第03話 「お騒がせなプリンセス」

「フーン、そんな事があったんだ。それで朝から何度も欠伸して眠そうなんだね。」
「うん…オリヴィエさんのおかげで…お昼ご飯食べた後だから1番眠いかも。ファアア~…」

 アリシアに答えながらヴィヴィオは今日1番大きな欠伸をする。
 お弁当箱を枕代わりに今すぐ寝たい気分。
 あれからオリヴィエはなのはやはやて達と聖王教会に残った。ヴィヴィオもその場に居て色々聞いて話してみたいと思っていた。
 しかし既に朝日は差し込んできていて、学業優先という事で朝から本局へ行くフェイトに連れられ家に戻りそのまま着替えて登校してきた。
 午前中の授業は何とか気合いで目を開けていたけれど、昼ご飯を食べた後一段と強くなった睡魔には勝てるはずもなく…

「うにゃ…スゥ…」

 言った側から目を瞑るとそのまま意識が吸い込まれていきそうで、とても気持ちが良い。

「って、ヴィヴィオ今寝たら次の授業外でだよ。着替えなきゃ」

 肩を思いっきり揺らされ仕方なく意識を引っ張り戻して瞼を開く。
 そろそろ着替えないと次の授業に間に合わない。次の授業は外で魔法を使う。少し動けば睡魔も消えるだろう。
 んっ! と気合いを入れ直して

「うん、行こう。」

 運動服を持って椅子から立ち上がった。

「授業が終わったら一緒に教会本部に行こう。私も昔のお姫様と話してみたいもん」

 彼女よりアリシアやフェイトの方がお姫様っていうイメージに合ってるんじゃないかと思いながらも、聞いてみたい事もあるしアリシアを紹介してもいいかなと考えて

「うん、一緒に行こ」

 答えてアリシアの手をとった。



(昔のお姫様でヴィヴィオの複製母体か…どんな女性かな?)

 アリシアは想像を膨らませる。でもよく考えてみると…

(ヴィヴィオとチェントってそっくりな所あるし…レリック入れてたチェントみたいな感じかな~。ヴィヴィオ『オリヴィエさん』って言ってたから年上みたいだし)

 アリシアにとって彼女は妹と親友を繋ぐ人であり、未来の2人に手紙を残す位気遣いが出来る優しい人。
 そして思いつく

「あっそうか、ヴィヴィオとチェントが大人になった時の姿が見られるんだ。」
「何か言った?」
「ううん、何でもない~♪ 早く着替えよ」

 胸が躍る。彼女達の成長した姿を見られるまたとない機会なのだから。



 魔法プログラムの実践。本来は魔力を持つ魔導師しか出来ない授業…だったのだけれど先月から少し変わった。

 『コア』と呼ばれる魔法エネルギー結晶体が最終テスト段階に入ったからだ。
 それが組み込まれたデバイスを使えば魔力を持たない者でも魔法を使うことが出来る様になる。
 魔法はプログラムでもイメージする力やそのイメージをデバイスに流す方法は子供の頃から慣れ親しんでおいた方が良い。
 Stヒルデ学院では授業を通して魔導師・騎士を育成する目的もあり、最終テストという名目でいち早くコアの付いたデバイスが配布され授業が始まっていた。
 今はまだ魔法が使える者が使えない者とペアになって全員の足並みを揃えていく段階、それでも魔力を持たず魔法が使えないアリシアにとっては1番楽しみにしている授業、一方ヴィヴィオもアリシアとペアになって受けられ授業だから内心彼女より楽しみにしていたりする。

 広いグラウンドに集まって先生からプログラムの組み方と起動方法を話していると校舎に入っていく見慣れた姿を見た。

(シスターシャッハ?)

 教会本部のシスター、シャッハ・ヌエラともう1人…

「え…えええっ!? オリヴィエ!?」

 教会の騎士が着る服を着ていて下ろしていた髪を巻き上げているが、その姿は見間違う筈もなくオリヴィエ・ゼーゲブレヒト。思わず立ち上がる。

「高町さん、どうかしましたか?」
「い、いえ、何でもありません。」

 再び地面に腰を下ろす。まさかここに来るとは・・・考えもしていなかった。

「ねぇ、シスターシャッハと一緒に入って行ったのが、オリヴィエ陛下?」

 横にいたアリシアが聞いてくる。

「うん…どうしてここに…」
「どうしてってヴィヴィオ、わからない? ここに居るからじゃない、もう1人の自分が」
「やっぱりそうだよね…」

 それしか理由は思いつかない。朝は途中で帰ったから彼女から動いて見に来たのだ。ヴィヴィオがどんな暮らしをしているのかを知る為に。

「はい、では始めて下さい。」

 先生の言葉で一斉に立ち上がり、2人1組になってグランドに散る。しかしヴィヴィオはその場から動けないでいた。


 
 気もそぞろにアリシアと練習をしていると、オリヴィエがシャッハと一緒にグラウンドに出てきた。2人は先生と話をしはじめる。

「皆さん集まって下さい~」

 少し経って先生が全員を呼び集めた。

(一体何を…?)

 彼女がどうしてStヒルデに来たのか? 何をするつもりなのか? 判らずヴィヴィオは先生の方へ走る足は酷く重く感じた



(やっぱり気になるよね。)

 アリシアはプログラムを組みながらヴィヴィオの様子を見ていた。彼女は何度も校舎の方を向いて中の様子を窺っている。思わず苦笑する。
 暫くするとシャッハ達がグラウンドへと歩いてきた。彼女達の目的がここに居るのだから当たり前。シャッハ達が先生と少し話した後

「皆さん集まって下さい~」

 と集合の合図がかかった。

(オリジナルさん、どんな人かな?)

