第2話「私が消えた日」

「フェイトさん、今日はご機嫌ですね」

 時空管理局、本局にある部屋でフェイト・T・ハラオウンは報告書をまとめていた。
補佐のシャーリー、シャリオ・フィニーノに言われて歌を口ずさんでいたのに気づく。

「ごめん、迷惑だった?」
「いいえ、フェイトさんがご機嫌だなって。今日は何かあるんですか? もしかして、後で誰かとデートの待ち合わせをしていて夜はそのまま一緒にキャーッ!!」

 時々彼女のノリについて行けない時がある。
 そういう時は影に狸娘と噂される親友の影が見えるのだけれど…
「そうじゃないって、今日は姉…ヴィヴィオの友達の家に遊びに行くんだ。なのはとヴィヴィオと一緒に」

 ここで姉さんなんて言えば余計にややこしくなるのに気づいて慌てて言い直す。

「そうなんですか。なのはさんとヴィヴィオと一緒は楽しそうです。休暇明けにお話聞かせてくださいね」
「うん。」

 本当は行き先が行き先だから楽しみなのだけれど…
答えると彼女は

「休暇中は任せておいてください。ミッドのお土産も期待してます。」

 そう言って部屋を出て行った。早く仕事が終わるように気を使ってくれたのだろう。彼女の期待を裏切らないように仕事の続きをしようとした時バルディッシュが呼んだ。

【It is a caller from Alicia.(アリシアから呼び出しです)】

管理局の端末ではなく直接バルディッシュを呼び出すなんて珍しいと思いつつ、通信を繋ぐ。

「姉さん? 母さんのプレゼントの事かな? はい、フェイトです」
『フェイト! 大変、ヴィヴィオが居なくなっちゃった!!』
「え…ええっ!?」

 この時、フェイトの楽しみな時間はガラガラと崩れていった。 



「こんな時にもう…早く出てよ。」

 走りながらデバイスから妹のデバイスにコールする。暫く待ってようやく

『はい、フェイトです。』
(繋がった)
「フェイト! 大変、ヴィヴィオが居なくなっちゃった!!」
「え…ええっ!?」

 先生がお休み? と聞いた時嫌な予感がした。
 この時間だとフェイトは本局に居るし、なのはも教導任務で本局に行っている。連絡もつかないから様子を見に行ってきますと先生の制止を聞かずにヴィヴィオの家に向かう。
 その途中でヴィヴィオの鞄が落ちているのを見つけた。拾ってそのまま家に向かうが高町家のドアは閉まっていて鍵もかかっている。
 嫌な予感が予感じゃなくなる。
 知らせに行こうとした時になってようやくフェイトに通信する事を思い出し、慌てて連絡したのだ。

「ヴィヴィオの鞄が駅の近くに落ちてたの。家の中にも居ないみたい。さっき散歩してた人に聞いたら1時間くらい前に挨拶したって。なのはさんは連絡通じないし…私…どうしよう…ヴィヴィオが」

 モニタ向こうのフェイトの顔が滲む。

『わ、わかった。わかったから姉さん落ち着いて。姉さんはそのまま学院に戻って。先生に『ヴィヴィオは風邪で今日お休みします』って伝えて。私はなのはに連絡とって急いで戻るから。』
「う、うん…でもヴィヴィオが」
『まだ何かあったってわからないんだから、もう少し待ってみよう。先に学院に行ってるのかも』

 慌てて混乱していた頭がフェイトに言われて落ち着いてくる。ヴィヴィオの事だから何かあってバッグを置いて離れてるのかも知れない。

「うん…わかった。でも…もし学院にも居なかったらまた連絡するね。」
『うん。姉さん…もし学院にヴィヴィオが居なかったらだけど…その時は母さんには連絡して。ヴィヴィオの居場所を知っているかも知れないから。』

