第02話 「本物のプリンセス?」

「ねぇ、ヴィヴィオ。本当にこの子がヴィヴィオの?」
「確かに似てるって思うけど、ちょっと違う感じもする。それにオリヴィエ聖王女って凄く昔の人でしょ?」
「フェイトちゃん、ヴィヴィオとチェントちゃんも似ているけど違う感じだし、元が同じだって言えばフェイトちゃんとアリシアちゃんと違うんだから誤差みたいな物じゃないのかな」
「なのは、姉さんと私は全部同じじゃ無くて…って話がずれてる。なのはの言う通りヴィヴィオの小さい頃とチェントの今とじゃちょっと違うね。チェントはピーマンも食べるし好き嫌い無いし」
「そうそう♪」
「………」
「…………」
「………………」
「…ヴィヴィオ、さっきからこの子何も話してくれないんだけど…何かわかった?」

 
 話しやすい雰囲気を作ろうとしていたのか、なのはとフェイトが色々話していた。
 でも当の本人はそんな雰囲気に気付いているのかいないのか

『このお茶とても美味しいですね。もう1杯貰えますか?』

 と念話を送ったっきり。
 ヴィヴィオがお茶を注ぐと、再び香りを楽しむように飲んでいる。
 高い茶葉を使ってる訳でもないのに…
 2人の会話が聞こえない訳では無いらしいけれど時々ティーカップに口を付けるだけで何も言わない。

「さっきお茶をもう1杯下さいって言っただけで何もわかんない。本当にオリヴィエさん?」

 オリヴィエと名乗った女性にヴィヴィオも聞く。しかし…

「………」
「…………」

 何も答えてくれない。

「ねぇなのは、保護センターに連絡して来て貰った方がいいんじゃない。」
「うん…私もそう考えてた。レイジングハート、連絡お願い。」

 今のままでは埒があかず、彼女の素性が判らないのだからそうするのが普通の対応。でも

「待ってなのはママ、フェイトママ。本当にオリヴィエさんかも知れないんだし」
「ヴィヴィオ、でもね…」
【PiPiPiPi…】

 なのはが何か言おうとした時、甲高い音が鳴り響く。彼女はその音を聞いてティーカップを置いて胸元からカードの様な物を取り出してボタンを押すと音は鳴り止んだ。そして

「ようやく話せますね。皆さん、私の言葉がわかりますか?」

 彼女は唐突に言葉を口にした。

「ええ、わかります」
「はい。」
「うん・・・」

 3人が頷くのを見て彼女はニコリと微笑み

「今まで何も話せず申し訳ありません。こちらの言葉に合わせるのに時間がかかってしまいました。皆さんの会話を元にこれを使って調整していたのです。」

 カードは翻訳機の様な物らしい。

「ヴィヴィオ、私の紹介はどこまでしましたか?」
「あっ、ええっと…名前だけ。本当にオリヴィエ…聖王女?」

 時空転移は移動先が遠ければ遠い程魔力を消費する。もしヴィヴィオが全力で時空転移しても数10年先が限界。彼女が本物なら数百年の時間を越えて来たという事になる。

 それも過去より不確定な未来に向かって

「私の瞳とこの魔力色しか証拠にならならいですね。私の時間に詳しい方が居れば…もう少しだけ証拠を見せられるのですが…」

 ポンと手の平くらいの魔法球を作り上げる。
 ヴィヴィオ達は3人揃って魔法球と彼女の瞳を繰り返し見つめる。深い緑と赤の虹彩異色。そして虹色の魔法球…それは即ち彼女も同じ資質を持っているということ。

「本当に…オリヴィエさん!?」
「はい、ヴィヴィオ」

 魔法球を消すとニコリと微笑んで答えた。



~1時間後~

「なんや…なのはちゃんにフェイトちゃん、ヴィヴィオまでこんな遅くに…最近よう起こされるな~ファァアアア…」
「ゴメンねはやてちゃん。でも緊急事態だったから。」

 ヴィヴィオ達は八神家を訪れていた。リビングに迎えたはやてだったが、かなり眠そうだ。大きなあくびを何度もしているし目は半分閉じている。

「夜遅くなんですか~…」
「なのは…明日から教導研修始まるんだから…今夜は寝させてくれ」

 はやてに続けてリインとヴィータも部屋に入ってくる。

「紅の鉄騎がここに…ではあなたが現在の夜天の王ですね。書の人格はずいぶん小さくなった様ですが…」
「……なのはちゃん、フェイトちゃん…私の事話したん?」
「ううん…何にも話してないよ」
「烈火の将や風の癒し手、盾の守護獣は居ないのですか?」

