第15話「GIFT」

 八神堂で本を読みたいと言ったヴィヴィオと別れて一足先にグランツ研究所に来た私はブレイブデュエルのプレイルームの片隅で桃子さんの作ってくれたサンドイッチを食べたながらデュエルの様子を眺めていた。
 今日はウィークリーイベントの日らしくプレイルームは多くの少年少女達が遊びに来ている。

「こんなに増えたんだ…」

 グランプリは10倍位増えたって聞いていたけれど、毎週開かれるイベントですらこれだけ沢山来ているなんて…。

「これだけ居たらフェイトと間違われちゃいそう、リボン外そうっと。」

 呟きながら両サイドでまとめていた髪を下ろして後ろでまとめた。
 アリシアはここのフェイトとブレイブデュエルのAIが組み込まれたチヴィットもいっぱい飛び回っているし、アミタとやキリエさんだけじゃなく研究所のスタッフも何人か出ている。この様子だとグランツ研究所の最後の砦がディアーチェとレヴィらしい。

「悪い時に来ちゃったかな…」

 こんなタイミングでフェイトとなのはさんと一緒に来ちゃったからショッププレイヤーのシュテルとフェイトがプロトタイプで特訓中、T&Hも忙しいだろう。ヴィヴィオも今日は遊ばないだろうし、今日参加すれば10勝出来るだろう。
 でもそれはみんなにブレイブデュエルを楽しんでほしいというみんなの気持ちを無視した形になるし、参加するなら本当に強いプレイヤーが集まるグランプリの方が面白いと思う。

「ユーリ次のグランプリの日…知ってるかな?」

 来られそうな日なのか聞いてみよう。
 そう思いながら見ていると片手剣を両手に持って構えるプレイヤーのデュエルが映った。構えから隙が少ない、武術を練習している子だろうか? 対するプレイヤーはローブを纏って魔導師というより魔法使いの様な雰囲気。
 興味をそそられて見ていると

【クイクイっ】

 袖を引っ張られて振り向くとユーリのチヴィットだった。

「私? もしかして士郎さん達が着いたから呼びに来てくれたの?」
【コクコク】

 頷いて小さな腕を出入り口に向ける。そのままプロトタイプのある場所に行ったらしい。

「ありがとう。1人で行けるから君はみんなを手伝ってあげてね♪」

 頭を撫でると笑顔になってプレイヤー達の集まる場所へとフワフワと飛んで行った。

「さてと…行きますか、っとその前にローダー引いてこようっと」

 残ったサンドイッチをパクッと食べて毎日1枚だけ新しいカードが貰えるローダーに向かった。

     

「遅くなりました。ユーリ、チヴィットで呼んでくれてありがとう。」
「私が行けたら良かったんですが、皆さんのデータを取っていたので」
  
 シミュレータールームに行くと、ユーリと士郎さんと美由希さん、朝から特訓中のなのはさん達が居た。恭也さんと2人のフェイトとシュテルがカプセルに入っているから交替しているようだ。

「いいよ、俺たちも久しぶりだから勘を取り戻してたところだったんだ。」  
「じゃあ早速…ユーリ、空いてる端末を借りるね。」

 ユーリの隣に座ってシミュレーターのウィンドウを起動して、恭也さんの映像を出す。
 クロノさんに似たジャケットを纏った恭也さんはユーリが操作している仮想敵に対して動いている。練習の時よりも凄いスピード。

「N+のデバイスカードだけでここまで出来るんだ…、スキルカードを使ったら…」

 私は勿論、フェイトとなのはさん、ヴィヴィオも勝てるだろうか?

「恭也さん、レアのデバイスカードは使ってますけどスキルカードは使ってませんね。」
「私達は練習の為に使わせて貰ってるだけだから、前になのはからお願いされてガーディアンになった時は少し使った位。でも…なんか変な感じだった。」

 恭也さんの映像を見たかったのか美由希さんが私の横に来た。

「それよりもアリシアちゃん、私とデュエルしない?」
「へっ?」

 突然言われて思わず変な声が出た。



「わ~素敵です。恭也さんと色違いのお揃いなんですね。」

 プロトタイプに入った私は美由希さんのアバタージャケットを見て思わず駆け寄る。
 クロノさんや恭也さんと同じタイプだけど、色が白で手が振りやすいように肩まで短くなっていて、パンツも体の線を綺麗に出していてブーツも動きやすそう。細かな部分もジャケットでもスラリと洗練されたデザインになっている。
 何処かディアーチェのジャケットにも似ている気がする。

