第08話「蘇る王」

「あれ? メッセージが届いてる」

 私、アリシア・テスタロッサがそのメッセージに気づいたのは中等科の屋内練習場でクラブの練習に参加していた時だった。クラブに来てくれているトレーナーはどれ位魔力コアを使いこなせる様になっているのかや、運動、とりわけ格闘技能に取り入れているのかを定期的にチェックしているそうで、私もその対象に含まれている。同じ様にデバイスもどれ位使っているかを調べている。
 私のデバイスは試作機だから練習してる他の人とは少し違っている。だからここでは調べずに研究所で調べて貰ってそのレポートを提出している。

「アリシア~」

 私がメッセージに気づいたのとほぼ同時に声をかけられた。
 屋内練習場の出入り口近くにヴィヴィオが居た。


 
「ヴィヴィオ?」

 手を振って合図をし、トレーナーに少し離れると言って彼女の所に駆け寄った。

「どうしたの?先に帰った筈じゃ?」
「うん、帰る途中だったんだけど、メッセージが届いたから戻って来た。アリシアにも来てない?」
「メッセージ? ああ、さっき届いてるのに気づいたけどまだ見てなかった。」

 端末を出してメッセージを開く。

「…マリエルさんが来るんだ。ヴィヴィオと私のデバイスを見せて欲しいって?」

 何かあったかな?と思い出すが提出したレポートにも特に何も書いてなかった。

「さっき、RHdに30分位で着くよって連絡があったから呼びに来たの。」
「ありがと、丁度今日は管理局からのトレーナーだから事情話してくる。着替えて後で追いかけるから先に行ってて。」
「うん。」

 そう言うと私はヴィヴィオと別れ、トレーナーにメッセージを見せてクラブの練習から退出した。

 

「遅れちゃってすみません」
「ううん、私こそごめんね、急に連絡して。」

 着替えてから校門に向かうと既にマリエルは来ていてヴィヴィオと話していた。

「それで、私達に用って?」
「ここじゃちょっと話せないから…何処か良い場所無いかな?」

 ストライクアーツ関係ではなさそうだ。端末を出して生徒会室横の相談室の使用申請を出した。

「マリエルさん、初等科の相談室でいいですか?」     
「うん」

 彼女が頷いたのを見て、話している間にヴィヴィオがマリエルの入校許可を確認していたので私達は初等科校舎へと戻った。



「今日、来たのはヴィヴィオとRHdとバルディッシュについてなんだ。」

 聞けば1月頃、ヴィヴィオのデバイスメンテナンスに併せて彼女がある魔法を教わったと聞いた。
 殲滅系魔法、フレースヴェルグ
 その威力は砲撃系魔法とは比較にならず、小山は勿論、小都市程度なら簡単に消滅させられるらしい。
 それ程の威力の為、同規模のミッドチルダ系魔法は管理局でも厳重管理されている。
 だが、この魔法がベルカ式魔法でミッドチルダで扱われる場合はそこまで管理されていなかった。
 理由は簡単でベルカ式、それも古代ベルカ式と呼ばれる系統は術者の資質が関係していて誰でも使えるものじゃなく、ベルカ聖王を奉る聖王教会本部があるミッドチルダで管理局が古代ベルカ式魔法を制限することは聖王教会の不快を招きかねないという理由から制限も管理もされていなかった。
 勿論そんな理由があるとは現所有者でありミッドチルダ地上本部に所属している八神はやても知らず、彼女がヴィヴィオに渡す際にも念の為と聖王教会にも問い合わせて確認を取っていたらしい。
 だが、そこで渡した者が問題となった。
 高町ヴィヴィオは空戦Sランクを持つ無限書庫司書、管理局本局に所属している。
 彼女が持った場合はミッドチルダのルールから外れてしまう。
 八神はやてからヴィヴィオにプレゼントしたと聞いたなのはとフェイトは彼女を連れて本局に戻り、かつての上司のレティ提督と教導隊隊長から大層なお叱りを受けたそうだ。勿論これまでの事はトップシークレットとして口外しない様言われている。
 
