第9話 「残滓の胎動」

「チェックも終了。はやてちゃん達も夕方の練習そろそろ練習終了かな。あれ、なんだろこれ?」

 いつもの様にチェックを終えそろそろはやて達の午後練習が終わる頃だと通信を待っていた時、海鳴市のチェックをしていたエイミィが最初に気づいた。
 海鳴市の一角に小さな結界があったのだ。
 一体誰が? 最初はクロノかフェイトだと思ってハラオウン邸をモニタで見るが2人とも家にいるしデバイスは起動すらしていない。
 なのはもヴィヴィオと一緒に家にいる。八神家の面々も自宅でそれぞれの時を過ごしているらしく八神家に反応が集まっていて、はやてとリインフォースは練習をしている。
「練習中に邪魔をするのは申し訳ないんだけど…」

 何かあってからではと考え、はやてとリインフォースに練習を終えて家に帰って貰う様にと連絡しようとした時、突如海鳴市上空に複数の結界が生まれたのだ。

「何が一体、ってそんな事言ってる時じゃない。クロノ君!!」

 こうして事件発生の第一報がハラオウン邸に届けられた。



 RHdに通信が入る。リインからだ

「リインさん、はやて見つかりました?」
『ヴィヴィオ。急いでリインフォースを止めて下さい。』
「え?」
『リインフォースにはもう戦える力は残っていません。リインフォースが消える前にはやてちゃんに持ってる魔導を全部渡すんだって…だからっ!!』

 リインの言葉を聞いて息を飲む。
 彼女はこれが発端になって戦いになると考えている。
 無力になったリインフォースがはやてを助ける為に戦えばそれは彼女の時間を削ってしまう。

「リインさん、リインフォースの居る場所を教えて下さい。私、今から行きますっ。なのはははやてを探して。」

 はやても大事だけれどここはなのはに頼む。
 それに闇の書に近いのは管制人格のリインフォース、上手くいけばリインフォースと代わってヴィヴィオがはやてを見つけられる。

「アリシア聞こえる? チェントと2人ではやての家、リインさんと合流して」

 管理局側が連絡を取り合っているならこっちも全員集まって貰った方が動きやすい。シグナム達が出て行ってリインが残っている八神家をこっちの連絡場所に借りる。

『わかった。気をつけてね…』

 階段を駆け下りながら

「大丈夫だってアリシア、まかせて。なのはっ」

 ペンダントから宝石部分を取り外す。

「うん、レイジングハートっ」
「RHdっ」
「「セーットアーップ!!」」

 バリアジャケットを纏った2人は玄関を出たところで飛び立った。



「リインフォースの反応はあっちだから…」

 なのははエイミィと通信している。2人の会話からはやてと彼女のデバイスの反応が見つからないらしい。

(魔力遮断の結界が作られてる?)

 ひとまずリインフォースの所に行こうとなのはに言おうとした瞬間光が見えた。

「っなのは避けて!!」

 なのはの背後から撃ち出された砲撃魔法を見て彼女を押しのけ前に出て右手に魔力を集めて空へと弾く。

「金色の魔法色…フェイト?」

 目の前に現れたのは呟いた通りフェイトだった。でも何かおかしい。

「フェイトちゃん、クロノ君とさっき近くに出来た結界調査に行くって…」
「わからない。気がついたらここにいたの。アルフも居ないし1人で寂しくて悲しくて…」
「何を言ってるの? フェイトちゃんは1人じゃ」

フェイトになのはが何か言おうとするが、それを制する。

「なのは、フェイトじゃない。何かわかんないけど闇の書と同じ感じがする。」

 闇の書管制システムとして戦った時のリインフォースとどこか似ている。

「なのは、ヴィヴィオここからいなくなって…。私きっと迷惑かけちゃう。」

 そう言いフェイトがバルディッシュを構えた。

「どうしたの? フェイトちゃん!!」
「なのは下がって。私が」

 ヴィヴィオがなのはの前に出る。だがそこに

『なのは、ヴィヴィオ下がって』
「プラズマスマッシャーッ!」

 念話と声が聞こえた瞬間フェイトめがけて金色の光の柱が伸びる。
サッとかわすフェイト。

「間に合った。」
「フェイトちゃん、フェイトちゃんが2人?」

 飛んできて合流したのはフェイトだった。驚くなのは

『なのはちゃん、ヴィヴィオちゃん最初にあったフェイトちゃんは闇の書の残滓が作った【思念体】だよ。きっとリンカーコアが取られた時のフェイトちゃんの情報を使って作ったんだと思う。こっちも今フェイトちゃん以外にシグナムの思念体を確認してる』

