第10話 「近づく足音」

「頼む、行かせてくれ。」
「ダメです。行かせません。」
「ですっ!!」

 ヴィヴィオが八束神社へ向かっている頃、八神家では3人が対峙していた。
 ヴィヴィオに転送されてきたリインフォースが再びはやてを助けに行こうと外に出ようとしたのだが、それを見てアリシアとリインが遮ったのだ。
 力押しで動かれたらアリシアとリインでは止められない。でも2人は1歩も退く気は無いし彼女を1歩も外へ出すつもりはなかった。
「リインフォース、残った時間を自分で削っちゃダメです。」
「しかしっ、闇の書の残滓は…」
「私の時間では闇の書事件が終わってすぐ後はやてちゃんを守る為に消えました。その時はやてちゃんはすごく悲しんだって聞いてます。でも今、こっちの世界にはあなたがここにいます。」
「ヴィヴィオを信じて。リインフォースさんはヴィヴィオと戦った事があるんでしょ?」

 2人が両手を広げているのを見てかチェントも彼女のマントをギュッとつかんでいる。その時リインフォースの前にモニタが現れリンディが映った。

『リインフォースさんヴィヴィオさんを信じて待ってあげて。信じて待つのも…動かないのも戦いなのよ。』
「リンディ提督…しかし残滓の我は手加減など…」
『エイミィ、さっきの映像をこちらへ』
 奥で了解ですと言った声と共にもう1つモニタが現れる。
『今はヴィヴィオさんに任せて、あなたは家で待っていて。何度も言うけれど信じて待つのも戦いなのよ。』

 そこに映ったのは闇の書の残滓が作ったリインフォースを一瞬で葬ったヴィヴィオの姿だった。
 


「ヴィヴィオ…すごい…」

 アースラから送られた映像を見てアリシアは呟いた。彼女の練習をこれまでも何度も見ていたし、今朝もフェイトとの模擬戦を見たばかりだった。
 でも戦闘映像の後にスロー映像を見て明らかに違う動き。リインフォースの思念体が動きを追えていないのだ。彼女もヴィヴィオが消えたと思ったら目の前に現れ強打の後に避けられない砲撃魔法を受けたんじゃないだろうか。 

「凄すぎです…」

 リインも驚きの余り言葉を無くしている。

「わかった…我が主と将達の帰りを待とう」

 映像を見てリインフォースはそう言うとマントをつかんでいたチェントを抱き上げリビングへと戻った。アリシアとリインも胸をなでて後を追う。

「ありがとうございます。リンディさん」
『いいえ、様子が気になるでしょうからこちらの映像はそのまま送るわね。』

 そう言うとリンディが映ったモニタだけ切られ残っていたモニタになのはとフェイトの戦闘光景が映し出される。
 なのははなのはと、フェイトもフェイトと戦っている。

「なのはさん? フェイト?」
『闇の書の残滓が作り出した思念体となのはちゃん、フェイトちゃんが戦ってるの。他にも幾つか同じ様な結界があってシグナム達も戦ってる』
「思念体?」
『予想だけど、闇の書の残り滓が戦った記憶とか吸収したリンカーコアから作った存在。理由や方法わからない…同じ魔法を使ってくるからみんな戸惑ってるの』

 その言葉を聞いて立ち止まった。
 何かが引っかかる。

(フェイトとなのはさんのコピーを出してる…もし闇の書の残滓が闇の書事件で戦った記憶を基にコピーを作り出していたら…)
「エイミィさん、闇の書事件でリンカーコアを取られなかった人が思念体として出てきていませんか?」
「アリシア、それはどういう…」

 予想と違う答えが返って来て欲しいと願う。しかしエイミィの言葉によって現実に引き戻された。

『クロノ君の思念体が出てきて今クロノ君が戦ってる。それがどうしたの?』
「やっぱり…」

 リインフォースは闇の書の管制システムで、はやてはその管理権限を持っている。誰がそうしているのかは判らないけれど、管制システムを捕らえずに管理権限を持った彼女を捕まえた。

(リインフォースさんやフェイト・クロノさんのコピーを作ってるのにどうして…まだあるんだ!)

