第04話 「少女の決意」

「あの後、すっごく大変だったんだから! もうあんな事しないでね」

 カリムの部屋で入れて貰ったお茶を飲んで少し落ち着いたのかヴィヴィオはオリヴィエ念を押す様に言う。


 ヴィヴィオの言葉通り授業が終わる前、彼女達が去ってからはもう大変だった。
 2人が校舎に入った直後注目の的になってしまい、魔法制御を教えて欲しいとか虹色の魔法球の作り方を教えてと何人からもお願いされたのだ。
 授業後はクラスメイトだけだったのに、放課後になったら他のクラスの子まで押しかける始末。 ヴィヴィオ達の様子を教室から見ていたのか、クラスメイトの誰かから伝わったらしい…

「仕方ないよ。ヴィヴィオ今まで検索魔法と念話くらいしか見せてなかったんだから。身体強化魔法と魔法球を一緒に使って誘導までしちゃったら…ね」

 クラスメイトの中にも魔導師候補もいるし、学院内にも魔導師ランクを持ってる生徒もいる。
 そんな中でわざと目立たないようにしてきたヴィヴィオが戦技魔法を使い教会騎士に対して物怖じもせず1撃を入れようとしたのだ。
 SSの魔導師ランクを持っているのを知っているのはあの場ではアリシアとシャッハだけ。先生も含めてデバイスも使わず当然の様に魔法を使ったのだから驚いただろう。

「どうしよう…明日から大変だよ。オリヴィエがあんな所で模擬戦なんて言わなければこんな事にならなかったのに…」

 噂は噂を呼ぶ。明日からの事を考えると頭が痛い。
 怒りの矛先が向いたオリヴィエはというと一向に気にせず分厚い書物を読んでいる。

「まぁまぁ」 
「良いではありませんか。教えを請われているのですから教えてあげれば」

 パタンと本を閉じ本棚に戻してからテーブルにあったティーカップを取る。

「ヴィヴィオが教えてあげればいいでしょう。何も戦技魔法を教える必要はありません。魔法制御は術者のイメージやプログラムを送る事が重要です。ヴィヴィオも母上に教わっているのでしょう?」
「そうね。他人に教える事で復習にもなるでしょうし、新たに学べる物もあるのではありませんか?」
「ママもオリヴィエさんと騎士カリムの言う通りだと思うよ。戦技魔法を教えるんじゃなくて魔法操作の方法は友達に教えてもいいんじゃないかな」

 なのはやカリムにそう言われてしまうと言葉が続かない。

「私もヴィヴィオとフェイトに教えて貰ってるし…そうだ! 毎週放課後に開かない?『管理局のエースの娘、高町ヴィヴィオの魔法講座』。私アシスタントね♪」
「アリシア!?」

まさか裏切られるとは思ってなくて声が裏返る。

「いいわね。コアから貴重なデータも取れるでしょうし。私も協力させて貰えるかしら」

 オリヴィエだけでなくなのはやカリム、アリシアまで含めた包囲網が作られている。

(マズ…このままじゃ…)
「わ、私、イクスの所に行ってくるっ!」

 立ち上がって慌てて外に逃げ出した。



「ちょっと言い過ぎちゃったかな。」
「そうですね」

 慌てて出て行った彼女の姿を思い出して3人でクスクス笑う。

「オリヴィエ陛下…と呼ばせて貰っていいですか?」
「ここには聖王家はもうありません。オリヴィエさんで構いませんよ。アリシア・テスタロッサさん」
「っ!…」

 話したのかとなのはを見るが彼女は首を横に振って答える。

「ヴィヴィオに会いに来たって聞きましたけれど、ここに来た目的はそれだけなんですか? 会うだけでしたら『手合い』なんてしませんよね?」

 ヴィヴィオが居ないからこそ聞ける話。
 アリシアにとって彼女は霞の様に掴めない存在だけれどヴィヴィオが席を外した今だからこそ聞ける事はある。
それに気がかりも…

「……」
「ヴィヴィオの魔法力は子供でもこの世界でトップクラスです。でもそんな彼女でも10年位しか行けないし、時空転移を連続で使うのは苦労しています。でもオリヴィエさんは数百年の時を越えて来たんですよね? そこまでして来た理由が会いに来たって言うのは変ですよね?」
「アリシア…あのね…」

