第--話 「再びの地へ」

 あれから数年が過ぎ、私は管理局へと入局を決めた。
 母さんは「あなたが考えて決めたなら、頑張りなさい」と背中を押してくれた。
 でも・・・でも・・・私は管理局に入る前にしなければならない事がある。

「行くんだね・・・もう一度」
「うん、すぐに戻るから・・・もし、私の身体に何かあっても心配しないで。絶対に戻ってくるから」

 この魔法と出会った時、それを封印せず私に丁寧に使い方と危険性を調べ教えてくれた家族。
 彼に打ち明け、用意してもらった物を持って私はもう一度旅立った。
 
 ミッドチルダのアルトセイム地方にある小高い山。その中に探している物はあった。
 眠った様に目を瞑った少女と子猫を入れたポッド
 それを1つずつ持ち出し、代わりに彼から預かった物を置いて、その時を去った。


 次に訪れたのは、研究都市の郊外に建てられたある家の中。

「こんにちは、お姉ちゃんだれ?」
「こんにちは、ここはもうすぐ危険なの。お母さんの所に送ってあげる」
「でも・・・」
「その子も一緒に」

 家の中でペットの猫と遊んでいた少女。
 年齢の割にしっかりしている。これから何が起こるのかとか話したいけど、その時間は間もなくやってくる。
 私は少女達に眠って貰うことにした。

「ちょっとだけ眠ってて・・・ゴメンね、キミも一緒に・・」

 持ってきたポッドで眠る少女と子猫を代わりに置き、眠らせた彼女達を抱いてその時を去った。


「お久しぶりです。リンディさん」 
「!! あなたはっ! どうしてっ!?」

 時空管理局のある部屋
 本局に突然やって来た私をリンディ・・今は統括官だったかな・・・彼女は驚いた。

「詳しい話は後で・・・この子達を少しの間預かって貰えませんか?」
「この子は? え・・・ええっ!!」

 何も身につけていない少女を見たリンディは目を丸くし、その少女の顔を見て更に驚く。

「後でもう一度ここに来ます。詳しい話はその時に・・・」

 彼女を預け再び旅立った。



 流石に何度も使うと魔力消耗が激しい。
 でも、次が正念場! 失敗すると私も巻き込まれてしまう。
 気合いを入れ直して、私はその場へ飛んだ。



 次元の狭間で大きく揺れる建物、目の前をもう1人の私が通り過ぎた。
(! 見つかっちゃった?)

 彼女にもその仲間にも雑念を持たせるのはマズイ。

「ちょっとだけ力を貸してね」
【AllRight Master Setup】

 あの頃とは少しだけ違っているけれど、大切なパートナーなのは変わらない。あの場所で、一瞬だけでも取り込まれないようにするには、相棒の力を借りないとかなりキツい。

 暫くすると大きな振動が襲った。駆動路が封印されたのだろう。

(そろそろかな・・いくよっ!)
【Yes Master】

 私はその場所へと急いだ。


「わわっ、もうっ!? ちょっと待って! あと1ブロック先っ」

 崩れていく建物の中で、何とか彼女達がいる場所の2フロア下に辿りついた。上で誰かが話している。
 見つからないように隠れながら様子をうかがう
 足場が崩れていくのに注意しながら見ていると、向こうでも足場が大きく崩れ始めた。その時は近い。
 突然、大きく傾き虚数空間へ落ちていくポッドとそれを追う様に落ちる女性。更にそれらを追いかけようとする少女2人

『大丈夫、こっちはまかせてっ!』
『!?』

 2人の少女の1人が驚いて立ち止まる。
 こうだったか・・同じかは覚えてないけど大体そんな言葉だっただろう。
 念話を送って飛び降りた女性の元へ一気に飛んだ。
彼女を抱き上げ、ポッドを踏み台にしてさらに上へと飛び上がる。
 だがそこに突然爆風が襲った。
 これがあったんだ。

