第13話 「なまえをよんで」

(これで・・・良かったの? 本当に?)   
アースラの中でヴィヴィオは1人考えていた。

 ジュエルシードはなのは・フェイト・クロノ、そしてヴィヴィオの同時砲撃魔法で何とか封印出来た。
 だがそれも彼女、プレシア・テスタロッサにとっては予想範囲内だったのだろう。
撃ち抜いた際に出来た穴を通ってなのは達が降りてくる。
その中にはフェイトとアルフの姿もあった。

「母さん・・・」
「フェイト・・・まだあなたは」
「・・・母さんに言いたい事があります。あなたから見れば私は本当の娘じゃない。でも・・・私はあなたの娘です。もし・・・母さんが望むなら・・・私は母さんを守ります。ずっと・・・」
「あなたが・・・」
「-----」

『庭園内部のエネルギー反応消滅。このままだと崩れて虚数空間に呑み込まれちゃう!』

「・・・・」

『クロノ君、なのはちゃん、ユーノ君、ヴィヴィオちゃん!みんな急いでっ』

 エイミイの通信が届いたのとほぼ同時に、ヴィヴィオ達の居た場所も一気に崩れ始めた。

「ウワァッ!」
「母さんっ!」
「・・・・行きましょう。アリシア、一緒に・・・ずっと一緒よ・・・」

 足下が崩れ、共にアリシアの入ったポッドと共にプレシアが落ちていく・・・

「フェイト!」
「離してっ、アルフっ!母さんっ」

 プレシアを追いかけるフェイト、落ちる寸前でアルフが彼女を止める。

「フェイト、私がっ」
「止めろヴィヴィオっ、虚数空間は魔法をっ!」

 クロノが止めるのも聞かずそのまま追いかけようとする。だがそこに突然念話が届いた。

『大丈夫、こっちはまかせて』
『誰?』

 飛び込む寸前で立ち止まり振り返る。
クロノもなのはもユーノも念話を送れそうな雰囲気じゃない。

「フェイトちゃん、飛んでっ!」

 なのはの叫び声で再びフェイトの方を向く。そこには虚数空間へと落ちていく瓦礫の上に残るフェイトの姿。

「フェイトっ!!」




「母さん・・・」
(『あなたが・・・』その後母さんは何を言ったの? 言いたかったの?)

 落ちていくプレシアが何を見ていたのか? 淡い光だけを残した部屋で眠っていた彼女、フェイトは夢の中で繰り返し思い出していた。
 すぐ隣のベッドにはなのはが眠っている。 
 なのはも全力で戦い、疲れ切ったままで攻撃魔法を使い続けたのだから無理もない

「私は終わらせられたのかな・・・」

 誰かが答えてくれる訳でもない。ただポツリと問いかけていた。


 
「これで、本当に良かったの・・・」
「わからないわ」
「!?」
「もっと、そうね・・・きっと誰も不幸にならない方法があったでしょう。でもね、ヴィヴィオさん私達は今出来る一番良い方法を考えて頑張るしかないの。だって後でこうしておけば良かった、ああしておけば良かったなんて判っても簡単に変えられないでしょう?」
「リンディさん・・・」

 1人アースラの通路で立っていたヴィヴィオにリンディはそっとカップを差し出す。

「フェイトさん、まだ横になっているみたいだけど意識を取り戻したわよ。事件の重要参考人だけど・・・会う?」
「・・・・・」
「そう、あなたも疲れてるんだからゆっくり部屋で休んで」
「・・・はい・・・」

 フェイトに会いたい。でも・・・会ってどうしたいのだろう、私は?
 リンディの後ろ姿が遠ざかるのを眺め、再び考え始める。



「フェイトっ、飛んでっ!!」
「フェイト・テスタロッサ! 聞こえているのかっ!」
「フェイトぉおおおっ!」

 プレシアの落ちていった先を見つめてヴィヴィオ達の声は届かなかった。でも

「フェイトちゃん」
「・・・なの・・は・・」
「こっちにっ!」

 なのはの声だけが届いた。ふらつきながらも立ち上がりなのはの方へ飛ぶ。
 だが・・・

(届かないっ! またっ、どうしてっ?)

