第13話 「生まれる縁(えにし)」

「マテリアルからの魔力反応が消えました。海鳴市上空の結界も全て消滅。もしかして事件解決?」

 ヴィヴィオによって多重結界は破壊され、海鳴市上空で確認されていた結界消え、今はアースラが作った広域結界だけが残っている。

「そうね…まだ終わりじゃないけれど。アルカンシェル停止と本局に連絡を、使わずに済んで良かったわ…本当に。」

 なのはやフェイトの目の前で友人を撃たずに済んだのも本当に良かった。椅子に腰を下ろす。

「ヴィヴィオちゃんとはやてちゃん、移動し始めました。これは臨海公園かな?」
 彼女達が何をしようとしているのか判ったリンディは
「クロノにマテリアル3人の回収を。あとなのはさん、フェイトさんに連絡して八神家の全員を2人の所へ案内して。勿論アリシアさんとチェントさんも一緒に」

「あっ! それでヴィヴィオちゃんとはやてちゃんは…了解です。クロノ君…」
 2人はリンディや管理局がマテリアルに対してどんな対応をするか、思考の先を読んで手を打った。決して褒められた方法では無い。でも誰かを犠牲にするのではなく誰も悲しまない誰も犠牲にしないという彼女の優しさと想いの強さがそこにある。
(きっと、彼女だからジュエルシードは力を貸しているんでしょうね。)



 暫く時間が過ぎた後、唯一残されていたアースラの広域結界が解除された。

「これでもう闇の書は復活しない。あっ、それで魔導書に…えっワワッ!!」

 結界が消えたのを見届けてから陽が昇り始めた臨海公園に降りたヴィヴィオは腰が抜けた様に座り込んでしまった。
 それもその筈、甲冑はボロボロで魔力もほぼ残っておらず、疲れ切っていたのと緊張が解けたのが相まって降りた直後に騎士甲冑が解除され続けてバリアジャケットも消えて私服姿に戻ってしまった。

「ヴィヴィオちゃん? ってッと、わわっ!」
「キャッ!」

慌てて駆け寄ろうとしたはやても魔力が尽きたらしく甲冑が解除され足から力が抜けた様にペタンと腰を落とす。

「もうダメです~」

中から小さくなったリインが飛び出してきてそのままはやての膝で眠ってしまった。
 直後にはやての騎士甲冑も消え部屋着に戻っていた。
 三人ともギリギリだったのだ。

「はやて…リインさん…ハハハハハハっ♪」
「アハハハハッ…」

 お互いの格好を見て笑い合う。

「ハァッ、ちょっと待ってな。シャマル~私とヴィヴィオちゃんの怪我治して欲しいんやけど、すぐに来れるか?」
「なのは、フェイト、はやての家に行ってアリシアとチェントを連れてきて。私が向かえに行くつもりだったんだけどちょっと立てそうにないから。アリシア、なのはとフェイトが行くからちょっと待ってて。」
『はやてちゃん、怪我したんですかっ!!』
『ヴィヴィオ、立てないってどうしたのっ!?』

 降りた後、二人がこんな念話と通信を送ったものだから守護騎士一同となのはとフェイト・アリシアは何かあったのかと大混乱に陥いる事になる。
 それが治まったのはいち早く着いたクロノが状況を全員に伝えた後だった。 
 
 

「…う…ううん…」
「気がついたみたい。ヴィヴィオっ」

 文字通り飛んできたシャマルに二人は怪我を治して貰い、はやては家から持ってきて貰った車椅子に乗った時なのはが呼んだ。
 海へ落としたマテリアルの三人はクロノとシグナム・ザフィーラによってここに運ばれバインドで動きが制限されている。
バインドはその時彼が作ったらしい。

「クロノ、バインド外して。お願い」
「…わかった」

 クロノは何か言おうとするが、言うのを止め三人を拘束していたバインドは解除される。

「私達をどうするつもりですか?」

 両手が自由になって喜ぶ雷刃と取り囲まれて不快感を露骨に見せる闇統を見た後、星光が聞く。

「管理外世界での違法魔法行使、嘱託魔導師の誘拐・任務妨害、いずれも重罪だ。このまま管理局へ送還…」
「あなた達はプログラムでも自我がある。でも魔力の供給がなくなったから魔力が無くなればきっと消えちゃう。私はここに闇の書を蘇らせない為に来ただけだからあなた達にこれ以上は何かしようって思ってないよ。」
「ヴィヴィオっ、君は何を言っているのか判っているのか? 彼女達がここに居れば同じ事があるかも知れないんだぞ。」

