第15話 「想い人」

 ヴィヴィオが訓練室で汗を流していた頃、医務室では先に目を覚ましたプレシアが熱にうなされるチェントの額に塗れタオルをあてていた。
 治癒魔法で癒せるのは怪我だけである。
 彼女の場合、レリック片を取り込み一時的に聖王化した影響で体内に制御できない魔力が溜まって発熱を起こしていた。
 今はオリヴィエの魔法によって体内で暴れていた魔力を抜き取られて和らいでいる。
 後はゆっくり休養させるしかないらしい。
「本当に…無茶するんだから…」

 U-Dの3射目を受けていたらプレシアだけでなくアリシア・チェントもろとも消し飛んでいた。
 それを幼い体で防いだのだから…
 小さな手が何かを求めて動くのを見てそっと握る。
手を掴んで彼女の表情が少し和らいだ。 

「プレシアさん…チェント…どうですか?」

 暫く経ってヴィヴィオがトレイを持って入って来た。食事を持ってきてくれたらしい。

「ええ、体内の魔力はもう無くなったから休んでいれば自然に目を覚ますだろうって。」
「良かった。今日買い物に行った時にチェントが好きそうなお菓子あったので買ってきました。起きたら2人で食べてください。」

 ヴィヴィオとチェント、オリヴィエを複製母体とする2人。
 同一人物と言って良い2人は同族嫌悪から会えば必ず互いに憎み合うと考えていた。
しかし今2人は互いに別の存在だと認識し始めている。
 それが2人の個性の表れとも思え嬉しかった。

「ありがとう。守ってあげなくちゃいけないのに、私が守られるなんて…母親失格ね」
「それ違うと思います。チェントはきっとプレシアさんとアリシアが居たから守った、優しくしてくれる人じゃなくてプレシアさんが本当のママで、アリシアがお姉ちゃんだって思ってるからレリックを使ったんだと思います。ちゃんと食べてくださいね。チェントが起きた時、ママが居なかったら悲しいもん。」
「ありがとう。そうね、頂くわ」

 そう言ってヴィヴィオは医務室を出て行った。

 出かける時、彼女が見せる屈託のない笑顔、時々見せる我が侭や泣いた顔を思い出す。
 その全ては母親だから見られる顔…

「子供の心、誰かに言われるまでわからないなんて…本当、母親失格ね。」

 自嘲し呟く。

『全く…本当にそうですよ』
「誰っ? …嘘…!」

 目の前に現れた姿を見てプレシアは言葉を失った。



『遅くなってすまない、こちらクロノ・ハラオウンだ。リンディ艦長より話は聞いている。U-Dを発見した。』

 夜も更けた頃、艦橋にアラームが鳴りクロノからの通信が届いた。

「ナイスっクロノ君!!」
『リ、リーゼ達からの報告だ。近隣世界で異常な魔力を発見、不測の事態に備えユーノに先に行ってもらった。魔力量かU-Dと見て間違いないだろう。動き出す前に保護したい、全部隊の出動を要請する。』

 モニタに映ったはやての顔を見て一瞬驚いたらしく言葉につまる。

「了解、スターズ、ライトニング・ヴィヴィオ・チンクにスタッフルームに集合するよう連絡。各部スタッフも起こして持ち場について。現地チームにも状況報告して通信接続。残りのマテリアルか姉妹が出て来たらすぐに転送出来る様準備。U-Dを安全確実に保護するよ。」
「「「「「了解」」」」」

