13話 記憶のかけら(後編)

 昼食を食べ終えヴィヴィオがお昼寝の時間になり1人になった時、キャロはエリオを探して隊舎の方へやって来ていた。

「おにいちゃ~ん?」

 その声を聞いてバタバタと何かがキャロに近づいてくる。

「どこ~~?」
「キャウ」
「!!」

 キャロの目の前に下りるフリード。
「キャウ~」

 キャロはフリードを見て、一気に顔が恐怖に引きつった

「あ・・・こ・・こっちこない・・で・・あっち・・いっ・・って」

 今までのフリードならば、この言葉だけでも落ち込みキャロから遠ざかっていただろう。しかし、今日のフリードは違った。

「キャウ!!キュキャウッ!!」

 距離を取ろうとするキャロと同じだけキャロに近づく。更に怯え離れようとするキャロ、近づくフリード
 そしてキャロの限界点が突破した

「うわぁぁ~~~ん!!」

 キャロが叫びながら逃げ出した。

「キャウ!!」

 追いかける為に飛び立つフリード。それは六課の中を蹂躙する1人と1匹の追いかけっこが始まった瞬間だった。



「うわっ!」
「なんだ?なんだ???」
「っと・・・って!!」
「ちょっと!通路は走らないっ~!!え?キャロ?」

 泣き叫びながら走り去るキャロに驚いて道をあける局員達、それを縫うようにすり抜けるフリード

「部隊長大変です!」
「何や?どうかしたん?」
「キャロが・・・六課内を走り回ってます」
「え?」
「どうやらフリードから逃げ回ってる様です」
「もしかして・・・リイン・・はぁ~」

 報告を聞いたはやてはため息をつきながら

『またリイン何かやったんか・・・・』

「被害は?」
「ありません。」
「はぁ・・・じゃあほっとき!あ・・でも危険物のある部屋は全部ロックする事!」

『キャロが本気になれば簡単に開くかも知らんけど、フリードがその時間を作らせんから大丈夫やろ・・』


 一方キャロとフリードの鬼ごっこは徐々に範囲が狭まっていった

「はぁ・・・はぁっ・・もう・・追いかけてこないでよ--っ!」
「キャウキュキャイ」

 実はフリードは追いかけている中で考えていた。それはキャロをある部屋へ誘導する事。そしてその為に先回り、時には追い越して正面から追いかけて方向を変えたりという細かな技をいくつも使っていた。
 キャロはフリードから逃げ出すことばかりを考え、フリードの考えている事を気にする余裕は微塵もなかった。
 そして、隊舎の中の鬼ごっこはある場所にやって来たときに遂に終わりをみた。

 暗闇の中青白く映像パネルが光っている。
 その中に駆け込むキャロと飛び込むフリード。フリードは起用に尻尾で扉を閉めロックした。

【バタン】
【ガチャン・・ピッ】

「!!ッ」

 固い金属音と電子音が聞こえた事でキャロは追い詰められた事を理解した。

「キャウ~~~~っ」

 キャロの前に降り立つフリード。後ずさりするキャロ・・

 ジリ・・
 
 ジリジリ・・・

 ジリ・・

 ジリジリ・・・


 キャロがある地点まで来たとき、フリードはキャロの方に目がけて飛び込む。

「!!」

 思わず目を瞑る。しかし、フリードの衝撃は何もなく代わりに何かの歌が聞こえてきた


『♪~~~♪~~♪~~~』

 少しずつ目を開けるとそこには

『ねぇ、フリードこの風すっごく気持ちいいね、まるで空を飛んでるみたい』
『キュイキュ』
『うん、私もいつかこんな風に乗って飛んでみたいな~、フリードと一緒に』

 自分が知らない世界で自分自身と

『どうして、こんな事するの?みんなの迷惑になるじゃない!!わかってる?フリードっ!』
『ギャウキャギュキャウ』
『そんなのフリードの理屈じゃない、キャンプのみんなが迷惑するんだよっ!』
『ギャウギャ』
『ダメ!みんなに謝るまで許してあげないっ!』

