この時は自身にも判らなかった。


~コメント~
 もしヴィヴィオの時間にオリヴィエがやってきたら?
期間が空いてしまい申し訳ありませんでした。
 もう1人の自分、複製母体として互いに意識するオリヴィエとヴィヴィオの関係。もう1人の自身の友人であり姉であり、今の生活を狂わされるのを嫌いながらも捉え所のない彼女に警戒感を持つオリヴィエとアリシアの関係。
 そんなギクシャクした立ち位置をなんとかしたいと考えたのは3人を見ていたなのはなのかも…
 
 

Comments

Comment Form

Trackbacks