第09話「導かれた可能性」

「…リインフォースを…連れてくる? ここの? 闇の書事件から?」

 アリシアの問いかけに頷く。
 ここに来たのは私だけじゃ彼女に伝えられなくて応援して欲しかったから…

「うん…」
「…ヴィヴィオ、本気?」
「うん…」

 アリシアの顔が歪む。 

「闇の書を復活させるつもり? こっちに連れてきたらはやてさんは勿論、シグナムさんやヴィータさん、シャマルさん、ザフィーラさん…リインさんだって影響受けちゃうかも知れないんだよ。また闇の書事件が続いて…悲しむ人が沢山出る…そんな未来を作りたいの? 撮影記録のこと忘れたの?」
「判ってる。それも考えた。私だけじゃ連れてきてもアリシアが言うとおりになっちゃう。でも今は夜天の書の中身を知ってて読める人がいる。」
「知ってて読める人?」
「うん、あっち…エルトリアに居るユーリ…シュテル、レヴィ、ディアーチェ。そこで防衛プログラム…プログラムの中の悪い場所を直せば…直せなくても管制プログラムだけを取り出せば…。それに、私もブレイブデュエルの世界でベルカ語の魔法を調べていて色々覚えてる。2年前は出来なかったけど、今なら出来るよきっと!」

 闇の書の魔法を蘇らせる。
 私が去年戦技披露会の前に思いついたこと、ブレイブデュエルの世界でアインスの使っていたスキルを古代ベルカ式魔法として変換して覚えて使った。
 それが出来たのは私にも少しだけ夜天の魔導書の資質が生まれていたから…そのきっかけは更に前に巻き込まれた異世界での事件で私自身が闇の書に呑み込まれたことがあったから…。
 そして呑み込まれたきっかけは…私が彼女と戦い彼女の気持ちを知っていたから。
 彼女と戦い、その中で時空転移について教えられたから…私はここに立っている。
 
 冬に巻き込まれた異世界の事件で、砕け得ぬ闇事件とは違う【闇の書と一緒に旅をしていたユーリ】に出逢った。
 彼女は古代ベルカ語が読めて、闇の書のページを自由に使っていたし『命を蘇らせることと、時間に関わること以外、大概のことは出来る』と言っていた。
 本来の闇の書は失われていても彼女の魔法が失われた訳じゃない。それはエルトリアを蘇らせる時に一緒に過ごした中で判っている。
 彼女が出来ないこと『時間に関わること』が出来る私となら…闇の書の改変を切り離せる。切り離せなくても管制人格プログラムだけを切り離せるんじゃないか? そう考えていた。
 最悪、再び防衛システムが現れても…今度は誰も巻き込まずに1人で倒せる自信はある。少なくともあの時…闇の書事件の時の私とは全然違っている。
 もう何にも知らなくて何も出来なかった私じゃない。
   
「………」
「………」
「………」
「………」

 私とアリシアの間で暫く沈黙と重い空気が漂う。

「…わかった。私の返事…今言っていい?」
「うん」

 アリシアに答えると彼女はスゥーっと息を吸った後。 
     
「ヴィヴィオ、1つだけ教えて…どうして彼女…リインフォースなの? ヴィヴィオがあっちの世界でアインスさんと仲良くしてるのは知ってるし、はやてさん役をして好きとか嫌いとかじゃなくて彼女に特別な気持ちを持ってるのは知ってるよ。だから彼女なの?」
「えっ? だからって?」

 聞き返した私をアリシアが少し睨んだ様に見えた。

「…答えられないんだ…、ちょっと強く言っちゃうけど…ごめんね。」
「ヴィヴィオ、あなた何様のつもり? リインフォースだけじゃなくてあの事件じゃクロノさんのお父さん、クライドさんも亡くなってるよね? 助けないの? ううん、それだけじゃない。私達が居るこっちも…ミッドチルダでも沢山事件が起きてて誰かが悲しい思いをしてる。その人達は?はやてさん達の気持ちを知ってるから助けるの?」
「それが本当に…高町でも聖王でもないヴィヴィオがしたいこと?」