 ヴィータがなのは達の対面のソファーに座り大あくびをする。

「どうして知ってるの?」
「主と魔導書を守る守護騎士の名は私の時間でも有名です」

 ヴィヴィオの問いかけに答えるオリヴィエ。
 彼女がヴィータの姿を見て言った名前はかつて彼女が呼ばれていた2つ名だ。はやてを夜天の王、リインを書の人格と呼ぶという事は闇の書かその前の夜天の魔導書について知っていると言うこと。
 それに気づいてヴィータの顔が変わった。

「昔呼ばれてた名前をどうして知ってるんだ? なのはから聞いたんじゃねーのか?」
「だから言ってないって。はやてちゃん、ヴィータちゃん、リイン…驚かないで聞いてね。あのね、彼女は…オリヴィエ聖王女なの」
「………」
「………」

 その直後直後、暫くの間沈黙が部屋を包んだ。

「……はい?……」 
「……今何て?…」
「だから、彼女はベルカ聖王家のオリヴィエ聖王女なんだよ。」
「オリヴィエって大昔のベルカ聖王家の?」
「うん。」
「オリヴィエって言えば…ヴィヴィオの…」
「うん」

 ヴィータの視線を感じてヴィヴィオも頷く。

「ええええええっ!!!!!」
「信じて頂けたでしょうか…」

 リインが驚いて声をあげる。
 しかしはやてとヴィータはリインの様に驚かずオリヴィエを見つめている。ヴィータに至っては睨んでいると言っていい位眼差しがきつい。

「なのはちゃん、フェイトちゃん。なんでここに居るん?」
「なんでって…」
「ヴィヴィオの時間移動の魔法、ユーノ君やプレシアさんに聞いてどんなんか知ってるやろ。SSクラスでも数10年が限界やのに何百年前から来れると思う? 先にまた1人マテリアルが出てきたって考えへん?」
「ああそうだ、まだそっちの方がわかるぞ。必要な情報を頭に詰め込まれて来たんじゃねぇのか」
「管理局で私らの事知ってるとしたら上層部や。連中とか聖王教会の上の方が変な事、例えば新しい聖王を我らの手でとか企ててるんとちゃうん? 時間移動魔法はカリムしか知らんけど、他の強力な魔法を手に入れたいって考えて…絡め手やけど可能性はあるんちゃう?」

 あまりにも不謹慎で場所が場所なら彼女達は思いっきり怒られる言葉。
 でも指摘されてなのはとフェイト、ヴィヴィオもその可能性に思い至る。

 ヴィータ達の過去の呼び名は闇の書事件時の資料や過去の守護騎士伝承を調べれば判る。ヴィヴィオの複製母体がJS事件前に紛失した聖骸布だと言うのも聖王教会や管理局の上の方なら簡単に判る事。
 マテリアルもヴィヴィオの後にチェント、そして隠されているが他数人のマテリアルになり損なった者達が存在したのは知っている。
 ヴィヴィオとチェントを生み出す元になった聖骸布も回収されているから作られた記憶と新しいマテリアルを更に作り出す事は難しくない。
 更に言えば管理局は高ランクの魔導師が欲しい、聖王教会もベルカ聖王直系の2人以外に聖王縁の者が居たら喉から手が出る程欲しい者も居る。
 聖王の蔵書『刻の魔導書』今まで厳重に管理され、外に出て来なかったそれをヴィヴィオが持っていても良いと教会が言う程なのだから

 もしそんな連中が手を組めば…
 疑いもせずにここに連れてきたなのはとフェイトは勿論、ヴィヴィオも彼女が本物だという自信が無くなっていく…

「本当に…オリヴィエさん?」
「…疑り深いですね。夜天の主、紅の鉄騎、私の時間をよく知る者、ベルカ史について詳しい方を知りませんか? その者の居る場所へ案内してください。あなた達の技術でも史実になっていない事柄を知っていれば証拠になるでしょう。それが出来るのは史実を知る者だけです」

 しかたがないとため息をつきながらオリヴィエが答えた。 

「昔…古代ベルカをよく知ってる人…ユーノさん?」
「う~ん…ユーノ君も良いけどベルカの話ならベルカの人に聞いた方が早いな。ヴィータ、リイン着替えて出かける準備して。なのはちゃん達はちょっと待っててな。起きるか連絡してみる。」

 そう言ってはやては端末を取った。誰かを呼び出すつもりらしい。

「誰に連絡するの?」
「ベルカの事はベルカの人…教会の騎士に聞けばいいやろ。」
「「「あっ!」」」
「繋がった…もしもし、夜遅くごめんな~あのな…」

 話ながら部屋を出て行くはやての姿をヴィヴィオ達は見送った。



~更に2時間後~

「はやて、朝早く何事ですか? 聞きたいこととは」

と出迎える言葉もなく、非難に近い言葉を吐くカリムが居た。
 八神家を訪れて数時間後、ヴィヴィオ達ははやてに連れられて聖王教会へと来ていた。
 カリムは礼服を着ていたけれど眠っていたところを起こされたのか機嫌が悪いのが言葉からもわかる。いつもの笑顔もない。

