第23話「GRAND PRIX ~Fate VS Alicia~」

 ブレイブデュエルの観戦中、月村すずかはなのはのポケットの中で光っているのを見つけた。

「なのはちゃん、携帯光ってる。」
「ホントだ。お母さん?」

 ポケットから携帯を取り出すと首を傾げる。
 かけようとした時、一緒にいた美由希の携帯が震えて彼女が取る。

「もしもし、母さん? うん、一緒にいるよ?…ちょっと待って。なのは、母さんから」

 そう言うと美由希はなのはに携帯を渡した。
「もしもしお母さん。出られなくてごめんなさ…え? 私…じゃなくて、うん…こっちには来てないよ。ヴィヴィオちゃんとアリシアちゃんを応援してるから八神堂に…え? ヴィヴィオちゃん? ええ~っ!」

 突然大声を出したからアリサや恭也、周りで見ていた子達の視線がなのはに集まる。

「うん…わかった。私から連絡するね。家にいるんだね。」

 そう言うと電話を切った。

「どうしたのよ? 大声上げちゃって」

 アリサが聞く。すずかも気になって頷く

「うん…ここじゃちょっと…先に外で電話してくる」

 そう言ってなのはは小走りでブレイブスペースから出て行ってしまった。

「外でって言っても…次私達なんだけど?」

 トーナメント表では次にアリサがアリシアとすずかがヴィヴィオと当たる事になっている。
 アナウンス画面に名前が出ているからそろそろ行かなくちゃいけない。

「アリサちゃん、すずかちゃんも行ってきて。私たちがなのはから話を聞いておくから」

 美由希に促されすずかは頷いて答えた。



「なのはさん、T&Hのなのはちゃんから電話がかかっていて、急用らしいの。」

 ヴィヴィオとアリシアのデュエルを待っているとシャマルが声をかけられた。

「ありがとうございます。急用?」

 何だろう? と思いながら彼女から電話を受け取って席を立ち、ブレイブスペースを離れる。

「もしもしなのはです。」
『なのはです。グランプリ見てるところごめんなさい。』
「ううん、さっきのデュエル凄かったよ。驚いちゃった。」
『あ、ありがとうございます♪…ってそうじゃなくて大変なんです。』
「大変?」
『さっきお母さんから電話があって、お店に気を失ったヴィヴィオちゃんが運ばれてきたそうなんです。』
「ええっ!? でもヴィヴィオはこっちに」
『はい、シャマルさんにさっき聞きました。それにグランツ研究所に電話したらヴィヴィオちゃんとアインハルトさんも一緒にグランプリを見ているそうです。』

 一緒に来たヴィヴィオでもこの世界の未来からやってきたヴィヴィオでもないもう1人のヴィヴィオ…

『それで私…なのはさんなら何か知ってるんじゃないかって。』
「うん、わかった。今から翠屋に行くよ。」
『ありがとうございます。ヴィヴィオちゃんはお父さんが家に連れて帰っています。』
「ううん、グランプリが終わるまで内緒にしてね。みんな驚いちゃうから。応援頑張って」
『はい。』

 最初は不安そうだった声が弾んだ様に変わったのを聞いてなのはは電話を切った。

(3人目のヴィヴィオ…どこから来たの?)

 何かが起きている気がしつつもフェイトとヴィヴィオ、アリシアにはまだ伝えるべきではないと考え、古書店の店番をしていたシャマルに急用が出来たからグランプリが終わって落ち着いてから家に連絡して欲しいとフェイトへ伝言を頼み八神堂を出て高町家へと向かった。

 

「ヴィヴィオ君達は本当に凄いな…」 

 グランツは自室のモニタでデュエルを見ながら感慨にふけっていた。モニタの中にはヴィヴィオとT&Hエレメンツの1人月村すずかがデュエルをしている。
 攻防を自在にこなすすずかにヴィヴィオはその隙を的確に突いてライフポイントを削っていた。
 モニタを切り替えるとこちらもT&Hエレメンツの1人、アリサ・バニングスとアリシア・テスタロッサがそれぞれの剣技を繰り出し激戦を広げていた。

