第14話 「パートナー」

「よし、今日はここまで。明日はスターズが思念体待機になるから手伝えない。」
「ハァッハァッ…ありがとう、ございましたっ」

 アースラの訓練室で息を整えながらヴィータに頭を下げる。
 バリアジャケットの姿で汗だくで息があがったヴィヴィオに比べて訓練服なヴィータとシグナムは息どころか汗ひとつかいていない。

「明日は私が相手をしよう。」
「よ、よろしくおねがい、します…」

 それは1時間前の夕食での出来事。
 ヴィヴィオが途中で会ったアインハルトとヴィヴィオ、そしてスバルとチンクが連れてきたトーマとリリィが加わって、夕食は凄く賑やかになった。
 トーマとリリィを紹介された瞬間、刻の魔導書で見た2人とヴィヴィオは確信する。

(これで…魔導書が見せてくれたイメージが全部揃っちゃった…)

 それは事件が進んだ事を意味している。



「シグナムさん、ヴィータさん…お願いがあるんです。」

 地球の料理を堪能している2人の所へ行ってテーブルの反対側に座る。

「ん? お願い?」
「ああ、我らで出来る事なら」
「私の…聖王の鎧を壊して欲しいんです。」
「「うん?」」

 2人が箸を置いてこっちを見る。

「鎧を壊す?」
「今、私が作れる聖王の鎧は無意識に生まれるのと咄嗟に意識して強くする2種類です。どっちもベルカ聖王家と戦った時は作れません。でもオリヴィエさんは凄く強い魔力シールドを作ってました。私もあの力が使えたらって。私…今、前みたいに全力出せないから…」

 2人ともオリヴィエとの模擬戦を見ている。

「ヴィヴィオ、なのはとフェイトじゃなくて私達でいいんだな?」

 ヴィータが少し離れた所に居るなのはやフェイト・はやてをチラリと見て聞いた。

「はい。お願いします。」

 ヴィータの言う通り本当はなのはとフェイト、オリヴィエに頼んでも良かった。でもなのはが鎧を壊すには結界破壊属性付加した魔法を使うかACSしかない。フェイトはその点幾つか魔法を持っているが、ヴィヴィオに危険が伴う攻撃は避けてしまうだろう。それでは鎧は壊せない。
 それに、はやてを含む3人は別世界のヴィヴィオとアインハルト、トーマとリリィから事情を聞いて今後の方針を話している。
 オリヴィエなら頼むと頷くだろうがあの模擬戦以降何故かヴィヴィオを含む誰とも模擬戦をせず、自主練習でも見てアドバイスするだけで…。
 だからシグナムとヴィータに頼んだ。
 2人とも近接戦が得意で強力なシールドや結界でもものともしない。更になのは達と違って手加減は一切ない。


 
 食事後、アースラの訓練室を使いヴィヴィオの訓練は始まった。
 ただ単に立った状態で鎧を張る練習をしても意味が無いというヴィータの話を聞き、模擬戦形式をとった。
 思った通り騎士甲冑状態でも増幅機能を切った途端、魔力の生成能力がガクンと落ちてシューターやバスターの威力も落ちた。それでもヴィヴィオはシューターを牽制代わりにし近接戦に持ち込もうとしたのだが

「ヴィヴィオ、しっかり受け止めろよっ!!」
(し、シールドっ!!)

 グラーフアイゼンの重い1撃がヴィヴィオを襲う。咄嗟に張ったシールドは一瞬で壊され危険を察知して聖王の鎧が展開される。

「ラケーテンッハンマァアアアッ!!」

 カートリッジが吐き出され、勢いが一気に増す。その勢いに押されて

「!?」

 吹っ飛ばされ壁に激突した。
 攻撃そのものは防げても威力までは止められず、体重を軽いヴィヴィオもろとも吹っ飛ばしたのだ。

「大丈夫かー?」
「イタタ……はい。」
「ヴィヴィオ、さっきの攻撃でも聖王の鎧は壊れなかった。鎧に頼らないでっていう気持ちは褒めるけど、下手に作ったシールドよりよっぽど強力だぞ。今の1撃かなり本気でいった。Sランクでも簡単に浮けとめられねーよ。それよりもだ…」
「ヴィヴィオ、今の魔法力ならバリアジャケットの方がまだマシだ。オリヴィエ王女どころかシグナムをペシャンコにもできねーぞ。」
「誰がだ! 何故全力を出さない? 手を抜いていないのは判るが、そのまま思念体の前に出ては返り討ちにされてしまう。」
「…私とRHdの全力…アレは…暴走状態だったんです。だからいつも…使った後にリンカーコアが消耗してRHdもメンテして貰わなくちゃいけなくて…次使うとRHdが壊れちゃう…」

