12話 記憶のかけら(前編)

「ねぇ、これなんてすごく美味しいですよ♪」
「・・・・・・」
「ねぇ、フリードさん。これなんてどうです?一緒に食べましょうの!」
「・・・・・・」
「そうそう、前の休みの時にはやてちゃんに買ってもらったです。どうですか~?」
「・・・・・・・」
「う~ん、じゃあ気分転換に一緒に街へ遊びに行きませんか?フリードさん♪」
「・・・・・・」
「はぁ・・・」
 リインことリインフォースⅡは今日のオフシフトを密かに楽しみにしていた。
 今日ははやては部隊長室でレリックについての任務を、シグナムとヴィータは他でガジェットドローンらしき物が目撃されたという報告から遠方に出向いていて、シャマルは医務室にザフィーラはヴィヴィオとキャロのお守り役とそれぞれの任務をこなしていた。
 八神ファミリーの末っ子ということで、リインも

「何かリインもするです」

とはやてに頼んだが、はやては首を横に振り

「休むのも仕事のうちや、街で少しのんびりしてきたらどうや?」

と諭された。

 リイン自身が1人で街に出るのは珍しい事で、フルサイズまで戻ればエリオやキャロ達とさほど変わらない程度の子供姿になれる事もあり、密かに今まで行ってみたい所をチェックしていた。


「最初は~っスバルに教えてもらったお菓子屋さんに行って・・あとウィンドショッピングとかシネマとかも行ってみたいですね。それに、クラナガンに最近できたあのアトラクションとかも!明日は早めに起きて休みを満喫しますの!!」

 と服を枕元に置いてベッドに入った。

 しかし、朝起きて顔を洗っている時にその予定は塵の様に崩れ去った。


「あっリイン曹長!」
「あっティアナさん。おはようございます。朝練ご苦労様です~」

 後ろから声をかけられて振り向くと、ティアナが少し申し訳なさそうな顔をしている。

「あの・・・リインさん今日オフシフトでしたよね?」
「はい、そうですが?」
「申し訳ないんですが、今日だけフリード預かってもらえないでしょうか?キャロが怖がっちゃってて、エリオや私達もみんな訓練の後も任務ありますし、それで・・・その・・・」

 ティアナに抱かれたフリードを見ると、すごく元気が無さそうだ・・、ロングアーチのスタッフの中でフリードを任せられそうなオフシフトのメンバーをリインは考えつかなかった。
 そう、リイン自身を除いて

「はい、わかりました。任せて下さいの!」

 その答えを聞いてティアナは申し訳無さそうに

「本当にすみません。よろしくお願いします」

とフリードをリインに預けて

「この埋め合わせはちゃんとしますので、お願いします」

と頭を下げ戻っていった。

 微笑みながら手を振り見送るリイン

「はぁ・・久しぶりのフルサイズだったのですが・・・しょうがないですよね」

と半ばため息をつきながら自身を納得させるしか無かった。

 その後、フリードを元気づけようと色々と誘っては居るのだが・・・全く成果が無い。
 あまりにも反応しないフリードに対して

「そんなのじゃ、キャロにも嫌われて当然ですの!」

と口に出してしまったところ更に落ち込んでしまった。



『はやてちゃ~ん』
『どうしたんやリイン?』
『あの・・フリードさんをティアナさんから預かったんですが、全然応えてくれませんの』
『あ~~フリード落ち込んでるからな~。前にカウンセリングで聞いたけど「嫌われる」とかそういう言葉を使うと余計に酷くなるらしいから気つけてな』
『そ、そうなんですの?!』
『ホントの話や、もしかして・・・・』
『はいですの・・・』
『う~ん、それじゃ・・・あのな』



「あのね、フリードさん。今からリインの良いところへ行くですの!」

 フルサイズのリインはフリードを抱き上げ隊舎へ向かった。そしてその地下へ
 ある所へ来るとリインはフリードを机の上に置いて、隣の端末を触りだした。
 ほとんどぬいぐるみの様に動かないフリードを見て、その目の前にある映像を映し出す。

 それは自然保護観察官としてキャロと一緒に飛び回っていた時の映像だった。

「フリードさん、この頃の事って覚えてますか?リインははやてちゃんに聞いた事しか無かったからよくわかりませんけど、この頃にキャロと一度ケンカしちゃったって。」
「でもリインの知ってるキャロとフリードさんってすごく仲のいい所をいっぱい見せてもらってますの。本当に家族なんだって思える位に」
「・・・・・」
「どうしてケンカしちゃったのかとかそんなことはリインは知らないですの。でも、そんな事も些細な事の様に訓練も任務も・・一緒に暮らしてきたんじゃないですの?」
「・・・キュウ・・・」
「今のキャロはリイン達やフェイトさん、フリードさんの事も覚えてないかも知れませんの。でもそれならどうして一番近くに、今まで一番多く一緒にいたフリードさんが落ち込むだけですの?もっと何か出来ることはあるんじゃないですか?」

 リインの言葉を理解してか、フリードは映像を見つめていた。
 そこには、キャンプのみんなと楽しそうに食事をしたり、草原を走り回ったり、夜には一緒のテントで眠っている所が映されていた。

「ね、フリードさん。落ち込んでるだけじゃ何も始まりませんの」
「キャウ!」

 リインを見つめキャウと言った後、フリードは部屋を飛び出して行った。

「・・・頑張るですの・・・フリードさん」

Comments

Comment Form

Trackbacks