第12話 「あなたに光を」

「ヴィヴィオ、ヴィヴィオ…無茶しないでって言ったのに…おねがい、返事してよ…」

 デバイスは沈黙を守ったまま。
 もう何度呼び続けたかわからない。
 項垂れるアリシア。
 涙で濡れた瞼を開いた時、部屋中に蒼い光が広がっていた。

「…蒼い…光?…」

 そしてそれはある1カ所から放たれているのに気付く。

「それ…何?」



「闇の書が復活しちゃう…止めなきゃ…ここに来たのは…その為なん…だから…」

 薄れゆく意識の中で必死に重い手を動かすヴィヴィオ。

『…だめ』
「声? 誰が…」

 届いた声に辺りを見回す。周りには誰もいないし、みるみる内に闇が広がって覆おうとしている。

『まけちゃだめっ』

 再びその声が聞こえた時、体の中から蒼い光が放たれ広がっていた闇を瞬時に消し去った。

「何これ?」

 手足に力が戻り、受けた傷も治り意識がはっきりしてくる。
消えた筈の騎士甲冑が現れヴィヴィオの身体を再び包み込む。

「この光…ジュエルシードの光? 誰が…チェント?」

『ジュエルシードは昔【願いが叶う石】って純粋な願いだけを叶える力があるって言われてるの。ジュエルシードが入ってるRHdはヴィヴィオにしか使えないね』

 ずいぶん前、冗談まじりにマリエルが言っていた。でも私よりもっと純粋に願う事が出来る者が居ればジュエルシードは力を貸してくれる。
 レリックの浸食にも負けない程強くて純粋に願える者

「チェント…力を貸してくれるんだ。」

 彼女の願い、スカリエッティ達を助けずっと一緒に居る事。その願いを壊したのは私自身。だからいくら近くにいてもわかりあえないと思っていた。
 間違えたとは思っていない。でも彼女の願いや希望を奪った枷はずっと背負って行くつもり。アリシアの妹になった後もずっとそう思っていたのに、彼女は今私に力を貸してくれている。

『まけちゃだめっ』

 再び届いた声に強く頷き返す。ここに来たのはその為なのだから。

「そうだね。RHd急いで戻らなきゃ」

 そう言うと刻の魔導書を取り出してイメージを送り、現れた虹色の光球に身を任せた。



「艦長…」
「………」

 エイミィとリンディ、アースラスタッフ全員がモニタ全面に広がる光に言葉を失う 

「再生の魔力は得た、子鴉も管制システムとして闇に沈む。」
(魔法の欠片を集めていくイメージで…)

 手を広げ周りの魔法の欠片を集めていく。


「なんだ…あの光は?」

 闇の書の中心に向かうクロノはその直上に生まれた光を見る


「帰るんだ。暖かい闇の中に」
(もっといっぱい…)

欠片が更に集まり私の前に集まってくる


「あの光って…ウソ…」
「なのはと同じ…」

 クロノの後を追うなのはとフェイトも向かう最中に光を見つける。


「まもなくです。闇の書が蘇る…新たな闇の書の誕生まで…」
(もっとたくさん…もっと)

 意志と共に体の中から溢れる力が光に更なる輝きを与える。
 


 結界の中でマテリアル達がはやてが闇に沈むのを見守っている。

「そんな事させないっ!! スターライトッ、ブレイカァアアアッ!」
「「「!?」」」

 上空から多重結界を貫いて虹色の光が闇の中心を照らした。
 直後その光ははやてを中心に広がっていた闇を吹き飛ばし、はやてのみを残す。
 空から降りた虹色の橋を降りていく人影。

