第13話 「時を越えた再会」

「海…綺麗だ」
「そうね、本当に綺麗。」
「でも…僕達どうやって帰ればいいんだろう?」

 臨海公園で2人は陽が海に沈むのを見つめていた。

「アイシス…心配してるかな。」
 
 トーマ・アヴェニールとリリィ・シュトロゼックは突然飛ばされて来た世界で戻る手立ても行くところもなく、陽が落ちるのを待っていた。
 夜が更ければ人気の無い場所を探して野営をすればいい

「お腹空いたね…」
「原生生物まで管理されてる世界じゃないみたいだし、潜って何か取ってくるよ。」

 と公園の柵を越えた所で聞いた声が聞こえた。

「助かった。1人でこの量は運べず悩んでいたところだったんだ。」
「いいよこれ位。ずっと艦内じゃ疲れるだけだし、折角エリオと一緒に魚いっぱい釣ったのに味付け無かったら料理しても美味しくないし。」
(えっ? エリオ?)

 声のする方を振り返り見つめる。見つからない様に茂みに隠れ声のする方の様子を見る。
 2人が両手に色々持っている。

「ヴィヴィオに冗談のつもりで言っていたんだが…本当に釣りをしているとは思わなかった。」
「ん? 何が?」
「いや、いい。幸いヴィヴィオの方も事件では無かったようだ。」
(スバル、ヴィヴィオ!!)

 間違いない、彼女達は僕が知ってる!!
 2人の方へ走り出して

「うん。さ~食うぞ~っ!!」
「スゥちゃん!!」

 茂みから飛び出て思わず大声をあげた。

「!! スゥちゃん…って、トーマぁ!?」
「やっぱりスゥちゃんだ!!」
「なんでここに???」

 狼狽える彼女を前にトーマは飛び跳ねて喜んだ。



「オリヴィエ陛下」
「はい、私に何か?」

 スバルとチンクがトーマ達と会った頃、オリヴィエがアースラの通路を歩いていると背後から呼び止められた。
 振り返るとそこには1人の少女が立っていた。
 彼女は確か並行世界のヴィヴィオの友人、アインハルトと言っただろうか

「少し…時間を頂けませんか。」

 青と紫の虹彩異色の瞳をジッと向ける少女に頷いて答えた。

「ええ、かまいませんよ。」


 彼女の後をついていくと外に出てしまった。もうすぐ陽が沈む。他者に聞かれたく無い話なのだろうか?

「陛下は昔シュトゥラで過ごされていたと本で読みましたが本当ですか?」
「そうです。私はベルカ聖王家でも継承権が低く、外交交流という名の人質としてシュトゥラ家で過ごしました。周りが全て敵という時代、王家で仕えてくれた側近は酷く悲しんでいましたが、シュトゥラ家では丁重に扱われていたので悪い生活でもありませんでした。」
「……クラウス・G・S・イングヴァルト、彼の事は覚えていらっしゃいますか?」

 懐かしい名前を聞いた。

「よく知っていますね。ベルカ史を研究しているのですか? 彼の事は良く覚えています。戦時、シュトゥラ家の中でもよくしてくれました。共に野を駆け巡り、共に知識や戦技を磨いたかけがえのない友人です。」
「陛下、私はアインハルト・ストラトスという名前以外にもう1つ名前を持っています。…ハイディ・E・S・イングヴァルトと言う名前を。」

 驚き彼女の顔を見る。青と紫の虹彩異色な瞳が思い出の中の彼と重なる。

「まさか…クラウスの…」
「それと…断片的にクラウスから継いだ記憶も持っています。教えて貰えませんか? どうして行ってしまったんですか? 必死に叫んで止めたクラウスを置いて…どうして彼を一緒に連れて行ってくれなかったのですか? 陛下と別れてからのクラウスは酷く悲しんでいました。」
(必死に止めた…そうですか…彼女はあの記憶を…)

 何の事を言っているのか気づく。

「それは…その答えはハイディ…いえ、アインハルトさん、あなたが既に持っています。」
「えっ?」
「ここは本当に面白い時間です。ヴィヴィオ・チェントだけでなく夜天の王、イクスヴェリア…そしてクラウスの子孫にまで会えるなんて…」

 偶然にしては出来すぎている。
 神が居るならこの必然を作ってくれた事には感謝したい。

「私が持ってるってどういう意味でしょうか?」
「アインハルトさん、あなたはあなたの出会い…あなたの世界を大切にしてください。もしクラウスが見ていたら喜ぶでしょう。私が彼の子孫と会えた事に…。私も嬉しく思います。」
「……!!」


 
 ハイディ・E・S・イングヴァルト。
 私のもう1つの名前。彼の記憶と同じ様に強さを求めていた。
 記憶の中の彼女、死地に向かうオリヴィエを追いかけられなかった弱さを乗り越える為に。