 RHdが壊れるかも知れない力は使いたくない。

「…ヴィヴィオ、お前達は誰かに測られた中でしか動けないのか?」
「えっ?」

 思わずシグナムの顔を見る。

「私もレヴァンティンが壊れるのは怖い。だが怖いからと言って力を出し惜しみしてはデバイスは自分が信頼されていないと思うのではないか?」
「そんなことないです。RHdは私と一緒に何度も頑張って……」

そこまで言ってハッと気づく。
 魔力増幅を使えば壊れる。そう思い込んで肝心のRHdには何も聞いていなかった。

「ヴィヴィオ、お前がデバイス、RHdを信じねば誰が信じるんだ? レイジングハートセカンド…不屈の心を継いだデバイス。RHdもヴィヴィオから話して欲しいのではないか?」
「ヴィヴィオ、訓練にはつきあってやる。でもその前にちゃんと話した方がいいぞ」 
「うん…ありがとうございます。シグナムさん、ヴィータさん」
「では次は私だ。バリアジャケットでいい。いくぞっ」

レヴァンティンを抜いて構えるシグナムに

「お願いしますっ!!」

 騎士甲冑を解きバリアジャケット姿に変わったヴィヴィオは正面から向かっていった。



「ヴィヴィオが暴走してるって…はやてちゃん、止めなくていいんですか?」

 リインは隣に居るはやてに聞く。ヴィヴィオがシグナムとヴィータと共に模擬戦しているのを見ていた。

「ええよ…シグナムもヴィータも十分わかってる。ヴィヴィオはデバイスを壊したくない、失いたくないって怖がってる…でもそれは見方変えたらデバイスを信じきれてへんって事でもある。」
「デバイスを信じきれていない…ヴィヴィオがですか?」
「信じ切れてへん…というより心配しすぎてるんやね。リイン、もし私がリインを信じてへん、何処にいても一緒やから家に残っときって言ったらどうする?」
「凄く悲しいです。わんわん泣いちゃうです。」
「じゃあ…リインの事大切やから危険な目に遭わせたくないからずっと安全な家に居て欲しいって言ったら? 勿論リインの事を信じてるよ。」
「そうですね…信じてくれて嬉しいですけど、一緒に連れて行って貰えなくて泣いちゃいます…あれ?」

 その答えを聞いてクスッと笑う。

「ヴィヴィオがRHdに思ってるのはそういう事なんや。」

 騎士甲冑モードが暴走していたというのはプレシアかリンディあたりから聞いたのだろう。信頼している人からの忠告だから信じ込んでしまって次はきっと暴走してしまう、RHdを壊してしまうと決めつけて脅えてしまい全力が出せなくなってしまった。

「でもな…デバイスはみんな主と一緒に居たい、力になりたいって思ってる。シグナムとヴィータはそれに気づいて欲しいって考えてるんや。」
「なるほど~♪」

 シグナムは模擬戦でヴィヴィオに敗れた後、何度も再戦をしたがっていた。彼女から避けられているのに気づいてからはヴィータまで巻き込んではやてに彼女との模擬戦を頼んでいた。
 はやては彼女がなのはの娘で古代ベルカ式魔法の使い手だからだと考えていた。
 しかしオリヴィエとの模擬戦を見てから2人とも模擬戦の話をしなくなった。
 その時気づいた。
 シグナムはヴィヴィオとの模擬戦で何か致命的に脆い部分を見つけたのではないか? それを確認するために何度も要望し、ヴィータまで巻き込んだのではないか?
 彼女がこの先墜ちる前に教える事があるから…
しかしそれはオリヴィエ戦で何らかの答えをみたのだろう。だから言うのを止めた。シグナムは雪辱戦ではなく彼女を案じていたのだ。
(まぁ私もシグナムの事わかってなかったんやね…)