 エイミィからの通信で納得する。どことなく悲しそうな表情がジュエルシード事件時の彼女と重なる。

「ヴィヴィオとなのはは先に行って、私の相手は私がする。」

 バルディッシュを構えるフェイト。それを聞いてなのはと頷き合い。

「わかった。無茶しないでねフェイト」

 そう言ってその場を後にする。


(シグナムとフェイトの思念体…なのはのも直ぐに現れる。リインフォースさんも…)

 ヴィヴィオの中で悪い予感がよぎる。
 シグナムは守護騎士プログラムだから元々夜天の魔導書に入っていた。同じ守護騎士プログラムのシャマル・ヴィータ・ザフィーラも直ぐに出てくる。
 そしてフェイトが居たと言うことは同様にリンカーコアから魔力を取られたなのはの思念体も現れる。
 それより戦えないリインフォースと同じ思念体が出てきたら…

「なのはゴメン、私先に行く。なのははなのはの思念体を止めて。きっとすぐ出てくるから」
「えっ、ヴィヴィオ? ちょっと!」

 なのはの言葉を終わりまで聞かず一気に速度を上げた。



「昔の私でいいのかな…もう1人じゃないよ」
「ううん、私はいつだって1人。アルフもリニスも…母さんも居なくなった。」

 ヴィヴィオとなのはが離れたのを見てフェイトは目の前のフェイトに向き直る。
 1人になった時に抱いた悲しくて寂しい記憶。プレシアから嫌いだったと言われた時の暗い気持ちを闇の書は取り込んで彼女を作ったのだろう。
 でももう私は1人じゃない。友達になろうと言ってくれた人がいる。家族にならないかと言ってくれた人がいる。そして、それを背中から押してくれる姉が居る。
 だから…

「もういいんだよ。それを今教えてあげる。」

 そう言って構えていたバルディッシュを振り上げ思念体へと迫った。



「リインフォースさんっ!」
 はやてが消えた場所には誰も居らず、1番近い結界反応が出た場所へと向かったヴィヴィオは遠くに2人の人影を見つける。紺色のバリアジャケットを纏った2人。
 リインフォースとリインフォースの思念体だ。
 ヴィヴィオは闇の書事件が解決した直後のリインフォースと2度会っている。1度目は時空転移能力の強さと怖さを教えられ、2度目は元の時間のはやて達の事を聞かれた。
 彼女ははやてに再び闇の書が取り込ませない為に自ら旅立った。
 ここに彼女が居るのは本当に奇跡。
 だからこそ彼女は残された時間を全て使ってはやて達と一緒に居なくちゃいけない。

「ダメェエエエエエッ!!!」

 リインフォース達が構えたのを見て叫びながら2人の間へと身と飛び込ませた。



「やはり我が主を使って…主はどこだっ!」
「教えられない。我は我が主と共に闇の書を蘇らせるのが使命」
「やはりそうなのだな」

 破壊された闇の書の残滓が再び襲い来る可能性はあった。だからリインフォースは限りある時間の中ではやてに自身の魔導を教えようとしていた。
 だが、彼女の予想より大幅に早く残滓の再生が始まってしまった。

(このままでは我が主が…新たな…)

 残された時間を削ってでも我が主、はやてを助けなければ。
そう考えて構えた時

「ダメェェエエエエエエッ!!!」

 ヴィヴィオが目の前に飛び込んできた。



「聖王の血族か…」
「ヴィヴィオ…どうして」

 後ずさるリインフォースに

「リインフォースさんは戦っちゃダメ。残った時間を戦いになんか使わないでっ」
「リインから聞いたのだな。ヴィヴィオ頼む、我が主を助け出して欲しい。このままでは我が主が新たな管制システムとして捕らわれてしまう。」
「!?」
(闇の書は管理者ごと転移した記録があった。それが管制システムの管理権限を使えるクラスなら…新しい闇の書が…)