 飛んで差し出した手はなのはまで届かない。それどころか再びヴィヴィオの姿が透け始めた。
 これで2度目、どっちもなのはかフェイトの身に危機が迫った時に起きている。
 なのはとフェイト、どちらが欠けても後の世界に影響するのだ。

(何か・・・誰か・・・っ)


『もしもの時、役立ててくれ』

 もう1つ、ヴィヴィオがこの世界に持ってきた物。
 なのはママと一緒に本局にいる彼女達の部屋に遊びに行った時、貰ったマスコット・・・
 彼女の能力、それは
 ハッと思い出しマスコットを引きちぎってフェイトの飛んだ瓦礫目掛けて投げつける。そして

「ISっ ランブルッ・・・デトネイタァアアアッ!」

 賭けだった。
 もし彼女がくれたこれに思っている通りの細工をしてくれていたら、きっとヴィヴィオが知る起動キーで動き出す。

【ドォオオオオンッ!】
「キャッ」

 ヴィヴィオの願った通りマスコットは触れた瓦礫を爆発させ、その爆風を受けたフェイトはなのはの所まで吹き飛ばした。
 なのはがフェイトを受け止めたのと同時に透けていたヴィヴィオの体が元に戻る。

『ゲート作るから、急いでっ』

 星の庭園そのものが落ちていく。
 アルフに抱えられたなのはとフェイト、ユーノ・クロノ、そしてヴィヴィオも転送ゲートへと急いだ。


 
「ヴィヴィオ、休まなくていいのか?」
「クロノ・・・ユーノ・・・」
「あれだけの魔法を使ったんだから、ちょっとは休まないと」
「うん・・・」

 声をかけられた方を向くとクロノとユーノが並んで歩いてきた。
医務室へでも行くのだろう。
 ユーノから包みを差し出され、「ありがと」と中からクッキーを1枚つまむ。

「なのはを救出、次元断層を食い止め更にジュエルシードも回収・・・幾つか出来なかったが、限られた時間内であれば十分だろう」
「ううん、そう言うことじゃないの」
「プレシアさんのこと?」
「最後に何て言ったのかなって、なのはの事も・・・」
「確かに、あの時点でバリアジャケットとデバイスを直して結界を張るなんて無駄な魔力の消費でしかない。」
「でもっ!」
「だが、彼女は彼女なりに何か思うところがあったんだろう。アリシアとなのはが重なって手にかけてしまうのを躊躇ったのかも。なのはは純粋だから」
「ヴィヴィオ、やっぱり一度横になった方がいいよ。疲れているのに考え込むのは良くないよ」
「ああ」

 ユーノの言葉に同意するように頷くクロノ。
 ヴィヴィオもユーノやクロノやリンディに変に気を遣わせたくなかったから彼らの薦めを受け入れる。

「うん、ちょっと休んでくる。ねえユーノ、一緒に寝よ♪ 1人じゃ寂しいの・・・」
「なっ!!? 何で僕!?」
「じゃあクロノ」
「!? 何でって・・・『じゃあ』って何だ『じゃあ』って!」
「冗談♪ 寝てるとこ見られたら後でママ達に怒られちゃうから。ありがとう、ユーノ・クロノ」

 顔を真っ赤にするユーノと違う意味で真っ赤になって怒るクロノがおかしくて、逃げるようにその場を去った。



「全く・・・ヴィヴィオは」

 脱兎の如く走り去ったヴィヴィオを見てクロノは息をついた。
 彼女なりの礼と照れ隠しのつもりだったんだろう。
 ヴィヴィオが居なければなのはを助けジュエルシードを封印して持ち帰る事が出来なかったのだ。彼女なりに無理をしていたのだろう。
 この時クロノはヴィヴィオをAsクラスの魔導師と認めていた。
 それに、デバイスについても気になっていた。
リンディやエイミイが何か知っているらしいが、それとなく聞いてもかわされてしまう。多分ストレートに聞いても無駄だろう。
 ヴィヴィオが目覚めたら一度聞いてみよう。そう考えていた。
 


「なのは・・・なのは・・・」
「・・・んんっ? 誰、ヴィヴィオ?」

 ヴィヴィオはユーノ達と別れた後、そのまま医務室へとやってきた。
なのはに別れを言うために

「起きられる?」
「うん・・・もう平気、もう行くの?」

 なのはも気付いていたらしい。なのはの問いに頷いて答える。

「うん、もう行くね。フェイトも・・・元気でね。起きてるんでしょう?」
「・・・行くってどこへ?」

 フェイトもベッドから起き上がりヴィヴィオとなのはを見る。 

「私、本当はここに居ちゃいけないの、もう戻らないと。だからお別れを言いに来たの」
「また会える?」
「うん♪ きっと」
「ヴィヴィオ、次に会ったらもう一度勝負を受けてくれる。手加減をしない・・・全力で」
「うん、約束♪ 代わりに・・・私からもお願い。これからは誰でもないフェイト・テスタロッサとして時間を使って、フェイトは1人じゃないんだから」
「・・・うん」