 クロノの気持ちもよくわかる。この中で彼が誰よりも闇の書の悲しみを背負っているし知っている。

「でも…」
「じゅあクロノさんは魔法も管理局も無くすつもりですか? 数年後、管理局が原因でたくさん被害が出る事件が起きるなら管理局を無くしますか? 数年後クロノさんが結婚して子供が生まれてその子供…またその子供が誰かを悲しませる事件を起こすと知ったら子供を作りませんか? それとも結婚しませんか?」

 ヴィヴィオより先に反対する者がいた。

「アリシアそれは言葉遊びだっ。僕が言いたいのは…」
「判ってます、私が言ったのが言葉遊びだっていうのは。でも可能性って言うなら闇の書が蘇るのも同じ可能性です。」
「違う、僕が言いたいのは…」
(アリシア…)

 もし私がこの本…刻の魔導書を見つけなかったら、もし私が時空転移の力に目覚めなかったら、もし私がジュエルシード事件時に行かなかったら…私はアリシアと出逢わない。でも…

「だからこそ、法の下で…」
(ユーノさんがいつか言っていた…)
「もしそうでもっ…」

 言い合うアリシアとクロノを眺めながら呟く。

「世界は必然が折り混ざって成り立っている。それがどんなに偶然と思われようと何か理由があるからそこにある。」
「ヴィヴィオ?」
「どうしたんだ急に?」
「偶然だと思ってもそれは必然。だから時の流れに身を任せるんじゃなくて、自分の考えで自分の意志で動かなくちゃいけない。それが未来の必然になるんだから。クロノ、私もアリシアと同じ気持ち。それでも無理に連れて行くなら…私はマテリアル、3人を守る側につくよ。もし同じ様な事があれば今度も私が止める。」

 未来を変えて、振り回し時には振り回されてきたからこそ出た言葉。
 そう言ってクロノとマテリアルの間に入る。クロノが険しい顔をするが心は決まっている。

「ヴィヴィオ…」
「そうやね、私も賛成や。それにヴィヴィオちゃんに来て貰わんでも私が闇の書を蘇らせへん。」
「私も我が主と同じだ。将、お前達は?」
「聞くまでもない」
「おう!」
「そうですね」
「ああ」

 はやてとリインフォースと守護騎士もヴィヴィオに続いてクロノとマテリアルの間に入る。

「君たちはっ!」
「なのはちゃん、フェイトちゃんはどうする?」
「クロノ君ごめんね、私も信じてみたい。」
「はやてとヴィヴィオが納得しているなら私もそれが良い。クロノ…ゴメン」
『クロノ諦めなさい。』
「かあさっ、艦長!!」
『アリシアさんが言っている事も間違っていないわ。それにヴィヴィオさんを止められて? 彼女、SSランク魔導師よ』
「!?…わかりました。」

 流石に知られてしまったらしい。
 信じられない者を見たように驚きの表情を見せたクロノとモニタ向こうから微笑むリンディを見て苦笑する。

「「私(僕)達は…」」

 話についていけなかった星光と口論をみて静かにしていた雷刃が再び聞く。

「私の希望だけどここで暮らすのはどうかな? 嫌なら好きにしてくれたらいい。でも魔力を供給して貰えなきゃ消えちゃう。」
「我らに塵芥や子鴉らの下僕になれと言うのか?」

 拒否感たっぷりな闇統に静かに首を横に振り答える。

「ううん、私はここが良い世界だよって言いたいだけ。あなた達が誰にも迷惑かけないなら捕まえるつもりもない。」
「我の代わりに騎士達と共に時を過ごして貰えないだろうか。」

 リインフォースが1歩前に出て言う。
 マテリアル3人は暫く顔を見合わせた後、星光が一言

「わかりました。」

と頷いた。



 その後はトントン拍子に話が進んでいく。
 最初ははやてが3人を預かるという話だったのだが、魔力供給をはやて1人で引き受けるのは負担も大きく、再び同じ事があったらというクロノの意見を受けてなのはとフェイト、はやてがそれぞれをコピーしたマテリアルと契約することになった。
 既にアルフという使い魔と契約しているフェイトにとっては重荷になるとクロノも手を上げた。しかしマテリアル3人全員が強く拒否し彼は軽く落ち込んでしまう。
 そして…