 ブレイブデュエルの中でしか使えない魔法、未知なる力を仮想世界で使えるという魅力があったからブレイブデュエルは注目を集めプレイヤー数は増えた。
 勿論その影にはスタッフ達の研究や努力、アミタやキリエによる長時間のテスト、リンディ・プレシア・はやてや多くの提携店の協力、シュテル達やフェイト達がその魅力を多くの人に見せてくれたから今がある。
 だがその魅力はグランツの視野を狭めてしまっていたらしい。

 先日、高町桃子は味覚エンジンだけでは仮想空間で料理は味わえないと指摘した。
 アリシア・テスタロッサは現実の能力をブレイブデュエルの中で更に生かす為に魔法を使った。
 そして高町ヴィヴィオは魔法を「魔法」として捉えるのではなく「道具の1つ」として割り切って新しい魔法を生み出している。
 それらは全て新しい可能性…ブレイブデュエルはグランツでさえ気づかない可能性を秘めている。それを気づかせてくれたヴィヴィオに

「本当に魔法使いなのかも知れない…。」

 敬意を込めて呟くのだった。



 一方で何も知らないヴィヴィオとアリシアはブレイブデュエルで快進撃を続けていた。
 ヴィヴィオがすずかと対戦では度重なる攻防の後で炎のシールドを突き破って近距離でクロスファイアシュートを直撃させ勝利し、アリシアとアリサの対戦では双方のジャケットがボロボロになる激戦を経てアリサの放った氷の剣と極寒の炎を避けて彼女の剣を砕いた。
 ヴィヴィオ達の勢いは凄まじく、ブレイブデュエルの初期からのテストプレイヤーであるアミティエやキリエ、セクレタリーから唯一参戦したトーレ、DMSの司令塔ディアーチェを含む対戦者を次々に倒していった。 
 それを見ていたシュテルやフェイトの熱も次第に入っていった。



(ヴィヴィオのデバイスは…何をしているのでしょうか…)

 ブレイブデュエルも残すところ3試合、準決勝まで終わったところで15分のメンテナンスタイムが入った。中継のシステムを決勝用のステージに変更や中継映像を切り替えるのだ。
 予想通りヴィヴィオとアリシアが勝ち残ってきた。
 シュテル自身ヴィヴィオには何度も負けていたし、アリシアもなのはやトーレとのデュエルにおいて相当強くなっているのが判っていた。
 メンテナンスタイムの趣向としてシュテル、フェイト、ヴィヴィオ、アリシアの紹介がモニタに映されていた。
 その中でヴィヴィオのデュエル映像を見て気になった。
 シュテルのデバイス【ルシフェリオン】とは会話をしたり口で指示を出している。勿論スキルの起動の時もその流れは変わらない。
 でもヴィヴィオはあれ程複雑な使い方をしているのにも関わらず「いくよ」とかしか言っていない…
 更に言うとルシフェリオンの様なデバイスを彼女は手にしていない。インパクトキャノンとシールドを出してもデバイス特有のコアみたいな物は無かった。

(そう言えば…彼女は上空を飛んだだけでカードの位置が判ったのでしょう?)

 半ば無理矢理にヴィヴィオを助っ人として飛び込ませた襲撃戦、近く迄行けばカードも見つけられるだろうが彼女の様に見つけるにはどうすればいいのか?
 プロトタイプであれば全てのデータを可視化出来るから見つけられる。しかし飛びながら背景オブジェクトの中に隠されたカードを見つけるのは至難の業、もしデバイスがプロトタイプの様に可視化させる能力を持っていて、ヴィヴィオがそれを見て解析しながらデュエルしているなら…

(まさか…)

 その考えに至った時、背筋に寒気を覚えるのだった。  



 同じ頃、八神堂はというと…

『クロスファイアァアシュートッ!』

 中央モニタでヴィヴィオがクロスファイアシュートを放つシーンやアリシアがトーレと剣と拳を交えた肉弾戦のシーンが流れると

「ワァァアアアアア!」

 大きな歓声が部屋内を響かせていた。
 ヴィヴィオ達が居るテーブル席の近くには同年代の男の子や女の子が集まっていた。その中には前に来た時デュエルをした子やスキルの使い方を教えた子も居た。
 みんなに「応援するよ」とか「頑張って」と声援を受けていて何度も会釈した。

