第1話 「彼女の瞳は虹彩異色」

「今晩、何しようかな~♪ おはようございま~す。」
「お、おはよう。」

 ある日の朝、閑静な住宅街を歩く少女の姿があった。
 誰かとすれ違う度に挨拶をして笑顔を振りまいている。笑顔で返す人、驚きつつ挨拶する人と色々いたが、少女と挨拶を交わした後皆いつもより少しだけ笑顔になっていた。
 そう、私こと高町ヴィヴィオはそれ程今夜を楽しみにしていたのだ。

「週末に遊びに来ない? フェイトとなのはさんと一緒に」

 発端は数日前の放課後、親友のアリシア・テスタロッサとの会話から始まった。

「ママのお仕事が週末に終わるんだって。それで何かお祝いしたいなって」

 アリシアや彼女の母、プレシアには少なからずお世話になっている私としてはお祝いしたい。それに…

「うん、ママ達にメールで聞いてみる。」

 ママ達、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンもきっと行きたいと言うだろう。そう思ってデバイスから2人の母へメールを送る。


【PiPiPi】
「ヴィヴィオからメールだ。いいね♪…と送信。これでよし」

【PiPiPi】
「ヴィヴィオからメール? !? 急いで片付けなくちゃ」


【PiPiPi】
「えっ、ママ達はやっ」

 送って数分も経たない内にメールが返ってきた。

「ヴィヴィオ、返事は何て?」

 急かされるままにデバイスからメールを出すと。

『ママは大丈夫だよ。楽しみだね。byなのはママ』
『絶対行きます!! byフェイト』
「「………」」

 2人の様子が想像できる。
「……フェイトママ…お仕事放り出して来るつもりじゃ…ないよね?」
「…多分…後で私もメールする。」

 アリシアと引きつった笑みを浮かべつつ、テスタロッサ家へ遊びに行く週末が待ち遠しくなった。



 私、高町ヴィヴィオとアリシア達には奇妙な縁がある。奇妙な縁を作ったのはある魔法がきっかけ。
 【時空転移】ベルカ聖王家に伝わる時間と空間を移動出来る強大な魔法。
 時空転移は『ベルカ聖王の血を継ぐ』資質を持った魔導師が『刻の魔導書』と呼ばれる書物型ストレージデバイスを用いなければ使えない。ヴィヴィオはその本を無限書庫で見つけてしまう。
 アリシアとプレシアはその魔法によって助けられた。
 アリシアは魔導炉暴走事故が起きる前に、プレシアはジュエルシード事件時の時の庭園崩壊時に助けられ今の時間で共に暮らしている。
 彼女達を助けたのは未来のヴィヴィオ自身。
 未来のヴィヴィオは彼女達を助け出し、ヴィヴィオが時空転移出来る様になった時に合わせて彼女達を海鳴からミッドチルダへ来させた。
 アリシアがクラスメイトになる様に。
 どうしてそんな事をしたのか? それがわかったのはもう1人のマテリアルと出逢った時。
 チェント、同じベルカ聖王のマテリアルとして作られた、言わばもう1人のヴィヴィオ自身。
 彼女はJS事件で捕まったスカリエッティやナンバーズ達を助ける為に、刻の魔導書を奪い過去へ行き現在を変えてしまう。なのはやフェイトが居なくなり為す術がなくなって悲観に暮れていたヴィヴィオを助けたのがプレシアとアリシアだった。
 奪われた刻の魔導書が実は管理局発足時に作られた『写本』であり、事が起きる前にオリジナルを用意してくれたプレシア、一緒に過去へと飛んで起動出来なくなったデバイスを使えるようにしてくれたアリシア。2人が居なければ何も出来なかった。
 アリシア・プレシアとチンク達に支えてもらって元の時間に戻し、チェントがこれ以上時間移動出来ない様に写本を壊して彼女のレリックを破壊して連れ帰った。
 チェントは管理局で保護され戦闘機人と同じ更正プログラムが適用されるが、レリックを失った彼女の姿は…機動6課に来た時のヴィヴィオより幼かった。そんな彼女にプログラム適用が出来る筈もなく、担当になったギンガを精神的に追い詰めて倒れさせる程暴れてしまう。
 問題児扱いされかけていたチェントの保護者として名乗り出たのがプレシアだった。
 今では2人に甘えたりと管理局で暴れていたのが嘘だったかの用にアリシアの妹、チェントもチェント・テスタロッサとして彼女達と暮らしている。