 苦笑いするマリエルにそこまでの話を聞いて、ヴィヴィオとアリシアは

「ハハハハ…」

 と引きつった笑みを浮かべるしかなかった。
 ヴィヴィオは人工衛星を破壊ではなく消滅させた威力に驚かされたし、アリシアもバルディッシュがバリアジャケットを維持出来ない位リソースを取られたことに今までの魔法とは桁違いだと感じていたので納得した。
  
「それから本局上層部で凄く揉めていて、ようやく結論が出た結果がこれ。」

 そう言って小箱を私達に差し出した。
 箱を開けると2つの小物が入っていた。リング状だけど小指先くらいの小ささで色は白と黒になっている。

「ヴィヴィオの魔法を制限するって案も出たんだけど、リンディ提督やレティ提督、教導隊隊長が凄く反対してくれて、暴発しないよう安定して使える様にって作ったのよ。」
「これは?」
「フレースヴェルグの照準制御ユニット。白はヴィヴィオので黒はアリシアのだよ。待機状態だとアイギスとバルディッシュにはめ込める様にしてある。使う時はヴィヴィオはプログラムを起動したら動くけど、アリシアは同期許可を出した後起動しないと動かないから注意してね。」
「えっ? 私も?」
「ヴィヴィオだけで使えちゃうと色々とね…アリシアと分けたから何とか許可が降りたんだ。でもそのままバルディッシュを繋げたままだとバルディッシュに負担がかかり過ぎて壊れるかも知れないからね。アリシアが起動した後じゃないと照準制御プログラムは動かないし、暴発対策用にフレーズヴェルグが強制停止する様にしてあるから注意してね。」

2人は手に取ってそれぞれのデバイスにはめ込んだ。

「…そこまでしなくちゃいけない魔法…なんですね?」

 アリシアが聞くとマリエルは静かに頷く。
  
「うん、管理局本局…ミッドチルダ地上本部を含むクラナガンの首都機能…使えば消滅させられる位…起動練習も訓練用の管理世界以外で使うと逮捕されちゃう。私も本当はヴィヴィオに持っていて欲しくない。成長途中のヴィヴィオにそんな重圧のある魔法を持たせたくない…。でもアレを含めて使わなくちゃいけない時もあるから…私もヴィヴィオとアリシアを信じてる。」

 いつもと違って真剣な眼差しで見つめる彼女を見て
 ヴィヴィオとアリシアは深く頷き返した。



 話し終えた後、マリエルは折角だから練習風景と見たいと言ったのでアリシアが彼女を案内することにした。
 
「それじゃ、私は帰るね。」
「えっ? 何か用事?」
「ちょっとあっちに、私に相談があるのと…特訓かな。」

 そう言うと私は片脇に置いていたローファーに履き替え自分のバッグを手に取って時間軸を飛んだ。

「私に相談?」
「特訓?」

 消えた跡を見送りながらも残されたアリシアとマリエルは首を傾げて私の言った言葉を繰り返した。


      
「はぁっ!? ヴィヴィオ…今何て言ったの?」

 異なる時間軸の無人惑星。
 私はそこで特訓相手をしてくれているみんなに話した。
 みんなというのはこっちの私とアリシア、シュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリである。
 こっちは私の時間から数年先の未来になっているので、こっちの私も含めて全員が大人(?)になっている。本来はまだコラード先生の研修中なんだけれど、彼女は今魔力コアデバイスの習熟カリキュラム作成の責任者になっていて私とアリシアの研修はお預け状態になっている。
 そこで私はこっちの私達の事を話してみんなの時間が合ったタイミングで特訓して貰っている。
 今までは直接来てスケジュールを合わせなくちゃいけなかったんだけど、時間軸間の通信魔法はこういう準備にはとても便利だ。
 こっちのみんなは流石教導隊と思える位強くて、力押しは効かないし直ぐに隙を見つけられて攻撃されちゃうので私にも力が入る…とは言っても全戦全敗で記録更新中なのが少し悔しい。