 一気にまくし立てるように言うアリシア
 彼女の言葉は私の胸に深く突き刺さった。

「私も撮影でリインフォース…アインスさんの事情は知ったしはやてさん達の気持ちもわかるから助けたいよ。でも…」
「それに必ず出来るなら良いけど、みんなに期待を持たせて駄目でしたっていうのは通じないよ。それはヴィヴィオもはやてさんの役をしたんだからわかるでしょ?」
「多分それってヴィヴィオが嫌がってるラプターやマリアージュ、群体イリスと同じ考えだよね。【魔法で出来ること】と【実際にしちゃっていいこと】の違い…。フェイトやクロノさん、リンディさんは闇の書事件の前に亡くなったクライドさんが近くに居たらって思うし…それも叶えちゃうの? 今のヴィヴィオならアインスさんを助けるより簡単だよね? 事故直前の時間も場所も調べれば判るし今から行っても助けられるでしょ?」
「………」
「……落ち着いて考えてみたら? 出来るか出来ないかじゃなくて、ヴィヴィオが本当にしたいことなのか、それは本当にしちゃっていいのかって。その後でまた相談してよ。私も考えてみるから」
「うん…」

 そう答えるのが精一杯のヴィヴィオだった。



(ちょっと言い過ぎたかな…)

 ヴィヴィオに研究所前に送って貰ってチンク&チェントより一足先に戻って来たアリシアは心の中に芽生えた罪悪感に苛まれていた。
 ヴィヴィオには強く言ったけれど、実際アリシア自身とプレシア、リニスは言わばリインフォースと同じ立場なのだ。
 過去に死んでいるのにヴィヴィオの時空転移で助けられてここに居る。しかも既に数年間生活している。それなのに彼女を助けるのを止めるのは自己否定でしかない。
 だけどあの時の彼女に『良いね、それ♪』とか言っていたら取り返しがつかない事が起きた気もする。
 実際最近事件に巻き込まれてないし、冬の事件も無事に解決出来たと思う。それが驕りや自惚れになっていないとは言い切れない。
 どっちにしても彼女が動くまでの時間の余裕が出来たかなと考え直し、その間に出来る事をしないとと動き始めた。

「ただいま~ママ、お願いがあるんだけど」

 研究所に入り、まっすぐプレシアの研究室に向かい、プレシアに声をかけた。 



 30分後

「こんにちは~」

 聖王教会に居たイクスがやってきた。
 プレシアに頼んで彼女を呼んで貰ったのだ。

「ごめんね、急に呼んじゃって。」
「いいえ、ヴィヴィオの事で相談があるって聞きましたので、私達でよければ力になりますよ。」

 私は早速プレシアの研究室で2人にヴィヴィオから聞いた話をそのまま伝えた。

「ヴィヴィオには強めに釘をさしたつもり。1人で勝手に動いたりはしないと思うけど…どうすればいいかな?」

 話をした直後、呆気にとられていた2人だったが

「クスッ、相変わらず凄いことを思いつきますね。」
  
 笑ったのはイクスの中のオリヴィエだろう。

「難しいわね…」

 対称に難しい顔で答えたのはプレシア

「私達はヴィヴィオが連れてきてくれたからここに居るんだし…魔法的に出来るの? 闇の書を戻すなんてこと…」
「すみません、私もイクスも他の魔法体系については良く知らないのです。知っていても当時から闇の書は伝承級…こちらで言うロストロギアの様な扱いでしたし、書の中は見たことがありません。」
「改変前のデータがあれば…戻せる可能性はあるけれどそれなら誰かがしていたでしょうね…私も書を見たことがないから必ず出来るなんて言えないわ。」

 流石にベルカ語が読めても他王家の話、それもトップシークレットレベルの話なので、イクス達も知らないし、プレシアも見ていないのは答えられないというのは当たり前だ。

「となると…頼みはあっちのユーリ達か…話が聞ければいいんだけど…」

 異世界転移術式を使った通信魔法はヴィヴィオしか使えない。
どうすればいいかと考えているとデバイスにメッセージが届いた。
なのはからだった

「なのはさんから…『ヴィヴィオが凄く落ち込んでるんだけど、学院で何かあった?』って」

よっぽど私の言葉が刺さったみたいでカラ元気も見せられなかったらしい。

「まだ話さない方が良いわね、もし彼女達を通じてはやて達に伝わると…」
「そうですね。私達も口を閉ざしましょう。」

 まだ話さない方がいい。2人の考えがまとまったところで私は頷いた。

「わかった。」
『ちょっと悩んでるみたいなので見守ってあげて下さい。何かあれば私がフォローします。』

 そう書いて返信した。  
 直後遠くからチェントの声が聞こえた。帰ってきたらしい。

「この話はここまでね。」
「そうですね。私も書庫に居る間に調べてみます。」
「私は…ヴィヴィオの様子をみてる。…勝手に行ったりはしないと思うけど念の為」
「ええ、何かあれば連絡して頂戴」

