第5話 「過去からのメッセージ」

「なるほどな~。時間移動出来る能力か、いいな~私も欲しい」

 八神家のリビングで一息ついたヴィヴィオは隠すのを諦め、なのはやはやて達にここに来た理由を話した。
 図書館前で気を失ったのフェイトはここまでリインフォースに抱えられ、今ははやてのベッドで眠っている。

「ざふぃーらおおきい、あったかーい、ふわふわ~♪」
「主はやて…」
「ザフィーラごめんやけどその子の相手暫く頼むな」
(私もザフィーラにはよく遊んで貰ったなー)
 チェントはチェントでザフィーラがとても気に入ったらしい。ザフィーラに抱きついたり頬ずりしている。機動6課に居た頃を懐かしく思える。

「ヴィヴィオが魔法使いって知った時も驚いたけど、時間が移動できるなんて…アリシアさんがここに居るんだから本当なんだよね…プレシアさんも…あっ、何でもないから、ゴメン」

 プレシアが居ればとても喜んだだろうと言おうとして途中で止めるなのは。

(プレシアさんも居るんだけど…言わない方がいいよね。聞いたらフェイトがそこに連れて行けって言いそうだし…。)

 なのはの呟きに苦笑いする。

「ヴィヴィオ、彼女も…聖王の血族なのか?」
「そうです。私っていうかベルカ聖王オリヴィエ…彼女のコピーが私達です」
「オリヴィエ・ゼーゲブレヒト、聖王統一戦争末期の王。時間移動、時空転移の力はベルカ聖王直系でもわずかな者しか受け継いでいなかった。同じ時間に2人も能力者が出るのは初めて聞く」

 少し驚きながら言った彼女の言葉にヴィヴィオもそうだったのかと驚く。でもよくよく考えてみれば同じ時間に複数人のベルカ聖王が時間移動能力を持つと兄弟・姉妹・親子の争いが起きしまう。当時はProjectFateの様に資質まで受け継がせる人造魔導師を作る技術が無かったのか、それともヴィヴィオ達が偶然資質を持って生まれたのか…それは誰にも判らない。


「ヴィヴィオ、その辺で本題に」

 話が違う方へ向かい始めたのに気づいたアリシアが促す。

「そうだった。私達の闇の書事件とさっきはやてから聞いた闇の書事件がちょっと違うんです。何か心当たりはありませんか? 闇の書、夜天の魔導書が蘇るって。私達はそれを止めに来たんです。」
「リインフォース、シグナム、ヴィータ・シャマル・ザフィーラも…なんか心当たりある?」
「主はやて、私達は管制プログラムから呼び出された時に以前の記憶を失っていますから…」

 シグナムの答えにシャマルとヴィータも頷く。ザフィーラはチェントに抱きつかれてそれどころではないらしい。

「そっか、そうやったね。リインフォースは?」
「先程も言いましたが、あの日別れの魔法で管制システムである私の存在を除いて全て消滅しています。ですが、私の知る限りここまで闇の書…夜天の魔導書が破壊された事も初めてですから」
「わからんと?」

 頷くリインフォース。彼女以上に夜天の魔導書を知る者は居ない。その彼女が判らないと言ったならヴィヴィオがそれ以上調べるのは難しい。来て早々、八方塞がりになってしまった。

「アリシアどうしよう?」
「うーん…」
「判らんものを考えてても時間が勿体ない。思うんやけど、ヴィヴィオちゃん達がここに来たのも何か理由があるんちゃう? そうなら理由がわかるまでこっちの世界でゆっくりしてって。闇の書の復活阻止なら全力で協力するよ。」

 考えてこんでいたヴィヴィオとアリシアにはやてが言う
 彼女の言うとおり闇の書をイメージしてこの時間に移動したから何か起きるなら変に動くより暫く待った方がいい。

「客間もあるし、4人くらい増えても大丈夫や。ここに居る間の衣食住は面倒見るよ。」

 この頃から家長の風格はあるようだ。
 じゃあ…と言いかけた時、ドアが開いて

「アリシア…良かったら私の家に来ない?」

 と寝ていた筈のフェイトが入ってきた。

「フェイトちゃん、もう平気なの?」
「うん、驚いただけだから。私の家もまだ部屋あるし…リンディ提督には私から話すから…どうかな?」
「じゃあヴィヴィオちゃんも私の家に来ない。お父さんとお母さんすっごく喜ぶよ」