「アリシア…いいの? 折角お休みが出来て一緒に居られるのに…チェントもいるんでしょ?」
「私は大丈夫、チェントもママや私と一緒だし♪ ヴィヴィオ、ヴィヴィオが気にしてたら変わらないよ。」
「あ…うん…」

 痛いところを突かれた。
 チェントはヴィヴィオを嫌っている…というか憎んでいると思う。彼女は子供心にスカリエッティ達と居たかっただけ。でもその願いを壊したのはヴィヴィオ自身。だからいくら嫌われていてもそれは自身の問題。
 少し前、とあるきっかけで違う世界に行った時、アリシアの為だからとチェントが助けてくれた。
 アリシアやプレシアと一緒に居るからか、彼女は少しずつ変わり始めている。

(私も…変わらなきゃ…ダメだよね)
「そうだね。チェントの好きなお菓子教えてくれる? お土産に持って行きたいの。」
「うん、あのね…」

 この時、ヴィヴィオもアリシアもまさかこんな事に巻き込まれるとは思ってもいなかった。



「っと、ゆっくり歩いてる場合じゃない。レールトレイン来ちゃうよ。」

 挨拶してゆっくり歩く中、時間を見て慌てて走り始める。このままではレールトレインに乗れず遅刻確定。

(挨拶してて遅刻しました…なんて恥ずかしくて言えないよ。)

 猛ダッシュで駅への最後の角を曲がった瞬間、

「キャッ、何っ?」

 視界に虹色の光球が飛び込んできた。そして

「見つけた、お願いします。私と一緒に来て下さい。」
「えっ、ええっ!?」

 光の中から現れた少女に手を捕まれて私はそのまま光の中へ入ってしまった。そして光と共に消えた後。投げ出された私の鞄だけがそこに残っていた。



「ヴィヴィオ、遅い。いつもとっくに来てるのに…」

 Stヒルデ学院初等科のある教室でアリシアは待っていた。今夜ヴィヴィオ達が遊びに来るのはプレシアには秘密にしている。帰ってきたところでみんなで『おかえりなさい』と言って祝うつもり。どんなサプライズを用意しようかと彼女に相談するつもりで待っていた。

「連絡してみよ。トレインの中だと迷惑になっちゃうけど…遅いのも気になるし」

 ペンダント状のデバイスを起動し通信モードに切り替えてヴィヴィオのデバイスを呼び出す。
 魔力がなく魔法が使えないアリシアにとって念話にまでアクセス出来るありがたい機能だ。でも…

「…見つからない? なんで?」

 ヴィヴィオのデバイスを直接呼び出しているのに繋がらない…メンテナンス中?

「皆さん、おはようございます。あら高町さん今日、おやすみですか?」

 先生の言葉で何かあったんだと感じた。



「わわっ、キャッ! イタタタ…」

 ヴィヴィオが盛大な尻餅をついてさすっていると

「すみません、大丈夫ですか?」
「あっ…」
(綺麗な瞳…虹彩異色…私と同じ)

 と少女が手を差し出していた。さっき出てきた少女、彼女の瞳が綺麗でじっと見つめる。

「あの…」
「は…はい、大丈夫です。…ここは?」

 手を借りて立ち上がり辺りを見回す。通学途中に見ている風景なのだが、どこか違和感がある。

「すみません、ここは私の世界です。突然連れてきて本当にごめんなさい」

謝る彼女に

「いえ、そんなに謝られても…私の世界?」
「はい、私の世界です。」
(この子の世界って。私の世界じゃなくて…時間って言ってないし…そうじゃなくて…もしかしてここは)
「もしかして…ここ…異世界ですか?」

 恐る恐る聞いた私に

「はい、何も言わずに連れてきてすみ…」
「ええーっ!?」

 思わず思いっきり叫んでいた。

 私、高町ヴィヴィオは突然見ず知らずの女の子に異世界に連れてこられてしまった…らしい。

~~コメント~~
 昔「君の瞳は~♪」という歌がありましたが、タイトルと一切関係ありません。
 Asシリーズ(Another~Again2)はもしヴィヴィオが●●へ行ったら? が要素になっています。
 アリシア・プレシアとオリジナルキャラクター『チェント』はさらっと紹介しましたが、気になった方は前作を読んでお読みください。
 今回も例に漏れずですが「行ったら」ではなく「連れてこられた」ヴィヴィオ。
 内容的にシリアス風味は薄い感じで進めたいと思いますので、気楽にお付き合い頂けると嬉しいです。
 ヴィヴィオが行った先はどこだったのか…わかりますよね(苦笑)

 

Comments

Comment Form

Trackbacks