 もうフェイトの瞳には曇りは見えない。

(これで大丈夫・・・きっと・・・もう)
「じゃあね♪ なのは、フェイト、バイバイ♪」
「またね」
「約束だからっ!」

 ベッドの上で手を振る2人を置いて、ヴィヴィオは医務室を後にした。



「もう、行くのね」
「はい、ありがとうございました。リンディ提督」

 ヴィヴィオは最後にリンディの下を訪れた。これ以上居るときっとまた違う未来を作ってしまう。

「これで元の世界に戻ったのかしら?」
「少し違うところもあるけど、もう大丈夫です。なのはとフェイトに会ってそう思いました。」
「そう、ヴィヴィオさん1つだけ聞いていいかしら?」

 何だろう? 
 何も言わずに無限書庫へ送り出してくれただけでなく、RHdまで直してくれた。これだけお世話になったんだから答えてあげたいと思った。

「レイジングハート2nd、デバイスにはね送った人、製作者が何かのメッセージを入れられるの。それでねこの中にも、『不屈の心の名を継ぐ者と共に 健やかに N.T&F.T.H』って・・・もしかして、この2人って」
「・・・2人ともとっても優しくて・・・大切な人です」
「・・・そう、ありがとう」
「それじゃ、ありがとうございました。」

 そう言い、ヴィヴィオはリンディに頭を下げ持ってきた本を開き中に書かれている言葉を紡ぎだす。

「元の世界へ・・・」

 そう願った瞬間ヴィヴィオは光に包まれた。




「・・・オっ! ヴィヴィオっ!!」
「ん・・・」
「ヴィヴィオっ!」

 それは懐かしい声
 聞きたかった声

「ん・・ん・・・」

 部屋の明かりが眩しくて、少しの間目を開けなかったけど

「ヴィヴィオっ!」
「なのは・・・ママ・・・」

 目覚めたばかりのヴィヴィオになのはが抱きついた。

「もうっ、起きないんじゃないかって。ずっと眠り続けて・・・なのはママ・・ママは・・」
「無限書庫で気を失ってたんだよ、ヴィヴィオはそれから1週間ずっと眠ったままだったんだ」

 ヴィヴィオを抱いてなのはは肩を震わせ泣いていた。隣のユーノも安堵の息を漏らす。

「ごめんなさい、なのはママ。夢を見ていたの、ずっと昔の夢・・」

 あれは全部夢だったんだ。
 そう思いながらも涙するなのはに抱きつこうとした瞬間、ベッドから1冊の本と赤いリボンが落ちた。
 1つは無限書庫で探しあてた本、そして赤いリボンは・・・なのはの・・・
 そのリボンを見た瞬間、なのはとユーノは顔を見合わせ再びヴィヴィオを見た。

「ヴィヴィオ・・・やっぱりヴィヴィオだったんだ。ねえ知ってる?なのはママがどうしてこの髪型にしたの? これは昔、なのはママやフェイトママ、ユーノ君を助けてくれた友達といつか会えます様にって、その友達の髪型と一緒にしたんだよ。このリボンはね、その友達が別れの挨拶に来たときそっとポケットに・・・」

 ハッっとする。そう、ヴィヴィオがバリアジャケットを纏った時の髪型はと同じ・・・

「ヴィヴィオだったんだね・・・また会えたね」

 瞳を潤わせたなのはの笑顔を見て、子供の頃のなのはに出会えた気がした。



「ねぇユーノさん、聞いていい?」
「何だい?」

 安堵して張っていた気が緩んだのか、そのままなのははヴィヴィオと代わってベッドで横になっていた。

「もしね・・もし、私が違う行動を取っていたら・・・こっちはどうなっていたのかな?」 

 ヴィヴィオの問いにユーノは少し考える。

「そうだね、もしヴィヴィオがジュエルシードを全部封印して管理局に渡していたら、全然違う世界になっていたんじゃないかな。全く違った場所で出会っていたかも判らない。」
「例えば・・・もう少しで助けられたのに・・・とか」