 険悪な空気が流れると思ったなのはが間に入ろうとするが、オリヴィエは首を振って制し答える。

「なのはさん、かまいませんよ。あなたがヴィヴィオのサポートをしていたのですね。今はまだ話せません。ですが、ヴィヴィオやあなたの妹であるもう1人の私に危害を及ぼす様な事は決してしませんから安心してください。」
「!?」 

 妹の存在を知られている。一体どうやって…

「遠見の魔法…時空転移と同じく刻の魔導書を使って遠き過去や未来を見る魔法です。あなた達の事は良く知っているのですよ。魔導書を通じて送ったメッセージあなたも見たのではありませんか? 『異世界の家族を助けて』と」

 よく知っている。闇の欠片事件に関わるきっかけになったメッセージ。

「はい。」 
「あなたの妹にも是非会いたいと思っています。会う機会を作って貰えませんか?」
「は…はい。」

 言葉からは尻尾を掴ませてくれないどころか、太刀打ちすらできない。むしろ逆にチェントの事を出されて尻尾を捕まれた形になってしまっている。
 悔しくてスカートを強く握る。

「ヴィヴィオの言ったイクスというのはガレア王家のイクスヴェリアでしょうか?」
「そうです、今は長い眠り入っています。」
「でも眠る前にヴィヴィオは1度彼女と話したそうです。優しい人だって話してくれましたから」
「聖王・夜天の王に冥界の王…ここは本当に…。私も会わせて貰えますか」
「わかりました。私が案内…」

 席を立って誰かを呼ぼうとするなのはに

「私が案内します。カリムさん、なのはさん、お邪魔しました」

 アリシアはそう言って席を立ち、ドアの方へと歩いて行く。

「彼女に案内してもらいます。」

 アリシアが部屋を出てから時を置かずオリヴィエも部屋を出て後を追ってきた。



「アリシア、あなたが私を警戒する理由はわかります。ですが…」
「オリヴィエさん、ヴィヴィオとチェントの事どれ位知ってます? 同じ遺伝子から生まれてちょっと変わった魔法を使える位ですか?」

 部屋を出て少し早足で歩いて来たのだけれど小走りでオリヴィエは追いついた。
 彼女が何か話す前に聞く。

「ええ、他に魔導書を通して何度か過去を行き来していたのも知っています。」
「じゃあ、時空転移を使う前は知らないんですね。」
「はい」

 歩きながら話せば聞き耳を立てる者が居ればわかる。そう考えて彼女の方を向かず前を向いて歩きながら話す。

「聖王のゆりかご…ヴィヴィオはそれを動かす為に生まれた…作られたんです。聖王のゆりかごを使ってここを戦渦に巻き込もうって考えた人に。チェントもそう、もしヴィヴィオが暴走したら止める為の安全装置、予備だったって話もあります。」

 オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。ヴィヴィオの複製母体で聖王陛下。

「…ゆりかご…」
「なのはさん、ヴィヴィオはなのはママって言ってますけど本当のお母さんじゃないです。でも、ちょっと見たらわかる位仲良しな親子です。」

 …少し頭が回るって言われていても私は彼女に敵わない。

「…私はずっと前にあった事故で死んじゃって、そんな私をママが生き返らせようとして作ったのがフェイトです。オリヴィエさんも昨日会った筈です。私が大きくなった女性に。ママも10年以上前にあった事件で死んじゃってます。」

 …敵わないから何もしないのは嫌。

「……」
「私とママが死んじゃう前にここに連れてくれたのはヴィヴィオです。ヴィヴィオが時空転移出来るから私はここを歩いてます。」

 だから、私ははっきり言わなくちゃいけない。

「ヴィヴィオは親友だからって言ってますけど、私はヴィヴィオに借りを作ってます。ちょっとやそっとで返せない位。」

 そこまで言って振り返る。

「オリヴィエ・ゼーゲブレヒト陛下。今日みたいにヴィヴィオの生活を変えちゃう様な事、今後は止めて下さい。じゃないと私は…陛下の敵になります。私だけじゃ何にも出来ないかもわかんないけど…ヴィヴィオとチェントが笑ってられる時間を守る為にならあなたとも戦います」

 彼女がヴィヴィオに出したのと同じ、

 これが私から彼女への挑戦状


~コメント~
 もしヴィヴィオの前に複製母体、オリヴィエが現れたら?
 オリヴィエのやってきた目的とかその辺は後のフラグになるかな~と思っています。アリシアの立ち位置がなんとなくわかる回でした。

 今話で2011年の更新は終了となります。
 第5話は1月の1週目に掲載を予定しております。
 少し早いですが、また来年もお読み頂けると嬉しいです。

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