ジッとアリシアの瞳を見つめるフェイトと目を輝かせて言うなのは。アリシアと顔を見合わせる。

「じゃあ…フェイトの家でお世話になろうかな…チェントも一緒でいいよね?」
「うん!」
「じゃあ、私とリインはなのはの家で、なのはいい?」
「うん、ウンウン♪」
「ヴィヴィオ、私は…ここに居ちゃだめですか?」

 話が決まったと思った時、今まで何も言わなかったリインが聞く。何か思い詰めた様な表情。このまま一緒に行った方がいいと言いかけたが、止めてはやての顔を見る。

「えっ、でも…」
「ええよ。じゃあ…えっと…」
「リインでいいです。」
「リインちゃんはここで私と一緒やね、よろしくな」
「はいです♪」

 かくしてヴィヴィオはなのはの家に、アリシアとチェントはフェイトの家に、リインはそのままはやての家で暫く過ごす事になった。



「さてと、ちょう遅なったけど晩ご飯の準備しよか。リインちゃん合う服あるかな?」
「リイン少しなら大きくなれるです」

 そう言うと服を脱ぎ始める。慌てるはやて

「ちょっ、なんで服を?」
「アウトフレームフルサイズ」

 その間に大きくなるリイン。大きくなると言ってもヴィータより少し小さい位…

「服を破かん様にか。私の服でサイズ合うかな? シャマル~私の服どれでも良いから持ってきて~」

 廊下に向かって言うと2階からわかりましたとシャマルの声が聞こえてきた。

「リインちゃん、ここでいる間はそのサイズでいられる?」
「はやてちゃ…はやてさんがそうして欲しいなら。」
「うん、ありがとな。それと私の事ははやてでもはやてちゃんで好きな方の呼び方でいいよ」
「はい、じゃあはやてちゃんも私の事リインって呼んでくださいです。」
「うん、リインよろしくな」
「はいです。はやてちゃん」

 普段一緒に居るはやてとは違うけれど、彼女もやっぱりはやてなんだとリインが納得した時だった。


一方同じ頃、高町家では

「士郎さん、桃子さんごきげんよう…」
「ヴィヴィオ、久しぶり~」
「キャーッヴィヴィオ♪ やっぱりかわいい~」

 家に入った途端桃子に抱きつかれた。彼女のぬくもりはなぜかなのはに抱かれている様に感じてくすぐったい様でうれしくもあるが…

「母さん、そんなに抱きしめちゃヴィヴィオ息できないって。顔真っ赤になってる。」
「あっゴメンね~ヴィヴィオ。代わりに今日の晩ご飯桃子さん腕振るっちゃう♪」

そう言ってパタパタとスリッパを鳴らしキッチンへと戻っていった。

「余程嬉しかったんだな、母さんも。久しぶりヴィヴィオ」
「ケホッ、こきげんよう、恭也さん・美由希さん」

 なのはの家族全員に会うのは久しぶりなのに何故か昨日の事の様に感じる。

(やっぱりいいな…ここのあったかい感じ)



 リインやヴィヴィオがそれぞれの家族に暖かく迎えられていた頃、もう1つの家ハラオウン家では一騒動が起きていた。
 3人を出迎えたエイミィがその場で凍りついてトレイを落とし、端末のモニタを見ていたクロノも目を点にして彼女達を見つめる。アルフに至っては囓っていた骨を床に落とす始末。

「フェ…フェイト!?」
「フェイト…じゃない?」
「フェイトちゃんが2人!? それに隣の子誰っ?」
「えっと…あの…リンディ提督、クロノ、エイミィ、アルフ紹介します…私の姉さん、アリシアです。」
「ごきげんよう。アリシア・テスタロッサです。妹のチェントと少しの間お世話になります。」

