第30話「4人の絆」

(…ヴィヴィオちゃん…凄すぎる…)

 センサーから送られて来たその映像に目を奪われていた。
 ヴィヴィオが新たなジャケットを纏った直後映像が乱れた。どれだけの魔力量かはわからないけれど見たことのないレベルの魔力値だというのはわかる。
 アリシアが言ってくれなければ中のセンサーは全滅していた。

(これ…把握できる魔力値を超えてるんじゃ…)

 ヴィヴィオが結界を作らなければ関東全域を覆っている広域結界は潰されていた。あれは広域結界を守る為に作ったんだと気づいた。
「あんな子が…に居るなんて…」
「これでもうユーリは大丈夫です。あの姿になったらヴィヴィオに敵う人は居ません。本物のベルカの聖王様以外は。」
「エイミィさん、ヴィヴィオとユーリの戦いを見るだけならいいですけど記録には残さないで下さいね。本局にも送らないで下さい」
「え、うんいいけど、どうして?」

 今から本局へ映像を送ろうとしていた手を止める。

「彼女達が将来覚える魔法…ヴィヴィオが使うと思うので、お願いします。」

 隣で見ているアリシアが笑顔で言う。彼女の落ち着いた様子にどういう意味かと考えているとモニタ向こうのヴィヴィオが複数の射撃系魔法を砲撃魔法に変化させてユーリの背後から放った。ユーリを守る機動外殻に直撃する。
 系統変化させる魔法は高ランク魔導師でも難しい。それを戦闘中に行っているのに驚かされる。

「あれ、ヴィヴィオのお母さんが友人に教えた魔法なんです。ヴィヴィオはその練習を見ていて使える様になったって言ってました。」
「お母さん…あっ!」

 ヴィヴィオは今まで切るか殴るか砲撃魔法と集束砲しか使っていなかった。使える魔法が少ないのだと考えていたがそうではなかった。

(ヴィヴィオちゃん…自分の魔法をなのはちゃんたちに見せない為に使う魔法を絞ってたんだ…、見ちゃったら未来が変わるかも知れないから…)

 なのはやフェイト…全員が全力で対していたのに彼女は自らを抑えていた。それが今解き放たれた…。ゴクリと唾を飲み込む。
 
「そういうことなので、お願いします」

 彼女の母、高町なのはが将来覚える魔法らしい。エイミィは映像を転送せず、目の前のモニタにだけ映した。

「何かあったら知らせなきゃいけないし見てるだけならいいよね。私はなのはちゃんとフェイトちゃんをフォローするから何かあったら教えて。」
「了解です。」

 ニコッと笑って答える彼女を見てエイミィは自身が酷く動揺しているのに気づき、冷静さを取り戻した。
 


「……あやつは…」
「あれなに? 凄い…」
「まさか…ここまでとは…」

 ディアーチェ、レヴィ、シュテルは目の前で起きた光景に目を奪われていた。
 離れていてもビリビリと肌で感じる莫大な魔力、なのに恐怖は全く感じない。
 その理由は直ぐにわかった。

「王さま…シュテるん…ボク達の魔力、凄い早さで戻ってきてる…」

 レヴィの言葉に驚いて2人もリンカーコアの鼓動に意識を傾ける。
 胸に感じる力強い鼓動、さっきまでの虚脱感がどんどん和らいでいく。 

「これは…結界の影響か? だがこれでは幾らユーリに攻撃を与えても直ぐに回復してしまうではないか。そんな無意味な行為を何故…?」

 ディアーチェの疑問を口にしたのを聞いてシュテルは気づいた

「ヴィヴィオの目的はユーリをここに閉じ込め、ヴィヴィオの魔力で周囲が壊れない様にする以外に目的があります。それはレヴィが気づいた我等の回復。そしてユーリ自身へのダメージ軽減とフォーミュラープログラムへ更に負荷をかけ続け壊しやすい状況を作る為です。」
「フォーミュラーへの負荷だと? っ!、そうか!」

 ディアーチェも気づいたらしく2つの光がぶつかる方を見る。
 ヴィヴィオが発したシューターがユーリの外装に直撃する。すると当たった部分から石化が始まる、続けざまに白色の光剣で石化した部分を切り捨てた。直後、外装の修復は始まってしまい数秒後には元に戻っていた。
 普通はヴィヴィオが石化させた所を切った事で修復されたと見るだろう。しかしそれはヴィヴィオの作戦通りなのだ。