 周りから類推する能力は同じかそれ以上と言われていても、大人と子供の差。落ち着いて対応するフェイトが格好良く見えて、少し悔しくて、恥ずかしかった。

「うん…ごめんね。フェイト」
『また後でね』 

 そう言うと端末は消えた。
 泣いてる場合じゃない。フェイトに言われた通り学院に戻って先生に言わないと。

「アリシア、しっかりしろっ!」

 自分に言い聞かせて来た道を再び走り出した。



「私はアインハルト・ストラトスと言います。お願いです、友達のヴィヴィオ、こちらのヴィヴィオを一緒に探して貰えませんか?」
「!?」

 アインハルトと名乗る彼女に頭を下げられ狼狽える。彼女の服、どこかで見た様な…

「もしかして中等科の…」
「はい、中等科1年です」

 制服は知っているけれど、彼女と会うのは初めて。

「と、とりあえず、ここじゃなんですしどこかで落ち着いて話しませんか。その…」

 周りで何があったのか? という偶然通りかかった通行人の視線が痛い。

「え、はわわわっ!」

 同じくソレに気づいたアインハルトと一緒にその場をダッシュで逃げ出した。


「先日、ヴィヴィオさんと練習をしていた時です。ヴィヴィオさんが休憩中に飲み物を買いに行くとここから出て行ったのですが、暫く待っても帰ってこなくて。探してみるとこの子が居て『異世界』と書いたメモを持っていたんです。」

 さっきの場所から少し離れたところにある公園のベンチに腰を下ろしたアインハルトはヴィヴィオが居なくなった時の事を話し始めた。

「この子?」

 誰の事だろうと思うと、彼女のポシェットからウサギのぬいぐるみがピョコッと顔を出して手を上げた。

「かわいい~♪ これぬぐるみじゃないですよね。」

 アインハルトがウサギを手に取って「クリス、メモを出して」と言うと、ウサギはリボンのところから4つ折りになった紙片を取り出した。彼女はそれを手に取り私に見せる。
 紙片には『異世界』とだけ書かれている。

「この子はクリス。ヴィヴィオさんのデバイスです」
「私の!?」

 ペコリと頭を下げるクリス。

(こっちの私、こんな可愛いデバイス持ってるんだ。いいな…)

 思わず声に出しそうになるが慌てて呑み込む。
 ヴィヴィオにはヴィヴィオのパートナーがいるのだ。

「何度も辺りを探したのですが、見つからなくて…家族の方には心配させないように私の家で泊まるのでと伝えています。クリス、まだヴィヴィオの反応ありませんか?」

クリスはフルフルと首を振って答える。
 何日も家に帰らないのは変だと思われる。それにクリスが本当にヴィヴィオのデバイスなら彼女が相当離れた場所に居ない限り見つけられるだろう。

「アインハルトさん、あの…虹色の光は?」
「はい、この本から出ていました。私の家に古くからある本で、昨夜家に帰った時書庫から変な光が見えて入ってみると、これが光っていたんです。私が手に取ると光は治まったのですが、朝起きたらまた光り始めて、今度はここに近づくにつれ強く光って、公園に入った時に虹色の光の玉ができて私を…」

 その後は出てみるとヴィヴィオが居たという訳らしい。

「見せて貰って良いですか?」
「ええ、でもベルカの古い本なので」
「私も無限書庫司書なので少しなら読めますよ」

 こっちのヴィヴィオがどうなのかは知らないけど、ちょっと位読めるだろうと本を借りて開く。
 書かれている内容に覚えがある。

「…やっぱり」

その本は予想通り

「刻の魔導書…」

 中身全てを覚えている訳ではないけれどこれは刻の魔導書。

「刻の魔導書…ですか?」
「この本を使うと時間や空間を移動出来るんです。私達は【時空転移】って呼んでます。でも…これプレシアさんの研究所か聖王教会にある筈なのに…」
「昨日、少し読んだらここに…虹の扉って書かれていて」
 枝折りが挟まれているページを開くと『虹の扉、異なる世界を繋ぐ門』と書かれていた。
「それで『異世界の私』だったんですね…わかりました。」
「ええ…」

 大体わかった。でも…何か大切な事を

「ああっ! アインハルトさんはこの本を使ったんじゃないですよね?」

 大声を上げて立ち上がったヴィヴィオにビクッと驚くアインハルト

「え、ええ、私は本を持って歩いていただけで…」
「私…どうやって帰ったら…」

 通信は出来ないし、こっちに来る前に鞄を落としている。私が登校してこないのを心配してなのはかフェイト、アリシアが探しにきたら…先に向こうで誰かが鞄見つけて連絡されちゃったら…
 何かの事件に巻き込まれたと思って大騒動になってるんじゃ

「私…消えちゃったと思われてる?」
「すみません。」

 再び頭を下げるアインハルトに

「アハハハ…」

もう乾いた笑いしか出てこなかった。


~~コメント~~
同じ様に見えて違う世界だから異世界。Asシリーズのヴィヴィオは幾つかの異世界を体験しています。もしそんな異世界として「リリカルなのはVividの世界に行っちゃったら?」
引っかき回してくれそうな気がします。

 

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