 フェイトに紹介されてペコリと頭を下げる。チェントもまねて頭を下げて挨拶した瞬間

「「「エェェェェエエエエエエエエエッッ!!」」」

クロノとエイミィ・アルフが合わせたように大音響な悲鳴を上げた。
 反射的にアリシアとチェントは耳を塞ぐ。

「クロノ、エイミィ、アルフももう夜なんだから静かに、ご近所に迷惑だよ」
「フェイトっアリシアって言ったらっ」
「って何落ちついてんの! フェイトちゃん、アリシアってフェイトちゃんのお姉さんで死んだ筈じゃ?」
「あ、ああ、じゃないとフェイト、君はっ!!」

 フェイトでさえ驚いたのだし、元の時間でも初めて紹介された時、3人は驚き様は凄かった。
 唯一落ち着いていたのは先にフェイトが連絡したリンディだけ。

「ええ、フェイトから話は聞いているわ。自分の家だと思ってくつろいでね。アリシアさん、チェントさん」

 2人とは違いお茶を飲みながら答えたリンディにペコリと頭を下げる。彼女も微笑んで軽く礼をする。しかし一見冷静に見えても相当同様しているらしく、カップを持った手が震えているのをアリシアは見逃さなかった。

「フェイトごめんね。みんな驚かせちゃったみたいで…」
「ううん、私が来て欲しいってお願いしたんだ。気にしないで、みんな本当は会えて嬉しいんだ」
「うん、わかるよ…凄く」
(後でヴィヴィオにお礼言わなきゃ…一緒に連れてきてくれてありがとうって)

 ここに来られなかったら同い年のフェイトに会えなかった。彼女の力は新しい絆も作ってくれる。

「遅くなったけれど、夕食にしましょうか。」
「おっと、忘れてました。フェイトちゃんも手伝って」

 エイミイの後を追ってフェイトがキッチンへ向かう。

「あっ、私も。チェントはここでアルフさんと待っててね。アルフさんお願いします。」
「うん。アルフ~♪」

 ザフィーラ同様子犬形態のアルフが気になるらしく駆け寄っていった。

「ありがとーアリシアちゃん、じゃあね…」

 一時だけの家族。それでもアリシアは迎えてくれる家族が居る喜びを感じた時だった。



 ヴィヴィオとまた会えた。
 好きな時間に行ける魔法、何時の時間から来たのかは知りたいけど
聞いたら困ると思う。だから聞かない。
 闇の書が蘇るって話、本当なの? 
 はやてちゃんやシグナムさん達、リインフォースさんが幸せそうに暮らしてる。
 だから私もヴィヴィオを手伝うつもり。
 アリシアさん、本当にフェイトちゃんそっくりだった。
 あんなに驚いたり嬉しそうなフェイトちゃんは初めてみた。会えて良かったねフェイトちゃん。
 明日アリサちゃんとすずかちゃんに紹介しよう。驚くよきっと♪
 お正月の合同温泉旅行…ヴィヴィオ達も一緒に行きたいな。

 ヴィヴィオがベッドで眠っているのを時々眺めながら、なのははその日の日記を書く。

「出来たっと…私もおやすみ~」

 そして彼女の横に滑り込み微睡みに身を任せた。



 同じ頃リインははやて達が寝静まった後軒先で空を眺めていた。寒い分空気が澄んでいるらしく満天の星空が広がっている。

「リイン…といったか」
「はいです。リインフォース」  

 そこにリインフォースが現れる。一言返した後彼女はリインの横に座り同じ様に夜空を眺める。

「…リイン…おまえが新たな祝福の風なのだな。ヴィヴィオ達の…未来からここに」
「はいです。先代…あなたの名前を継ぎました。リインフォースが居なくなってからはやてちゃんが作ってくれたのが…私、リインフォースツヴァイです」

 リインフォースが旅立ち新たに生まれたのがリインフォースⅡ。

「リイン、私の持っていた魔導は我が主に渡してしまった。残っていた力も別れの魔法でほぼ失った。言わばここに居る私は夜天の魔導書の抜け殻だ。」
「そんなこと…」
「だから、残された日々を我が主や守護騎士と共に過ごし、時が来れば私は空に帰る。」
「そんな事っ、リインフォースははやてちゃん達と一緒に居なきゃダメですっ! ダメです。私、リインよりあなたの方が絶対はやてちゃんと一緒に居なきゃダメなんですっ」