 目の前にいるフリードと全く知らない時間を

『ほら・・タント・・見てみてよ』
『どうしたんだ?』
『あれだけケンカしてたのに、眠っちゃえば本当に姉妹みたいに・・』
『そうだな。ケンカするだけ仲がいいのさ』
『そうだね・・・・』

 見ず知らずの人たちとの共同生活を

『フリードっ竜魂召喚っ!』
『キュイー』
『今までゴメンねフリード、もう大丈夫だから・・』

 これは本当に私自身なのか?それとも全く違う別の人物なのか?
キャロ自身この映像に目を奪われていた。

 それは過去の記録、キャロとフリードが共に歩んできた記憶。フリードの目的、それをキャロに見せることで自分の事を思い出して貰う事

「こ・・・こ・・れ・・私・・・なの・?」
「で・・でも、それじゃあ今の私は・・・?」
「だれ・・でも、これって・・・」

 映っているのは私、でも今ここにいるのも私。映っている私は今の私じゃない・・じゃあなぜ??
 キャロの中では映像の中のキャロと今のキャロの姿が渦巻いていた。


「キャウ!」
「う・・う・・うわぁぁぁぁぁーーーーっ!」

 いきなり叫ぶキャロの体から魔力の奔流が溢れ始めた。

「わぁぁぁぁぁぁーーー」

 キャロの叫び声と彼女の魔力色であるピンクの魔力が部屋中に溢れ出す。


 管制室にいきなり警報が鳴り響く

「なんや!どうしたんや!」
「わかりません、六課地下より魔力値異常発生。これは・・・キャロです」

 鳴り響く中はやては何が起きたのかわからなかった。さっきまで追いかけっこをしていただけのキャロがどうして・・・

「映像でますっ」

 それは地下管制室の中、光る魔力の奔流にほとんど飲み込まれていこうとしていた。一目見て何が起きているのか気づくはやて

「あかん!リインを地下室前にっ!うちも行く。他の者は六課隊舎から退避。これは命令や!」
「「りょっ了解」」


 はやては部隊長室から駆け出しながら指示を出した。 

『もうっ!フェイトちゃんとなのはちゃんがおらん時に・・・読みが甘すぎるっ!』

 半ば黙認していたとはいえ、その後に何が起こるのかを予想出来なかったはやては自分自身の罵っていた。

『リイン、みんな聞こえてるな!』
『『『『『はい』』』』』

 守護騎士の全員から返ってくる。

『リインは地下室前でうちと合流、他のみんなは隊舎からの退避の補助を』
『はやてちゃん私たちもっ』

 シャマルが進言するが、はやてはピシャリと押さえた

『あかん!これは魔力の過剰暴走や!悪いけどシャマルじゃ難しい、それより退避が遅れた局員や怪我人が出た時の対応に回って』
『わかりました・・・』
『他のみんなもな!』
『了解です』
『わかった』
『了解した』

『さてと・・・あとは、リミットかかってる中で押さえられるかどうかやね』

 はやてはシグナム達が避難誘導に入ってくれることを願いつつも、制限がある今の状態で止められるかを気にしていた。

「はやてちゃん!」
「リイン、蒼天の書と蒐集行使で押さえるよ」
「はいです」

 それぞれ騎士甲冑とバリアジャケットを纏って、リインははやてとユニゾンする。
「いくよ」
『はいです』


 扉を開けて中に飛び込むはやて、そこで見た光景は部屋でみた時より悲惨な状態だった。
 キャロから溢れ出した魔力奔流が部屋中を駆けめぐり、まるで小さな嵐を巻き起こしているかの様だ。

「キャロっ!助けに来たよ。だからちょい落ち着いてっ!」
「うわぁぁぁぁぁっ~~~~~!」

 自らの叫び声で聞こえていない。

『ダメですの。先にこの魔力を何とかしないと』
「わかってる。リインいくよっ」

 はやてはシュベルトクロイツを掲げ意識を集中した。キャロの魔力嵐が剣十字一気に吸い込まれていく。同じように右手に持った蒼天の書のページがパラパラとめくられていった。
 幾分か嵐が治まる。蒼天の書が次々とめくられていく

