第03話「最重要指定人物、高町ヴィヴィオ」

『アハハハハハハっ、ヴィヴィオははやて役? 全然似てねぇじゃんか♪』
『まさかそんな話になっているとはな。』
「笑い話じゃないよっ!!」

 ヴィヴィオがプレシアの研究施設で巡教中のイクスと通信を繋いだところ、近くにいたヴィータとシグナムが話に乗ってきた。ヴィータがモニタ向こうでお腹を抱えて笑っている。
「その時のヴィヴィオ、すっごく慌てていて面白かったんですよ。」
『アリシア、勿論撮ってるんだろ。帰ったら見せてくれよ。』
「はい♪」
「もーっ! 本当に笑い事じゃないんだから」

 そんなところを撮ってたのかと呆れるがそんな些細な事は今はいい。

『良いんじゃね? 受けてやれよ、は・や・て・役♪』
『ヴィータはいいのか? そうなればお前もヴィヴィオと演じるんだぞ』
『ああ、勿論いいぞ。何処の誰か知らない奴がはやて役するより楽しそうだしな♪』
『…なるほど…それもそうだな。』
「2人とも納得してないで、私がしなくていい方法考えてよ~!!」
 その様子を後ろから見守っていたイクスが口を開いた。
『ヴィヴィオ、私も夜天の王、闇の書の終焉には興味があります。ヴィヴィオが夜天の王を演じるのでしたら是非見たいです。』

 向こうは全員面白がっている。

「そうだ、イクスがはやてさん役すればいいんじゃない? イクスも王様でしょ。私よりも王様らしいし…」

 仕返しとばかりに言うと彼女は静かに首を横に振った。

『ごめんなさいヴィヴィオ。私は暫く巡教で他世界を回るので参加出来ません。』
『私達は途中で交代するけど、イクスはずっと巡教につきっきりだ。』
「そうなんだ…イクス、どう? 色んな世界を見てきてるんでしょ。」
『青い空だけでなく自然豊かな世界が沢山あって、その世界の住人も皆笑っていて、スバルが教えてくれた通り。良い世界です。』

 その言葉には重みがある。
 彼女はずっと戦乱の中か城中の記憶しかないのだからこんなに色んな世界を見たのは初めてだろう。

『イクス、そろそろ時間が…』
『わかりました。ヴィヴィオ、アリシア、またお話しましょうね。』
「はい、イクスがんばって」
「またね、イクス」

そう言って通信は切れてしまった。

「ヴィヴィオ…どうするの?」
「……わかんない…もう少し考える。」


一方…

「シグナムさん、ヴィータさん…行きましょうか」
「はい」
「はい」

 先程までとは打って変わって厳しい表情になった3人は静かに頷き部屋をあとにした。



「アハハハ、はやてちゃんらしいね」
「そんな話はあるって聞いていたけど、ヴィヴィオがはやて役なんて、クスッ♪」

 高町家の夕食の団らんでヴィヴィオが学院長室で聞いた話をするとなのはとフェイトは笑った。

「笑わないでよ~本当に困ってるんだからっ!」
「うん、でもジュエルシード事件の時も言ってたけど、私役をヴィヴィオにして欲しかったから、ママははやてちゃん役も良いねって思ってるんだ。」
「広報部の担当さんが話したの…きっとはやてが入れ知恵してるね。」
「ウンウン。はやてちゃんらしいよね~♪ 古代ベルカ式魔法が使える女の子って、ヴィヴィオしか居ないじゃない♪」

 彼が話した様に古代ベルカ魔法が使える少女で管理局に所属している…なんて本当に探しても私だけだろうとヴィヴィオ自身も思う。
 ジュエルシード事件の映像化はアリシアやプレシアの実在を証明する為に絶好の機会だったから影ながら応援していた。
 でも次の映像化は面白そう、見たいとは思うけれどそれ以上思うところはない。
 ヴィヴィオ自身が実際に過去へ行き闇の書事件を体験しているから…
 何より学院内でアリシアが一躍有名になった後の騒動を1番近くで見ていて、彼女と一緒に再びあの騒ぎに巻き込まれるのは…正直勘弁して欲しい。