 艦橋が慌ただしくなる。
 現役のアースラのシールドを貫く魔力を持つU-D、そんな次元違いの魔力保持者を保護できるのか? 
 はやての額を冷たい汗が流れていった。



「U-Dが見つかった!?」

 スタッフルームへと走るヴィヴィオ。そこに念話が飛んできた。

『ヴィヴィオ、私も行く』
『ヴィヴィオ、私も後を追いかける』

 なのはとフェイトからだ。はやてを1撃で落とした彼女だから気になるのだろう。

『わかった。先に行くね』  

 そう言って走る足に力を入れる。

「ここの未来を守るためにも…助けなくちゃ!!」



「見つけましたよ、システムU-D」
「あなたの持つ『エグザミア』を私の妹に渡さない様に、私に協力してください」
【永遠結晶エグザミア、これは私の大切なものだ。これが無くなれば私はこの体を保てなくなってしまう。】
「そうなんですか? それなら余計に好都合。私が護りますからどうか安全な場所に」
【君は時の旅人…この時代の人間じゃない…いや、人間でもない。エルトリアの『ギアーズ』…それは…】
「そうですよ…私は…」
「そこまでよっ! 王様も頼りにならない、治癒術市は思う様にならない…でも私は大丈夫! 最悪エグザミアさえあればなんとかなる!! 私達の未来で、博士に希望をあげられるッ!」
「キリエッ! 博士が決めた『ギアーズの定め』忘れたわけじゃないでしょうっ!? 時を、運命を操ろうなんて思ってはいけない。厳然たる守護者であれ。だから私は守りたい。博士の教えと定められた運命をっ!」
「守ればいいでしょ、お姉ちゃんはっ! 私は出来の悪い妹だから博士の言いつけなんか守らないっ! それで博士が悲しいまま死んじゃうより、ずっとずっといいんだからっ!!」



『こちらユーノ。U-D出現、あの姉妹も来た。』
『うわ…これ戦闘になりそうな感じ』
『離れるよ、アリア、ユーノ』
「聞こえる? ユーノ君、アリア、ロッテ今からそっちに応援送るよ。」

 発見した世界が無人世界で良かった。そう思いながら

「スターズ・ライトニングの転送準備、現地チームはその後転送。ヴィヴィオもっ!」
『待って、転移する!?』
「転移っ!?」
「海鳴市上空に強力な魔力反応発生。メインモニタに映像出します。」

 リインがセンサーを使ってモニタに映像を出す。
 魔力値計測が同時に行われ桁違いの魔力がグラフとなり表示される。

「魔力値……こんな魔力…マスターっ!!」
「あれが…U-D…マズイっ市街地で戦闘されたらっ…アースラ緊急発進。フィールド展開準備、急いで。」

 無人世界から飛んできた…どうやって? それよりも市街地で戦わせる訳にはいかない。
 焦るはやての声を背にヴィヴィオは1人スタッフルームから駆け出た。
RHdから悠久の書を取り出す。

「悠久の書、お願い。私をあの場所へ飛ばしてっ」

次の瞬間、ヴィヴィオの姿はアースラから消えていた。



『フェイトちゃん、私達でここを守らなきゃ』
『行こう、なのは』
『私らも忘れんといてな。みんな全快や。』
『この前の雪辱、晴らさせて貰う』
『ああ、きっちり返してやる。』

 暗闇に包まれた海鳴市上空に現れた更なる闇、そこに地上から8つの光が昇っていく。そして同時に一筋の光が降りていった。



【白兵戦システム起動……出力35%】
「キリエェッ やめなさいっ!」
「黙ってお姉ちゃんッ! 1度決めたら諦めずにやりとおす。私は博士にもお姉ちゃんにもそう教わった!!」
「キリエェッ!!」

 銃を構えるキリエ。U-Dの魔力が集束されていく。
 双方が動こうとした瞬間。

「戦っちゃダメェエエッ!」

 2人の間に虹色の球体が生まれ中からヴィヴィオが姿を飛び出した。驚き距離を取る2人。

【!!】
「!?」
「間に合った…」
「キリエさん、U-D。駄目だよ戦っちゃ。」
「あんた…」
【…ゆりかごの聖王…】
「3人とも話を聞かせて。みんなで考えたらきっと良い方法も見つかるよ。」

 異世界の2人が何をしたいのかわからない。
 でもそれがわかれば戦わずに済む方法もきっとある。ヴィヴィオはそう考えていた。

「そうそう♪」
「みんなで一緒に…」
「そうやな」
「なのは、フェイト、はやても…」
「U-D、キリエさんと…キリエさんのお姉さん。話を聞かせて下さい。もうあなた達の問題だけじゃ無くなってるんです。」

【……高魔力、騎士レベルの存在を多数確認。自己防衛の為対象を排除します。白兵戦システム…出力60%】

白兵戦システム? 白兵戦…排除…!?

