番外編 「刻の移り人」

 時間軸同士の衝突を止めた私達は元の時間に戻って来ました。
 写本…ううん、悠久の書は刻の魔導書より私のイメージ通りに転移出来るみたいで、アースラ毎時空転移した数分後に戻って来れて騒ぎも起きませんでした。

「ヴィヴィオ、今日も無限書庫?」
「ううん、今日は大丈夫。」
「じゃあ、一緒に帰ろ。ヴィヴィオ好みの可愛い服見つけたんだ~♪」
「うん♪」

 でも、私ともう1人の時空転移資質を持つチェントを除いてママ達を含む全員の記憶を操作しなきゃいけなくて…本当にごめんなさい。
 アリシアも…ごめんね。

 それから何もなかったかの様に日が過ぎていきました。
 アミタさんがくれた記憶操作する機械は隠したいところだけを曖昧にするみたいで、オリヴィエさんは遠い管理外世界からミッドチルダに来た教会騎士で、暫く私の家でホームスティしていたという風に変わっていました。
 それを聞いて慌てて騎士カリムとシャッハさんの記憶を変えに走ったんだけど…
 
「ただいま~…」

 家に帰ってドアを開ける。まだこの時間になのはとフェイトは帰ってきていない。
 数日前まではおかえりなさいと言ってくれた彼女が居た。
 彼女が居なくなったのが実感できる時間…少し寂しい。

「…宿題終わらせてから魔法練習しなきゃ…」

 呟いて階段を上がり自分の部屋に入る。



その夜、ヴィヴィオは再び夢を見た。

「ここは…前の世界?」

湖や草原、その奥に見える森。ここは彼女と会った世界。でも…

「こんなに綺麗な場所だったんだ」

 前に見た時はセピアかかっていたけれど、今見ている光景は自然と笑みが零れるほど美しい世界。

「もしかして…居るのかな」

 居ても立っても居られずそのまま飛び立った。きっとそこに彼女がいる…。森を抜け草原を暫く飛んで行くと遠くに城が見えた。そしてその前に1人の人影
 彼女の前に降りる。

「オリヴィエさんっ!」
「また会えましたね…ヴィヴィオ。」  

 ニコリと笑ったオリヴィエが言った。

「もう1度会いたいと思っていました。ヴィヴィオに伝えたい事があるのです。」
「私に?」
「はい、私の残した…彼女をよろしくお願いします。」
「彼女?」
「すぐにわかりますよ。」

 ニコリと笑うとオリヴィエは風景ごと消えてしまった。



「折角会えてもっとお話したかったのに…全然わかんないよね?」

 翌朝、学院に登校したヴィヴィオは夢の話をアリシアにする。

「変わった夢だね…でも、夢って言うより夢を使った念話みたいなものなのかな? チェント、朝は何も言ってなかったしヴィヴィオだけに伝えたい事あったんじゃない? 思念体になってまで会いに来たんだから」
「………」

 思わず固まる。

「………」
「…………」
「……ねぇアリシア…まさか…ユーリの事も?」

 恐る恐る聞く。

「昨日思い出した。夕ご飯食べてる時にチェントがオリヴィエくる? って聞いたんだ。その時私とママは。ヴィヴィオがどうして記憶を操作したのかもね。気にしてないよ。アミタさんに言われたら仕方ないよね。そうじゃなくて夢の話。」
「うん、残した…彼女って?」
「ヴィヴィオやチェントじゃないよね?」
「私達なら残したって言わないでしょ」

 残した物…貰った物であれば既にヴィヴィオは沢山の物を貰っている。刻の魔導書やレリックとのリンク。聖王ヴィヴィオを受け入れた。彼女に会えなければ時空転移の意味を考える事は無かった。
 そして何よりも彼女がここに来たから、複数の時間軸がぶつからずに済んだのだ。
 2人でしきりに首を傾げて考えていたけれど、結局答えは出ず。