「初めは恭ちゃんと色違いだったんだけど、ユーリちゃんが…」
『折角のアバタージャケットなので手を加えさせて貰いました。』
 ユーリの声が聞こえた。ディアーチェのも彼女が手を加えたらしい…

「アリシアちゃんのも格好いいよ。じゃあ始めようか…その前にユーリちゃん、私達のLPとMPだっけ…減らないように出来るかな?」
「?」
『? はい出来ますけど…』
「お願い」
『…はい、これでLP・MPは減りません。』
「美由希さん?」
「すぐに終わったら面白くないでしょ。」

 そう言うと美由希さんがキリエさんのN+カードから2本の短剣を出して構えた。ゲームの中なのに凄い威圧を感じて思わず飛び下がる。

「アリシア…昨日、父さんと恭ちゃんに話を聞いた。2人が許しても私はまだ許してない。許しが欲しいなら私に1撃入れて。ゲームの中で勝てない程度で競技会に出られて直ぐ負けて無様な真似して欲しくない。」 
「そういうことですか…わかりました。バルディッシュ!」

 同じくキリエさんのレアカード、ソードダンシングを起動して構える。
      
「行きますっ!」
         


~ 幕間、ヴィヴィオ視点 ~

 古書店八神堂、ここは私にとって宝の山。
 無限書庫や海鳴図書館とは違ってこっちの色んな物語が読める。
 1冊ごとに違う世界が散らばっている。そんな風に感じられるのは時空転移に似ているからかも知れない。
 お店の奥にある小さなテーブルに何冊か置いて落ち着いた木製の椅子に腰かけて本の世界へと飛び込んでいく。
 幸せな時間が過ぎていく…
 だけどそんな時

「ヴィヴィオちゃん、ヴィヴィオちゃんって!」
「………」
「高町ヴィヴィオ司書!」
「は、はい!」

 思わず立ち上がってしまった。
   
「はやてさん、驚かせないで下さい。」
「そうやなくて電話、ユーリから。」
「なんか焦ってるみたい。」
「焦る? ウィークリーイベントでアリシアが何かしたのかな…」 
 
 はやてに言われてカウンターに駆け寄って彼女のスマホを受け取る。

「はい、ヴィヴィオです。」
『ヴィヴィオっ、急いで来て下さい! このままじゃアリシアが、アリシアが倒れちゃいます!』
「え…アリシアが?」

 焦ったユーリの声に驚く。はやてさん達も何が起きたのかと私の方を見る。

『とにかく…お願いします!』

 そう言うと切れてしまった。

「アリシアが倒れるって…何が? とにかくグランツ研究所に行って来ます。」
「う、うん…気をつけて。」
「向こうにはなのはちゃんとフェイトちゃんが居る。何かあったら呼んで、私も行くよ」
「はい!」

 私はそのまま八神堂を駆け出た。



 全速で15分程走ってグランツ研究所、シミュレータールームへと駆け込んだ。

「アリシアっ!」

 そこには大きなモニタの前に士郎と恭也だけでなくなのはと2人のフェイト、シュテルが見ていた。カプセルには美由希とアリシアが入っている。でも…アリシアは苦しそうだ。

「一体何が…」

 大きなモニタの前に駆け寄ると中では2人がデュエルをしていた。

「なんだ…デュエル中じゃない。ユーリ、驚かせないでよ。てっきりまた戻って来れなくなったんじゃって…」
「違います!アリシアの心拍数はずっと200を超えていて本当は止めなくちゃいけないんです。でも…」
「まだだ…」
「ああ…」
「大丈夫…まだいける…」

 士郎さんと恭也さん、そしてなのはさんがモニタから目を離さずに口々に言う。
  
「どうしてそんな無茶を…」 
 
 デュエルの緊急停止を待たせているのだ。モニタを仰ぎ見て2人のデュエルを見て気づいた。

「そうか…ユーリ、私もあっちに行かせて。デュエルの邪魔はしません。いいですよね」

 そう言うとカプセルの中へと駆け込んだ。          
    

~ 幕間 終わり ~


        
「ハァッハァッハァッ…」
(ここまで違うなんて…っ、やりにくいし…強いっ!)