「私達遊びに来てるだけなのに…」
「ここまで応援して貰っていいのかな…」

 隣のアリシアも困惑している。

「八神堂からグランプリの準決勝に2人も残るのは初めてだからな。」

 リインフォースからスポーツドリンクを手渡されて受け取る。

「グランプリはハイレベルプレイヤー同士が全力でデュエルをするから、グランツ研究所のデュエリストが多かったんだ。八神堂からはトーナメントに数人出られるかだったから皆嬉しいんだよ。」
「シュテル達やフェイト、アミタさんやキリエさんも出ているんですからリインフォースさんやシグナムさんが参加すれば…凄く強いのに勿体ないです。」

 ショッププレイヤーとテストプレイヤーが参加しているのだから2人が出ても問題無い筈、それに出たら上位どころか1位と2位を取る事も容易い。でも八神堂のショッププレイヤーはヴィータしか参加していない。

「私達はブレイブデュエルの頂点を目指している訳じゃない。多くの人に楽しんで欲しい、それが我が主の願いだからな。」

 周りを見ながら言ったリインフォースの言葉が何となく判る気がした。

(八神堂は…そっか…撮影の時に似てるんだ…)

 T&Hはショッププレイヤーと同じでヴィヴィオ達と同じ位の子達が多く遊んでいた。グランツ研究所はそれよりもう少し大きな人達がハイレベルなデュエルを繰り広げていた。それぞれのショップにはそれぞれの良さがある。
 はやてはそれを踏まえて両方に属さない家族的な暖かさがある。
 羨むのでも悔しがるのでもなく誰でも応援する。
 その声の理由を知って

「負けられないね。アリシア、絶対決勝で戦おうね。」    

 目の前の親友に拳を突き出す。

「そう言って負けないでよ。」

 コツンと叩きあって頬を崩し

「あっ、私が先みたい、じゃあ行ってきます」

 アリシアはそう言うとポッドの方へと歩いて行った。


     
「私も準備しよっと…」

 アリシアを見送ってからヴィヴィオはブレイブホルダーを取り出して持っているカードを並べる。次はヴィヴィオもシュテルと対戦だ。
 なのはとフェイトの教導を受けたレヴィがあこまで強くなっていたのだからシュテルもかなり手強くなっているだろう。

「これとこれを入れてあとは…あれ?」

 ホルダーの中に1枚見慣れないカードがあった。Stヒルデの制服ではなくバリアジャケット姿のヴィヴィオとRHdが描かれている。

「こんなカード持ってたかな?」

 首を傾げ記憶を辿る

【私…ヴィヴィオに心配かけてばっかり…でも…見つけたよ。】
「あっ!」

 そうだ。思い出した…
 前に来たときアリシアから受け取って…そのままブレイブホルダーと一緒に彼女に渡したカード。彼女がホルダーの中にいれておいてくれたらしい。

「フェイトママ」

 隣に座っているフェイトに声をかける。

「どうしたの?」
「シュテル、すごく強くなってるかな?」
「うん、凄く真剣に練習してたからきっとヴィヴィオも驚くよ。」

 笑顔で頷いた彼女を見て。

「そうなんだ…じゃあ私も本気でいかなきゃね。」
「うん。楽しみにしてる。」

 最初に持っていたカードを2枚差し替えデッキにして他のカードもブレイブホルダーへとしまった。

『みんな~おっまたせしました~!。ブレイブデュエルグランプリっ準決勝が始まるよ~。』

 その時中央のモニタからT&Hにで司会をしているアリシアの顔がアップで映った。

『準決勝の1試合目はフェイト・テスタロッサちゃんとアリシア・テスタロッサちゃんのデュエルです。フェイトちゃんは前回グランプリ2位のタイトルホルダーで優勝候補、攻撃の鋭さには更に磨きがかかっています。対するアリシアちゃんはグランプリ初参加のニューフェイス、でも持ち前の2刀流は達人級です。ライトニング同士の熱いバトルで盛り上げて貰いましょう。』
『フェイト~頑張れ~おねーちゃんは応援してるよ~!!』
『こちらも負けてませんよ。八神堂ではアリシアちゃんへの声援が響いています。アリシアちゃん頑張って~!』