「誰だかわかんないけどそこのちびっ子どきなさい。巻き込まれるわよっ!」
「ま、まって!!」
「うるさいっ!!」

 ヴィヴィオは咄嗟にキリエの腕を掴もうとするがもの凄い力で振り飛ばされた。

「キャアアッ!」
「ヴィヴィオ!!」

 吹き飛ばされた所を受け止められる。

「っと、アミティエと言います。妹が無茶してすみません。ああっそれよりも止めなきゃ」
「えっ…!!」   

「我が主、リインフォース離れていて下さい。我らが相手をシャマルっ!」
「わかったわ…結界展開」
「はやてとリインフォースがやられた分、きっちりかえしてやるーっ!!」
「響けっ鋼の吐息っ!!」
「シグナムっ、ヴィータも止めてっ、ザフィーラっシャマルっ!!」

 叫ぶはやての言葉に耳を貸そうともしなかった。



 ……私はリンディさんとはやて、アリシアに何があったか聞いただけだった。
 もし主や家族、友達を傷つけられて黙って見ていられるか?
 私の時間のシグナムさんやヴィータさんなら冷静に判断出来ただろう。でも…

「私のっ、主の言う事聞いてっ!!」

 必死になって叫ぶはやてに耳を貸さない守護騎士達…
 永い時を経てようやく辿り着いた安らぎの場所と優しい主、それを壊そうとした原因…
 見つけた時から守護騎士達は抑えていた怒りが爆発していたのだ。

「我が主、ヴィヴィオ離れて下さい。」

 唯一リインフォースだけが私達を守ろうとしてくれてる。

「ダァリャァアアアアアッ!!」
「紫電…一閃!!」

 U-D・キリエ・守護騎士という3つ巴の状態にヴィヴィオは勿論なのは達、アミティエも手が出せない。シャマルが結界を張っているから地上には被害が出ていないが、それも時間の問題。

「お願いやから止めてっ!! シグナムっ、ヴィータっ、ザフィーラっ!!」

 はやての声が悲痛に響いている。
 その状態に見るに見かねた者が居た。

「ヤレヤレ…」
「いくら血の気が多いと言っても」
「主の声も届かぬか…」
「「「!?」」」 

ガキッっ金属がぶつかる音の後、現れたのは

「ザフィーラ、シグナムさん、ヴィータさん!!」

 シグナムの剣閃を止めるシグナム

「主はやての叫びが聞こえないのかっ!」

 愛機グラーフアイゼンで死角からヴィータを思いっきり叩き飛ばすヴィータ

「熱くなってんじゃねぇえええっ!!」
「グアッ!!」
「ハアアアアアッ!!! 我が主の悲しむ声が聞こえぬかっ!!」
「ウヌッ!!」

 氷の檻にザフィーラを閉じ込めるザフィーラ。

「あなたまで熱くなってどうするの…一緒に結界を強化するわよ」

 3人とは違いおでこをコツンと叩くシャマル

「…ごめんなさい…」
「シャマルさん…」



「ふぅ~…なんとか間に合ったわ。」

 モニタに映ったシグナムとヴィータの顔を見て怒りの感情を見て取ったはやては直ぐさまシグナム達4人を転送した。

「続けてスターズの転送を…待って!!」

 バリアジャケット姿のなのは達を止めた。
 ほんの一瞬だが、U-Dの視線がセンサーを見たのに気づいた。

「プレシアさん、アリシアからプレシアさんが砲撃した時U-Dはそれを使って攻撃したって聞きましたが本当ですか?」 

 医務室へ繋いで確認する。何故か彼女の映像が出ず声だけが帰ってきた。

『ええそうよ。次元を越えた砲撃は軌跡が残る。U-Dはそれを使ったのよ。』

 しかし今はそんなことを考えている余裕はない。

「まずい…センサーカット。軌道上へ移動」
「はやてちゃん?」
「はやて?」
「U-Dはこっちも狙ってる。アースラが落ちるだけちゃう周りに被害を出る前に動かんと、転移や通信の軌跡を追われてしまう。」
「じゃあヴィヴィオ達は? このままじゃっ!」
「……」

 艦橋になのはの悲痛な声だけが響いた。 


 
 一方で3人は止められたが、U-Dとキリエの戦闘は続いていた。

「あっちも止めなきゃ。行くよRHd…」

 私が相棒に声をかけた瞬間

「キャアアアアア!!!」
「キリエさんっ!!」

 U-Dの巨大な爪を食らって飛ばされたキリエに更なる攻撃が撃たれようとしていた。



~コメント~

ヴィヴィオがもしなのはGODの世界に行ったら?
 シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの4人の怒り、ようやくたどり着いた平和な日々とはやて・リインフォースを傷つけたU-Dに対して平静でいられるか?
StrikerS位まで同じ時間を過ごしていたらその辺りの気持ちも整理出来ていると思いますが…当時の4人はどうでしょうか?


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