 同じ戦闘スタイルで、スキルカードも使っていないのに当たらないし、避けても当ててくる。

「思い通りに動けるってここって本当にいい特訓場所だよね♪」

 LPとMPは減らないけれど高速戦闘を繰り返せば疲れも出てくる。もう30分以上デュエルしてるのに美由希さんは全然疲れてないみたい。

「そうですね。スピード勝負ってここまで難しいんですね。フェイトが私とのデュエルで負けてたのわかります。」

 立ち上がってジャケットをブレイズモードに切り替える。
   
「へぇ…まだ余裕あるんだ。アリシア、いいこと教えてあげようか? さっき私がユーリちゃんにLPとMPを減らない様にしてってお願いした理由。外から止めない限りデュエルは終わらないでしょ。LPが減らなきゃ勝負はつかない。」
「え…?」
「思う存分叩きのめせる。競技会に出たいなんて巫山戯た事を言えなくなるまでね。」
「なのはさん達が止めてくれると思わないでね。何の為に父さん達が残ってるのかわかるよね?」
「2時間でも3時間でも…付き合ってあげる。アリシアの心が折れるまで」

 ニコっと笑って言う美由希さんに足が震え背筋が凍りそうになる。
 でも…

「…撮影でヴィータさんがなのはさんと戦った時言ってました『悪魔め…』って。美由希さんがなのはのお姉さんだって改めてわかりました。」

 足の震えを押さえて立ち上がる 
    
「ここで退く訳にはいかないんです。美由希さんこそ覚悟してください。2時間、3時間? そんな程度で私は折れません。半日…1日でも付き合って貰います。」

 カードを起動し2本の短剣を持って構えた。その時

「アリシアっ!」

 八神堂に居るはずのヴィヴィオが入ってきた。

「ヴィヴィオ!? どうして…」
「ヴィヴィオちゃん、邪魔するの?」
「手を出さないで、これは私のデュエルなんだから。」
「出さないよ。直接言いたくて来たの。頑張ってアリシア!」
「…直接応援されちゃ、益々折れる訳にはいかなくなった…行きますっ!」

 SonicMoveで最高速に到達し美由希に迫る。4連撃を放つが彼女は私の動きが見えているのか最初の2撃は余裕で避けられ直後に姿が消え真横に回られて

「ハアッ!」

 逆に4連撃を放たれ私は全部を受けてしまった。衝撃で飛ばされた所で着地した瞬間目の前に現れて左に飛ぶ。しかしそれも読まれていて

「遅いよっ!」
「!?」

 高速の突きをまともに受けて吹っ飛ばされて地面を何度もバウンドした。
  

(…動きを完全に読まれちゃってる…フェイントも駄目…でもまだ何か…何かあるはずっ!!)

 立ち上がって口の中の異物をペッと吐き出し、今度は視界をモノクロームに変えて一気に距離を詰める。正面から行ってもカウンターを受けるだけだから何度かのフェイントを入れれば。    
 でも私が美由希さんの所に着く前に彼女も同じ様に動いていた。再びの突き

「!!」

 高速移動同士での激突、再び飛ばされると思い咄嗟に短剣を十字にして防御耐性を取った。

【Penetrate】   
【キィイインッ!!】

 甲高い音と軽い衝撃の後、飛ばされたのは美由希さんだった。
 
「今の…何? 衝撃を跳ね返した? バルディッシュ?」
【Fight together, too】

 寡黙なバルディッシュが話しかけてくれた。

「そう…そうだよね。行こうバルディッシュ!」

 ここまで来られたのは私だけの力じゃない。
 ヴィヴィオに出逢って、時々ケンカして…親友になって…
 色んな時間と世界で沢山の人達に逢って…
 フェイトのバルディッシュを使って、私にも相棒が出来て…
 今ここに立っている。
 
「ヴィヴィオっ! バルディッシュからのリンクを繋いでっ、バルディッシュ!」
【Yes Sir】

2枚のカードを出して読み込ませる。
1枚は更に速度特化したジャケット、ブレイズⅡへ切り替える為のカード。
 スピードタイプのブレイズの速度を更に上げる代わりに使えるスキルが1つ減ってしまう。
そしてもう1つはここに来る前に引いたカード。
 短剣が消えて長剣の束の形になったバルディッシュが現れ手に取ると、ジャケットが更に変化した。