「ただいま~お母さん」
「なのは、ヴィヴィオ。どこに行ってたの心配したのよ」

 玄関を開けた途端に飛び出してくる桃子。本当に心配して待っていてくれたのだろう

「ただいま。ごめんなさい」
「連絡出来ずご心配おかけしました。」

 一緒にいたリンディが頭を下げるのを見て桃子は何かを察したのかそれ以上何も聞かず

「どうぞ、今から朝食なんですよ。一緒にいかがです? あなたも」

と微笑んで彼女と彼女の横に居た星光を促した。
 そして朝食を食べた後、リンディが話を切り出す。

「今日はお願いがあって伺いました。彼女をここに置いて頂けませんでしょうか」

 唐突に言われたリンディの言葉に当初士郎や桃子だけでなく、恭也と美由希も言葉を失う。
 星光が人ではなくマテリアルというなのはをコピーした存在であり、彼女が生きていくにはなのはから魔力を受け続けなければならない事や、フェイトも別の者へ魔力を送る事を話す。
 しかし人はペットと違ってそう簡単に受け入れられない。
 黙って彼女を見る視線に耐えきれなくなったのか

「やはり、ここは私の居場所ではないようですね」

 自嘲気味に言った星光に士郎が慌てて答える。

「い、いや、違うんだ。、ごめんな、私達はつい先日魔法の話を聞いたばかりで突然すぎて驚いていたんだ。リンディさんわかりました。桃子もかまわないよな」
「え、ええ勿論よ。新しい家族が増えたと思えばいいのよね。え~っとお名前は何て呼べば良いのかしら」
「星光の殲滅者と呼ばれていました」
「星…光…じゃあね♪」

 桃子が星光を抱きしめる。誰でも受け入れるのが高町家の凄いところ。

(元の時間とかなり変わっちゃったけどこれで良かったんだよね? きっと)

 ヴィヴィオは元世界で彼女達マテリアルを知らない。彼女達がここに居る時間、きっとここは異なる未来へと進むだろう。
 新たな家族が加わったのを眺めながらヴィヴィオは桃子に抱きしめられて困惑した星光の顔を見て微笑んだ。



「あ~疲れた~。ヒヤヒヤしっぱなしだったよ。」
「エイミィお疲れ様。えっと…あなたも入って。今日からここがあなたの家だよ」
「おっじゃましまーす♪」
「フェイトもお疲れ。チェント徹夜して寝ちゃった。フェイトベッド借りていい?」
「うん。」

 静かだった部屋内が一気に騒がしくなる。
 部屋からタオルを取って来たエイミイが顔を洗って目を覚ますと言い浴室へと向かうのを目で追ってからクロノはドカッとリビングのソファーに腰を下ろす。
 流石に疲れた。食事を用意してる最中の緊急事態。
 強大なロストロギアが消えた後には何かしらの事件が続くものだが、ここまで一気に進むとは考えてもいなかったし、思念体とは言えまさか自分と戦う事になるとは…。
 ヴィヴィオが居なければはやては捕らわれ新たな闇の書が生まれていただろう。しかし

「ったくヴィヴィオも無茶をする…」

 エイミィから送られた映像を見て肝を抜かした。個人レベルでアースラの多重結界を抜く集束砲の拡散放射なんて聞いたことがない。なのはの集束砲を見た時もなんて馬鹿魔力だとは思ったがわざわざ集めたのを拡散させる魔導師はまず居ないだろう。1人を除いて…

「ホントホント」
「あれでSSランクと言われたらな、一体どうすればこんな短期間に…」
「無茶苦茶強かった。」

 変な相打ちを打たれているのに気づいて瞼を開けてみると

「うわぁあああっ、君はいつからそこに!」

 雷刃がちょこんとソファーに座っていた。服もバリアジャケットからフェイトの持っている服に着替えている。

「さっきから居たよ?」

 アリシアもそうだが、彼女もなまじフェイトに似ていてドキッとする。フェイトが大人しく、アリシアがズバズバ言う性格であれば彼女は無邪気な感じだろうか?
 息がかかるくらいまで顔を近づけられて慌ててその場を離れようとキッチンへ行きコーヒーカップを手にする。

「エイミィ、フェイト、アリシア飲み物何がいい?…君も何か飲むか?」

 コーヒーを飲むなら一緒に入れようと声をかけると

「「「私(僕)、オレンジジュースがいい」」」

 とフェイト・アリシア・雷刃の声が揃って返ってきた。

「プッ、アハハハハハッ!」

 その時になってアリシアが言った意味に気づいた。
 管理局だからとかマテリアルとかが原因ではない、暮らしていく中で善し悪しも含め教え、自分も一緒に学んでいけばいいのだと。
 初めて大笑いするクロノの姿にフェイトとアリシアと雷刃はキョトンと顔を見合わせるのだった。



