第3話「異世界のともだち」

「フェイトちゃん、ヴィヴィオは!?」

 ミッドチルダにある高町家に駆け込んできたのは家主である高町なのはだった。先に戻っていたフェイトにすがる様に抱きつく。

「なのは、落ち着いて聞いて。ヴィヴィオはまだ見つからない。でも何かの事件に巻き込まれたとも思えないんだ。」
「どういう意味?」
「ヴィヴィオのデバイスRHd、レイジングハート2ndへミッドと本局からアクセスをしたんだけど見つからない。シャーリーに頼んで数時間中に移動した形跡も調べて貰ったけど…」
 つまり、ヴィヴィオのデバイスはミッドチルダだけではなく、管理局にも居ない事になる。

「でも、それだけじゃ」

 そう、隠す方法も無いわけではない。

「それにヴィヴィオはシグナムに勝てる位強いし。私達は信じて待とう」

 先の事件でヴィヴィオのデバイスが解除出来なくなったのを知ったなのはは、反省から彼女のデバイスの封印を外していた。 
 なのはを支えながらソファーに座るフェイト。その時バルディッシュが鳴った。

『フェイト、なのはさんも一緒ね。アリシアから話は聞いているわ。今からこっちに来て貰えるかしら?』
「プレシアさん、ヴィヴィオの居場所がわかったんですか!」
「母さん、でも事件に巻き込まれたとも…」
『フェイトの言う【事件】の心配はいらないわ。わからないのがわかったから。詳しい話はこちらに来た後で。』

それだけ言うと通信は切れてしまった。

「事件の心配はいらない?」
「わからないのがわかった?」

なのはとフェイトはプレシアの言葉の意味がわからず呟いた。



「ただいま~」
「おかえりなさい、ヴィヴィオ。アインハルトさん家のお泊まり楽しかった?」
「うん、いっぱいお話できた♪」

 ヴィヴィオはこっちの高町家に帰ってきた。家は同じなのにちょっとずつ違っている。

(アインハルトさん…暫くヴィヴィオとして居てくれって言ったけど…私が私じゃないって気づかれないかな…)

 どうやって帰ればいいのかも、ここのヴィヴィオがどこに行ったのかもわからない。でもここにヴィヴィオが居ないと判れば騒ぎが大きくなってしまう。
 彼女の持っていた刻の魔導書にイメージを送って時空転移が使えないかと試してみた。しかし、魔導書は何の反応も示さなかった。
 違う世界の魔導書だと使えないのか?
 アインハルトの家にある本を片っ端から全部調べるという方法も考えたけれど、彼女に任せて欲しいと懇願され仕方なくヴィヴィオはここの世界の高町ヴィヴィオとして過ごす事にした。
 そして週が明けた翌朝、

「なのはママ、フェイトママ行ってきま~す。」
「いってらっしゃい。ヴィヴィオ」
「インターミドルも近いからわかるんだけど、リオとコロナも無理しちゃダメだよって伝えてね」
「は、は~い」

(インターミドル? リオ? コロナ?…誰?)

 出かける前から今日は大変そうだと少し気が重くなった。


「ヴィヴィオさんおはようございます。」
「アインハルトさん、おはようございます。」

 学院最寄りのレールトレインの駅でアインハルトが立っていた。

「色々教えて欲しい事があって…朝から会えて良かったです。」
「私のせいで巻き込んで…」
「謝らなくていいです。私もこっちの世界見てみたいし…歩きながら聞いて良いですか?」
「ええ、歩きながらで」

 今まで悲しそうな顔しかしなかった彼女が笑みを浮かべたのを見て少しホッとする。

「リオさんとコロナさんはヴィヴィオさんのクラスメイトです。ストライクアーツは有名な格闘技です。ヴィヴィオさんやリオさん、コロナさんは私と一緒に練習しています。インターミドルは来週開催されるストライクアーツの大会で4人でチームナカジマとして参加する予定です。私達の練習もそれを目標にしています。」

 登校中の生徒に混ざってアインハルトに色々質問をぶつけていた。
 部屋にあったストライクアーツの本の理由、朝聞いたインターミドルやリオ、コロナの事。この世界は見た目似ているけれどずいぶん違うらしい。