『はやて、闇なんかに負けないでっ』
『ヴィ…ヴィ…オちゃん?』
『ウン♪ そうだよ、はやて』

 目を覚ましたはやての呟きにヴィヴィオは笑顔で答えた。



『ヴィヴィオっ! ヴィヴィオなんだよね…バカッ! 無茶しないでって言ったのにっ』

 RHdを通してアリシアの声が聞こえる。声を震わせているアリシアに心配させたすまなさと心配してくれた嬉しくて

「アリシア、ごめんね心配かけて。チェントありがとう。助けてくれて」
『まけちゃだめ、ねえさまをなかせちゃだめ』

 照れくさいのか彼女はそれだけ言うと黙ってしまった。

「うん負けないよ。見てて、チェントがどれだけ凄いのかをっ!」

 そう言うと振り向いてキッっとマテリアル達の方を向き直った。



 ヴィヴィオが無事だった。それは闇に埋もれかけたはやての心を救い出し、彼女の放った虹色の光は周囲の生み出した闇まで消し去った。

「ヴィヴィオちゃん…良かった、ほんまに…」
【はやてちゃん】
「リインもごめんな…取り乱してしもた」
【いいえ、これからが本番です】
「そうやね」

 シュベルトクロイツを握りしめる。

『はやて、リインさん私が今からマテリアル全員の相手をする。その間に2人で魔力の流れを見つけて。』

 その時、目の前のヴィヴィオから念話が入った。



 スターライトブレイカーを使ったからかなり魔力も減っている。
 マテリアルのはやては思念体も取り込んだって言っていたから私の戦い方は知られてる。だからブレイカーは使えないしもし使えても同じ様に相殺されるしあの連携はこのままじゃ崩せない。
 それに彼女達がプログラムなら…

「はやて、リインさん私が今からマテリアル全員の相手をする。その間に2人で魔力の流れを見つけて。」
『3人まとめてって…無茶や。私も少しは…』
「マテリアルは思念体じゃなくてシグナムさん達と同じ人格プログラム。3人とも闇の書を復活させるプログラムみたいなのに操られてるんだと思うの。操られてるなら魔力の供給と一緒にそこから命令もきっと出てる」

 初めて見せたスターライトブレイカーなのに、星光と雷刃に相殺された。余程連携が出来ていない限りどこかで指示を出した者がいる。
 狙いはあくまでそこ。
 闇統を連れて海上に出てきた時、他の2人はそのまま追いかけてきた。はやてを連れてくる方法もあったし、狙うだけなら闇統ごとヴィヴィオを消し去る方法もあった。でも彼女達はそうしなかった。
 あの時彼女を盾にされたら手が出せなかったのに…

【ヴィヴィオ、なのはさんとフェイトさん、クロノさんやシグナム達がここに向かってます。それからじゃダメですか?】
「みんな揃ったら3人を消すしか無くなっちゃう…闇の書を生み出す原因だって。だからそれまでにやってみたいの。お願い力を貸してはやて、リインさん」
『…わかった、リイン』
【はいです】


 
「闇の書に取り込まれ、集束砲を2度も放ったあなたにはもう魔力は無いはずです。」
「そうかも知れない。でも引かないよ。私が見てるんだからっ」

 そう言うとジャケットと腰のマントを解除して星光への距離をつめた。


 
「更に速度を上げて近接戦。ヴィヴィオちゃんセンターガードじゃなかったの?」 
「シールド頼みの戦法。ヴィヴィオさん、本当に無茶するわね。」

 アースラでリンディは感嘆というより呆れた様に言う。

「でも、ただ前に出ている訳ではないようね。練習していたのかしら?」



「ヴィヴィオ…」

 同じ映像を八神家で見ていたアリシアには見覚えがあった。ゆりかごの中で見たヴィヴィオとチェントの戦い。今のヴィヴィオの動きはその時のチェントに似ているのだ。
 さっきまで使い続けていた魔力弾と砲撃魔法も牽制にしか使わない。防御を聖王の鎧に全て任せて手刀で星光の砲撃を切り裂き、雷刃から放たれた刃を割り、闇統から出される砲撃を鎧で受け止めながら距離を詰め叩き蹴るという近接攻撃重視な戦い方。

「さっき負けたから違う方法で責めて…?」

 そう考えていると隣でモニタをジッと見つめているチェントを見て気づいた。

【うん負けないよ。見てて、チェントがどれだけ凄いのかをっ!】
(そっか、チェントに見せてるんだ。チェントはこんなに凄かったんだよって)

 ヴィヴィオなりの礼のつもりなのだろう。何も言わず心の中でヴィヴィオを応援する。



「まだか? リイン」
【もう少しです。ヴィヴィオの攻撃でマテリアルが消耗してるです。】

 4人から距離を取ったはやてはリインと共にマテリアル3人とヴィヴィオの様子をつぶさにチェックしていた。

(無茶しすぎやヴィヴィオちゃん…)