 探しに行きたいが魔力も無いし、チェントもいるから動くわけにはいかない。

「誰か…誰か居ないの?」

 闇の書事件に関わっておらず、海鳴市に土地勘があって、かつ魔法が使えて、はやてのサポートが出来る人…

「アリシア、どうしたんです?」

 居た。それも最適な人が

「! リインさん。今すぐヴィヴィオのところ…ううんはやてさんを探しに行って下さい。お願いします」
「はい?」
「何故だ?」
『ちょっ、待ってアリシアちゃん、どうしたの急に?』

 突然言った話にリインフォースとリインは慌て、エイミィも理解できていない。

「闇の書の残滓は闇の書事件に関わった人全員のコピーを作れるんです。リンカーコアを取られたフェイトやなのはさんは勿論。元々プログラムとして入っていたリインフォースさんやシグナムさん達だけじゃなく、参加したクロノさんまでも。だからヴィヴィオの思念体を作ろうと思えば作れるんです。」
「「!?」」
「!!」

 3人が息をのむ。

「もしヴィヴィオの前に思念体が出てきて足止めされたら誰もはやてさんを助けに行けません。ここは闇の書事件に参加していない人が行かないとダメなんです。だからリインさんお願いします。」
「は、はいですっ!」

 リインはそう言うと騎士甲冑を纏って飛び出した。

「ならば我もっ」

 後を追おうとするリインフォースの腕を取って止める。

「リインフォースさんはダメです。リインさんが言った通りあなたの時間を削るっていうのもあるけど、あなたが1番闇の書に近いから。捕まったら鍵になる。誰かは判らないけど管理者を捕まえれば管制システムが助けようと追いかけてくると考えてます。だからあなたは行っちゃだめです。」
「……クッ!」
『アースラのモニタでヴィヴィオちゃんを追いかけるね。』
「お願いします」

 エイミィにそう言うと再びモニタを見つめる。
 間違っていて欲しい。この予想だけは外れて欲しい。そう願いながらアリシアはモニタを見続けた。

(ヴィヴィオ…)



「年もフェイトさんやなのはさんと同じ位なのに。凄いわね」

 エイミィの通信を横で聞きながらリンディは感嘆を洩らしていた。
 少ない情報から幾つもの可能性を出し、その中で1番高い可能性を選んだ。
 そしてその対応を含めて瞬時に判断した。リインと呼ばれた少女が魔法を使えるなら彼女が適任なのだろう。
 柔軟な思考と推移を見定め予測できる力と判断力。
 フェイトやなのは、ヴィヴィオが実際に現場にでて動く前衛なら彼女は支援か参謀向き。
 クロノやリンディでさえ同じ年頃にここまで考えられただろうか…

「本当に…ヴィヴィオちゃんを捕捉しました。八束神社へ入ります。」
「アリシアさんの予想が外れてくれるといいのだけれど…」

 降りていくヴィヴィオの背中を見ながら呟いた。



「ここだ、はやてーっ!」

 神社の境内に降り立ったヴィヴィオは辺りを見回し叫ぶ。しかしはやての声はしないし人の気配はない。

「はやてーっ!」
「大声を上げても我が主には届きません」
「誰っ?」
 境内の裏へ回ろうとした時、背後から声をかけられ振り返る。
「もう少し待てば完成したのに」
「!?」

鳥居に腰を下ろした少女が言う

「所詮は子鴉、騒ぐしか脳がないのだ」

鳥居の下から現れた少女が言う。

「なのは…フェイト…はやて?」

 突然現れた3人を見て驚く。3人共どこか違うがなのは・フェイト・はやてとそっくりだったのだ。それもバリアジャケットと騎士甲冑まで似て…似すぎている。

「あなた達は誰? はやてはどこにいるの?」
「闇の書の闇を撃ち抜いた白い魔導師だね」
「あなたは私達を知らないでしょうが、私はよく知っています。」
(誰? 闇の書が作ったコピーでもない…)
『ヴィヴィオ、今すぐ逃げろ。それは通常の思念体とは違う』
「リインフォースさん」

 突然アリシアの端末を通してリインフォースの念話が届いた。

『防衛プログラムの構造体(マテリアル)の1部だ。守護騎士同様、独自の思念をもっている』
「防衛プログラムのマテリアル?」
「そうだ子鴉、我らは使い物にならぬ残骸を捨て、主を糧に闇の書を蘇らせる者」
『ヴィヴィオ逃げろ。いくら強くても今のお前は戦えない。マテリアルは闇の書の戦いの経験を持っている』
(これが理由だったんだ。私達がここに来た理由、オリヴィエが言った異世界の家族を助けてと言った理由…)