「あやつは…ヴィヴィオはあの回復もフォーミュラーへの負荷にしているのか…」

 ユーリの魔力吸収能力と回復能力を逆手に取って攻撃を受けた時のダメージだけでなく回復し続ける負荷を与えている。それはある事を意味していた。

『シュテル、レヴィ、ディアーチェより強いよ私。もし私が負けてもその後でユーリと戦えるだけ魔力が残ってると思う?』

 指揮船での彼女の言葉。あれは脅しでも何でもなく…事実を言っていただけ…。

(我等…いえ、ユーリを含めて対しても及ばないのでは…。) 
「それでも彼女の戦術はそう長く使えない筈です。私達も回復に専念しましょう。彼女へ届く魔法を使う為に」

 敵にすれば驚異でしかないが、味方であれば頼もしいことこの上のない状況。
 シュテルの言葉に2人も頷き目を瞑って精神を集中し回復を早めるのだった。



 一方同時刻、なのはとフィルの戦闘も激化していた。
 フィルによってアミタが酷いダメージを負わされ止めをさされそうになった時、なのはは残されていた最後の手を使う。

「アクセラレイターッ!! 」

 アミタから分けて貰った体内のナノマシンを動かし急加速する。引き裂かれそうな感覚に耐えながらもフィルを捉える。
 驚愕の表情でなのはの攻撃を受け止めるフィル。
だがそこに

「アクセラレイタァアアアッ!!」

 なのはやフィルとは比べものにならない猛スピードで飛び込んできた。

「フェイトちゃん!」

 フィルに対し振り上げていたフリッツセイバー形態のバルディッシュを振り下ろす。予想していなかったフェイトの参戦と彼女がアクセラレイターを使った事に驚きながらもフィルは受け止める。
 しかし今の彼女はそんな程度で止まらない。

【Penetrate】
「ガアッ!!」

 2人の剣が接触した瞬間バルディッシュの刃面と接触していた部分から剣が崩れフィルが苦悶の声をあげる。
 アリシアのデバイス、バルディッシュ・ガーディアンから受け取ったプログラムがフィルに牙を剥く
 自身の攻撃にバルディッシュの斬撃ダメージとアクセラレイターで強化された力が加わったものの衝撃を直に受けたのだ。
 剣と共に右腕が砕け弾ける。

「グァアアアアアアッ!」

 激痛の悲鳴と苦悶に満ちた声が響く。
 


「お前達はっ一体っ!!」

 フィルは信じられなかった。
 エルトリアのフォーミュラーとヴァリアントシステム。そこにユーリの魔法を組み合わせて生まれる新たな力。その研究は自分だけのものだと思っていた。
 しかし、彼にも想定できないものがあった。

「ハアアアアッ!」
「タァアアアアッ!」

 高速で左右同時に迫り来る桜色と金色の光。
 ここにはその力を持った者達が居たのだ。


 後ろに下がったフィルに直ぐさまなのはとフェイトはフォーメーションを変えて金色の光を纏った少女が高速で襲い来る。彼女の金色の刃と左手に持っていた銃を剣に変えて再びぶつかる。

「ガァアアアアアッ!!」

 だが今度も同じ結果だった。左手ごと剣が吹き飛び爆発に紛れて後ろに下がる。
 だがそこは彼女の射線上だった。
 レイジングハートから発した光の奔流にフィルは呑み込まれた。
 突然の参戦でも即座にフォーメーションが組める。それがなのはとフェイト。
 互いに戦い競い高め合って来たからこそ次にどう動けばいいかを即座に理解し動く。

「うぉぉおおおおおっ!」

 光が消えた直後に今度はフェイトが横薙ぎにする。
 今度は腕の鎧まで破壊された。



「ヴィヴィオ…凄い…」

 指揮船の中でヴィヴィオの戦闘を見てアリシアは呟いた。
 激化すると思っていた戦闘はヴィヴィオの一方的な攻撃になっている。
 ユーリの武装は何度も破壊と修復を繰り返している。あの中でヴィヴィオの魔力を吸収しているのだろう。
 自分の魔力で回復させながら攻撃を続けるなんて戦法は誰も考えつかないし時間も限られているに違い無い。それでもヴィヴィオは冷静に動いている様に見える。
 
「! そうか、ユーリ…エグザミアが無いからあっちより弱いんだ…」

 バルディッシュの中に入っていたメッセージを呼び出す。『もしユーリの中にエグザミアがあれば近くの無人世界に飛んでエグザミアを封印。無ければ結界を作ってその中で助ける。デアボリックエミッションが壊されるかどうかでどっちかがわかる。』と書かれていた。
 ヴィヴィオ自身が作った結界を壊せなければエグザミアを持っていないか目覚めていない証拠、元々アンブレイカブルダークを相手にしようとしていたヴィヴィオは異世界で何かに気づいてレヴィ達にフォーミュラーの対策を教わったんだと気づいた。