 司会役のシャマルの横でアリシアが手を振ってからポッドに入る。

『それでは準決勝の用意は良いですか?』
『『『グランプリデュエル、レディーGoっ!!』』』

 遂に2人のデュエルが始まった。



「ハァアアアアッ!!」

 アリシアは開始直後にライトニングⅡを使ってフォームを変えフェイトに急接近すると小太刀を横薙ぎにする。しかし

【ガキッ!】

 フェイトもソニックフォームに切り替えバルディッシュの束で受け止める。
 堅い感触と金属音を響かせた。

「やるじゃない♪」
「うん、いっぱい練習したんだ。」

 そのままバルディッシュを捻って鎌状になった金色の刃を振り下ろすがアリシアもそれを見越してジャンプし避けるがフェイトは続けざまに左手をかざし

「プラズマスマッシャー!」
「!?」

 アリシア目がけて放った。
 カードの起動なしで放たれた砲撃魔法をアリシアも防御するが元々防御力が低いジャケットだった為、4割程ライフポイントを失った。



「フェイトも使えるんだ…アリシア頑張って!」

 モニタの映像を見てヴィヴィオは少し驚きながらも親友を応援する。

「練習の成果ですね。」

 グランツ研究所で同じ映像を見ていたシュテルは笑みを浮かべ頷く。

「さて…このまま進むでしょうか?」

 アリシアは砲撃系の魔法を使っていない。このまま進めばフェイトの方が優勢だけれど、逆に言えば彼女が持っているカードはパーソナルカードを含めても3枚しか使っていない、残り2枚のカードが何なのか?。
 顔つきが変わり瞳に気合いが籠もったアリシアを見てここからがデュエルの本番だというのを2人は感じていた。



「ただいま~。お父さん、ヴィヴィオが倒れたって聞いて」

 アリシアとフェイトのデュエルが行われていた頃、なのはは高町家に着いた。

「お帰り、ヴィヴィオちゃんは客間で寝かせているよ。熱もないし呼吸もしっかりしていたから待っていれば起きるだろう。なのはのしかないんだけれどこれに着替えさせてくれないか。」

 リビングに入った所で士郎と鉢合わせする。
 気を失った知人とは言え流石に年頃の女の子の服を脱がせる訳にはいかなかったのだろう。

「ありがとう、私がついているよ。何かあったら連絡するからお店に戻って。」
「あとよろしくな。」

 パジャマを受け取ると士郎も頷いて玄関へと向かう。

「あっ、ヴィヴィオちゃんがずっとこれを握りしめていた。大切な物みたいだから起きたら渡してあげて。」

 そう言うとポケットから取り出すとパジャマの上に乗せた。

「!? う、うん。ありがとう。」

 なのはは思わず驚いて声をあげそうになるが何とかこらえ士郎を送り出し客間に向かい寝息を立てている少女を見つめる。

「……やっぱり…ヴィヴィオじゃない…貴方は誰? 何処から来たの?」

 パジャマの上に置かれた待機状態のレイジングハートとバルディッシュと少女を見て呟くのだった。


~コメント~
 1週間遅くなってすみませんでした。
 職場でインフルエンザが蔓延してしまい月月火水木金金という熾烈な1週間…皆様も体調管理にはお気を付けください。

 さてそれはともかく、ブレイブデュエルも佳境に入ってきました。
 私的にはアリシアのデュエルで言うとトーレやキリエとのデュエル、ヴィヴィオ対アミタやディアーチェとかも書いてみたかったのですがバトル小説が長くなりすぎるので一気に割愛(おぃ)しちゃいました。
 次話は2人のデュエル後編とヴィヴィオvsシュテルです。

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