 なのは達はまだ来られない、リインフォースには時間がない、はやても捕まっている。このままじゃはやてを使って闇の書が蘇るのも時間の問題。

『ヴィヴィオ聞こえる? リインさんが今そっちに向かってる。リインさんと一緒にはやてさんを見つけるまで待ってて』

 アリシアが何か思いついて動いてくれている。

(時間を作らなきゃ)
「あなた達は闇の書、ううん夜天の魔導書の1部なんでしょ? リインフォースさんやシグナムさん、シャマル先生、ヴィータさん、ザフィーラと一緒でみんなが笑ってたのを見てたんだよね。だったら闇の書の復活なんて止めて一緒に暮らせば良いじゃない」
「闇の書を蘇らせる為だけに生み出された体と魔導が私達、主と共に居るのは本意ではありません」
「僕は帰るんだ。あの暖かな闇の中に…血と災いが渦巻く、永遠の夜に。」
「子鴉風情が戯けた事を、魔力を糧にさせてもらう」

 3人が答えデバイスを構えた。
 話して時間を作ろうと思っていたけど、こうなっては引くに引けない。

『アリシア、リインさんにはやてがキーだから後をお願いって。私はその間の時間を作るから』
『ヴィヴィオ待っ!?』

 アリシアが何か言う前に念話を切った。

「じゃあ奪ってみてよ。私の力…」

 そう言うとヴィヴィオこの世界に来て初めて構えた。


(本当に私と一緒)

 アクセルシューターを放ちながらなのはは思念体のなのはと相対していた。ヴィヴィオがすぐに出てくると言って先に行ってしまったのを追いかけようとしたところでディバインバスターを浴びせかけられたのだ。レイジングハートが気づかなければ1撃で落とされていた。
 念話で聞けばフェイトやシグナムだけでなく、クロノの思念体も出てきているらしい。

「はやてちゃんをはやく探しに行かなきゃいけないんだけど…」

 思念体はまるで鏡を相手にしているみたいで戦いにくい。エクセリオンモードを使えばとも考えたがフレーム強化していないレイジングハートに直ったばかりで無理をさせたくないし、思念体が同じ様にエクセリオンモードを使われたらと思うと…

『全員そのまま聞いて』
(リンディ提督?)
『リインフォースの救出は成功、今はヴィヴィオさん達がはやてさんの救出に動いているわ。戦いにくいでしょうけどそのまま思念体を引きつけて頂戴』

 ヴィヴィオがリインフォースを助けられたのを聞いて安堵する。リンディには何か狙いがあるらしい。

『わかりました』

 確かに戦いにくいけど時間稼ぎでいいなら。

「レイジングハートバスターをなるべく使わずにシューターだけでいくよ」
【AllRight】

 魔導師になると決めてから毎日練習しているのだ。闇の書事件の時の記録から思念体を作られていても今の私の方がもっと成長してるんだ!

「アクセルシューター、シュートー!!」

 なのはの意志を持った15個の魔法球は思念体めがけて一気に飛び出した。



「我らは時間稼ぎをすればいいのだな。了解した。」

 残り時間が限られているリインフォースを戦わせぬようにと焦っていたシグナムだったが、リンディからの連絡を受けて戦い方を切り替えた。
 リインフォースを助けたということは思念体より作られたリインフォースを既に倒したということ。それはつまりヴィヴィオが思念体を上回る力を持っている。
 いざとなれば思念体の自身を葬るタイミングを計りつつ剣を抜く。



~~コメント~~
高町ヴィヴィオがもしTheBattleOfAcesの世界にやってきたら?
起点だった「刻の魔導書のメッセージ」がどうして現れたのかというAgainStory2の重要なフラグが垣間見える回でした。なのはとフェイトが2人でツートップを作れるタイプならヴィヴィオとアリシアは前線とサポートという風に少し違った方が面白いのではないかと思いますが皆様はどうでしょうか。
今話初登場のマテリアル3人の性格付けが正直まだ微妙だったりします。

 

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