そして、闇統が行った八神家でも…

「あーっ!それオレのアイス!!」
「ん? どこにもうぬの物だとは書いてないが? うん、冷たくて美味だ♪」
「ヴィータちゃん、明日ちゃんと買ってくるから。怒らないで」
「いや…ここはきっちりけじめをつけて貰わねーとな…アイゼンの頑固な汚れにしてやる!!」
「面白い。塵芥が、やってみろ出来るものならな。最後の1口だ、パクッ♪」
「あーっ全部食べやがった…の野郎っ!!」

 逃げる闇統をグラーフアイゼンを振り回しながら追いかけるヴィータ。

「はやてちゃん…」
「我が主…」
「ま、まぁこれもスキンシップの一つや。散らかした物は後で片付けて貰うとして暫く放っとこう。それより滅茶苦茶眠い…リインフォース、ベッドに連れてってくれるか?」
「は、はぁ…」

 きっとはやてが目覚めた後、惨状を見て雷が落ちると思いつつ、それ以上考えないことにした。
 リインとリインフォースが危惧した通り彼女が目覚めた後2人には特大の雷が落ちるのだが、それはこれから6時間ほど経った後である。



(闇の書事件はこれで解決だよね)

 部屋に戻りなのはが星光に雑誌を見せてこの世界の事を話しているのを眺めながらヴィヴィオは思う。
 リインフォースのいる世界からマテリアルの残る世界へ…過去を大きく変えてしまった。
 それが良かったのか間違っていたのかは考えてもわからない。この先、未来を変えた事で新たな悲しみが起きているかも知れない。そう思うと胸がチクリと痛む。
 しかしその痛みは刻の魔導書を取り出して見たとき取り除かれる。
 最後のページに『異世界の家族を助けて』と書かれた文字が消え『ありがとう』と書かれていた。

(これで終わったんだ。)

 きっとこの文字を書いた彼女は今の私を見ているのだろう。
 夢の中で出逢った女性がもしオリヴィエなら

(次は笑顔で会いたいな)

そう思い魔導書を静かに閉じた。

 

~~コメント~~
 もしヴィヴィオがリリカルなのはThe Battle Of Acesの世界に行ったら?
 発端は前作AgainSTStory構想中に静奈氏宅に行った時でした。雑誌等でゲームは知っていたのですが各キャラクターの話も良いよと教えて貰い借りて遊んだ翌日、私の手元には新しいPSPと未開封のTheBattleOfAcesがありました。
 ゲームの内容は皆様もご存じだと思います。消えずに残っていたリインフォースとなのは・フェイト・はやてを模したマテリアル達。 AgainStroyでは最後しか出せなかったリインフォースとそれぞれ魅力のある新キャラを書いてみたいと思い幾つかのメモを作っていました。
 それがAgainSTStoryを書く中でASシリーズとして「アリシア・テスタロッサ」というキャラクターのイメージが固まった時、もしヴィヴィオと一緒にTheBattleOfAcesの世界に行ったら?というありふれた発想からAgainStory2としてプロットが生まれ今に至ります。

 サウンドステージにおいてフェイトはリンディから養子にならないかと持ちかけられていてまだ迷っています。そんな時に夢の中じゃない本当のアリシアが相談相手になってくれたら? 
 ある意味でフェイトとアリシアの溝を埋める話だったかも知れません。
 もう少し書いてみたいと思いますが、アニメ同様に13話で一旦終了です。最後まで読んで頂きありがとうございました。
 

★最後に先日Web拍手にて質問を頂いていたのでお答えさせて頂きます。
Q:「リリカルなのは AnotherStory 」、もしかして劇場版使用にしました。前読んだ時となんか違うような
A:SS版のAnotherStoryと文庫版AnotherStoryでは所々違っています。多分それではないでしょうか? 見直した時の見つけた誤字は時々直していますがそれ以外変えておりません。

※今朝相方の静奈氏よりAgainSTStoryの小説版が脱稿したと連絡がありました。後日ホームページにも掲載されると思いますが360頁という分厚い本になっています。
 コミックマーケット79より頒布を予定しておりますのでお楽しみにお待ち下さい。

 

Comments

Comment Form

Trackbacks