【Get Set.Blaze Nexus】

   
 同じ頃、異なる時間軸のミッドチルダ北部にあるテスタロッサ家

「おねえちゃん?」

 少女が仰ぐように手を挙げると蒼い光が彼女から発した。



 異世界でフェイトが纏っていたジャケットと持っていたデバイス。水色に光る刀身が生まれ長剣状態になる。このままでは大きすぎて使えない。あるべき姿を思い浮かべ相棒に送る。
 すると長剣は2つに別れ刀身が短く細くなって小太刀に変わった。

「うん、いい子だ…美由希さん、行きますっ!」

 小太刀を構えて美由希さんを見定める。彼女も今までと雰囲気が変わったのに気づいたのか構える。直後2人の姿が消えた。

(これでもスピードは負けてる。でもっ!)

 小太刀を振るのと同時に刀身が放たれる。スティンガーブレイドだ。
 美由希さんは短剣で弾こうとするが1本だけ弾いた後、驚いて下がった。使ったのは只のスキルカードじゃない。相棒がサポートしている複合スキル。弾いた瞬間に自分の振った剣の衝撃も跳ね返ったのに驚いたらしい。
 MPが減らないから連続で放つ。それでもまだ動きは止まらない。チィッと舌打ちをしながらもこの機を逃さない。
 一瞬でもいい、美由希さんより速く動けたらっ。

「おねえちゃん!」
「アリシア!」

 声が聞こえたと思った瞬間、私は美由希さんの後ろに居た。

「っ!!」

 美由希さんの驚く表情がはっきりと見えた。
    
(逃がさないっ!)

 小太刀を重ねた瞬間バルディッシュが槍状になって先端から白い光が放たれる。光は美由希に直撃し減る筈のないLPゲージを一気に吹き飛ばした。

【Winner Alicia】

「ハァッハァッ…バルディッシュホーネットジャベリン、こんなに強いスキルだったんだ…」

 槍状のバルディッシュと放った先を見る。
 見渡す限り広がっていた平原が放射状に抉り取られていた。

「ありがとう、バルディッシュ…あっ!美由希さん!! ヴィヴィオ~っ美由希さんを探すの手伝って!」

 遠くで見ていたヴィヴィオに声をかけて飛び立つ。
 まさかここまで派手にぶっ飛ばしたとなると大丈夫だろうか…。

『アリシア、ヴィヴィオ、今飛んでいる方向に200m位行って下さい。美由希さんの反応があります』

 ユーリの声を聞いてヴィヴィオと頷いて向かった。



「美由希さん、大丈夫ですか?」

 言われた通り行くと美由希の姿が見えた。ジャケットが殆ど無くなってタンクトップとダメージショートパンツの様な格好になっていた。

「うん…いきなり消えて後ろから飛ばされたから目が回っちゃったよ。これの直撃を受けたんだ…ブレイブデュエルの中じゃなかったら影も残ってなかったね。」
「ごめんなさい、直射砲撃系スキルだろうな思ってましたがこんなに凄いスキルだなんて…」
「いいよ、それよりも…父さん、恭ちゃん、これでいい?」

 美由希さんが上空に向かって叫んだ。すると

『ああ、お疲れ様』

 士郎さんの声が聞こえた。

「じゃあ出ようか…」
「はい♪」
「あっ待って! ユーリ、私を先に出して。30秒くらいしてからアリシアと美由希さんをお願い。」

 ヴィヴィオが言う、私達は首を傾げる。

『わかりました。』  
「どうして? みんなで一緒に出ればいいのに?」
「出ればわかるから待ってて」

 そう言うとヴィヴィオの姿が消えた。

「何だろう?」
「さぁ?」

 何があるのかと考えても理由がわからず、その内30秒が経って私達もブレイブデュエルの世界から戻った。

~コメント~
 なのはの父・兄・姉のトンデモ能力、ASシリーズではアリシアが練習しています。今話はそんな彼女が主人公です。
 ただ単に強くなりたいという気持ちではなく、ヴィヴィオと一緒に居られる為にと練習を続けていて、フェイトの複製母体なことも相まって高速戦闘での戦果も着々と積んでいます。
 

 

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