「すぐにわかるって言ってたんだったら、言った通りわかるんじゃない?」
「…そうだね。」

そう言って2人の話は終わった。
 その時は2人ともそのうちがこんなに早くわかるとは思っていなかった。


 午前中の授業が終わり、教室でお弁当を食べていると、

【PiPiPiPi】

 RHdに通信が鳴る。

「スバルさん?」

 彼女からだとマリンガーデンの話か、それともアリシアみたいに封印した記憶が戻ったのか…

「はい、ヴィヴィオです。」
『ヴィヴィオっ、イッイクスが目を覚ました!!』

イ、イクス…アリシアと顔を見合わせ一瞬考える。

「イクスっ!?」
「嘘っ、だって早くても100年くらい目覚めないって聞きました。」
『そ、そうだったんだけどさっき起きたんだって。マリエルさんと聖王教会に向かってるからヴィヴィオ達も授業が終わったらすぐに来てっ!』
「はい」

RHdの通信を切って2人で息をつく。

「オリヴィエさんが残した物って…もしかして…」

 マリアージュ事件で保護された冥王イクスヴェリア。彼女は予定外の目覚めをしてしまい体内の昨日不全が原因でいつ目覚めるかわからない眠りについている。
 そんな彼女がどうして1年も経たずに…

「多分…」

 ヴィヴィオ達が学院にいる間、彼女はあまり外を出歩かず教会で日中を過ごしていたと聞いた。
 もっとこの時間を見たいと思っても良いはずなのにどうして外に出ないのかとなのは達も不思議がっていた。
 でも教会に居なきゃいけない理由があったなら…



「マリエルさんっ」

 そんな話を聞いてしまっては午後の授業は右から左へ抜けていき、授業で礼をしてすぐにアリシアと一緒に鞄を持って飛び出てきた。
 そして、教会本部でイクスが眠る部屋の前に来るとマリエルとスバルが居た。

「ヴィヴィオ、アリシア」
「お疲れ様。お医者様に診て貰ってるの。機能不全で、私達じゃどうしようもなかったところが殆ど治っていて…どうして治ったのかわからない。悔しいけど私達じゃお手上げ」

 暫くして医師が出て来て面会の許可を貰ったヴィヴィオとアリシアは部屋の中に入る。

「こうして起きてる時に会うのは初めてですね。イクスヴェリア様」
「2度目ですよ。私が眠る前に会いました。友達になりましょうと交わした約束、覚えていませんか? ヴィヴィオ」
「いいえ…ううん、覚えてますよ。イクス」

瞼が熱くなる。

「眠っている間に夢を見ました。夢の中でヴィヴィオそっくりな女性が言うのです。私にスバルやヴィヴィオ達と一緒に時を見て欲しいと。」

その言葉に確信する。

「イクス、私もその人を知ってるんですよ。」
「本当ですか?」
「はい。みんな驚かせたり騒がしてかき回すんですけど、私達のことをずっと強く想ってくれて…」
「本当に…自分の考えを押しつけちゃうからみんな大変で…でも、それは私達の事を思ってくれていたからそうしたんだってわかって…本当に優しいお姫様でした。」

 一瞬彼女の側でオリヴィエが笑っているのが見えた気がした。

「ほんと…最後まで驚かせてくれるんだから…」



~コメント~
 なのはシリーズでは大昔からもたらされた技術・魔法が多く登場します。ヴィヴィオの元になったベルカ聖王家オリヴィエやイクスヴェリア、夜天の書やロストロギア等々…
 前作AffectStoryはヴィヴィオに連なる物語というイメージで名付けました。今作~刻の移り人~はヴィヴィオにとって時空転移とは何か、ベルカ聖王の思いを考え、AnotherStoryから問われてきた答えを見つける話、ヴィヴィオが連ねる物語にしたいと考えました。
 
さて、コミケ82での当サークル鈴風堂の新刊頒布予定が全て整いました。
「魔法少女リリカルなのはAffectStory」全204P 800円の予定です。
 ヴィヴィオのオリジナル、オリヴィエがやってきてヴィヴィオやヴィヴィオの周りは大騒ぎ。
 ドタバタあり、バトルあり、シリアスありな1冊です。
 もしヴィヴィオの世界でMovie1stが作られたら?
アリシアがフェイト役、プレシアが本人役として始まる「Movie1st製作秘話」を書き下ろしています。
 表紙やおまけ等については静奈さんが載せるそうなのでお楽しみに。
 


 

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