「う~…」
「ヴィヴィオ、出たくないの?」
「うん…」

 事件を映像化して局員研修にするだけなら出てもいいかなと思っていたけれど、先の映像を見て局員研修用とは思えない所もあり…やりたくないとう気持ちの方が強い。

「もう少し考えてみたら?」
「うん……」

 なのはにそう言われて再び頷く。

「考える時間…あったらいいんだけどね」
「そうだね~♪」
「ママ達、それってどういう?」

 的を得ない母達の言葉にヴィヴィオは不安を覚えるのだった
  

 
 丁度その頃、クラナガン近郊にある八神家でも

「はやてちゃん、そんなこと言っちゃったんですか。」
「私も横で聞いていて思わず床に落ちそうになったです。」

 食事の団らんの中で話題にあがったのは勿論闇の書の映像化についてだった。
 はやてが予想した通り、執務室にくる直前を見計らってシャマルとザフィーラの所にも広報部の局員が来たらしい。彼が帰った後に端末を見てみるとシグナムからメッセージが入っていてシグナムとヴィータの所にも局員が来たという。
 唯一家族の中でアギトだけが除外されていて拗ねていたらしい。

「ヴィヴィオも苦労する。」

 ザフィーラの呟きに同意するようにリインが強く頷きながら

「きっと凄く怒ってるですよ~、またはやてちゃんの悪戯だって」
「…まぁ、軽いジャブもちょっとはあるんやけどな。ヴィヴィオが私役受けてくれたら全面協力するよ。シャマル、ザフィーラ、リインもその時は頼むな」
「了解した。」
「わかりました。」
「はいです~」



そして翌朝

「なのはママ、フェイトママいってきま~す♪」

そう言って家を出ようとした所で目の前に1台の車が停まった。思わず身構えペンダントを掴む。

「高町さんおはようございます、今から登校ですか? 丁度良い、私も近くに行きますので乗っていきませんか。」

 ドアを開けて出て来たのは学院長室で合った広報部の局員だった。彼は家の近くで待ち構えていたのだ。
 私が家を出て学院に行くのを…
 そう考えると少しムッとなって

「いいです。友達を待ち合わせしてるので失礼します。」
「でしたらその友達も一緒に…」

彼の言葉を聞かず走って駅に向かった。


「思ってた通りになっちゃったね。」
「そうだね♪」

 愛娘を玄関で見送っていた2人はその様子を見てクスッと笑う。
 局員は2人に軽く頭を下げた後車に乗り込み彼女の後を追いかけるように行ってしまった。

 ヴィヴィオが首を縦に振らなければ、親友のアリシアは勿論、プレシアとチェントも参加しないかも知れない。
 ヴィヴィオが首を縦に振らなければ、彼女の家族であるなのはやフェイト、そして身近にいるユーノやクロノも協力を渋るかも知れない。
 そしてシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リインフォースⅡははやてが参加するなら参加すると条件を付けていて、はやてはヴィヴィオが「はやて役」を演じてくれる事を前提に協力すると言っている。

 幾らリンディが広報部の裏でサポートしてくれてもこれだけ主要な協力者から協力を拒否されてしまえば映像化は水泡に帰す。
 事件関係者の主立った者達の参加、協力条件がヴィヴィオが八神はやて役を演じるということに集中したのだ。
 管理局は組織運営だから局員であるヴィヴィオに命令も出来る。しかし彼女の上司は無限書庫の責任者ユーノ・スクライアで、彼は長年放置された無限書庫を運用出来る様にした手腕と考古学者としての名声も高い。
 もし発令しようものならヴィヴィオに届く前に彼に拒否され、下手をするとリンディのサポートすら失いかねない。

 広報部としては彼女から承諾を得るしか道は残されていない。
 そこまで状況が判りやすいとなのはやフェイトにも次にどんな展開が待っているか読めていた。
 止めた所で止まる訳でもないし、何より

「ヴィヴィオが外に居る間、つきっきりで警備してくれてるんだしね♪」
「そうだね」

 色んな事件に巻き込まれた彼女を少しの間とはいえ管理局が警備してくれるのだから2人にとって願ったり叶ったり、これ以上安全な事はない。

 ヴィヴィオ本人にとっては迷惑でしかないことなのだけれど……



~コメント~
もしヴィヴィオの世界で2ndA'sが作られたら?
劇場版2ndA'sはまだまだ公開中ですが、関西圏が1つもなく凄くションボリしています。
前回は半年後くらいに再上映あったので今回もあるといいな~と思っています。
その前にBDやDVDが出て欲しいところです。

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