「トーマさんとリリィさん…でいいですか?」

 ヴィヴィオがシグナム達と練習している間、アリシアはランチスペースにある椅子に座ったトーマとリリィの側に行った。近くには別世界のヴィヴィオとアインハルトもいる。

「僕に用? えっと…フェイト執務官の…子供?」

 思わず転けそうになる。

(ま、まぁ…数年後のフェイトの子供って思われても…)
「フェイトの姉のアリシアです。年と格好については聞かないでください…ややこしくなるから。そうじゃなくてトーマさん、リリィさん知っていたら教えて欲しいんです。どこかでキャンプした時たき火を囲んでいませんでしたか? あともう1人別の女性と一緒に」

 ヴィヴィオが見た刻の魔導書のイメージ

『3つの光景が見えました。1つは私とシュテルとレヴィ…闇の書のマテリアルと居た砂漠。次に学院の教室で、でもここじゃなくてコロナとリオが居ました。多分もう1人の私が居る世界。最後はたき火を囲んだ1人の男性と2人の女性がいました。でも…私、3人とも知りません。』

 1つめはレヴィ達闇の書のマテリアルが居る世界、つまりは此処。
 次に見えたのはコロナとリオの居る世界、もう1つの世界でヴィヴィオやアインハルトが居る世界。
 残ったのはたき火を囲んだ1人の男性と2人の女性が居る世界。

「キャンプ…たき火…」
「トーマ、私達が会った後じゃない? 誰かに追われて町に行けなくなっちゃった時、アイシスと」
「…あっ、あったあった。たき火の前に居たよ。僕とリリィとアイシスと…どうしてアイシスの事知ってるの?」

 トーマの答えを聞いてゴクリと息を呑んだ。
 トーマとリリィの姿を見た後、ヴィヴィオの様子が変だった。食事中何かを考えていたかと思えばシグナムとヴィータの方へ言ってそのまま2人と共に出て行ってしまった。
 いつもならヴィヴィオやアインハルトと一緒にご飯を食べようとかお話しようと言うのに…
 その時はどうしてかわからなかった。でも今ならわかる。

 刻の魔導書が見せた3つの世界、それが揃ったのがわかった。

(何か起きようとしてる…だからヴィヴィオ…)

 魔法もろくに使えず、この場では何も出来ない…その無力さが悔しくて…

「アリシアさん…泣いて…」
「えっ、僕何か悪い事言っちゃった?」
「ごめんなさい、何でも…何でもないから…」

 その時のアリシアはただトーマ達を狼狽えさせるだけだった。



「ねぇエリオ君…私達ここに来て良かったのかな? ここに居ても何も出来ない…」

 ヴィヴィオがシグナムとヴィータと一緒に出て行き訓練場へ入っていったのを見たキャロとエリオはそのまま甲板に出た。
 満月が波に写り幾つも月があるように見える。潮風がキャロの髪をすく様に過ぎていく。

「キャロ、きっと僕達にも出来る事がある。フェイトさんからヴィヴィオの事聞いて最初は驚いただけだった。でも…僕もキャロもヴィヴィオが悩んでいたら支えてあげられると思うんだ。」
「私達が?」
「うん、僕達もヴィヴィオと似た悩みを持っていたから…何が出来るかはわからない。でも何か出来ると思う。」

 私達の悩み…それを思い出した。今ではどうしてそんなことで悩んでたのかって思うくらい…
 でもその悩みから助けてくれた彼女の様に、私達も出来る。

「そうだね」

そう呟き、隣で海を見つめる彼の肩そっと身を寄せた。



「うん…全員合流したみたい。今は何も起きてない。…うん、こっちは大丈夫。そう…わかった。気をつけてね」
「寒くなってきたから帰ろ~」

 臨海公園でセンサーを飛ばして見ていた彼女はセンサーを回収し近くの波間で遊ぶ少女へ声をかけた。

「はい♪」

 走ってきた少女と手を繋ぎそのまま夜陰に消えていった。



~コメント~
もしヴィヴィオがなのはGODの世界に行ったら?
想望する者、今回はヴィヴィオとRHdの関係です。
 全力でデバイスを使うと壊れてしまうとわかったら。強化されるまで使わないかわかっていても使うか…その違いはデバイスとの信頼関係ではないでしょうか。
 なのはA'sでなのははエイミィから止められていましたが、レイジングハートの意思を知ってエクセリオンモードを使いました。
 ヴィヴィオはどんな答えを出すのでしょうか 

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