 そんな特訓の休憩時間、ディアーチェとユーリが飲み物とお菓子を持ってきてくれた時、私が考えていた事を話すと全員がポカーンと口を開けたままこっちを見ていた。

「え? 何か変なことを言った? 出来たらいいなって調べていたら何となく出来そうな気がしたから…」
「何となくって…そんな簡単な話じゃないでしょ! ヴィヴィオもそう思うよね?」

 そう言ったのはこっちのアリシア、彼女はデバイスマイスターのライセンスも持っていてRHdの修理や調整もしてくれている。

「…シュテルさん、ディアーチェさん、レヴィさん、ユーリさんはどう思います? 私は…魔法よりも…」

 こっちの私は少し考えた後に他の4人に聞く。

「うむ…そっちは彼女達に任せるしかないが…ユーリ、どうだ?」
「私達は中のプログラムを詳しく知りませんし…ですが、あの世界の私なら私より詳しいでしょうし…」
「そうですね。私達はこの姿と魔力はなのは達と共有していますが、元は紫天の書を護るプログラム…あちらの私達と大きく違っています。その辺りを踏まえる意味でも彼女達に相談すべきです。」
「古代ベルカの魔法ってすっごく読みにくいんだよね~。私もさんせ~♪ 遊びに行くなら連れてってよ。」
「うん、わかった。今度あっちに行って聞いてみる。」

 姿や名前は同じでも彼女達の元は永遠結晶エグザミアを護る為のプログラム-アンブレイカブルダークとそれを更に守護する紫天の書…に組み込まれた守護騎士プログラムの様なもの。
 4人が言った様にあっち彼女達は猫が素体で、闇の書と一緒に旅をしてきた彼女達とは大きく違っている。
 彼女達なら何か知っているのではという可能性が得られた。
 それに満足して笑って頷いたところ 

「ちょ、ちょっと待って! ヴィヴィオ。あなた何をしようとしてるのかわかってるの?」
「えっ?」

 唖然としていたアリシアが身を乗り出して言う。驚いているというより怒ってる…。何が悪いのかわからなくて聞き返した。

「簡単に言ってるけどそれって…世界の根本を…」
「アリシア、それ以上は駄目。」

 続けて言おうとした彼女をこっちの私が止めた。

「ヴィヴィオ…」
「アリシア、それは私達の役目じゃない。」
「実は私も考えたことがあった。でも…出来なかった。考えた時には時間が経ち過ぎちゃって私じゃ行けなくなってたし…ユーリさんやシュテルさんが言った様に可能性がなかった。それに本当に正しい事なのか私自身答えが出せなかった。だから…諦めた。」
「でもヴィヴィオは違う。ヴィヴィオには私に無かった可能性を持ってる。…ヴィヴィオ、これだけは約束して。」
「話辛いなら母さん達には内緒にしていてもいい…でも、アリシアにはきちんと相談して。その上で彼女が協力するなら…私達の力が要るなら手伝うよ。」

 アリシアが私の両肩をガシッと掴んで真剣な眼差しで言う。

「う…うん…わかった。」

 初めて見た彼女の迫力に私は頷くしか出来なかった。

 

「アリシア…あのね…少し相談があるんだけど…放課後…いい?」

 翌朝、私が登校してくるとヴィヴィオが挨拶もせずに聞いてきた。

「おはよ…う、うん。いいよ?」

 いきなり聞かれて何の話だろうと考える。色々考えたけれど学院で出来ない話なのは間違いないから変に考えても仕方ないと頭を切り替えて放課後に予定していたスケジュールを見て振り替えて、チンクにチェントのお迎えをお願いした。
 その日は彼女の様子が気になって時々見ていたけれど特に変わったところはなかった。
 どうやら体調や魔法の事・何か事件に巻き込まれている訳ではなさそうだと一安心する。
 そうして、授業が終わると

「ヴィヴィオ、おまたせ。どこがいい?」

 バッグを片手に彼女の席に行くと

「じゃあ、あっちに行くとこで」
「うん。」

 そう答えると私は校舎裏に回ってそのまま学院祭の道具倉庫の鍵を開けて中に入った。
 5分ほど経った頃

「ごめん、遅くなっちゃった」

 そう言ってヴィヴィオが入ってきた。

「いいよ、行くんでしょ」
「…うん、私に掴まって」

 言われた通り彼女の手を取った直後、周囲の風景が変わった。

「えっ? ブレイブデュエルの世界じゃないの? ここ…海鳴市?」

 ブレイブデュエルの世界に行くんだと思っていたら違う場所に連れてこられて驚く。
 着いたのは海鳴市、それも市街から離れた海岸…。春になって心地良い海風が吹いている。ここは確か…