「あっ・・・あの子はもうっ! ちょっとは手加減してよっ!!」

 一瞬バランスを狂わせたけど、落ちていく残骸を足場に飛び移り再びバランスを取り直す。
 そして、虚数空間へ落ちる直前

「シールド全開っ! 一気に飛んでっ!」

 虹色の球体を作り出し、その中から一気に飛んだ。


「ハァッハァッ、ちょっと無茶しすぎちゃった・・・」

 一時的に虚数空間を中和・安定させその中から飛ぶという荒技は、思った以上にきつかった。
 でも、あの場所にいた者達に知られない様にするにはそれしか無かったのだからしょうがない。

「し・・失礼しますっ!」
「えっ?・・・また・・・って、その女性はっ!!」

 リンディさんが驚いた声をあげる中、私は意識を失った。


  
「・・・・あれ・・私・・・あ・・そうか・・」
「・・・気付いた? 良かったわ~医療班にも連れて行けないし、どうすればいいか判らなくて・・・ただ疲れただけみたいね」
「・・・教えて、どうしてこの子がここにいるの?」

 目覚めた私をリンディさんと助け出した女性が見つめていた。

「すみません・・何か飲み物を・・」
「あっ、はい・・お水だけど」

 リンディに手渡された水を一気に飲みほす。
 疲れた身体に染み渡るのと同時にぼやけた意識がはっきりしてきた。
 少女は薬が効いているのかまだ眠っている。服はリンディさんが用意してくれたらしい。
 愛おしそうに少女を膝枕している女性を見て、私は成功したのを確信した。

「薬・・・飲んでくれたんですね。」
「薬? アレはあなたが・・・それじゃポッドは・・・」
「少しお借りしました。何も言わずにごめんなさい」
「それより、何がどうなっているのか教えて貰えないかしら?」
「どうしてこの子がここに?」

 何も言わずに突然2人を自室に連れてこられた者と、気がついたら求めていた娘が目の前にいた者。流石に混乱するだろう。

「・・・あの事故の前に彼女達をここに連れ出したんです。でも・・その時誰も居なくなったらダメだから、先にポッドをお借りしました。薬を置いてあった場所のポッドを・・その後、あなたを虚数空間に落ちる前に助け出して、ここに連れてきました」
「ああ、それで・・・それで最初から違ったのね・・・魔法素質を持っていたのも利き手が違ったのも・・・当たり前よ。だってあれはあの子より私の因子を多く受け継がせたんだから」

 種明かしをされて自分のしてきた事が馬鹿らしいと思ったのか、女性は大きく息をついた。

「私の質問には答えてくれないのかしら?」
「あっ、ごめんなさい。リンディさんは私の能力を知ってるから、ここじゃリンディさんしか頼れなくて・・・。理由は私があの子・・彼女の親友だから・・それと・・あまり詳しくは話せないけど、お二人の協力が必要なんです。」
「どういう事?」
「数年後に彼女の・・ママと同じ様な人が何人も出てきます。その時、絶対に貴方の力が要るんです。」
「でも、あの研究は失敗っ・・・あなたのお母さんって・・まさかっ!」
「今は言えません。ごめんなさい」
「簡単に・・・壊れちゃうのね」
「はい・・・」
「もう一度・・その時が来たらリンディさんに会いにここへきます。それまで・・」
「・・・・」

 私の目をじっと見るリンディさん。

「判りました。任せておいて」

 その言葉を聞いて安心した。立ち上がって相棒に魔力チェックを頼む。もう一度位なら飛べそうだ。

「それじゃ、また」
「あっ、ちょっとまって!」

 呼び止められ振り返る。

「ありがとう・・・本当に・・ありがとう・・・」

 彼女の言葉で少しだけ救われた気がした。そして、私はその時を去った。



「ごきげんよう、リンディさん」
「もう驚かないわよ。大変だったんだから、あの後・・」

 もう一度訪れた時、リンディさんはもう驚かなかった。
 あの後、彼女たちを秘密裏に信頼のおける管理外世界のある場所へ連れて行った。その時一緒に彼女の娘を養子にした際に相続した財産を渡した。元々彼女の物なのだから。
 どちらかと言えば連れて行く時、誰にも見られないようにするのがかなり大変だったらしい。