 そうしてこの話は一旦終わった。



 翌日からヴィヴィオは特に変わらなかった。
 あれだけ強く言ったから避けられるんじゃと思っていたけれど私にもいつもと同じ様に話しかけてきてくれた。寧ろ私の方が少し躊躇ったくらい…。
 だけど…あの事は一言も口にしなかった。
 私も考え直したんだと思って、授業や生徒会・ストライクアーツの準備に目を向けた。


 それから1週間後、放課後に生徒会室で久しぶりに私とヴィヴィオは2人きりになった。

「アリシア…私、やっぱり助けたい。」
「え?」
「やっぱり助けたい。はやてさんやザフィーラ…八神家みんなの為じゃなくて、私がもっと沢山教えて欲しい。リインフォースさんのおかげで私はこの魔法について考える事が出来た。今もあっちのアインスさんとは沢山お話して、色々教えてもらってる。」
「だから…もっとお話して沢山教わりたい。」
「アリシアに言われて考えた。アリシアの言うとおり私の我が儘だって言えばそうだよ…でも…私がそうしたいの。」

 溜まっていた気持ちを吐き出す様にヴィヴィオが言った。
 彼女はずっと考えていたのだ。
 私を納得させる方法を…どうして自分がそうしたいと思ったのかを…。
 私は少しの間唖然としたが、慌てて出入り口に行き周囲を見る。誰にも聞かれなかったのをホッとして扉を閉めて鍵をかけた。

「やっぱり諦めてなかったんだ…」
「ごめん…いっぱい…いっぱい考えた。しなくても良い理由はいっぱいあるし、しちゃいけない理由もいっぱいある。でも私がしたいのっ! 私の為に。」
「我が儘っていわれたらそうだよ。それでもいい。私の我が儘。」

 少し涙目になっている彼女にハンカチを差し出す。

「いいよ、その理由なら私も協力する。」
「えっ?」

 驚くヴィヴィオに微笑んで答える。

「わかんない? 私もママやリニスも同じなんだよ。ヴィヴィオに助けて貰ったんだから。それなのに止める理由は無いでしょ♪」
「でも…前の理由だったら反対だった。ヴィヴィオがしたいんじゃなくて誰かの為って考えてたから。みんなの願いを叶えてたら聖王っていわれちゃうけど高町じゃないし、ヴィヴィオでもないでしょ。」
「アリシア~っ…」

 ヴィヴィオが抱きついてきた。嗚咽が聞こえる。彼女なりにいっぱい考えたみたい。妹を慰めるように頭を撫でる。

「ヴィヴィオが本当にしたいなら私は止めないよ。応援するし協力もする。親友でしょ私達は♪」

 そう言うとバルディッシュを取り出し通信を繋いだ。もちろん相手は

「ママ、ヴィヴィオやっぱり行くって」
『…そう…ヴィヴィオ、今日はアリシアと一緒に帰って来なさい。チェントとリニスは…ナカジマ家にお泊まりさせて貰うわ。詳しい話はそこで』
「…はいっ!」

 時間移動魔法が使えるのはヴィヴィオ、だから彼女にはその力を自分の為に使う権利がある。

~コメント~
 AgainStoryでは実際の闇の書事件時にヴィヴィオが行きアインスと相対しました。
 AgainStory2は違う時間軸のアインスが登場しました。
 AgainStory3では闇の書事件の記録映像(Movie2ndA's)にヴィヴィオが参加し、はやての願いからアインスが登場しました。
 ASシリーズの中でAgainStoryの系譜になっている話では彼女が登場し、ヴィヴィオと深く関わる話になっています。それはAgainStoryに秘めていたコンセプトが「リインフォースーアインスを再び蘇らせる」だったからです。



 

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