第7話 「かなり暇なアースラ勤務日誌」

「今朝も何事もない平和な朝でした。と…」

 時空管理局執務官補佐エイミィ・リミエッタはアースラのチェックをしながら結界展開の準備をしていた。
 なのはとフェイト、はやてと守護騎士一同、1部隊の戦力リミットを軽く超える魔導師・騎士達にとってアースラのトレーニングルームは小さすぎるらしく、訓練用の結界を海鳴市上空か沿岸に張るのが日課になりつつあった。
 アースラ自体長期単独航行が出来る船。ロストロギアが見つかった世界では何かしらの事件が続いて起こりやすい過去の事例もあり、アースラとスタッフ一同は暫く軌道上で監視任務に就いている。
 リンディ曰く『少し長い休暇を楽しむつもりで気楽にいきましょう』という言葉通り、定期報告やアースラの運行チェック以外は本当に暇なものだ。

【PiPi】
「はやてちゃんからだ、はーい。こちらアースラ。準備OK?」
『はい、エイミィさんこの前お願いしてた魔法練習用の結界お願いできます?』
「了解ちょっと待ってて…座標特定っと。展開完了。練習終わったら連絡してね。じゃあ頑張って」
『はい、ありがとうございます~』

 モニタが切れる。フェイトとなのはは朝から晩まで、はやても足のリハビリをしながら合間を見て訓練している。

「本当に訓練好きな子達だ。」
「フェイト達がか?」
「クロノ君。うん、さっきも結界展開したところ。みる?」

 モニタにポンと出す。はやてがリインフォースと練習をしているらしい。飛行魔法はまだおぼつかないらしく、思う様に飛べないのかフワフワ飛んでいて年相応に可愛く見える場面もある。しかしシュベルトクロイツから撃ち出される砲撃は目を見張るものがある。
 撃ち出された砲撃はアースラの結界に当たり霧散する。直後魔力量の計測値がモニターに表示される。威力だけなら執務官の中でも上位に入るだろう。

「アレだけならクロノ君を上回ってるんじゃない」 
「保有魔力と出力だけならな。状況によって適格な運用ができなければ意味はないさ。彼女のデバイス、アレで幾つ目だ?」

 余裕のある表情で映像を見るクロノ。彼が言った通り彼女はまだ雛が起き上がった程度でプログラムの起動にも時間がかかりすぎる。

「えっと…2つ目かな? 昨日壊したからあれで3個目だった。」

 今は廃れてしまったベルカ式魔法と強大な魔力を保有する彼女のデバイスは出力もさながら調整が難しい。つい先日は起動した直後に壊れてしまった。
 今度のはいつまで持つだろうか? 今頃本局メンテルームにいる友人は喜々として次バージョンのを作っているだろう。

「全くでたらめな魔力だ…でも」
「でも?」
「彼女もそうだが、フェイトやなのは、ユーノに彼女の騎士達…全員入ってくれれば少しは平和になる。」

 モニタを見ながら微笑むクロノを見て胸が高鳴る。訓練校時代から見ててもあまり笑わなかった彼だけれど最近こういう表情を見せるようになった。

「そっそうだね。」

 私の受け答えに怪訝な顔をする。もしかして気づかれたか?

「じゃあ僕は部屋で事件資料の整理をしてくる。」
「行ってらっしゃい~、ア・ナ・タッ♪」
「誰がだっ!!」

 こけそうになりながらも部屋を出て行くクロノを見送りチェック作業に戻る。
 まだその辺は鈍いままらしい。もう少し気にかけてくれても良いと思うんだけど…

「…最近クロノ君良く笑うようになったんだよねー。それに…背も伸びてきたみたいだし…」
「そうね、食事も1人かエイミィとしか食べて無かったけれど、フェイトが来てから一緒に食事するようにもなったわね」
「そうですね。今まで『基本的な栄養とカロリーは取っている』とか言ってましたけど、よく食べる様になったから伸び始めたのかな~。このまま伸びれば…」
「身内贔屓するつもりはないけれど、あの年でベテランの執務官で浮いた話もない。狙うなら今のうちよ」
「う~ん、そうですね今が…ってリンディ艦長!? いつから?」

 いつの間に来たのかリンディが横に立っていた。

(聞かれた? 独り言聞かれた?)

「ついさっきよ。クロノと入れ替わりかしら? あの子にもようやく春が来そうね。」

 笑顔の彼女を見て白旗をあげる。

「え、えっとその…あのですね。出来ればご内密にお願いします!!」
「判りました。クロノには内緒ね」

 そう言って部屋を去る一瞬上司の背に悪魔の翼が見えた気がした。

「…き、気を取り直してヴィヴィオちゃんは~っと」

 彼女のデバイス、RHdの反応を調べると今は翠屋にいるらしい。そのままセンサーを繋いだ。

「っとフェイトちゃん…じゃなくてアリシアちゃんだった。」

 ヴィヴィオとアリシアがエプロンを着けて運んでいるみたいだ。奥にはフェイトとなのはもいる。

「えっとチェントちゃんだったっけ…」

 ヴィヴィオそっくりな少女は何処に行ったのかと探してみると奥のテーブルで美味しそうにパフェを頬張っている。待っているのが退屈だと思い誰かが用意したのだろう。

「今日も1日何も起きませんようにっと」

 そう呟きながらモニタを切った。
 明後日から温泉旅行が待っている。



「娘が居ればあんな感じだったのかしら?」

 朝から出かけるフェイトにお弁当を渡した時、彼女が頬を赤く染めてありがとうと言ってくれた。
 翠屋の桃子を訪ねた折、持ちかけられた弁当作りだったが作ってみて良かったと思う。
 お弁当は前にも何度かクロノに作ったが、彼は礼は言っても彼女ほど喜んでくれた事はない。