「ありがとうございます。それで・・」
「ええ、2人・・と1匹かな? とても元気よ。今が『その時』なのね」
「はい。」
「判ったわ、連絡入れておくから・・待ち合わせは何処がいいのかしら?」
「ミッドチルダ、聖王教会へお願いします」
「やっぱり・・・あの事件がそうだったのね。判ったわ、今日はゆっくり出来るんでしょう?」
「はい。」
「じゃぁ行きましょうか!」
「えっ? お仕事は・・・」
「久しぶりに家族が来てくれたのに仕事なんてしてられないわよ。それと・・・はい♪ ここでそれは目立つから」

 渡された箱には左右の色が違うコンタクトが入っていた。

「あ、ありがとうございますって・・わっ!!」

 コンタクトを入れたのと同時に、彼女に引きずられて私は部屋を後にした。


 翌朝、目覚めた私をガンガンとした頭痛が襲った。

(あ・・・初めて飲んだんだ・・)

 リンディさんに連れ回され、色んなお酒を飲まされた気がする。

(ママ達、リンディさん達と一緒に飲めるのはレティ提督とシグナムさんだけだって言ってたのがよくわかるよ・・・)

 頭を抱えて唸っていると

「おはよう、よく眠れた?」
「おはようございます・・・頭がズキズキして・・・イタタタッ」
「はい、酔い覚ましの薬とお水。飲んで暫く経てば治るわよ」
「私、変な事言いませんでした? 途中から全然覚えて無くて・・・」
「そうね~服を脱ぎかけた位かしら?」

 思い出すように言った彼女の言葉を疑った。いくら何でもそこまではっ!

「ウソッ!! 私そんな・・・ッタタタ・・」
「冗談♪ 途中で寝ちゃったわよ。 余程疲れてたんでしょう? 何度も使ったから・・・」

 そうだ、昨日は何度も飛んで、開放までしたんだ。
良く倒れなかったと今更ながらに思う。

「えっと、彼女達だけど昨夜連絡が取れて、今日の13:00にミッドチルダへ着くそうよ。それとカリム・グラシア理事官からも了承のメールが届いてたわ。そうそう、丁度はやてさんが来るらしいの・・・どうする?」

 後で行こうと思っていたから丁度いい。

「出来れば話を・・・はやてさんにも知ってて欲しいから」
「判ったわ。先にシャワー浴びてきなさい。少しは楽になるわよ」

 リンディにそう言われ、ふらついた足でシャワールームへと向かった。



 管理局中央ゲートを通って、ミッドチルダ本部ゲートへ

「どうしたの? まだ頭痛い?」
「いえ、何でもないです。」

 彼女の娘じゃなくて本当に良かった。母さんには悪いけれど私は心底思った。だって、シャワーを浴びたら、下着と服が用意されて・・・それがサイズまでピッタリだったから。
 いつ? どうやって? 眠った後? まさか、この日の為に色んなサイズを用意してたんじゃないか? 聞いても多分ニコリと微笑んで答えてくれないだろう。
 きっと驚かせた仕返しをしたかったんだ。

「気に入らなかったかしら・・・その服も・・あの下着はね・・」
「ワーッワーッワァー!! なんて話をするんですか!?」
「だって・・・家を出てから一言も口聞いてくれないんだもん。グスッ」

 ちゃんと涙を拭うハンカチまで用意している。もしかしたら涙も・・・もういい年なんだからもう少し落ち着いて欲しい。

「あら失礼ね、まだ若いわよ!」

 ・・・・・改めて母さんとクロノさんに同情した。


~~コメント~~
 本編でもあり、裏話でもあり、AntherStorysのある1話です。
名前をあえて出していませんが、誰だかわかりますよね。
あとちょっとだけ続きます。

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