「ヴィヴィオ~、おはよう」
「おはよう、ヴィヴィオ」

 学院が見えた時、後ろから声をかけられた。振り返ると手を振る少女達の姿。

「さっきお話したリオさんとコロナさんです。大きく手を振っている方がリオさん」
「あ、ありがとうございます。おはようリオ、コロナ」
「おはようございます。リオさん、コロナさん」

さらっとフォローしてくれたアインハルトに感謝

「後は放課後に、聞きたいことがあればクリスに話しかけて下さい。私のデバイス『ティオ』を通して念話で話せますから」

 鞄からニャオと出てきた子猫のぬいぐるみを見て思わずかわいい♪と抱きしめそうになったが

(危ない危ない…こっちのヴィヴィオはもう知ってるんだからこんな事しないよね)

思い直しコロナとリオの後を追いかけた。



「プレシアさん」
「ああ、来たか。プレシアから少し待っていてくれと伝言だ」
「チンク!?」

 プレシアの研究所に来たなのは達を出迎えたのはチンクだった。

「どうしてここに、その白衣は?」
「ヴィヴィオから聞いていないのか? ここでプレシアの助手をしている。助手とは言っても受付とチェントの守り役だがな」
「フェイトも来たんだ。早かったね」
「姉さんっ、まだ授業中じゃ…」
「私が学院に連絡して早退させたのよ。早く状況を把握しないと騒動が大きくなるでしょう」

 そう言って奥の部屋からプレシアとアリシアが出てきた。

「全員揃った事だし、話しましょうか。チンク」
「ああ、クライアントには私が言っておこう」
「お願いね。」

 そう言うとチンクはなのは達が入ってきたドアから出て行った。

「対外交渉や受付を全部引き受けてくれるから助かってるわ。チェントも懐いてるようだし。それでヴィヴィオが今どこにいるのかよね?」
「RHd、ヴィヴィオのデバイスのサーチを本局とミッドチルダに送りましたが応答はありませんでした。もしかして時間移動を?」

 ヴィヴィオが他の時間に行ってしまったのではないかとフェイトは考えていた。しかし

「いいえ、時間移動すればヴィヴィオの体は元時間、ここに残っているわ。それに魔導書はここにあるもの」

 プレシアがなのはとフェイトに刻の魔導書を見せる。

「写本はまだ修復中、ヴィヴィオ1人では時間移動できない。結論から言えばヴィヴィオは今わからない場所にいるの」
「わからない場所」
「そう、もしヴィヴィオが事件に巻き込まれて捕まったならあなた達がRHdの反応を探して見つけるでしょう。でもそうじゃない。アリシアがヴィヴィオの家まで行ったって聞いたからデバイスを調べていたのよ。ヴィヴィオがチェントを追いかけた時、アリシアのデバイスにあるセンサーが時間のゆらぎみたいな物を捉えていたの。」
「時間のゆらぎですか?」

 なのはとフェイトにはよくわからないらしい。

「アリシア」
「うん、さっきの話だね」

 アリシアは手元にあったペンと紙を取り「入口」「出口」「異世界」と書く。

「時空転移はここと異世界に入口と出口を繋いでそこを抜けるの。だから入口も出口も元々あった空間とは違う性質の物になるから跡が残る。これが時間のゆらぎ」
「簡単に言っちゃえば、ヴィヴィオはこの時間に居ないってこと。前に行った…変な闇の書の世界みたいな所に居るってこと」
「ええ、同じ世界かは判らないけれど異世界なのは間違いないわ、逆にわからないのがわかった。通信で言ったのはそういう事。だから問題もあるのよね…」

 何かあったのは確かだけれど、手の出しようが無い世界の問題に2人にはやるせなさを感じていた。

「問題…ですか?」
「ええ、ヴィヴィオは今まで時空転移を使った時、写本かオリジナルどちらかの魔導書を必ず持っていたわ。でも今は2つともここにある。ヴィヴィオ1人じゃ帰ってこれないのよ。私達に時空転移は使えないから迎えにも行けない。」
「「「!!」」」

 異世界に行くにもヴィヴィオが魔導書を使わなければ行けない。
 プレシアの言葉で部屋の空気は一瞬にして重くなってしまった。

~コメント~
 異世界のヴィヴィオと入れ替わったヴィヴィオ、同じ様に見えてどこか違う世界。
 ヴィヴィオだと直ぐに慣れてしまいそうな気もしますね。

 

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