 色々考えるヴィヴィオを横で見ながら一緒に走って行く。その足取りは軽かった。



「授業の途中ですが、皆さんに挨拶したいと言う方がいらっしゃいました。教会本部のシスターシャッハと遠い管理世界で騎士をされているシスターオリヴィエです。」

(オリヴィエさん…名前を隠すつもりないんだ…)

 ベルカ正史は習うが初等課で統一戦争時の聖王の名前まで教えない。もし知っていても彼女の名前にあやかって付けられたと思うだろう。
 オリヴィエは1歩前に出て

「皆さん、ごきげんよう。教会に来た際シスターシャッハに教えて貰いましてStヒルデに来ました。授業を遠くから見させて貰い嬉しく思います。」

 着た時より話し方が流暢になり違和感が無くなっている。彼女の持っていたカードが学習しているのだろうか。
 そんな事を考えつつ彼女の言葉に耳を傾ける。

「騎士の1人として皆さんがどれ位魔法を使われるのか興味があります。よければ少し手合いをお願いしたいのですが。」
「手合いって何?」
「ううん、わかんない…握手?」
「本当?」

 静かに聞いていたクラスメイトがざわつく。

「皆さん静かに。シスターオリヴィエ、見てられたのでしたら判るでしょうが生徒達はまだ魔法を覚え始めたばかりです。魔法球すら作れない者が殆どですから騎士相手に模擬戦をするのは…」

 先生の『模擬戦』という言葉にクラスメイトの中で何人かの顔がこわばった。
 魔法が使える者でも念話や魔法球、少し飛行魔法が使える位。そんな所で手合いなんて言えば…

「ヴィヴィオに相手して欲しいんじゃない?」

 こそっと横でアリシアが呟く。
 シャッハと言い出したオリヴィエもこっちを見ている。

「もし良ければですが」
(逃げるつもりなら逃げてもいいよ…ってこと?)

 つきつけられた挑戦状。そこまで言われては引くわけにはいかない。

「先生、模擬戦の相手、立候補します。」

 手を上げて前に出た。



(いきなり手合いって、思ってたより凄いお姫様みたい)

 来ていきなり力量を見たいから模擬戦しませんかって言うとはアリシアにも予想外だった。
『手合い』と言った瞬間、先生とシャッハが驚いていたから誰にも言ってなかったのだろう。

「もし良ければですが」

 子供相手に騎士が模擬戦を申し出るのも聞いた事無いが、彼女の目的ははっきりしている。ヴィヴィオの力量を見る為としか思えない。
 そこまで言われたらヴィヴィオも引けない。
 自分のオリジナルからの挑戦状なのだから

「先生、模擬戦の相手、立候補します。」

 横で手を上げて前に出て行った彼女に

(頑張れヴィヴィオ)

と心の中で応援した。



「あくまでどれ位魔法が使えるのかを見る為です。高町さん、わかっていますね。」
「はい」

 先生の言葉に頷く。
 もう完全に眠気は吹っ飛んでいる。

「シスターオリヴィエ、彼女に無理はさせないでください。」
「ありがとうございます。」

 オリヴィエも先生にお辞儀をして上着をシャッハに渡し、ヴィヴィオに会釈する。

「よろしくお願いします。高町さん」
「よ、よろしく。」 
『少しなら本気を出してもかまいませんよ』
「!?」

 と彼女は念話を送り驚いたヴィヴィオにウィンクした。


 先生やアリシアから10m程離れオリヴィエからも同じ位離れる。

「では、始めて下さい。」

 その言葉にヴィヴィオは構え、両手足に魔力を集中させて前に飛ぶ。同時に左手から魔法球を1個だけ作ってそのままオリヴィエに向かって撃ち出した。
 デバイスを使わずにあくまで力の範囲内で、しかも色んな魔法を使うのではなく教えて貰っている魔法球を使った簡単な方法。
 オリヴィエは魔法球を簡単に避け迫るヴィヴィオに対して迎撃しようとする。

「今っ!!」

 念じると魔法球は壁があったかの様に跳ね返り、後方からオリヴィエへと襲いかかる。前後からの1人時間差攻撃。
 だがオリヴィエはすぐに把握して1歩下がり、当たる直前の魔法球を手に持ってその魔力を使いヴィヴィオの拳を受け止めてしまった。

(ウソ…)

 彼女は魔法球を避けた後1歩下がって魔法球の勢いを使い拳の魔力を相殺しただけ。魔法どころか片手しか使っていない。
 相殺されるか再び避けられるとは思っていたが、まさかヴィヴィオが作った魔法の威力をそのまま使って迎撃されるとは予想外で

「はい、高町さんありがとうございました。」

 拳の魔力を相殺して、勢い余ったヴィヴィオの体を受け止めたオリヴィエはそのまま彼女を抱きかかえ地面に下ろした。

『少し魔法は使える様ですね』
「う、うん…」

彼女に促されるまま握手する。

「ありがとうございました。魔法の制御が予想以上で驚かされました。シスターシャッハ、他の場所も見たいのですが」
「え、ええ。そうですね。失礼します」

そう言い2人はグラウンドから去っていった。

(何をしたかったの…?)

 彼女が何をしたかったのか、最後までわからずヴィヴィオはその場に呆然と立ち尽くした。

~コメント~
 突然やってきたヴィヴィオのオリジナル、オリヴィエ。
そんな彼女に振り回された回でした。
 


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