「カリム、ごめんなちょっと緊急で確認したい事があって。昔ここに砦が建ってなかった?」
「? ええ、伝承では前戦の砦があったって聞いているけれど、私達が生まれるよりずっと前の話よ。はやてがどうして知ってるの?」
「うん…実は彼女に聞いたんや。彼女はベルカ聖王家を奉る聖王教会の騎士で聞いた通り昔の事も知ってますよ。」

 はやてがオリヴィエの方を振り向く。

「そうですね。ヴィヴィオ達は少し外で待っていて貰えますか? 目的は私が本物である証明が彼女から取る事ですし、ヴィヴィオ達が知れば後々問題になる話題もあるでしょう。夜天の主と紅の鉄騎、2人は付き合って貰えますか。」
「そうやな…なのはちゃん、フェイトちゃん、ヴィヴィオ、リインもちょっとの間だけ廊下で待ってて貰える?」
「えっ?」
「うん、行こうフェイトちゃん、ヴィヴィオ」
「ありがとう。はやて、終わったら言ってね」
「はいです。」
「うん、すぐ済むから待っててな」

 なのはとフェイトはオリヴィエとはやてのやりとりで納得したらしく背を押して部屋から出て行く。ヴィヴィオだけが何故出なければならないのか判らなかった。



「ヴィヴィオも管理局司書だから局内でも秘密にしなきゃ駄目な物は知ってるよね。闇の書の情報とか…」

 廊下に出るとなのはがしゃがんで顔を近づける。

「うん。」
「管理局が出来るよりずっと前から聖王教会はあるからママ達も知っちゃいけない、聞いてもいけない話をオリヴィエはするつもりだと思う。騎士カリムはここの人だし、はやてちゃん達も古代ベルカの騎士だから聞いてもかまわないと考えたんじゃないかな。管理局製のデバイスだからリインも出したでしょ」
「リインは管理局でメンテナンスを受けると記録見られちゃいます」
「私もベルカ式の魔法が使えるよ」
「うん、ヴィヴィオは魔法が使えるから余計に聞かせちゃいけないってはやてちゃんは考えたんだ。」

 首を傾げるヴィヴィオ。古代ベルカの魔法が使えるし、聖王のマテリアルなのだから余計に聞いた方が良いと考えていた。それにはやては最初リインに時空転移を知らせちゃ駄目と言っていたのに、闇の書の復活を止める為に行った闇の欠片事件時には彼女をヴィヴィオ達に隠れてついてこさせた。それなのに今更彼女が何故隠そうとするのかわからない。

「う~ん、例えばママの秘密をヴィヴィオが知っちゃって、もしヴィヴィオが誰かに話してみんなに知らちゃうと困るってママが思った時どうすればいいと思う?」

 フェイトの質問に少し考える。

「内緒って約束する。指で約束~って」

 小指を伸ばしてフェイトに向ける。それを見て微笑むフェイトは小指を伸ばしてヴィヴィオと組む。

「でも、ママはいつヴィヴィオが秘密を話しちゃうかわからないからずっと心配しちゃう。そんな時、ヴィヴィオが絶対に話さない方法っていうのがあるんだよ。」

 そこまで言うとフェイトの笑顔が消えた。

「ヴィヴィオを捕まえて話せなくしたり閉じ込めたり、誰にも会わせなくする。無人世界に放り込んじゃう…それか、永遠に話せなくしちゃう」

 背筋に寒気が走る。その様子を見て再び微笑む。

「フェイトママもなのはママもそんなことはしないよ。でも…聖王教会はカリムやシャッハ、セイン達みたいに優しくていい人ばかりじゃない。はやてとオリヴィエはそれを知ってるからヴィヴィオとママ達を外に出したんだよ。」
「そうだね」

出てきた扉の方を振り向く。
 イクスやセイン、オットー達に会いにここには良く来ている。でも今は聖王教会は凄く怖い場所の様に感じた。 



「なのはちゃん、フェイトちゃん、ヴィヴィオ、リインも待たせてごめんな。入ってくれていいよ」
「うん。」

 再び部屋に入ると、カリムの表情が少しこわばっていてオリヴィエの方を見つめたまま振り向きもしなかった。

「色々話したんやけど、さっきの言葉は訂正するわ。彼女は本当にオリヴィエ聖王女や。まだ信じられへんけどな…」
「ええ、理解して貰えました。」

 一体何を話したのか? 
 ヴィヴィオにはその時のオリヴィエの笑顔がここと同じで怖く感じた。



~コメント~
 オリヴィエが本物だという証拠。よく考えてみると凄く難しい話です。有名な話であれば誰でも判るし、史実と違った解釈が今まかり通っていたら偽物の烙印を押されかねません。また当時のローカル話だと誰も判らずそれも偽物の可能性を高めてしまいます。
 そう考えると・・・一体何を話せば納得してくれるのか・・・色々考えてしまいますね。

 

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