「うん…アリシアと2人で話したかったの。」
「別にいいけど…、ヴィヴィオがここに連れてきたのも…それが理由なんでしょ?」
「…ここ、オリヴィエ達が旅立った場所なの。冬にも来たよね。イクス…オリヴィエにお願いされて」
「っ!?」

 驚いて思わず声をあげそうになる。
 彼女はイクスの中にオリヴィエ・ゼーゲブレヒトが居る事を知っていたのだ。

「…やっぱり知ってたんだね。イクスの中にオリヴィエが居るの…」

 心の中の動揺を気づかせないように平静を保とうとしたけれど私の様子から間違い無いと思ったらしい。観念して頷く。

「ごめん…頼まれて内緒にしてた。悪いとは思ってるよ…でも、どうして彼女がここに残ったのかを考えたら…言えなかった。」
「ううん、怒ってないよ私。ママ達嘘が下手なんだもん…。」

どうやらフェイト達の様子から気づいたらしい。

「それに…何か理由があって隠してるんでしょ。だからアリシアも私が知ってるのを内緒にしてて。私も知らない風にするから。」

 本物と偽物…彼女が隠している理由には気づいていないらしい。
 こんな話、確かにStヒルデや向こうじゃ出来ないと納得する。しかし彼女の顔を見るとまだ何か言いたそうな雰囲気だ。 

「わかった。それが…話したかったこと?」
「ううん…それもあるんだけど、ここからが話したかったこと。ここはね…もう1人旅立った人が居るんだ。闇の書…夜天の魔導書の先代リインフォースさん…」

 私は頷く。その話は知っていた。
 闇の書事件の記録映像を撮影した時…彼女が旅立つシーンに私もフェイト役としてその場に居たから。
 ヴィヴィオも八神はやて役として彼女達を通して八神家の家族として触れあい、別れ…そして家族が彼女をどれ程想っていたのかを知り、別世界のアインスと逢って号泣し…はやてをその世界に連れて行く方法を考え2人を逢わせた。

「はやてさん…向こうのアインスさんに逢って凄く喜んでたでしょ。私もそれが見られて嬉しかった…、アリシア…あの時言ってたよね『はやてさんが逢いに行かないのは立ち止まってるから』だって。はやてさんはアインスさんと逢って歩き始めたんだよね?」
「うん…そうだと思う。」

 八神はやてをブレイブデュエルの世界に連れて行った時、彼女はアインスに逢うのを拒んだ。
 逢いたいという想いの強さからジュエルシードを起動させてしまったから…。それ程の想いを抱え込んで立ち止まっていた彼女に私達は半ば無理矢理アインスに逢わせた。
 それは一緒にいたヴィヴィオも見ているし知っている。その後彼女は自分の夢を見つけるかの様に色々な事に挑戦しているらしいとシグナムとヴィータから聞いている。
 何が言いたいんだろう? 目的が判らないまま頷いて彼女の話を聞く。

「はやてさん、シグナムさん、ヴィータさん、シャマル先生、ザフィーラ、リインさん、アギト…みんなが歩き始めたんだから…もういいよね?」
「もういい…って?」

 聞き返した私にヴィヴィオは私の方を向いて静かに言った。

「私…リインフォースさんを連れて来たい。他の世界じゃなくてここの…闇の書事件で私やママ達と戦った闇の書の管制システム…リインフォース・アインスをっ!」

 それは私の予想を遙かに超えた言葉だった。

~コメント~
 新章突入です。
 本章の案はAgainStory2の頃から、ずっと書くのを迷っていた話でした。
 ヴィヴィオや彼女の周りを考えると気楽に叶えられるものでなかったからです。でもその想いを捨てられず、ヴィヴィオは頭の片隅で可能性を考えていました。

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