 強くなりたい。
 誰よりも強く
 彼女を助けるために…2度と悲しみを繰り返さない為に…

 その思いから私は猛者を求めた。
 その最中彼女を複製母体とする少女の存在を知り、ヴィヴィオと出逢った。
 思いが彼女と共に強くなりたいと変わり始めた頃から彼の記憶が夢に出てくる事は減っていた。
 そして今、過去の管理外世界に飛ばされて彼女に逢った。
 溢れてくる私の中に居る彼の強い思い。
 どうして手を振り切って行ってしまったのかという叫び。

「それは…その答えはハイディ…いえ、アインハルトさん、あなたが既に持っています。」
「アインハルトさん、あなたはあなたの出会い…あなたの世界を大切にしてください。もしクラウスが見ていたら喜ぶでしょう。私が彼の子孫と会えた事に…。私も嬉しく思います。」
「!!」

 彼女の言葉で気づかされた。
 記憶の中にある戦いの中、あの時もし彼女が振り返り、歩みを止めていたら…もし彼の手が彼女に届き行かせなかったら…
 ……私はここに居ない。

 オリヴィエはアインハルトの手をそっと手を取り胸の前でやさしく抱く。

「クラウス…あなたの血を継ぐアイハルトに逢えました。生きてくれて…ありがとう。」

彼女の瞼が少し光る。

「陛下…」

 彼女の背後にクラウスが立っているのが見える。彼の瞳は彼女を優しく見つめていた。   

(それが…理由だったんですね。)

 今夜、私は夢を見るでしょう。
 今までの悲しい別れをした2人の夢ではなく、再び会えた彼女と彼が庭園で幸せそうに笑っている夢を…
 

~コメント~
 ヴィヴィオがもしなのはGODの世界に行ったら?
「想望する者」、時を越えた出会い。今話はなのはGODでは叶わなかった2人の出会いです。
 ヴィヴィオと一緒に来たスバルとなのはGODの世界に登場したトーマ。As世界で唯一行っていないのが「未来」です。
(Vividは未来ではなく別世界として捉えています。)
 そして、もう1つはオリヴィエとアインハルトの出会いです。  AffectStoryでオリヴィエを登場させようと考えた時からアインハルトとの出逢いは考えていました。
 オリヴィエ・クラウス・アインハルトの繋がりは色々思うところもあり、又Vividでも語られると考えて独自解釈しています。

(少し追加)
 先日Web拍手にこんな質問があったので追加させて頂きます。
「アリシアとプレシア、チェント(オリキャラ)を加えようと思ったのはどうしてですか?」

 アリシアはヴィヴィオを主人公にしたSSを書こうとした時、ヴィヴィオと同年齢のキャラクターが居なかったのが理由です。
 AnotherStory(旧AnotherDays)掲載開始当時はVividもまだ連載されておらず、同年齢のキャラクター該当としてはカレル・リエラ(クロノとエイミィの子供)か月村雫(なのはの元になったとらいあんぐるハートに出てくる高町恭也と月村忍の娘)が居ました。
 でもヴィヴィオがなのは1期の時間に行くコンセプトでは3人とも上手く使えない(3人ともどういう性格なのかわかんない)…じゃあ他に誰かいる? となった時に居たのがアリシアでした。
 もしアリシアを出さずにカレル・リエラ・雫やヴィヴィオSS掲載前にVividが連載されていたら大きく変わっていたかも(苦笑)
 アリシアはAnotherStoryでは最後に少し登場しAgainStoryでは過去と現在の繋ぎ役でしたが、その間にある程度の性格付けが出来たのでAgainSTStoryから本編に関わっています。

 プレシアについては彼女の役回りでしか動けない事が多かったのが理由です。プレシアの役回りというのはASシリーズの根本な設定で
「アリシア・フェイトの母(公式設定)」
「人造魔導師計画を知っている(公式設定)」
「登場時に管理局・聖王教会のどちらにも所属していない(公式設定)」
「ヴィヴィオの時空転移能力を知っている・影響を受けている(ASシリーズ設定)」
 全部を受け入れられそうなのがプレシアだけでした。 
 

 チェントはAgainStoryの終盤に次回作の案を練ろうとなのはStrikerSを見ていた時に浮かんだ疑問から生まれました。
 スカリエッティはもし自分の身に何かあってもナンバーズの誰かが無事であれば再生出来るようにする程用意周到です。そんな彼が1隻とは言え勝敗を左右する聖王のゆりかごを動かす為にマテリアル(ヴィヴィオ)を1人しか作ってなかったのはおかしい。
 この疑問からヴィヴィオと同じマテリアルが他に居てもいいよね…となりイタリア語の100の読み方なオリキャラ「チェント」が生まれました。
 当初はヴィヴィオの妹にするつもりだったのですがAgainSTの話が終わってから簡単に仲直りは出来ないよねと思いテスタロッサ家の末娘という立ち位置になりました。(丁度劇場版のアリシアの台詞で「妹が欲しい」という話もあったのでそれにも便乗)
 尚、聖王のマテリアル(候補?)は他にも何人も居ると考えてAgainSTStoryで少しだけ触れています。
 今思えば、ヴィヴィオとご近所や過去や未来を巻き込んだ姉妹喧嘩とか色々楽しいイベントネタもあったのにとちょっと後悔 



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