「頑張って、ヴィヴィオ」
   
     

 ユーリのスピードも遅いし後ろにある機動外殻っぽいのもそんなに硬くない。戦うだけならレリックを使わなくても十分そうだけれど、彼女の魔力吸収能力が思った以上に強力だった。
 戦いの中、私は落ち着いていた。それも…

(本当、特訓と作戦のおかげだね。)
『ヴィヴィオ、あなたの魔力量は私達を上回っていますし、デバイスの性能もあなたの方が上です。それでも私達には1度も勝てていません。ユーリとの戦闘でも判った筈です。より有利に戦闘を進める為にも場を作ることが大切です。』
 シュテルから教わった、場を作ることの大切さ

『ヴィヴィオはパワーとスピードがとっても凄い、でもそれだけじゃダメ。ずーっと全開で動いたら直ぐに疲れちゃう。だから相手にだけ集中してしっかり見て動かなきゃ。熱くなっちゃダメ、落ち着いていけば十分強いんだから。』
 レヴィに指摘された。周りに惑わされず目の前の相手に集中することの大切さ

『ユーリの様に貴様の鎧が効かぬ相手と戦う機会はこれからもあるだろう。相手の魔法と特性を知ることが重要だ。生命操作系の魔法は他系統に比べて特に術式が重い、操られている中で使うのは難しいだろう。容易な魔力吸収を使わせていれば他まで吸収は難しい。』
 ディアーチェが教えてくれた。魔法の特性を知ることの大切さ。

『ヴィヴィオ、私にはお願いしか出来ません。あっちの私と…みんなを助けて下さい。私と…ディアーチェ、シュテル、レヴィを助けてくれたヴィヴィオならきっと…ううん絶対出来ます。』
 そして、ユーリから託された願い…

 外装が繰り出した拳を見つめて避け、腕が伸びきった瞬間に白色の刃を振り上げ肘部分を両断する。ユーリの眉が少し歪むが直後腕が再生するが直後再び刃を振り下ろし再び切り落とした。
 その瞬間を狙い外装はもう片方の手でヴィヴィオを掴みかかる。
 しかしヴィヴィオは冷静だった。捕まれそうになった瞬間にヴィヴィオは光となって消え、外装の背後に現れ

「ハァアアアッ!」

 クロスファイアシュートが突き刺さり大爆発を起こした。
 その時    

『ヴィヴィオっ!』

 そして、待っていたシュテルからの合図がついに来た。
 ユーリの外装が振り返り殴られそうになったところを紙一重で避ける。そのままユーリの背後に回りながら白色の刃を生み出し外装の頭から背面部分を縦に両断した。
 そしてむき出しになった内側へ向けて6つの目映い光球を作り、続けて6つの光の中央に一際大きな光を生み出して

「ほしよぉおおおおおおっっ!」
【Strike Stars】

 外装とユーリ目がけてぶつける

「うぁああああああああっ!」

 ユーリの悲鳴と共に外装は光に飲まれて崩れていく。

「シュテル、レヴィ、ディアーチェっ!」

 ヴィヴィオの声に合わせてシュテル、レヴィ、ディアーチェがヴィヴィオとユーリを中心に等間隔で広がる。

「疾れ明星、全てを焼き消す炎と変われ」

 シュテルのルシフェリオンの先端に真紅の光が燃えさかる炎の様に吹き出す。

「いくぞぉっ!パワー極限!雷刃封殺っ」

 レヴィの叫びと共に空から雷が落ちて身体の周りを蒼い稲光が激しく瞬く。

「紫天に吼えよ、我が鼓動、出よ巨重」

 光を放つ2人とは反対にディアーチェの前に4つの漆黒の球体が生まれて球体が膨らんでいく。そして  

「真ルシフェリオンっブレイカー」
「ばくめつけぇええええん!!」
「ジャガァアアアノォォオトッ!!」

 同時に3方からユーリとヴィヴィオ目がけて放たれた。

(今っ!)

 それを見たヴィヴィオは空間転移でその場から離れる。そこに1人残されたユーリは外装を再生する間もなく

「キャアアアアアアアアアアアッ!」

 彼女の悲鳴が直撃したことの証拠だった。

「ハァッハァッハァツ…ユーリっ!」

 息を乱しながらも上空を仰ぐ。
 3方からの砲撃によってさっきまで居た場所は爆発を起こしていた。

~コメント~
 ヴィヴィオVSユーリの戦闘終了です。
 ディアーチェのトリニティを出したかったのですが…シュテルとレヴィを残したかったのでおあずけになっちゃいました。
 シュテル達の一斉攻撃は異世界のシュテル達から教えて貰った作戦でした。
 



 

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