 ヴィヴィオが驚いていると再びリインフォースが右手をかざす。

「その間残滓が作り出した我は我が相手をする。」
「ダメっ、アリシアっあとお願い」

 念話も合わせて言うと虹色の球体を作り出し、その中にリインフォースのかざした手を取り突き飛ばす。

「アリシア、絶対に家から出さないでっ。」
『うん。無茶しないでねヴィヴィオ』

 時間移動は危ないけれど空間移動だけなら出来る。チェントと戦った時に使った方法。
 ヴィヴィオは八神家のイメージを刻の魔導書に送り出来た球体から彼女を送ったのだ。

「もういいのか聖王の血族よ」

 思念体のリインフォースがヴィヴィオに問う。
 振り返って答える。

「うん…でも私、これからはやてを助けに行かなきゃいけないの。だから…ごめんね」

 そう言った瞬間、彼女の前に白い羽が舞い上がって何度か鈍い音がしたかと思えば海上がら空に向かって虹色の光が伸びた。そして既に思念体リインフォースの姿はどこにもなかった。



「…今の何? 何が起きたの?」
「……何があったの?」

 アースラのカメラを使ってヴィヴィオを追いかけていたエイミィは目をこすってから映像をもう1度出す。
 ヴィヴィオが動いた瞬間バリアジャケットがはじけ彼女を新たなジャケットが包んでいた。直後動きに反応できなかった思念体リインフォースを前から蹴り上げ、直後ヴィヴィオも上昇し彼女を追い越し今度は海へと叩き落とす。
 そして更に先回りした後、落ちてくる彼女めがけて砲撃魔法を放ち消し去ったのだ。
 フェイトとの模擬戦では想像できない桁違いの速さと砲撃魔法の威力。

「すごい…」

 魔導師ランクとしてなのはとフェイトがAAA、クロノがAAA+のランクを持っているが、今の彼女は明らかに超えている。

「…Sランク…ううんもっと上…」

「闇の書の残滓が作ったとは言え管制システムを一瞬で…」
『エイミィさん、リインフォースを家に転送、リインフォースさんの思念体を消去しました。近くで一番強い結界反応が出ている場所を教えて下さい』
「……」
『エイミィさんっ』
「…あっ、ゴメン。結界…。神社…八束神社の反応が一番強い。RHdにデータ送るね。」
『ありがとうございます。今からはやてを助けに行きます』
「う、うん、よろしく」

 そう言うと再び元のバリアジャケット姿に変わったヴィヴィオが移動を始めた。

 本当に驚かされた。闇の書事件でヴィヴィオが闇の書の管制システムと戦った時、彼女のデバイスにジュエルシードを組み込んで何ということをしたのかとリンディは酷く後悔した。
 しかし今の彼女はジュエルシードを使いこなすと言うよりジュエルシード、デバイスと共に歩んでいる。



「ありがとうございます。今からはやてを助けに行きます」
『う、うん、よろしく』
「ここって前にジュエルシードを…ううん急がなきゃ」

 場所を確認したヴィヴィオは呟いてそのまま八束神社へと向かった。

~~コメント~~
 ほのぼの日常パートからバトルパートへ。
 元世界のはやての気持ちを知っていて八神家にリインフォースが居る奇跡をヴィヴィオは見ています。そんな中で彼女の残された時間を奪おうとする者が現れたとすれば彼女は迷わず【力】を使うのではないでしょうか。
 そしてフェイトもリンディから家族にならないかと言われ、違う時間とはいえ姉アリシアと話した彼女とジュエルシード事件時のフェイト。
 The Battle Of Acesのサブキャラが闇の書の記憶から作り出された設定というのは色々想像出来て楽しいです。

 

Comments

ima
光希様
いつもありがとうございます。
リリカルなのはのSSではほのぼのした話やシリアス・バトル風味な話も同じキャラクターで書けるので楽しいです。
はやてはAsの重要キャラですのでもう少しすると登場します。
2010/11/10 10:14 PM
光希
面白い…面白いですよ!imaさん
話がだんだん面白い展開になってきてますね。
ますますファンになっちゃいました。
続きが凄く楽しみになってきましたよ!
前回の話でも思いましたけど、
はやてはいったいどんな状況になっているんだろう?
気になりますね♪
2010/11/08 11:00 PM

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