(学校が始まれば作りましょう。)

 定時報告や任務を片付けたらリンディも翠屋へ行こうと決める。

「あっ提督、おはようございます」

 その時クロノとすれ違った。少し顔が赤い。

「クロノ、顔が赤いようだけれど熱あるの?」

 手袋を外して手を額に持って行くがそれ程熱い訳ではない。

「い、いえ大丈夫です。自室で資料整理をしてきます。」

というと足早に去ってしまった。

「何かあったのかしら?」

 首を傾げつつ艦橋へ向かうとエイミィがアースラの航行チェックをしていた。声をかけようとするが彼女が独り言を言っているのを聞いてそのまま話に加わる。

「…最近クロノ君良く笑うようになったんだよねー、それに…背も伸びてきたみたいだし…」
「そうね、食事も1人かエイミィとしか食べて無かったけれど、フェイトが来てから一緒に食事するようにもなったわね」
「そうですね。今まで『基本的な栄養とカロリーは取っている』とか言ってましたけど、よく食べる様になったから伸び始めたのかな~。このまま伸びれば…」
「身内贔屓するつもりはないけれど、あの年で執務官で浮いた話もない。狙うなら今のうちよ」
「う~ん、そうですね今が…ってリンディ艦長!? いつから?」

 やっと気づいたらしい。驚きと恥ずかしさが半々という表情をしている。

「ついさっきよ。クロノと入れ替わりあたりかしら? あの子にもようやく春が来そうね。」
「え、えっとその…あのですね。出来ればご内密にお願いします!!」

 普段見ないほど狼狽する彼女が新鮮だったが、これ以上からかうのも気の毒だと思い

「判りました。クロノには内緒ね」

 彼女が落ち着くまで艦長室で仕事をしようとその場を離れた。フェイトが来てくれたおかげで我が家にも近いうちに春が来そうだ。



『なのは、カウンターで注文だって』
『うん、フェイトちゃん5番テーブルのお皿お願い』
『アリシア、一緒に5番テーブル片付けて』
【カランカラン♪】
「「「「いらっしゃいませー♪」」」」
『ヴィヴィオレジお願い。』
『わかった。なのは案内お願い』
「ありがとうございます。ランチセット3つで…」

 エイミィがモニタで見ていた頃、翠屋店内ではなのはとフェイトに混じってヴィヴィオとアリシアが走り回っていた。フェイトと間違われないようにアリシアはわざと髪を後ろでまとめている。
 年も暮れ、学校が休みなのか午前中から家族連れや友達やカップルが絶え間なく押し寄せてきて翠屋は文字通り戦場と化していた。
 最初は士郎も接客に回っていたが厨房の方が慌ただしくなって今は桃子を手伝いに入っている。

「なのは~シューセット2つお願い」
「は~い!!」
「チェント、お昼もう少しまっててね。落ち着いたら一緒に食べよ」
「うん」

 退屈になるかと思っていたけれど、厨房の中を覗いたり慌ただしく動き回るアリシアを見たりと彼女なりに色々興味を引く物があるらしい。

『アリシア、ごめーん3番さんにコーヒーおかわり』
『うん、わかった』

 こういう時には念話は役に立つ。

「いらっしゃいませー」
「「「いらっしゃいませー」」」

 今日も翠屋には明るい声が木霊する。



「プレシアさんっ、ヴィヴィオとアリシアちゃんがまた行っちゃったって本当ですかっ!?」

 ヴィヴィオ達が行って数時間経ち日も沈んだ頃、プレシアの下になのはとはやてが駆け込んできた。いくら待ってもヴィヴィオが戻らずはやてに連絡を入れて知ったのか、または彼女がなのはに連絡を入れたのだろう。

「ええ、チェントとあなたのデバイスも一緒に行ったわ。指示通りにね」
「やっぱりバレてました。」

苦笑いするはやて。「あなたはと」呟きながらハァーとため息をつく。

「それでどこへ…いつの時間に行ったんですか?」
「それが今回は私も判らないの。そもそも時間軸の違う異世界…あなた達で言う【パラレルワールド】だったかしら? そこへ行ったみたいだから調べようが無いのよ」

 もし同じ時間であっても軸が違えばどんな世界になっているか? それはプレシアにも判らない。そう答えるとなのはが真っ青になる。

「まさか…帰ってこれないなんて事は…」
「それは大丈夫だと思うわ。本当の主がサポートしてくれているし、あの子に保険を持たせたから」
「本当の主? 保険?」
「ええ」

 ヴィヴィオと刻の魔導書が揃う機会は何度もあったし、彼女がチェントと戦っていた時に鍵は1度揃っていた。しかしその時はメッセージは現れなかった。メッセージは事件解決後に再び2人と魔導書が揃ったのを見計らって送られている。そこに誰かの何らかの意図をプレシアは感じていた。
 それが出来るのは本当の主だけ。 
 誰かに頼らざるえない状況が面白くないけれど、彼女程心強い者はいない。 

「なのはさん、はやてさん信じて待ちましょう。私達に出来るのはそれだけよ」

 自分に言い聞かせるように2人を諭した。


~~コメント~~
 エイミィとクロノは士官教導センター時から一緒で言わば姉と弟的な印象が1期~Asではありました。それが恋人~夫婦になるきっかけがあったとすればきっとフェイトがハラオウン家に来た時だったのではないでしょうか。
 いつの間にか隣で話に入ってこられてたら誰だって驚きますよね。
 なのは・フェイト・ヴィヴィオ・アリシアが駆け回る翠屋に行きたいです。

 

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