 誰を指しているのかはユーノは気付いているのだろう。

「僕達ももっと早く真実を知っていたら・・・、でもヴィヴィオ、時間は戻らない。一度しかその時間は無いからみんな精一杯頑張るんだと思うんだ。」

 本当はプレシアもアリシアも助けたかった。ヴィヴィオにはその力があったし、もっと早く知っていたら助けられた。だが、それは叶わなかった。その事実を受け止めるしかない。

「・・・そうだ、今度一緒にその辺の資料を調べてみようか。今はなのは・・なのはママが心配するからね」
「うん♪」


 その後、ベッドから落ちた1冊の本は自然に姿を消した。
 ユーノが言うには「同じ物は同じ時に複数存在出来ない」らしい。
 無限書庫に眠っていた方の本は今はユーノが持っていて、今回の事は誰にも言わないと約束した。
 過去を変えてしまいたいという願望は誰にでもあるのだから。


 そして数日が経過し、医療班で幾つかの検査を受けて異常なしと結果が出た後、ヴィヴィオとなのははミッドチルダへ戻り、元の生活に戻った。
 ヴィヴィオも久しぶりの学院生活を満喫しようと登校したのだが・・・

ヴィヴィオを待っていたのは・・・・

「フフフフフフ・・・フェフェフェ・・フェイト!?」

 ヴィヴィオが戻るのと一緒にやって来た転校生

「アリシア・テスタロッサです。ごきげんよう」

 握手を求められるアリシアに慌てふためきつつ、誰がどうやって?ママ達に何て言えば良いのかと完全にパニックに陥ってしまった。

「高町ヴィヴィオさん、これから宜しくね♪」

 その直後、学院中に響き渡る程の声がヴィヴィオから発せられたのは言うまでも無い。


~~コメント~~
 もし、ヴィヴィオがなのはの幼少時、ジュエルシード事件の時代に来てしまったら・・・
 ふとそんな事を思ったのは「なのはStrikerS」の放送が終了した頃でした。
 でも、その頃の彼女だったらなのはとフェイトが争うのを止められず、泣くしかできなくて何も変えられない。そう思いそのまま単なる思いついた話としてノートの隅にメモだけ残していました。

 それが、StrikerSドラマCDを聞いた時再び目に留まった時もう少し細かく書いてみよう、そう思いました。
 なのはやユーノ・フェイトと同じ年齢になって、司書の肩書きを得た彼女がどんな風に動くだろう? なのはだったら自身や愛娘に何かあっても大丈夫な様にきっと何かを持たせているかも、もしかするとヴィヴィオも真似ているかも知れません。

 そんな中でヴィヴィオの心の成長が書ければと思ったのがこの話です。

 ヴィヴィオは最初は「数年後に大怪我を負うなのはの未来を変えたい」という、ただ単純な思いでなのはに代わってジュエルシードを集め始めます。
 集めている中でなのははなのはの家族や親友・ユーノとの生活、そしてフェイトやアルフとの出会い、リンディやクロノ達アースラスタッフとの出会いを経て、未来を変えるのではなく、その時その場で必死に頑張ろうするのを目のあたりにし、ヴィヴィオ自身の生まれや能力と向き合い精神的な成長を遂げます。

 タイトルが「魔法少女リリカルなのはAnotherSide(もう1つのリリカルなのは)」にしたり、各話のタイトルと時間軸を揃えていったりしたのは、なのはと同じ様にヴィヴィオの成長過程を書ければいいなと思ったからです。

 サウンドステージみたいにあと少しだけ~それから~の様な話が続きますが、「リリカルなのはAnotherSide」としての本編はこれでおしまいです。
 最後に、ホームページに来て頂いた方、全編通して読んで頂いた方、本当にありがとうございます。
 これから読もうと思っている方、拙い物書きですがどうぞお手柔らかにお願いします。

2009年3月5日 ima

Comments

ima
レスが遅くなり申し訳ありません。

>M様
コメントありがとうございます。
直接チンクからマスコットを貰ったという記述はこの話でのオリジナルです。
マスコットは2話で少しだけ触れています。

>しいなさん
2話で出ていた物をと言うより、ヴィヴィオは家族以外からも見守られているんじゃないかなと思い、ずっと暖めてました。
2009/03/13 11:51 AM
しいな
お疲れ様でした~ってもう少し続くんでしたっけw
 私もマスコット突然出てきたんでどこでんな物貰ったんだ?と読み返したんですけど・・・もしかして2話の複線??
2009/03/08 08:48 AM
M
初めから、読み直してみたが、いつチンク姉さんから、マスコットもらったのか分からなかった。サウンドステージ?
2009/03/07 09:16 PM

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