 1人で3人を相手するには力量の差が余程ないと難しい。しかし今のヴィヴィオとマテリアルとではそれ程差があるとは思えない。
 彼女もそれを知りながらも防御そっちのけで相手を消耗させ、はやて達に調べる機会を作っている。

【見つけました。マテリアルはやてちゃんの本から3人のデバイスへ魔力が流れてます。3人を連携させているのもきっと】
「わかった。今度は私らの番や、マテリアルのデバイスと本は私らで壊すよ。ミストルティン使えるか」

 防衛プログラムですら石化させた強力な魔法。だが

【はやてちゃん、それより…】
「ええっ! うん、それでいこうか」

 リインから持ちかけられた魔法にはやては一瞬驚くが彼女の意図に気づいてそのままプログラムの起動に入る。



「タァアアアアッ!」

 何枚目かの刃を叩き割り雷刃の胸元へ入って星光の居る方へ蹴り飛ばす。星光に拾われてその場で止まる雷刃。

「ハァハァッ、フェイトには避けられたけど、あなたには無理でしょっ!」

 再び構える。破片がかすめたのか腕と頬から血が出ているみたいだが今は気にしていられない。

『ヴィヴィオ、マテリアルはやてちゃんの持った本から3人のデバイスへ魔力が流れてるです』

 リインから念話が届く。手っ取り早く供給を止めるには3人のデバイスと闇統のストレージを破壊すればいい。

「はやて、リインさんありがとう。そのまま離れて…」

 そう言おうとした瞬間つづけて念話が届き

『ヴィヴィオちゃん、ちゃんと逃げてな。遠き地にて闇に染まれ…』
(…デアボリックエミッション…空間攻撃魔法!?)

 こんな場所で何て物をと言う前に急いで3人から離れる。直後リインの念話とはやての声が木霊した。

「『デアボリック、エミッション!!』」
「!?」
「うわっ!」
「なっ!?」

 はやてから放たれた魔法が空間攻撃魔法と気づいたマテリアル達も散り散りになって逃げた。



『今やっ!』
【今ですっ!】

 その念話ではやて達の意図に気づく。
 連携の取れた3人でも予期せぬ者から予期せぬ魔法が来ればそれぞれで対応するしかない。
 その瞬間連携は崩れる。

「ハァアアアアッ!」

 ヴィヴィオは離れる雷刃を下から狙い、魔力を集めた拳でデバイスのコアを叩き割り、膝で柄をへし折る。そしてもう片方の手から砲撃魔法を放ちデバイスのコアを消し去った。

「僕のっ!」
「ゴメンね」

 何か言おうとした雷刃をその勢いのまま海へと蹴り落とした。
 続け様に先にデアボリックエミッションから距離を取っていた星光の下へ瞬時に移動し構えようとしたのを見て胸元に入って手を叩く。

「あっ!」

彼女の手からデバイスが離れたのを見て

「また後でね」

 と言い同じく海へと蹴り落とす。主を失ったデバイスを一瞥しこっちも砲撃魔法で消し去った。

「そんな…こっ子鴉風情が」

 残されたのは闇統のみ。ヴィヴィオが近づくとデバイスを構える。

「最後はあなただね。」
「わぁああっ! エクスッカリ」
「ミストルティン!」

 闇統が構えるのを狙っていたのか、はやての放った白い槍がデバイスと本に突き刺さり石化させた。崩れ落ちるデバイスと本を見て

「また後でね、ハァァアアアアッ!」

 背後から思いっきり海面へと蹴り飛ばした。一際大きな水柱が立ち上る。
 子鴉とか塵芥とか散々言われてほんの少しちょっぴりだけど腹が立っていたのかも知れない。

『ヴィヴィオ、お疲れさん』
「はやて、リインさんもお疲れさま」

 2人が揃って笑みを浮かべ互いに手をたたき合った時、それが闇の書の復活を阻止した瞬間だった。


~コメント~

 もしヴィヴィオがTheBattleOfAcesの世界にやってきたら?
 前回はSLBという戦いに決着をつける魔法がものを言いましたが、今話では同レベルの魔法を使う者が相手なので必殺技にはなりません。そんな時、チェントに助けられたヴィヴィオならどうするか? はやてとリインならどうするか?というのを私なりに考えて出た結果でした。
 攪乱目的に空間攻撃魔法を撃たれたらたまったものじゃないと思います。

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