『はやてちゃん、あと20頁で限界ですの』
「もう少し・・もうすこしやから・・持って・・」

 更に意識を集中させるはやて

「わぁぁぁぁぁっ~~~」
「キャロ、目を覚ましてっ。お願いやからっ」

 残り2頁くらいになった瞬間、

【バンッ】

 地下室の扉が開かれ誰かが中に入ってきた。そしてキャロを抱きしめる

「キャロ、目を覚ましてっ。キャロっ」
『エリオ?』
「何でっ」
「キャロっ、キャロってば!!」
「うぁぁぁぁぁぁっ!」

 キャロの肩を揺するが、気づく気配がない。

「エリオっ、ここはかなり危険や。部隊長命令、ここからすぐ退避」

 エリオははやての方を振り向き

「拒否します。キャロは僕の大切な人だから、絶対助けますっ」
「どうやってっ?魔力を抑えられる時間はほとんど無い。はやく逃げてっ命令やっ!」

 はやてはエリオに向かって叫んだ。しかし、エリオは

「拒否します。八神部隊長、ここは僕がなんとかします。部隊長こそ速く退避してください」

「そんな事できる訳が・・」

はやてが言い返そうとしたときリインが

『蒼天の書への魔力注入限界です。はやてちゃん一度退避しないと』
「リインわかってる。でも・・・」
『今は夜天の書がカバーしてくれてます。急いで』
「でもエリオとキャロがっ! うわっ」

 たちまちはやてとリインは再び巻き起こった魔力嵐に吹き飛ばされ、地下室から投げ出された。


 残されたエリオとキャロ、そしてフリード
 キャロは何かを映し出していたパネルをみながら悲鳴を挙げている。

「大丈夫だから、キャロ。どこにも行かないから・・・」
「キャウ」

1人と1匹が彼女に呟いた時、2人と1匹は魔力嵐に飲み込まれた。




「地下管制室、魔力奔流に飲み込まれました」

 外で室内の状況をみていたシャーリーが呟く。
 合流したはやてが肩を落として

「キャロ・・エリオ・・ゴメン、うちのせいや・・・」
「そんなはやてちゃんのせいじゃ」
「フェイトちゃん・・ゴメンっ」

 はやてが項垂れた瞬間引き続き状況をみていたシャーリーが言った

「地下管制室より魔力奔流収束っ」
「えっ?」

 暴走した魔力がこんな簡単に収束するはずがない。とすれば・・誰が?
 はやては再び地下の通路へ駆けだした。

【バタンッ】

「エリオっ!キャロ!フリード」

 部屋の中央でキャロを抱いたエリオが立っていた。エリオの肩にはフリードもいる

「・・・なんとか・・治まりました。キャロも無事です」

 かけつけたはやて達もホッとため息をついた。




「それで、どうしてこんな事になったの?」

 なのはとフェイトが六課で起きたことを聞いて急いで戻ってきた。帰ってきたときにみた物は
 ベッドに寝かされたままのキャロと全身のほとんどを包帯で巻かれたエリオとフリード、そして、はやてが六課全員に退避命令を出した事だった。
 ショボンとしたリインが2人の前に出る

「リインがフリードを元気づけようと以前の映像を見せた事が原因ですの」
「?」
「どうして、フリードに見せただけでこんな風になるの?」
「それが・・・フリードもキャロがこの映像を見れば元に戻るって思ったみたいで、そのキャロに・・・」
「見せちゃったってわけか・・」
「はい、そうしたらキャロが魔力暴走を起こして地下管制室に嵐を作っちゃったんです」