 時が経てばリインフォースは消える。

「お前の時間では私は今ここに居ないのだろう? 我も我が主の成長を見守っていたいがそれは私の役目じゃない。祝福の風リインフォースの名を受け継ぐ者…リインフォース、お前の役目だよ」
「そんな…私より…」

 リインは迷っていた。はやてやシグナム・シャマル・ヴィータ・ザフィーラ達はリインよりリインフォースに一緒に居て欲しかったのではないかと。リインは彼女の欠けた穴を埋めるだけの存在だったのではと。

「祝福の風リインフォース。リイン、お前の中にあるものを見て欲しい。相談相手にもならないだろうが、先代からのアドバイスだと思ってくれ」

 そう言うと彼女は立ち上がって家の中へと向かう。

「リインフォース!」
「今夜は寒い。体を壊さぬよう早めに中に入った方がいい」

 そう言い残し彼女は戻っていった。

「私、リインは一体…」

 彼女のアドバイスは一体何を意味するのか? 今のリインには彼女の言葉の意味が判らなかった。



「ねぇアリシア…起きてる?」
「うん…何? フェイト」

 同じ頃アリシアはフェイトの部屋にあるベッドで横になっていた。客間で布団を敷いて寝るつもりだったのだが、フェイトが私の部屋で一緒にという言葉に甘えた。
 2人の間でチェントがスヤスヤ眠っている。

「…母さん、アリシアがいたら喜んだかな…」

 プレシアが死んだ私を生き返らせようとしたからフェイトは生まれてきた。
 彼女が過去に何をしてきたかは知っている。それが悪い事だというのも…でもそれを彼女に言えなかった。

(全部私の為だったんだから…)
「ママ、きっとビックリしたと思うよ。今日のフェイトやクロノさん達みたいに」
「…あれは、いきなり私とそっくりな子が目の前に居たら誰だって…」
「うん判ってる。私の知ってるフェイトも同じだった。私を見るなり倒れちゃった」
「そうなんだ…でも母さんはもう…それにここに居ても」
「ママのした事は私も知ってる…でも、ママが研究してくれたから私はフェイトに会えた…」

 ヴィヴィオにはフェイトが必要だった。だから時間を越えて私を助けてくれたのと同じ時間のママは連れてこなかった。ヴィヴィオにとってジュエルシード事件と闇の書事件は必然。2つの事件にフェイト達があって、それが今の私やチェントにも繋がっている。
 だから受け入れている。

「…母さん、アリシアと一緒にいるんだね。」
「どうしてそう思うの?」
「アリシア、母さんが一緒にいるみたいに話してる。それにチェントがママって言ってるのも母さんなんでしょ?」
「ねぇ、フェイト…リンディさんから家族にならないって誘ってもらってるんでしょ。」

 フェイトの質問に答えず逆に彼女に問いかける。

「…うん…」
(私やママが居ればフェイトはテスタロッサとして残ると言っちゃうんじゃ…)
「フェイト、私もママもここに居ちゃいけない。来た理由が解決したら帰らなきゃいけないし2度とここには来ない。だからママと私の事は忘れて。フェイトがここでしたい様にすればいいの。リンディさんもクロノさんも好きなんでしょ?」
「…うん…」

 少し頬を染めるフェイト。心配しすぎたみたい。

「答え、出てるよね?」
「そう…だね。ありがとう。」
「フェイトもう寝よう。それで明日みんなで遊びに行こう。」
「うん。そうだね私…アリシア…姉さんと会えて本当に良かった。」
「「おやすみ」」

 互いにそう言って瞼を閉じた。



~~コメント~~
ヴィヴィオ達がもしBattle Of Acesの世界にやってきたら?
As-闇の書事件の世界は既に行ってしまったので、AgainStory「2」というタイトルになっています。
前の話で高町家でお世話になっていたヴィヴィオがもう一度とか、リインとリインフォースとかアリシアとフェイトの繋がりを書いていて楽しかったです。

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