「「ええっ!」」

 なのはとフェイトは驚いた

「だって・・・キャロのリンカーコアって、まだ回復してないはずじゃ?」
「それに嵐を起こすなんて、私やフェイトちゃん、はやてちゃんでもかなり大変だよ?」

 魔力を集束して色々な効果を生む事は大概の魔導師が出来ることだが、奔流を作り出し更にその魔力が密閉空間に満たす事で嵐を作るのはかなりの魔力出力が必要だ。
 今のキャロもそうだが、怪我を負う前のキャロであってもそこまでの魔力量は持っていない。
 
「それで、さっきキャロのリンカーコアを調べてみたんですが。ここ数日間元に戻る形跡も無いんです。」
「じゃぁ誰かがジュエルシードみたいなのを使っちゃったとか?あれなら暴走させればよく似た事が起きると思うけど」

 フェイトの質問になのはも頷く。しかし今度はシャーリーが

「いえ、ジュエルシードや他のロストロギアなら誰の魔力色とも違った色がでるはずなんですが・・これをみてください」

 地下管制室でキャロの暴走直前の映像を流す。確かに発動直後からキャロから溢れ出た魔力が渦を作りだし、嵐に成長していた。最後にはやてがとどめの様に

 「それにな・・言いにくい事やけど、この嵐はうちとリインがユニゾンしても吸いきれんかったんよ・・うちにリミットがあってもリインには無い。蒼天の書と夜天の書を使って蒐集行使を使えば大概はなんとか出来るはずやけど・・」
「はいですの・・・リインも満タンまで溜めちゃったんですがそれでも鎮める事ができませんでした」
「!!!」

 はやてがある意味反則技の様な手を使ったにも関わらず、キャロから出た魔力はそれ以上だったということだ。もはや、それを聞いてなのはとフェイト自身は止める方法が思いつかなかった。
 なのはの頭の中で新たな疑問が浮き出る

「それじゃ?どうして治まったの?」

 はやてで鎮められなかった以上、六課にいるメンバーでこれを鎮めることは出来なかっただろう。しかし、現実には治まっている。

「エリオが・・多分何かしたんやと思う。それでキャロが目覚めたことで止まったと言うのがシャーリーからの意見や」
「わかった・・・後で私から聞いてみる」

 フェイトが呟いた一言で一通りの話が終わった事を意味した。

「僕は・・・一体」

 医務室で寝かされていたエリオはあの部屋のことを思い出そうとしていた。はやての命令無視をした後、はやてが部屋から飛ばされた。そしてその後・・・一体何があったのか
 隣で寝息を立てているキャロ

「たしか・・キャロが何か言ったような・・・」

 エリオはあの時のことがどうしても思い出せなかった。



同じ頃、ミッドチルダとは遠く離れた世界。

【トーリア博士、ついに発見しました。「これ」を使えば・・・】
【おおっ、だがしかし「これ」を使うのはあまりに危険すぎるのではないか?】
【ですが、このままではあなたの娘は奥様と同じ道を辿しかないのでは?】
【ぐっ・・・】
【今ならまだ間に合います。私も及ばずながら協力いたしましょう】
【っ!お前がどうしてこんな落ちぶれた研究者に手を貸す?何を考えている?】
【遺伝子の研究の先駆者であるトーリア博士に少しでもお役に立ちたいだけですよ、それに私は奥様の事も存じ上げている手前、お二方の令嬢に危険が迫っているというのに助力出来ないはず無いではないですか。】
【・・・・わかった・・・それで要求は一体何だ?】
【何も要りません】
【!どうして?】
【強いて言えば、あなたが動くことで私にもメリットが生まれるのですよ】

にこやかに言う影

【わかった、それではおまえの好意を甘んじて受けよう。スカリエッティ】
【それでは詳しい方法などはまた後ほど】

映像に映った影が消える。
トーリアは疲れきった足取りで近くの椅子に座った。
『もう時間が無いんだ・・・だから、何としても・・・例え、悪魔と呼ばれようとも・・・』
もう彼の目には怪しい光が宿っていた。
これはミッドチルダから遠く離れた世界の話

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